2024.10.10
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中土井僚氏の著書『ビジョンプロセシング』の出版を記念し、これからの時代の未来との向き合い方を探究するトークイベントが開催されました。『プロセスエコノミー』などの著者でIT批評家の尾原和啓氏、READYFOR創業者の米良はるか氏と中土井氏の3名がトークセッションを行い、「答えはないのに、ゴールを示すべき」というジレンマの乗り越え方について探りました。
中土井僚氏(以下、中土井):あとの2つもいい問いなので、ちょっとお答えしていきたいなと思います。
尾原和啓氏(以下、尾原):そうですね。次の問いは逆に中土井さんにお聞きしたくて、僕がご質問を読みます。
中土井:マジですか? ありがとうございます。
尾原:「問いを共有されて、その問題解決が楽しいという属性の方々は、ある意味ビジネスまたは思考の知性が高いと思います。医療現場のようなエッセンシャルワーカーの方々は決められた安定した業務を規律正しくやりたいというマインドが強いと感じます。そんな組織でも問いを共有していくことは重要か? その場合の問いの共有の仕方はどうしたらいいか?」。
これ、ものすごくいい質問だなと思って。これに中土井さんはどう答えるんだろうっていうのが、めちゃめちゃ気になるところがあるんです。
中土井:ありがとうございます。米良さんのお仕事は本当にすばらしく柔軟性があって。それを支えているものの1つとして、人の命に関わるかどうかの度合いで言った時に、作り出している商品やサービスが人の命に直接的に関わるかどうかの差は、あるなと思っているんですよね。
製造業の話で言うと、その商品やサービスが人の口を通して体内に入るとか、車というかたちで人を乗せて命を預かるとか、医療機器でペースメーカーというかたちで心臓にダイレクトに影響するとか。
そしてまさに医療現場の話で言うと、人の命に関わる度合いが強ければ強いほど、「間違ってはならぬ」が先に優先されるんだと思うんですね。
「間違っていい」と「間違ってはならぬ」はどこで決まってくるかというと、命へのダイレクトさだと思っているんですよ。そういう意味で言うと、医療現場の方々って本当にすばらしいなと思っているんです。
中土井:ただ、ビジョンクローバーのモデルを土台にして生まれた「SOUND」の中で、「Status(現状の見える化と安全な場作り)」をけっこう重視しているところがあって。要は、それぞれの人たちが持っている現場感を棚卸しすることなんですよね。
それって結局のところ、トップが問いを示すかどうかというよりも、本人たちは「間違ってはいけない」「こうすべきじゃないんじゃないか?」という観点の中で気になっていることもあるだろうし、逆に「命に関わることで、こんなことを言っていたら邪魔しちゃうから言っちゃいけないんじゃないか?」と思っていることがあると思っているんですよ。
なのでどちらかというと、「あなたが見ているものは何であれリソースなんだよ」ということを棚卸ししていくことが重要だと思っています。
米良さんが未来志向で、「こういう社会にしたいからこういう問いを解く」というふうにされていらっしゃるのに対して、命に直結する、もっと言うと硬直化している感じに見えるところであればあるほど、あなたの観点は誰にも言えないかもしれない。
「自分しかこんなことを思っていないかもしれない」「いや、私の言っていることなんて大したことありません」と思っていることの中に何かあるかもよ? というのを丁寧にすくっていくのがポイントだと思うんですね。
ただ、すくいっぱなしになるとまとまりづらくなるから、すくいあげた意見や観点の中で「自分たちはどうありたいんだっけ?」という北極星を示して見いだしていくと、結果として自分ごと化が起きやすくなるなと思っています。そんな感じなんですが、どうでしょう?
