2024.10.10
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「新規事業のファンづくり」をテーマに開催された本イベント。エンタメ社会学者の中山淳雄氏が登壇し、クリエイターエコノミーの市場規模や、Web3・推し活現象から考える自社の新規事業のファンづくりについて解説します。本記事では、ECサイトでありながら、広告費をかけないクラシコムの事例から、Web3時代のファンづくりや非プラットフォーム化についてお伝えします。
中山淳雄氏(以下、中山):「クリエイターは大事だよね」というのは政府も言っているんですけど、実はここまではよくある話なんです。僕はこの3年間、VTuberなどのクリエイターたちに100人近くお会いして、その人たちが「なんでこういうことをやり始めたのかな?」とたどっていきました。
基本はZ世代で、1995年生まれ以降の人が本当に多かったんですけど、彼らが最初に目をつけたインフラはドワンゴのニコニコ動画です。たぶん聞いていらっしゃる40代、50代の方は「ああ、あったな」ぐらいで、僕も実はちゃんとやったことはないんですね。
2006年は僕も社会人になった1年目で、もう学生じゃないので1回も(ニコニコ動画に)入っていないんですね。ニコニコ動画はだいたい1万人ぐらいから始まり、20万人、30万人ときて、60万人、100万人と増え、ピークが2015年です。ちょうどKADOKAWAとドワンゴが統合した時で、ニコニコ動画のドワンゴ時代はここで200億円。
ガラケーのいろいろな占いコンテンツをやっていたんですけど、ニコニコ動画のおかげで200億円から400億円になりました。一番いい時に1,000億円のKADOKAWAと1対1で統合したので、「めちゃめちゃいい時に売ったな」と思います。
実はYouTubeやスマホコンテンツがメインになっていた中で、ニコニコ動画はPCベースでスマホにはすぐは対応できなかったので、その後ずっと下がり続けるんですね。
そうすると、有料会員の40〜50代比率がもともと10パーセント以下だったはずなんですけど、現状は30パーセントになっている。もともと10代は30パーセントぐらいあったんですけど、これが現状は5パーセント。
中山:ニコニコ動画からこぼれるようにYouTuberになり有名になったのが、YOASOBIだったり米津玄師だったり、Adoもいますね。基本、今売れている人たちは、この時代にニコニコ動画でやり尽くして、半分セミプロになった人たち。その人たちがメジャーに行った感じです。
当時ニコニコ動画が出た時の年齢をたどっていったら、まふまふや米津玄師は1991年生まれ、ぽわぽわPは1995年生まれ、ayaseも1994年生まれで、Z世代ちょっと手前ぐらいですかね。『初音ミク』とボカロができて、ニコニコ動画があった時に10代だった人が本当に多い。
けっこう年齢は大きいなと思います。新しいものが出た時に社会人になっちゃっていると、そこには新しく入らないんですよね。僕の同世代はカラオケでも、いまだに槇原敬之やモーニング娘。を歌っていますけど。
そういうアップデートしない世代と比べると、その時代に10代であることはアドバンテージでしかない。だから彼らはぱっと入り、この時の歌い手やボカロPがほぼ今のメジャーシーンを席巻している状況です。
中山:「小説家になろう」も2006年ぐらいから増えていくので、これはニコニコ動画だけじゃないです。僕もぜんぜんターゲットじゃないんですけど、『ソードアート・オンライン』とかちょうど先月までやっていた『このすば(この素晴らしい世界に祝福を!)』ですね。あと『無職転生』というアニメも「小説家になろう」から生まれました。
2011年、2012年、2013年はめちゃめちゃ「なろう系」が生まれたんですね。Webtoon(縦スクロールで読めるデジタルコミック)的なものは2020年ぐらいからどんどん増えます。
「小説家になろう」自体は2017年をピークとして、先ほどのニコニコ動画と同じで下がってきちゃっています。今は「カクヨム」という別のプラットフォームもありますけど。みんなが「今、なろうだよね」「異世界だよね」と気づく頃から、すでに衰退が始まっている如実な事例です。
