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会社で部下にイラっとしたときの処方箋 <新>アンガーマネージメント(全2記事)

成果を出させる上司が「ミスの指摘」の前に部下に伝えること 「詰める」ではなく、チームの結束力とパフォーマンスを高める方法

感情やストレスが高まる職場で、怒りをコントロールすることは重要です。しかし、従来のアンガーマネージメントの手法では、その効果を実感するのが難しいと感じる方も多いのではないでしょうか。今回は、株式会社PDCAの学校 代表の浅井隆志氏が、現場で実践できる<新>アンガーマネージメントを解説しました。本記事では、職場でのコミュニケーション不足が生む弊害や、部下と効果的にコミュニケーションを取るタイミングなどが語られました。

前回の記事はこちら

チームの結束力とパフォーマンスを高める伝え方

浅井隆志氏:では、どのように感情を伝えれば良いのかをケーススタディで具体的にお伝えしたいと思います。

3年目の社員、太郎君は同期の中でも一番のがんばり屋さんです。誰よりも早く出社し、事前準備を怠りません。成果も一番出ています。しかし、業務量が多い繁忙期に気負いすぎて、案件を持ちすぎてしまいました。

上司は気にかけて声がけをしていましたが、太郎君はいつも「大丈夫」と元気のよい返事をしていました。ところが、重要な顧客との大事な期限を忘れてしまったり、社内の提出書類の期限を守らないことが続きました。

……という状況です。ダメな例としては、「きみさ、自分のキャパとかわかってんの? キャパオーバーなのになんで早く言わないの? 何のための報告・連絡・相談なの? 期限を守れないとか、そもそもだらしないだろ。成果が出ているから少々のミスが許されるとか考えてるなら、ありえないからね」というような言い方です。厳しく言わなきゃと、人格否定をするこんな詰め方はNGです。

では、どう言えば良いのか。正しい例としては、「太郎君、いつも早く出社して事前準備をしっかりしてくれてありがとう。きみの努力と成果は本当にすばらしいです。ただ、最近いくつかの重要な期限を忘れてしまったり、提出書類の期限が守られないことが続いているのが心配です。

繁忙期で業務量が多くなっているので、負担が大きくなっているのではないかと感じています。キャパオーバーになってしまう前に、早めに相談してくれればサポートできることもあります。チーム全体で協力していきましょう」。

このように、期待と第一感情を伝え、具体的なサポートを提案することで、相手に対して建設的なフィードバックを与えることができます。感情を共有しながら、相手をサポートする姿勢を見せることで、チームの結束力とパフォーマンスを高めることができます。

期待を中心とした声がけを心掛ける

「太郎君は誰よりもがんばっているよね。次のリーダーは太郎君だとずっと信じてるし、今でも信じてるよ」といった期待をまず伝えます。そして、「最近はちょっとあり得ないミスがあるよね」と指摘をしっかり行います。「太郎君なら乗り越えてくれると思っていたから、少し残念です」と第一感情である「残念」を伝えます。

最後に「突破力もあるけど脇も甘くない、そういうプロフェッショナルを期待しています」と期待で締めくくります。このように期待と第一感情をメインに伝えると、「叱られた」というよりは「今回ミスしちゃったな、でも期待をしてくれているから次は応えたいな」と感じるようになります。

一方、ダメなフィードバックの例のように、「キャパオーバーなのになんで早く言わねえんだよ」という攻撃的な言い方だと、「叱られた」「もう叱られたくない」「また叱られるのが怖い」といった萎縮が生まれてしまいます。

もしくは、「がんばって成果を出してるのに、なんでそんな細かいことを言われなきゃいけないんだ」と反発が生まれます。

アメとムチのマネージメントは未だに有効な部分もありますが、私は特に期待を中心にして人を動機づけすることが非常に大事だと思います。期待を中心に声がけをしていくことが日頃からできていれば、イラっとした時も期待を中心に言葉が出てくるようになります。ぜひ参考にしていただきたいと思います。