尾原:そうですよね。
尾原:「SOUND」の絵の右に描いてある輪ゴムがすごく大事だなと思っていて。ゴムとして作り出したい世界、ちゃんとゴムを下に引っ張り上げる力があるかという話。
現状の人たちは、とはいえ目の前に見てるものにしっかりグラウンディングする。目の前で見ている患者さんであれ、介護される方であれ、その人たちが発しているメッセージが「次はどっちの世界を作るんだろう?」というところに直結する。そういう意味でのリソースや危機を最初に感じられるから、蟻の一穴からダムが壊れるみたいなことを防ぐこともできるし。
お互いがゴムのように引っ張り合う関係になるという意味で、やはりソーシャルワーカーの方々のような現場の方々がそう感じられることが大事だと思うし。
あともう1つ、ウェルビーイングの観点で言うと「ジョブ・クラフティング」という考え方があって。これは何かというと、城の石の城壁を積んでいるだけの人たちで、めっちゃ幸せそうに働いている人とつまらなそうに働いている人がいるとします。
幸せそうに働いている人は、「いやぁ、俺が積んだ石が100年後、孫とかひ孫の代まで街を平和に守ってくれる。なんて幸せな仕事をしているんだ」というのがジョブ・クラフティングなんですが、そこを現実に近づけていくために、中土井さんの話はヒントな気がします。
中土井:ありがとうございます。
米良はるか氏(以下、米良):今のお話で言うと、私たちも毎月何百個のプロジェクトをクラウドファンディングでお手伝いさせていただいて、定期的に商談にも同席していて。
そうすると1個1個のプロジェクトで、その人の「やりたい」というWillと、その人以外でその課題や、それと近い問題意識を持っている人たちの情報をものすごく持っているので。
担当するメンバーと一緒に参加させてもらうことで、「これってこういう課題を解こうとしています」みたいな感じで、その人がやりたいと思っていることをもう少しメタ化するんですね。
中土井:すごい。
米良:それってお客さんにとって、ものすごくはっと思うこともあるし、メンバーにとっても「そうか。この人の思いを叶えることが、実はそれ以外のいろんな課題も解決していっているんだ」となると、そっちのほうが一人ひとりにとってもすごくやりがいにつながっていくなというのは、見ていて思っていて。
中土井:なるほどね。
米良:なんでこれをやるかというと、お金が集まりやすくなるからなんですよね。個人的に「私はこれをやりたいんだ」って、旗を立ててもらうことは大事なんです。
ただ、あなたがやりたいことに、お金を出すのか? と検討する時に、「あなたのやりたいことは、社会にとって、あるいはこのコミュニティにとってなんで大事なの?」と、一歩引いた目線で見ることも必要なんですよ。
そこと結び付けさせられると、自分が好きなことですら、ちょっと社会性を帯びることができるようになったりするので。実際に現場でお手伝いさせていただいたり、それをメンバーが聞いていて「そうなんだ」とか、自分のやりがいを感じてもらうことはよくやったりしていて。
尾原:なるほどなぁ。
中土井:すごい。
米良:エッセンシャルワーカーのみなさんって、例えば介護の現場で言うと、一人ひとりのお客さまに対して、本当に丁寧にやり続けなきゃいけないと思いますし。でも、一人ひとりが目の前のお客さんに向き合うだけでもとても忙しくて大変なことだと思うんです。
「このお客さまがこういう行動をしたから、同じようにこういうことができたらいいね」って、一歩引いてトライしていくことができるようになると、日々のちょっとしたことも楽しくなってくるというか。
ちょっと話がずれるんですが、私には今、3歳の子どもがいて。子どもがピーポくんっていう警視庁のキャラクターがすごく好きなんですよ。
ピーポくん、街にめっちゃいるんですよね(笑)。ピーポくんを探しに家の周りを探検しに出掛けるんです。家の周りをそんな感覚で散歩したことなかったんですが、「ピーポくんってこんなにいっぱいいて、こんなに出会うことを喜ぶ人がいるのか」みたいになって(笑)。
中土井:なるほどなぁ。おもしろい。
米良:そうやってちょっと違う視点で見ると、いろんなものがぜんぜん違うふうに見えてくるんだろうなっていうのは、最近子どもからすごく学ぶことがあるんです。毎日の当たり前もちょっと視点を変えると、まさにそこが問いになってくるっていうか。
尾原:これ、あと7分で言うことじゃないんですが……。
米良:(笑)。
尾原:今日、中土井さんが見せていない大事なスライドの中でまさにそれを言っていて。さっきのSOUNDの「Status」で見える化で安全な場を作った後に、「Outcome」というビジョンを共創して、次の「Understand」に行く時に文脈の共創が生まれる。
そのUnderstandからネガティブチェックをしていく時に、関わっている人はみんな進化していくという心理的安全性から文脈共創に移って、文脈共創から視座を共進化していく。そういうことをやっていると、当事者意識がどんどん増していくからグルグル回る。中土井さん、今のお話は全部それですよね。