2012年~2015年の時代にめちゃめちゃ量産された良質な作品が、2017年、2018年に「異世界はすごいよな」とアニメになって、2020年代ぐらいからはメジャーシーンを席巻するようになった。
その頃なろう系に入っていた人は、どっちかというと(今や)おじさんばっかりになってしまった。実はpixivも同じなんです。ただpixivは海外もかなり強いのでまだ成長中ではあるんですけど。これ(資料)もつぶさにどのキャラクターが投稿されているかを追ってみたんですよね。
2007年から始まったpixivですけど、これでイラストレーターがいっぱい育ちました。今のボカロPの絵師さんやソシャゲ(ソーシャルゲーム)の一級品を描いている人たちは、このあたりの人が多いんです。
『初音ミク』『東方Project』『艦これ(艦隊これくしょん)』があったり。『ポケモン(ポケットモンスター)』はある程度安定していますけど、『アイマス(アイドルマスターシリーズ)』があって、2017年、2018年には『Fate/Grand Order(FGO)フェイト/グランドオーダー)』がありました。
僕がこの世代ですばらしいなと思うのは、中国や韓国のものも関係ないということ。『原神』は、コスプレイヤーも含めて、今、日本の中で一番熱いと思います。2019年、2020年、2021年、日本系を全部席巻して『原神』が一番になっている状況です。
新しい世代をぱっと取り込んだ時の上がり方がすごくて、2020年代後半は『原神』も含めて中国系のコンテンツやゲームはシェアを取っていくでしょうし、そこからIP化していくものも多いだろうなと思いますね。
中山:こういう時差は常に考えなきゃいけない。先ほどのニコニコ動画がピークアウトしたのが2012~2015年くらい。この時YouTubeの世界の売上は、まだ3,000億円、5,000億円です。それが現状はだいたい3兆円ぐらいになっているんですけど、実はYouTube自体もすでにピークアウトしております。
おもしろいのはYouTubeの成長期の2016~2019年にぶわーっと増えて、その後VTuberになっていきます。1分当たりに投稿される動画の総時間は(当時)1分当たり100時間投稿されていた。2013年、2014年、2015年の時代が最もクリエイティブで、この時期にニコニコ動画からYouTubeに移った人は多いんですね。
それから100時間から400時間、突然4倍ぐらい(動画が)上げられるようになった。スマホやWi-Fiもがんがん普及して、データ量が安くなり動画も作りやすくなったので、ここから徐々に伸びていきます。
2019年に音楽をつけた動画をサクサクと作れるTikTokが出てきた。簡単さを比べると「YouTubeは長尺だし、ちょっと面倒くさいよね」と感じるようになったんですね。最近FacebookやYouTubeがショートになっているのは、TikTokの影響を受けまくっています。2019年以降の数字(YouTubeの売上・アップ動画総時間)が発表されていないのは、都合が悪いんだと思います。
YouTubeの月間ユーザー自体はもうあまり増えなくなっており直近で27億人ちょっとです。統計によっては24.5億人と出ているので、本当はもっと減っているんじゃないかとも思います。売上はこの後も5年ぐらいは上がり続けると思いますが、先ほどのニコニコ動画のように15年ぐらいかけての成熟期をこれから迎えるでしょうね。
基本的にニコニコ動画、小説家になろう、pixivが育ててきた才能は、ぱっと上げてユーザーの反応を見ながら自分で変えてみること。グラウンドでエディションしながら、クリエイターが育っていくんですね。
こうやってセミクリエイターがばーっと増えた15年間。2020年代に花開きますけど、これは15年前からの動きだとわかるんですね。
