2024.10.10
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売上アップ、生産性向上、部下指導など、さまざまな課題を抱えて心身ともに疲れ切ってしまうリーダーが増えています。こうした状況を打開する新たなスキル「セルフ・コンパッション」を実践するためのポイントについて、『すぐれたリーダーほど自分にやさしい 疲れ切らずに活躍するセルフ・コンパッションの技術』著者の若杉忠弘氏が解説しました。本記事では、参加者からの質問に回答しながら、さまざまなシチュエーションにおけるセルフコンパッションの実践方法について語ります。
小林亜希子氏(以下、小林):あと、(質問を)もう1つ。最近、AIがすごく進化してきて、AI対応ができる・できないみたいなところのお話も少しどうでしょうかね。
若杉忠弘氏(以下、若杉):なるほど、AI対応ですね。今、一番ビジネス界隈でのホットトピックは、やはりジェネレーティブAIですよね。ここにどう対応していくかということになってくると思います。けっこう衝撃的なデータが出ていて、AIを導入すればするほど、人のウェルビーイングはだいたい下がる。
小林:下がっちゃうんですね。
若杉:下がっちゃうんです。それも、自己肯定感が高いリーダーのほうが下がります。
小林:そうなんですか。燃え尽きるし、下がっちゃうし(笑)。
若杉:(笑)。自己肯定感も非常に大事なコンセプトなんですが、その副作用も多いという理解のほうがいいと思うんですね。その副作用の1つが、「AI対応しにくくなる」ということです。なんでだと思います? これ、おもしろいんですよね。
なんでかというと、最近のAIは自律できるんですよ。自分で意思決定し、自分でレコメンデーションを出せる。要はどういうことかというと、リーダーの仕事を代替するんですよ。
小林:なるほど。
若杉:ここで、自己肯定感が高い人はショックなんですよ。自分の自我が失われる感覚になるんですよね。自分が一番アイデンティティと思ってるところをリプレースされるわけなので、自信が落ちやすいんです。
若杉:あとは、自分の仕事をAIに手放していく、委ねていくことが難しくなってくるんです。なので今は非常におもしろい局面にいて、これから求められるリーダーの素質は変わってくると思うんですよね。
今までは本当に「自己肯定感が高い人がいい」と言われていたんですが、さっきの燃え尽きるという話もそうですし、AIが入ってくると自己肯定感が邪魔する可能性もあります。
むしろ「自分は完璧じゃない」と、謙虚な態度を持ってる人のほうがAIをより導入しやすくなりますね。
小林:謙虚なほうがAIを導入しやすい。
若杉:そう。自分は完璧ではない、そして謙虚という感じ。完璧ではないという認識を持ってたほうが、AIを導入しやすくなります。これセルフコンパッションそのものなんですよね。
小林:なるほど。同じ感じですね。
若杉:ですので、セルフコンパッションが高い人のほうが、AIの導入というか、AIとの向き合い方、今言われてるHuman-AIコラボレーションがうまくなるんじゃないかなと思います。
小林:AIとのコラボレーションもうまくなるってことですね。
若杉:AIとのコラボレーションがうまくなる。セルフコンパッションを取り入れてる人のほうが、巧みに、上手にやると思いますね。
小林:あと、最後に1つ。政治家とかを見ていてもですが、我が強い、エゴが強い人のほうがより上にいくというか、そういうリーダーもけっこういらっしゃるじゃないですか。そういうのとセルフコンパッションの関係はどんな感じなんでしょうか?
