2024.10.10
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中土井僚氏の著書『ビジョンプロセシング』の出版を記念し、これからの時代の未来との向き合い方を探究するトークイベントが開催されました。『プロセスエコノミー』などの著者でIT批評家の尾原和啓氏、READYFOR創業者の米良はるか氏と中土井氏の3名がトークセッションを行い、「答えはないのに、ゴールを示すべき」というジレンマの乗り越え方について探りました。本記事では、目標設計のポイントなどを語ります。
中土井僚氏(以下、中土井):では、Q&Aに移っていきたいなと思います。参加者のみなさまからいただいている質問は2つほどですかね。ぜひ他にもお願いできればと思うんですが、まず1つ目。2つなので順にいきましょうかね。
「厳しく数値管理する場合、個々人の『好き』と必ずしも一致しないことがあると思います。その場合は折り合いをどのようにつけたらいいでしょうか」。これ、さっき私が聞いた質問と同じですかね。回答になっているでしょうか? というのはちょっと気になるところですが。
あえてまたうかがってみます。さっきの米良さんのお話だと、「問いを持つのが好き」「問いに答えていくことが好きな人たちが多い」とおっしゃっていましたが、まさに尾原さんがおっしゃっていたように、それがこれからの世代ネイティブのスタンスの人たちだなと思うんです。
まだそこに到達できていない人たちも一部いるんじゃないかなとも思うんですが、その方々って数値との向き合いで苦しんでいらっしゃったりしないんですか?
尾原和啓氏(以下、尾原):米良さん、どうですか? 組織の中でもいらっしゃると思うんですが。
米良はるか氏(以下、米良):そうですね。まさにおっしゃるとおりで、数字ってすごく強くて。数字ってただ置いたものでしかないはずなのに、いろんな文脈を全部無視して、数字だけがすごく生きちゃうことってけっこうあると思うんですよね。
実際に経営だと、全体が見えていて、どういう構造の中でその数字になっているかは全員わかるわけです。ただ、イチメンバーからすると、どういう構造の中でこの数字になっているのかがわからなくて、ちゃんとその背景を説明していないと本当に数字だけがゴールになっていっちゃうというか。
尾原:だから目標設計する時も、やはり「見る」というか。自分にとってこの目標やこの数字がどういう意味を持つのか、会社の成長や社会に対してどういう変化をもたらすかとか、数字自体の意味をちゃんと自分の中で解釈することはめちゃくちゃ大事だなって。
中土井:なるほどね。
米良:逆に目標の数字こそが一番で、ビジネスモデルがめちゃくちゃカチッと決まっていて、「みんなが同じ業務をやればいいんだ」という時代は、10年間同じことをやって同じように数字を上げていくことが大事だったんだと思うんです。ただ、たぶんどこの営業マンもそういう状況ではなくなってきている。
「お客さまに対しての付加価値は本当に何なんだろう?」「この数字は、今もそうだし、数ヶ月後、1年後のどういう価値につながっていくんだろう?」ということを、一人ひとりがけっこう考えていかなきゃいけない状況になっているんだとは思うので。
(目標)設計のタイミングでもそうですし、安直な回答かもしれませんが、日々の中でもフィードバックし続けることが大事かなと思います。
尾原:いやいや。ちゃんとした組織だなと。
中土井:安直どころか、ど真ん中だと思います。
尾原:今の米良さんの説明って、さっきの中土井さんのタスクアセスメントのフレームワークで言うと、「ちゃんと数字を追いかける」ということに対して、有意味感と影響感を持つ。
要は上から言われていることと、自分が見ていることを丁寧に一致させましょうって言っていると思うので。
米良:そうです。おっしゃるとおりです。
尾原:ただ、この手の議論する時にみなさんが誤解しがちなのが、「ここまで手間暇かけられますか?」という話も世の中にはあって。レールを新しく作っていく会社って、やはり規律と秩序で機能するから、有意味感と影響感をちゃんと自分の頭で理解しないと動かないんです。