中山:では実際にユーザーさんはどういう特性なのか。僕もZ世代研究でインタビューを受けるんですけど、「今しかできないことにお金を使いますか?」と聞くと、10代・20代ではだいたい40パーセントぐらいが「ある程度当てはまる」と答えます。でも50~60代は「基本的にそんな刹那的なお金の使い方はしません」となるので、10パーセント未満です。如実に出ていますね。
あと「有名人やキャラクターを応援するのにお金を使いますか?」というと、10代・20代は40パーセントが(お金を)使っている。でもここらへん(50代)になると、やはりぐっと減りますよね。これはやはりストリーミングカルチャーになり、(モノを)所有しなくなったから。
われわれ団塊ジュニア世代か、Y世代、ミレニアル世代ぐらいまでは、いつでもできるもの、コレクションできるもの、自分だけが先行して味わえるものにお金をかけていたと思うんです。
でもZ・α世代は「今しかできないこと」「応援・支援のプロセスに関与できるもの」「みんなとできること」にお金をかける。先ほどの、本を1回も買ったことのない学生も「ATEEZのコンサートに1.5万円かけて行ってきました」「タオルも買っちゃって2万円です。もうお金が飛びまくってます」という。
「なんで先生の2,000円の本は買わないんでしょうか?」と聞いたとしたら、「それは今しかできないわけでもなく、関与もできないし、みんなともできないですよね」ということです。彼は誰かと一緒に行くコンサートや今日しか買えないグッズには、ばーんと2万円を払うんです。
図書館でも読めちゃうし、いつ行っても同じものがある本に関しては、「それは別に買わなくてもよくないですか?」ということですね。(お金を)かけてくれなくても応援して共有してくれるだけで、僕はぜんぜんありがたいんですけど。ここらへんは次元がけっこう入れ替わったんじゃないかなと思います。
Z世代が“手段”を獲得して15年間で百花繚乱化していった「アップロード・表現カルチャー」は、今の上の世代と下の世代を大きく分けているんじゃないかと思っています。ということで、今の現象を15年前までたどりました。
中山:(次に)「マスメディアからマイナーメディアへ」というお話をします。先ほど言ったように、実はファンが根づくためには「ビジョン」「余白」「透明性」が必要です。
ビジョンは示せるんですけど、余白・透明性を作るのは本当に難しいです。これは最初に設計するというより、ある意味サイコロを転がすような感じなので、「余白も透明性もあったけど、誰もファンがつかなかったね」ということもあるんですね。
クラシコムの青木(耕平)さんとよく対談するんですけど、うまくやっている事例をご紹介します。それがクラシコムの「北欧、暮らしの道具店」。これもECからファンダム型の購入に変わっていった例です。1億円、2億円から50億円まで上がっていく過程をたどっています。
もともとはECサイトは「広告費をかけなきゃいけないよね」と言われていた。売上の15パーセントぐらい(広告費を)かけて集客して、そのうちの1パーセントが買ってくれて……というのをがしがしやっていたんです。でも(残りの)興味のない99パーセントに寄せる意味はあるのかなと。
そこで彼らはちょっとずつ広告費を減らしていくんですよね。むしろ「こういうの好きだよね」という人たちが、コミュニティのように集う場を作って、自然と購入させたほうがいいと考えたんです。そこで広告をやめました。
さらにオリジナルドラマを作って「こういう生活環境はいいよね」というライフサイクルを提案していく。これだと「本当に買わせようという意図はあるのかな?」という感じですけど、実はたどっていくと「これはクラシコムが出しているんだよね」「ここの出ている製品はクラシコムのものじゃない?」となっていくんですね。
(今)2,000万人ぐらいが(クラシコムの)YouTubeを視聴しています。実際に400万人ぐらいがクラシコムでアカウントを作っています。定期的にお金をかける会員は40万人ですよ。年間18万人ぐらいが買ってくれて、その単価が2万円ぐらいなので、50億円のECサービスができている。
2,000万人にムダ撃ちでばんばん広告を出すんじゃなくて、良質のコンテンツを出していく。それを1年半ぐらい見た人たちが会員になったり購入者になったりするんですね。