若杉:リーダーにいくパスは大きく2つあると思うんですよね。1つは、今言ったように我を強くして、権力を取りにいく。もう1つ、実はリーダーとしてパワーを手に入れる方法があるんですが、それは名声です。尊敬なんですよ。
尊敬されるからリーダーになれる、尊敬されるからパワーを得るのと、さっき言ったように権力で支配するからリーダーになるというパスが2つあります。
セルフコンパッションのパスは、自分も大事にして相手を大事にするから、尊敬されるリーダーになるというパスなんですよ。ですので、(セルフコンパッションをすると)こっちのタイプのリーダーになっていくことができると思うんですよね。
小林:セルフコンパッションを使うと。
若杉:じゃあ、権力を振りかざすリーダーと、尊敬されて名声を得てパワーを発揮するリーダー、どっちがいいですか? 求められてるのはこっち(尊敬されて名声を得てパワーを発揮するリーダー)ですよね(笑)。
小林:(笑)。尊敬されているリーダーのほうがいいですよね。
若杉:なので、セルフコンパッションが広まると、世の中はもっともっと良くなるんじゃないかなと思ってます。
小林:ありがとうございます。
小林:ご質問ある方は挙手だったり、チャットに書いていただければと思うんですが、1個来ています。「『自分に優しくするなら成果が出せる』とのご説明がありましたが、それが過度になると自分の欠点や失敗を受け入れすぎてしまい、自己改善や成長の意欲が低下する可能性はありませんか?」ということです。
若杉:ありがとうございます。「そういうふうになった時ってありますか?」ということなんですね(笑)。ここは、いろいろ実験すればいいかなと思います。
2つお答えしたいと思います。まず、セルフコンパッションを取り入れて、自己改善や成長への意欲が低下して「あ、イヤだな」と思ったら、つらいですよね。その時に、またセルフコンパッションを実践してみてください。
もう1つですね。自分の欠点や失敗を受け入れると、どういうことが起きるか。本当の意味で受け入れたら、不思議なもので、人間ってそれは改善したくなるんですよ。
例えば自分の欠点で、なんでもいいんですが、暴飲暴食して健康がもうボロボロで、肝臓の数値もボロボロだとお医者さんに言われているとします。
本当にその事実を心の底から受け入れたとしたら、僕らは人間として「生きたい」という衝動、本能的な欲があるので、なんとかしようと思うんですよ。改善意欲が引き出されるので、そんなに心配する必要はないんじゃないかなと思います。
とはいえ、さっき言ったようにそれでも改善意欲がなくなっちゃって、「イヤだな」と思ったら、その時はまたセルフコンパッションで対応してあげたらいいんじゃないかなと思います。
改善意欲が減ったとか、成長への意欲が減ったということは、なんらかそういうタイミングだと思うんですよね。例えば、もしかしたら実は体がすごく疲れていて、「本当は休みたいな」と思っていて、実は体を休ませてあげようという反応かもしれないわけですよ。
ですので、自己改善や成長への意欲が、自分の意図と反して低下してしまったら、その時もそれを受け入れていく。優しくセルフコンパッションをしていけばいいんじゃないかなと思います。というわけで、2通りの回答をさせていただきました。
小林:ありがとうございます。
小林:質問2が「自分に対して友情を持つことが、現実の問題や課題から目を背ける口実になることはないでしょうか」。
若杉:例えば、みなさんの友だちが現実から目を背けていたとしたらどうでしょうか? 本当に大事な親友が目を背けていたら何と言うでしょうか?
その現実や課題に本当に目を向けたほうがいい場合は、「現実を見たほうがいいんじゃない?」ってアドバイスしてあげますよね。もしくは今その現実を見てしまうと、その友だちには負担が重かったとしたら、そっとしてあげますよね。
だから、これはケースバイケースなんですよね。そういうふうに、僕らは友だちの状況に応じて臨機応変に言葉を変えるわけじゃないですか。友だちの置かれた状況をなるべく理解しようとしてあげて、一番ベストな対応方法を考えるじゃないですか。それを自分にやってあげるということですね。
だから、時には「今はいったん目を逸らそう」と思う場合もあれば、「いや、やっぱり現実に目を向けよう」という場合もあります。今の状況に求められるベストな回答を引き出していく、その穴を通してくれるのが、セルフコンパッション的な態度なのかなと思ってます。
小林:自分に優しければ、時には「今、目を背けたよね」という直面化的なことも含むってことですね。
若杉:そうですね。なので、時と場合に応じて、目を背けるのが悪いというわけではないと思います。
小林:向き合えないタイミングもあるし。
若杉:ありますよね。例えば、非常に大きなトラウマ的な出来事があって、今そこに向き合ったら、それはそれは大変だという時もありますよ。
小林:ありがとうございます。
小林:あとは、(『すぐれたリーダーほど自分にやさしい』の)128ページにあるポール・ギルバートの手法ですかね。
若杉:P128。すでに読んでいただいて、本当にありがとうございます。
小林:「イメージする人ですが、小説の主人公でもいいでしょうか?」というご質問です。
