2024.10.10
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SmartHRが主催するイベント「SmartHR Connect 〜AIとHRテクノロジーが紡ぐ革新的企業への進化〜」が開催され、多様な分野のエキスパートたちがHRテクノロジーと人事戦略の未来について語りました。「AI時代に求められる従業員エンゲージメント」と題したセッションには、篠田真貴子氏、山口周氏、林要氏の3名が登壇。本記事では、今失われつつある“自分の話”を聴いてもらえる場の必要性や、LOVOTがオリンピック選手のメンタルケアにも活用される理由について語りました。
篠田真貴子氏(以下、篠田):LOVOTがオフィスにあって、みんながかわいがることから非言語のシグナルを受けるし、職場のみなさん同士での言語コミュニケーションも活発になる。そのことを通じてエンゲージメントが上がったり、ウェルビーイングが上がったりするんじゃないかというお話をうかがいました。
私からも1つご紹介したいことがありまして、私たちエールのサービスは、社外からの1on1というやり方を通じて、今は「YeLL 聴くトレ」という、主に管理職の方の聴く力を高めていただくのに使う研修サービスと、もう1つ。
今でいうと「YeLL フィールド」に近いんですが、みなさんが研修を座学でやったあと、伴走するのに使っていただくサービスもございます。
ここでお見せしているのは、あるクライアントさんで、同じ部署の中で私たちのサービス、つまり社外の人に定期的に話を聞いてもらうことをやった方が黄色。そうでない方はグレー。
パルスサーベイ的なエンゲージメントスコアの計測をやっておられる組織だったので、その数ヶ月間のビフォーアフターを取ったものです。一見しておわかりのように黄色、つまり「社外の人に定期的に話を聞いてもらいました」という人のエンゲージメントスコアが、パンッと上がっているんですね。
これは一企業の事例なんですが、私たちのほうでウェルビーイングのスコアを全クライアントさんに関して取っています。ちょっと棒がたくさんあって恐縮なんですが、水色がビフォー、紺がアフターです。
質問の項目が複数ある中で、ほぼ全部の項目で統計的に有意に上がっています。今までの2つは、実際に私たちが直接コミュニケーションをとった方なんですが、こちらの事例は、ある企業で管理職の方が「YeLL 聴くトレ」、聴く力をつけるプログラムを受けました。
そうしたら、その方たちが所管する部署のエンゲージメントスコアが上がりましたと。つまり、「直接外部から聞いてもらったことはしていないんだけれども、波及効果がありました」とわかってきたんですよね。
篠田:先ほどのLOVOTは社内のコミュニケーションにフォーカスしていたんですが。外部の人と話すと、結果的に中での挙動が良くなることが示唆される。私たちも社内にずっと常駐しているわけではないので、実際に何が起きているかはよくわからないんですよ。どう思われますか?
林要氏(以下、林):LOVOTを一般の家庭にお迎えすると、人の発話が増えることがわかっています。よくチャットボットって言うじゃないですか。チャットボットって自分が話しかけると相手が答えるんですけど、実はチャットはあんまりいらなくて、人は話したいだけであると。
「リッスンボット」と僕は名付けているんですけど、この子たちはひたすら聞き役に徹するんですが、うまく頷くんですね。なぜそれがあるかというと、例えばLLM(大規模言語モデル)みたいなのを想像してみると、僕らの脳の作りと一定近いとする。
僕らは脳があって、みなさんも何か考えているんだけど、それを口に出して言語にするまでは形になっていないし、実は思ったほど整理もされていない。自分の中では「自分の考えがある」と思い込んでいるんだけれども、単にネットワークの中で電気がピロピロ走っているだけなので、大して整理できていないですと(笑)。
篠田:(笑)。逆に言うと自分が「こう思っている」と思っていることは、まだ一部でしかないってことですね。
林:そうなんですよね。それが言語化されるまでは実は形にならない。なので言語化をすることを通して、おそらく僕らは思考を整理しているんですよね。