尾原:世の中の大半の会社の「レールをただ走ることのほうが効率的である」というヒエラルキー組織って、みんな忘れがちなんですが、愛情と信頼で機能しているんですよ。
中土井:おもしろい。
尾原:トヨタは「おやっさんが言うんだったら、俺、自分を殺して部品になります」なんですよね。つまり、圧倒的な愛情と信頼で、「トップが言っていることは間違いないんだから、俺たちは考えるよりも手足を動かしたほうが結果に近いじゃないか」という考え方の組織もまだぜんぜんあるんですよ。
米良:そうですよね。それはそれですごくすばらしいことだと思うんですが、逆に言うと、絶対に裏切っちゃいけない(空気がある)って言ったらあれですが……。
尾原:そうそう。
米良:まさに終身雇用というか。
尾原:「お前を面倒見てやるよ」と(笑)。
米良:まさにそうですよね。私は「こういう社会にしたい。だから、その問いを解くためにみんな集まってこよう」とか、逆に言うと、その問いが解けたら、違う問いにまた別の仲間が集まるかもしれないと思って組織を作っていくので。
尾原:そうなんですね。
米良:なので今おっしゃっていたような、「私の言ったことは、もう何も考えなくていいからやりなさい!」「あなたのことは絶対に一生食わせていくわ!」みたいに、本当に心から思えているような時代は絶対にそっちのほうが良かったと思います。
尾原:そう。
尾原:レールが決まった後に拡大と生産性を重視する時期は、「おやっさんのためなら、もう!」というほうが効率が良くて。まだ型が決まっていない0→1の時は、米良さんみたいに有意味性と影響力をちゃんとかみ砕いて、お互いに納得性を作る。たぶんそういうお話なのかなって、今話していて思う。
米良:そうですね。0→1という部分もそうだし、中土井さんがおっしゃるように、変化がずっと大きくて、今までは30年約束できたことが3年しか約束できないかもしれない。そうすると、3年後にはあなたが今やっているようなことはなくなっちゃうかもしれない。
私は経営者としては、ちゃんとメンバーとフェアな関係でいたいっていうのはすごく強くて、ちょっと潔癖なぐらい思っているタイプなので。むしろ約束できないことを約束したくないなとは思っていて。
「この船に乗る」って決めたのもメンバーだし、逆に船に乗ってくれたメンバーのことは、一人ひとりが問いを解く仲間として、みんなでがんばろうよと思って自分は会社をやっていたりするので。スタイルは違うというか、それの良し悪しはあるだろうなって感じなんです。
中土井:じゃあ、次の問いにいきましょうか。「大組織は硬直化しがちだとよく言われますが、登壇者の方から見て本当にそうなのか。それでも変化できるかどうかは規模に関係ないと言えるのでしょうか? また、動的に変化できる組織に本質的に必要な条件は何だと考えられますでしょうか?」。
これは、Googleなどいろんな組織に所属されていた尾原さんにぜひうかがってみたいです。
尾原:ちょうど「組織的無能」という話を宇田川(元一)さんが本に書かれたりしています。僕が思うに、なんで現在そうなるかというと、「会社の中に新しいレールを作った」というものを間近で見ている人たちがいなくなった世代の組織って、そうなりやすいのはしょうがないよなって思っちゃうんですよね。
中土井:おもしろい。
尾原:例えばGoogleにしてもリクルートにしても、4年に1回は売上400億円、利益130億円ぐらいのビジネスが常に立ち上がるわけですよね。そうすると、「新しいレールを敷くってこういうことか」とか、新しいレールを敷くことへの憧れみたいなものがいっぱいあるんだけど。
一方で昭和の初期から日本を支えてくださっている会社の方って、本当にぶっとい大きいレールを敷く経験を間近に見ないと、日本は安くて品質がいいもので選ばれているから、当たり前だけど失敗を減らした人のほうが上司になるわけじゃないですか。
そうすると、そういう事業をやっているうちは必然的に「一番失敗を減らした人」が社長になるべきなんですよね。だから、もうそれはしょうがないのかなとは思いますよね。
中土井:今度は米良さんにうかがってみたいなと。「硬直化」をどう定義するかも、またぜんぜん違っておもしろいなと思ったんですが、米良さんは自組織がこうなったら硬直化するかもって思われるものはあったりするんですか?