若杉:ぜんぜんいいと思いますね。僕から質問の背景を補足させていただくと、セルフコンパッションを実践する1つの方法として、勝手に頭の中でセルフコンパッションな人をイメージするというのがあるんですよ。コンパッションのイメージですね。
それは、おじいちゃん、おばあちゃんでもいいし、尊敬する上司でもいいし、誰でもいいんです。コンパッションを体現してる人を頭の中でイメージして、その人と対話するという方法を本の中で書いてるんです。
「それは小説の主人公でもよいでしょうか?」(という質問の答えは)、もうぜんぜんばっちりですね(笑)。大丈夫です。ここは本当に自由にやっていただいていいところかなと思います。自
分の中でコンパッションを感じられる、思いやりを感じられるイメージであれば、もうなんでもいいですね。ポケモンのキャラクターでも、なんでもいいと思います。
小林:ありがとうございます。あと、もう1つ。「共通の人間性の感覚を思い出したり、受け入れるコツはありますか? 素直に『ほかの人も大変だよね』と思えない時も出てきそうな気がしてしまいます」。共通の人間性の感覚が難しいとおっしゃる方は、現場でもけっこういらっしゃるんです。
若杉:その場合は、そっとしておくのがいいんじゃないかなと思います(笑)。先ほど3つのステップがありましたよね。マインドフルネス、共通の人間性、自分への優しさ。
まずは、自分のつらい感情を受け入れるマインドフルネス。「つらい感情は、ほかの人も持つよね、ほかの人もあるよね、誰でも起こる時があるよね」というふうに考えるのが、共通の人間性なんです。
その感覚を思い出したり受け入れるのが難しい場合は、別に無理して受け入れたり思い出す必要はないんじゃないかなと思います。その時はその時でいいと思います。別にそれができなかったからといって、セルフコンパッション自体が崩壊するということでは決してないんですよ。
若杉:マインドフルネス、共通の人間性、自分への優しさがどこかでうまくワークすれば、セルフコンパッションとしては有効になってくると思います。なるべく確実にするために3段ロケットみたいになってるんですが、多少どこかで「自分では思いどおりにいかなかったかな」ってなったとしても、まったく問題ありません(笑)。
例えば料理でも「ちょっと塩コショウの加減を間違えちゃった」みたいなこと、あるじゃないですか。醤油がなかったんだけど、じゃあしょうがなく違うものを入れても、一応ご飯としてはすごくおいしく食べられるじゃないですか。
それと同じように、3つのステップを完全にマニュアルどおり、カチッカチッとやらないとうまくいかないというわけではまったくないということですね。料理と同じように、多少というかかなり雑にやっても(笑)、それなりにうまくいくのがセルフコンパッションかなと思います。
小林:ありがとうございます。(参加者からの質問で)「先ほど、特に女性は疲弊しやすいというデータがあるというお話でしたが、女性はセルフコンパッションが苦手な人が多いなど、なにか理由があるのでしょうか?」。
若杉:ありがとうございます。女性が疲弊しやすいのはいろんな理由があると思いますが、1つ(原因として)大きいのは、組織が比較的男性中心で回っているからです。
やはりリーダー層になってくると、男性より女性のほうが少ないですよね。そこのストレスがかかってきます。決して女性のほうがセルフコンパッションが苦手というわけではなくて、僕が日本で見ているデータはそんなに出てきてはいないです。
欧米のデータを見ると、女性のほうがセルフコンパッションレベルは若干少ないようではありますね。クリスティン・ネフはそう言っています。でも、日本で見るデータだと、そんなに男女差はないというのが僕が集めているデータですね。
小林:ありがとうございます。
小林:では、時間が過ぎてきましたので、そろそろと思います。「どうしても」という方や、今の講座の先生の話、我々の対話、みなさんの質問も含めて、聞いてなにか思うところがあれば書き込んでいただければなと思います。では若杉先生、1時間ありがとうございました。
この本はとてもすばらしい本ですので、ぜひ手元に置いていただいて。いろいろな例やエクササイズも多数載っておりますので、ぜひご覧になっていただければと思います。
(視聴者コメントで)「一気読みします」。ありがとうございます(笑)。
そして、ビジネスパーソンのためのセルフコンパッション、MSC7週間コースを10月からするので、けっこう先なんですが無料説明会を10月2日にお送りします。若杉先生が一般対象でMSC、セルフコンパッションを教えてくださる貴重な機会ですので、ぜひ説明会からいらしていただければなと思います。
(視聴者コメントで)「一気読みできるほど読みやすいと思います」。そうですよね。ありがとうございます。
若杉:今日「セルフコンパッションをやってみたいな」と思った方は、ぜひぜひ実践してみてください。「ちょっと自分にはいらないかな」と思った方は、どこか頭の片隅に入れておいてください。もしかしたら将来、人生のどこかで役に立つかもしれないなと思います。
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