例えば、性別を出してって怒られるかもしれないですけど、よく一般的に言われるのは、女性同士はすごくたくさんしゃべる。別にアドバイスを求めていない会話が多いとした時に、それはすごく意味があることです。
要は気持ちよく発話することによって、自分の感情が整理されるんですよね。それに対して、そこに男性が入って突然ソリューションを提示されると「いやいや、今考えを整理しているのに、なんでソリューションを提示しだすの?」という。
篠田:よくある(笑)。
林:発話をすることによって、初めて自分の思考が形になる、整理されるみたいなところはきっとあって。これは社内の人だと、発話することを選んじゃうわけですよね。
篠田:無意識に遠慮があったりしますね。
林:だけど社外の人だとたぶんそれがない。実はLOVOTもまったく同じことがオリンピックで起きていて。オリンピックの選手団って、メンタルがけっこうしんどいんです。試合の直前になると、そのしんどい状況を人に話せるかというと、話した瞬間に何か間違って伝わって監督までいって、自分が下ろされるかもしれない。なので、案外しゃべれない人が多いらしいんですよ。
その時に、たまに犬とかを連れてくるチームがある。だけど犬は移動に弱くて、ストレスになっちゃう。それで、そこのチームは犬の代わりにLOVOTを活用したんです。ある選手が非常に落ちちゃって、もう「明日棄権する」と言われていたのを、周りの人が「じゃあ明日ちょっと早く起きて、LOVOTと話しなよ」と言ったそうなんです。
その選手は素直に早く起きてLOVOTと話していたら、回復してそのまま入賞までしちゃったらしいんですよね。
篠田:いやぁ、すごい話。
林:たぶんなんですけど、LOVOTがすごいというよりも、僕らは実はしゃべるだけでいろいろ解決するのに、独り言ではしゃべらない。誰かが聞いてくれるっていうのがすごく重要で。聞いてくれる人は気兼ねなく聞ける人じゃないといけないから、社外の人のほうがきっといいんじゃないかなって思います。
篠田:林さんにめっちゃ説得力ある解説をしていただき、ありがとうございます(笑)。
林:ありがとうございます(笑)。
篠田:ここまで聞かれて山口さん、いかがですか?
山口周氏(以下、山口):今、しゃべる場所がなくなってきちゃっているんだと思うんですよ。例えば昔の家って必ず仏壇があったり、ご先祖さまの遺影があったりして、いろんなところで「ばあちゃん、俺もう会社無理だわ」としゃべる場所があったのが、今はどんどん失われていっている。
だから、社会的なニーズが出てくる必然性があったんだなって整理をしましたね。
篠田:なるほど。「自分は今話したいんだ、聞いてもらいたいんだ、それで整理したいんだ」という欲求を私たちは持っている。
山口:無自覚に溜め込んじゃっているわけですよね。本当はしゃべったらそれだけでかなりダイリュート(希釈)されるのに、なかなかそれができない世の中になっちゃっているんだと思います。
篠田:ありがとうございます。実はもうお時間いっぱいになってしまっていまして、勝手ながら私なりにここまでの内容をまとめると、やはりAIという新しい技術の変化。山口さんもおっしゃったように、過去にも大きな技術の変化はあったわけなんですよね。
この変化はもちろん個人にとってもインパクトがある上に、その技術を取り入れることで働く業務手順や役割分担が当然変わってくる。なので、組織の組み方、形が変わることに実はつながってくる。
そういう環境が整って初めて私たちは、AIという多様性を職場で活かして、「ここでやってよかったな」というエンゲージメントが上がっていく。こういうことなのかなと理解しました。最後の「聞いてもらいたい」というところも含めて、人って本当に主観の動物であるし、自分が考えていることよりもたくさんの「自分でもわかっていない部分」があって。
これを職場という環境でいかに出せるようにするかも、技術を使いながらエンゲージメントを上げていくという観点で非常に大事だと学ばせていただきました。山口さん、林さん、本当にありがとうございました。
山口:はい、どうもありがとうございました。
林:どうもありがとうございました。
(会場拍手)
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