職場でのコミュニケーション不足が生む弊害

もう1つ、日頃から意識してほしいことがあります。それは、なぜイラっとするかという別の理由です。私は、それは「コミュニケーション不足」だと思っています。いろいろな企業さまのコンサルに入らせていただくと、コミュニケーション不足があらゆる問題を引き起こしていることが見て取れます。

例えば、スピーディーな報告・連絡・相談がないことです。報連相がないと、部下は業務の振り返りや現象、原因を自分で省みることができません。また、報連相がないと、上司の経営判断が遅れるなどの問題が発生します。

さらに、コミュニケーションが希薄化すると上下の関係が歪んでしまいます。私は「上と下」という表現はあまり好きではありませんが、わかりやすくするために使いますね。

コミュニケーションが薄くなると、部下から見た上司は大物に見え、上司から見た部下は仕事をしていないかのような錯覚が生まれます。コミュニケーションが薄くなるだけでこうした問題が生じます。

信頼関係を築くためのコミュニケーション

ちょっと生のお話をさせていただくと、ある会社の役職者の方から「社長がぜんぜん仕事を任せてくれない」という相談を受けました。「仕事を進めていても『ああせい、こうせい』と社長から指示が飛んできて、ぜんぜん任せてくれないんです」という不満や悩みでした。

これは、裏返して考えると、「社長が気にかけて声がけをしてくれる」ということになるんです。信頼関係があると「ありがたい」と感じるのですが、信頼関係がないと「うざい」と感じてしまうんですね。

例えば、仲の良い友だちに「今度あなたの誕生日をお祝いしたいから、一緒にご飯食べに行こうよ」と言われたらすごくうれしいですよね。でも、嫌いな人や生理的に無理な人から、「誕生日お祝いしたいから食事に行きましょうよ」と言われたらどうですか?(笑)。正直「うわっ」と思いますよね。

ですから、「何を言うか」や「どう行動するか」よりも、誰が言うかが非常に大事なんです。つまり、関係性が重要だということです。信頼関係がしっかりと築かれていると、コミュニケーションは円滑になり、指示やアドバイスも受け入れやすくなります。

なので、日頃から信頼関係を築くために、コミュニケーションを積極的に取ることが大切です。これが、仕事をスムーズに進めるための基本であり、チームのパフォーマンスを最大化するための鍵となります。

アンガーマネージメントについても、イラっとする原因の1つは「こいつ、仕事してんのかな」と思ってしまうことです。これはコミュニケーション不足が一因だと考えます。だからこそ、コミュニケーションをしっかり取ることが非常に大事です。ちなみに、実態調査などで、パワハラやセクハラが起こる職場環境もコミュニケーションが希薄であるという傾向が示されています。

部下と効果的にコミュニケーションを取るタイミング

みなさん「コミュニケーションが大事だよね」と言いますが、管理職の方に「どうやって取ります?」と聞くと、「飲みに行きます」「釣りに行きます」「ゴルフに行きます」といった答えが返ってきます(笑)。

「1日5分雑談するようにしています」ということもあります。それはそれでいいかもしれませんが、はっきり言ってとんちんかんな施策だと感じます。そもそも会社でコミュニケーションを取る機会はあるはずです。報告・連絡・相談のタイミングです。私は、日報を口頭ベースで行うことをお勧めします。

例えば、「今日はこんな業務をして、ここでつまずきました。これは今日やり切れなかったので、明日はこうします」「今日はこういう工夫をしたらうまくいきましたが、これはうまくいきませんでした」といった話を、3分から5分程度で面と向かって会話するのです。

これを実践することで、日々の業務の中でコミュニケーションを取り、信頼関係を築くことができます。信頼関係を築ければ、アンガーマネージメントもスムーズに行え、イラっとすることも減っていきます。