中土井:ありがとうございます。
尾原:今のお話を聞いていて、鳥肌が立ちましたよ。
中土井:最後の問いをうまいこと絡めながらお話しできたらいいんですが(笑)。
尾原:どうにか(笑)。
中土井:最後のご質問が「クラファンがプロジェクトの生成・消滅を短期で見守る、かつ社会課題に直結したプラットフォームであるので、変化や問いが密接な業界なのではないかと感じました」。
「その対極は、電気・ガス・水道や、自動車・プラント・建設などの業界ではないかと思います。むしろ継続・安定させることに価値があるので、クラファンのように生成・消滅のプロセスがデフォルトになっている産業って、ほかにどんなものがあるとお考えですか?」という話です。
ほかにどんな産業があるとお考えですか? というお話は、先ほど私がお伝えした「間違っちゃいけないかどうか」「人の命に関わるか」とか、作ったものが1つ世の中に残っていって、それ自体が長い間世の中に存在してしまう。
それこそ水道管を作ったら、1年で取り換えるっていう話じゃないので、長く存在するものってけっこうありますよね。過去の遺産となるものが何かしら影響をもたらすか、それとも揮発性が高いかというのが、すごく差があると思います。
その上で尾原さんが着目してくれたのは、まさにそこが大きいなと思っているんです。結局のところ、組織の中で過去の経緯を引きずりながら物事を進めていかないといけないってなればなるほど、責任を伴いやすくなるから、言葉を発するのが難しくなるんですよね。
その中で話せるようになっていくのって、「何をアジェンダとして話すか?」以上に、「どういう関係性を作っていくのが重要か?」がけっこうあると思います。なんでかというと、発言に責任を伴うから。
中土井:発言の責任を伴うとなった時に、いかに建設的に関われるかどうかという意味で着目したほうがいいんじゃないかと思ったのは、この4つだと思っているんですよね。心理的安全性、文脈共創、当事者意識、視座共進化の4つが、話し合いのビフォーアフターで高まっているかどうかが必要だと思います。
心理的安全性はリスクを取って発言できること、文脈共創は「何が私たちにとって当たり前なのか」という認識のすり合わせ。それに対して自分事化できているか、そして目線をどれだけ上げられているかによって、ちゃんと責任を持って話せる。
そして外した発言をしたからといって、失言がその人の立場を危うくさせないという積み重ねになっていくだろうなって思いますね。ということで、いい感じにまとめられたかどうかわからないですが、尾原さんどうでしょう(笑)。うまいことパスを出していただいたので。
尾原:いい感じでつないでいただいて、完璧に「あと3分」という感じですね。
(一同笑)
中土井:よかった。
尾原:自画自賛し合ってもしょうがないですが(笑)。
(一同笑)
尾原:本当に、めちゃめちゃインサイトいただきます。
中土井:ありがとうございます。
中土井:では、クロージングに入らせていただきたいなと思うんですが、少しだけご案内させていただいて、最後にお二方に一言ずつ言っていただいて終わりにしたいなと思います。
本当に答えがない時代において、ビジョンを示すことが非常に難しくなってきている。この『ビジョンプロセシング』という書籍では、自分自身を、そして仲間を、そしてまだ見ぬ出会う人たちと一緒に、それでももう一歩前へと踏み出していくかについて書かせていただいています。
それを支える方法論とツールが必要だと常々思っておりまして、それを最終章である9章で体系化しているのが先ほどのSOUNDメソッドです。ただ頭で理解して実践できるようにするのはすごく大変なので、それを下支えするツールを作らせていただいているのが「SOUNDカード」なんですね。
先ほど「問い」というお話がありましたが、誰かが問いを作るとか、もしくは指示をするというよりも、それぞれ自分自身が答えたい問いを自分で選んで、自分で答えていく。それをこの「SOUND」のプロセスでやっていくことで、「言える化」を可能にしようとしていたりします。
この「言える化」を可能にしていくことで、結果的にチームとしてのまとまり、チーミングが促進されていく。そういうことを可能にしようとしているツールだったりします。もしよければ、このカードはWebサイト上でも購入できますし、これをできるコーチングができる講座もやっていますので、もしよかったらご覧いただければなと思います。
いろんな事例も紹介させていただいているのと、特に今、一番SOUNDカードが使われているのが、実は地方自治体なんですね。青森大学の佐藤(淳)教授という方が中心になって、北から南まで奔走して広めていただいているんです。
人口が減っていく中で、地方の課題って非常に解決が難しいところです。官民、そして市民が交ざって会話していくことが重要で、垣根を越えた話し合いのところで使われていたりします。もしご興味があれば、ご覧いただければと思います。
中土井:では、お二方から一言ずついただきまして、最後にお戻ししたいなと思います。じゃあ、よろしくお願いできますでしょうか?