ECサイトをやりながら、広告・販促を捨てて、むしろ動画・ドラマで世界・ビジョンを伝えて、好きなタイミングでファンになってもらうという導線作り。アプリも出していますけど、こういうところが大事なんだなと思いますね。
中山:同じようなロジックでは(韓国の)HYBE。BTSを含めて、HYBEは世界を席巻する音楽事務所になっちゃいましたが、もともと売上は2016年で30億円だったんです。現状は2,000億円ぐらいまでいっているんですけど。
これはエイベックスと比べるとわかりやすいと思います。エイベックスが1,500億円だった時に(HYBEは)その50分の1だった。彼らががんがんと上がっていったのはBTSだけじゃないんですけど、300億円、500億円、700億円と上がっていきます。(僕も)2018年、2019年には「なんか韓国勢、すごい勢いだな」と感じていました。
それが2020年コロナの時にファンダムで覆ったんですね。もともとライブコンサートをやって、そこで物販をするのが一番の収益だったエイベックスは、コロナでライブができなくなった瞬間ガクンと(売上が)減った。
でも最初からデジタル、グローバルをやっていた韓国系は伸びたんです。ほかのK-POP系もみんな同じなんですよ。むしろ2020年、2021年は収穫期で伸びて、アミューズも含め日本の音楽レーベルはみんな落ちたんですね。
それまで、マスプロダクション(大量生産)で届けて「買ってくださいね」だったものからファン型経済圏になった。彼らもコンサートはなくなっているんです。(コンサートの売上も2019年~2020年で)190億円からゼロだったのを(2021年~2022年で)45億円から250億円と2年かけて復活はさせているんですけど、この間もアルバムは伸び続けるという。
MDライセンスも250億円、300億円、400億円と伸びている。これはコンテンツが関係しているんですね。先ほどのクラシコムと近いんですけど、「こういった世界観があるよ」というのをYouTubeやデジタルで無料で配布しているので、130億円、300億円、340億円と伸びています。
中山:よくご存じのWeverse(ウィバーズ)はファンダムプラットフォームなんですね。SNSもたどれるし、ECサイトにも行けるし、ライブ配信の有料チケットも手に入ります。
いいところは(総コミュニティが)80組しかない。その中にHYBEのユニットは1割もなくて、8組か10組ぐらいだと思いますけど、競合はみんな乗っかっているんですね。AKBやモーニング娘。も確かあったかな。
「みんなで使ってくださいね」というかたちで、ファンは「私はBTSが好きなんです」「私はATEEZが好きなんです」とそこにタグづけしていく。自分の世界以外は見えないんです。
だからどこが運営しているのかもよくわからない感じなんですけど。売るためではなく、ユーザーがコミュニティを作るための導線となるインフラができているんです。ファンクラブも一応売れてはいるんですけど。
この80組がだいたい3ヶ月で5,000ポストします。5,000万人いるファンが、サブで同じ5,000万だけ「これはいいよね」とポストするんですね。実際そのうちの1割ぐらいがファン化し、定額課金をする人が700万人ぐらいいます。
作ったものを届けるのではなく、ファンを作って持ち上げてもらうプラットフォームがある。これはクラシコムやWeverseがいい事例だと思います。
(こういったものは)2020年代以降大きくなっていくんじゃないかなと思っています。タレント/ファンの関係性に余計なものを混ぜない。法人としての格はちょっとステルス(陰密)にしたほうがいいだろうなと。
(これからは)ユーザーには直接的な課金を促さず、中長期的に支援してくれるファンを増やす動きが増えてくる。と同時に非プラットフォーム化も進んでいく。つまり「うちのプラットフォームに来ればなんでもあるよ」じゃなく、Web3型にして好きなものを探しにいくようなファンダムになっていくんじゃないかなと思います。
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