ですので、日常の業務報告をしっかりと行うことが、結果的に良いコミュニケーションを生み出し、職場環境を改善する鍵となるのです。これは、アンガーマネージメントだけでなく、チーム全体のパフォーマンス向上にも寄与します。ぜひ、この方法を試してみてください。

もしくは、最近はデジタルツールもあります。LINEグループを作ったり、社内チャットを利用するのも良い方法です。ただし、これも速やかに、質の高い報連相を行うことが重要です。

報連相についても、上司は「まず結論から言おうね」とか「それは主観なのか事実なのかを切り分けよう」といった指導をする必要があります。これをしないと、報連相の質は高まりません。報連相の質が高まらないということは、部下の思考や仕事の整理の仕方、物事のとらえ方が論理的になっていないということです。これは教育の機会でもあります。

ですから、日報にコメントをつけてフィードバックを行うことは、日々の指導の機会になります。このようにコミュニケーションを充実させることが重要です。

中小企業における「属人化」の解消法

さらに、横軸での情報共有やコミュニケーションも非常に大事です。チームの結束や信頼関係、絆を深めるだけでなく、組織力を高めるためにも必要です。

中小企業において、一番の課題となっている「属人化」を解消することが重要です。「私だけが知っているやり方」「あの人だけが知っているやり方」「見積もり提案書はそれぞれ独自で作っていて、みんながどう作っているかわからない」という状況は、非常に非効率的です。お互いがどういうことをやっているのかを共有する場を作ることが非常に重要です。

例えば、定期的なミーティングで情報を共有したり、共同作業を行うプロジェクトを増やすことで、属人化を防ぎ、チーム全体の効率を高めることができます。このような取り組みが、結果としてアンガーマネージメントにもつながり、チームのパフォーマンス向上にも寄与します。

デジタルツールを活用しながらも、報連相の質を高め、横軸での情報共有を進めることで、より良いコミュニケーション環境を作っていきましょう。これが、組織全体の生産性向上と働きやすい環境作りの鍵となります。

報連相が上がってくる。それに対してコメントをする。進捗会議や工程の会議をするよりも、今自分が何を考えて、どのような試みをしているのか、どのような学びや気づきがあったのかを、1週間ごとにお互いに情報交換する場を作るほうが良いですね。

実務的なコミュニケーションのあり方を見直すことが、アンガーマネージメントの根源的な問題を解決する会社全体の取り組みになると考えています。

本音で話せる職場環境の重要性

アンガーマネージメントの根底には「本音で話せているかどうか」ということが非常に重要だと思います。溜めて溜めて、ドーンと言ってしまうパターンがけっこう多いわけです。ですから、ふだんからちゃんと会話が成立しているかどうか、これは社長や幹部の方に特に気をつけていただきたい点です。

上司は、部下に対して言いたいことをちゃんと言えているかどうか。幹部の方は、社長や役員の代弁者になれているかどうか。そして「忙しい」という言い訳を許していないかどうか。これが重要なチェックポイントです。

もしこれがNOの場合、日頃のコミュニケーションがきちんと取れていない可能性があります。いろんな企業さまで「社長、幹部の方にちゃんと言いたいことを言えていますか?」とか、課長の方に「ちゃんと自分の部下に言いたいことを言えていますか?」と質問すると、「ちょっと気を使って言えないところがあるかな」という回答がよくあります。これは明らかに問題です。

言いたいことが言えるとは、理不尽に何でも言いたいことを言えるとか、悪口が言えるという意味ではありません(笑)。遠慮して言えない状況は、溜め込んでしまい、やがてハラスメントや感情的な爆発の原因につながります。

もちろん配慮は必要ですが、気にしすぎると意思疎通ができなくなり、本音で会話ができなくなります。この点は改善の余地があり、社内のコミュニケーションをしっかり見直す必要があります。

このような取り組みを通じて、チーム全体の信頼関係を強化し、健全な職場環境を築くことができます。みなさんもぜひ、これを機に日頃のコミュニケーションを見直し、より良い職場作りにお役立てください。

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