尾原:おもしろい。
米良:硬直化するかも……硬直化。
中土井:たぶん気にしたことがないんだと思うので、あえてうかがっているんですけどね(笑)。
(一同笑)
米良:硬直化……。
中土井:「もしREADYFORがこうなったら硬直化の道を走るかもな」みたいな。『もしドラ』じゃないですが、「もし硬直」。
米良:そうですね。文化として硬直化を防ぐこともあるんだとは思うんですよ。「新しいことにチャレンジし続けるんだ」みたいなバリューが入っていたり、もうそうせざるを得ないとか。
私が「長期でこういう社会を作りたいから、そのためにはこういうことをやっていかなきゃいけないよね」って常に動き続けていたら、組織の中ではそれを解決するためにいろいろなことが行われている。「こういう世の中を作るためにこういうことが起こっているよね」ということがある限りは、大丈夫かなっていう感じがしていて。
逆に言うと、その問い自体がみんなにとっておもしろい問いじゃなくなって、だけどビジネスはそこそこうまくいっている感じになると、存在はしているんだけど硬直化するというか、止まってしまうことはあるなと思うので。「いかにみんながワクワクするような問いを置き続けられるか」というのが、思っていることですかね。
中土井:今のお話、おもしろい。
米良:私はロート製薬の社外取締役をやっていまして、まさに大企業の役員を5年ぐらいさせていただいているんです。
大企業でも本当にいろんな事業ドメインがあって。会社の中のアセットとして、本業事業というか、本丸のちゃんと利益を大きく稼いでいるような事業と、「こういう価値を与えたいよね」と会社のビジョンをトップが強く言い続けていると、そこに事業は興り始めていて。
必ずしも短期的な数字ということじゃないけど、「ここに向かいたいよね」と言い続けて、何かがそこに起こっていると、社員の方には「本当に信じてやろうとしているんだな」ということは伝わっているだろうなというのは、見ていてすごく思っていて。
だから会社の規模によってじゃなく、トップがどういう価値を社会に出したいか。それと今の事業をきちっと稼ぐモデルにしながらも、行きたいと思っている世界観に向けてどれだけ投資をするかとか。
新しい取り組みに社員の方もチャレンジするし、仲間になってもらえるようにはグループ化していくこともあると思うんですが、そこが一致している限りは硬直化しない。規模は関係ないんじゃないかなという気もしますけどね。
中土井:今のお話でおもしろいのが、尾原さんの「新しいことが生まれ続けられて、背中を見せる」の話じゃないですけど、そうなっていると硬直化しないよねという話で言うと……。
米良さんの場合は、米良さんのビジョンと問いによって新しいことが生まれるというか、支えられているんだと思うんです。あえていやらしいことをうかがうと、米良さんのビジョナリーな力と問いの力は、米良さん個人に依存していないかどうかというのは、ちょっと気になるところでもあるんです。それに関してはどう思われます?
米良:今は依存しているのかなと思うんですが。
(一同笑)
米良:でも、ビル・ゲイツの後がちゃんと出てきたように、別に新しい人はぜんぜん世にいるんですよ。この会社のアセットをおもしろがって、かつ新しい問いを立てられる人は必ず出てくると思っていて。
それが会社の中から出てきてくれたらうれしいと思うし、もしかしたら今はまったく接触していないかもしれないけど、「できるかも」という人がいるかもしれないので。
私はCEOなので、逆に言うとそれができなくなったら自分の役割じゃないと思うから、ちゃんとやります。次にバトンタッチする時は、そういうことができることが大事な能力なんじゃないかなって思います。もっと違う能力が高い人もいっぱいいると思うんですが、「うちにおいては」です。
中土井:なるほど。
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