尾原:ぜひ米良さんから。
米良:今日はありがとうございました。
中土井:米良さん、こちらこそありがとうございます。
米良:本は拝見していたんですが、なかなか本に沿ってしゃべっていなくてすみません(笑)。
中土井:とんでもない(笑)。
米良:この会を崩壊させてしまったんじゃないかと、私はちょっと焦っているんですが(笑)。でも、この10年経営をしてきて、時代の変化とともに組織のあり方やリーダーシップがすごく変わってきて、自分はすごくフィット感があるなと思っています。
(すでに)ある答えを問題解決するのではなくて、みんなで問いに向かってプロセス自体を楽しんでいくという考え方は、本当に自分の中でもすごく大事にしていることなので。
今日お二人とお話しできて、こういうのも1つのやり方だと思うんですが、フィットする組織もまだまだあるんじゃないのかなと思ったので、これからいろんな場でも自分が感じたことを伝えていけたらいいなって、あらためて思いました。ありがとうございました。
中土井:ありがとうございます。
尾原:本当に今日はあっという間の2時間で、こんなに腑に落ちることを最前列で楽しませていただけるのは本当に感謝です。
『ビジョンプロセシング』の課題設定の、「『答えがないのにゴールを示すべき』というジレンマを乗り越えるか」とは何かというと、世の中に答えがないのにゴールを示さなきゃいけないから、自分ごとじゃないパーパスを掲げる企業のなんと多いことか。
米良:(笑)。
尾原:そういうことに対して、お二人の言葉は自分で腑に落ちて、自分ごと化している言葉だから、めちゃくちゃ通るんですよね。
答えがないのにゴールを示すべきというのは、「本当に自分ごと化できることは何?」ということを積み上げて、その集合体として問いが生まれるから、問いを解くことを楽しみたい人がより集まっていく。こういう良循環が本当に起こせるんだなっていう実感を今日は持てたので、本当にいい時間をありがとうございました。
中土井:ありがとうございます。私もなんですが、お二方のお話の中で本当に大きな変化だなと思うのは、心から「こうなってほしい」と思うことから始まるよということが、すごく土台になるんだなと思っていて。
今までだったら「とはいっても稼がないとダメじゃない」という、「とはいっても」をどんどん考えなくても済むようになったり、「それはちゃんと応援されるんだよ」というふうに、「とはいっても」がなくてもいいということを作り上げられているのは、すばらしいなと思いましたし。
中土井:米良さんにしても尾原さんにしても、その人のユニークネスさだったり、状況が変わっていくことに対して、自分らしく関わっていけばいい。そして自分の好きや思いを諦めなくていいんだよっていうことを、それぞれの領域の中で体現されているのはすばらしいなと思います。
米良さんのご自身の組織の中でも、ビジョンと問いというかたちでみんなの力が結集されていって、それを好む人たちが若い世代として、それこそビジョンネイティブな人たちがいる。それ自体が、本当に社会にとっての希望だなと思いました。なので、これからの未来の姿を見せてくださってありがとうございます。
SOUNDカードは、本当にいろんなところで社会課題に使っていただきたいなと思っているので、今度クラウドファンディングの相談に乗っていただきたいなと(笑)。
(一同笑)
米良:ぜひ一緒にやりましょう(笑)。
中土井:「相談してもいいんだ」ってちょっと思っちゃったので、よかったらぜひ相談に乗っていただければと思います。
米良:もちろんです。よろしくお願いします。
中土井:ということで、お返ししたいと思います。時間が延びてしまってすみません。
司会者:いえいえ。あっという間の2時間で、尾原さん、米良さん、中土井さん、本当にみなさんありがとうございます。尾原さんのおっしゃった、「レールが悪いのではなく、新しいレールをどう作り続けていくか」というか、その姿を見せ続けることが、組織にとっても社会にとっても、逆に前進のレバレッジになるということを実感しました。
READYFORの知られざる組織作りで、「問いドリブン」で動いていくというのがすごく新鮮な感じがして、組織論に興味がある者として非常に興味深く聞きました。ありがとうございます。
尾原:英治出版さんも問いから始まる組織に併合されて、これからより進んでいく。
米良:そうですよね(笑)。
司会者:そうですね。カヤックグループになって、どんどんおもしろがっていきたいなと思います。
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