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Management Summit 2024 スペシャルセッション 成長企業になるための法則(全4記事)

4年で上場した識学社長が語る「ブレイクスルー」する会社の特徴 創業期にチャンスをつかむ企業と逃す企業の違い

株式会社識学が主催した経営者や管理職向けのイベント「Management Summit 2024」。「成長企業になるための法則」と銘打たれたスペシャルセッションには、元「マネーの虎」出演者の南原竜樹氏、株式会社サーキュレーション代表の福田悠氏、そして識学社長の安藤広大氏が登壇しました。今回は、南原氏の考える成功の要因や、債務超過まで35億円の余裕があったのに銀行から言われたまさかの一言などが語られました。

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車屋ではなくディーラーにこだわった理由

後藤翔太氏(以下、後藤):みなさんはご自身が仕事に携わる中で見えてきた課題や、自分が「やりたい」「やらなければ」と思ったことが創業へとつながっていると思うんですが、逆に言うとまったく関係のない事業を「やりなさい」と言われても、なかなか力が出ないというか、起業にはつながらないということになりますか?

安藤広大氏(以下、安藤):南原さんはどうですか? 要は社長になりたくてなるという人もいるじゃないですか。別に否定するわけじゃないんですけど、僕はそれってけっこうしんどいと思うんです。南原さんはそういう経営者の方をどう見られていますか?

南原竜樹氏(以下、南原):それでうまくいく人は100人に1人ぐらい。

安藤:100人に1人!?

南原:ほとんどの人は肩書きに乗っかってしまうんですよ。わかりやすく言うと、社長だから「お前」と威張ったり、社長だから経費を無駄に使ったり。社長という肩書きに乗っかって、社長面するなって言いたいんだよね。

後藤:なるほど、ありがとうございます。少し話を進めまして、事業を拡大する中で、リーダーとして実行したこと、あるいは「これはやらない」と決めていたことなどはありますか?

南原:僕は1人で車屋さんを創業して、事業を拡大する中で、絶対無理だと言われるようなことをやったんですよ。例えば、世間的にはそのへんの車屋がディーラーなんかやれないぞと言われていました。

昔からトヨタのディーラーさんは地元の名士の人たちがやっているんですけど、周りの友だちからは、「お前のホラで風が吹いて、その風で俺が倒れるわ」とか言われながらも、「いやいや、俺はディーラーをやるんだ」と。なぜやるかと言うと、車屋だと難しくても、ディーラーなら大卒も来るだろうと思ったんです。

そこで「ディーラーをやる」と事業計画書に書いたんですよ。ただ、日本車のディーラーはすでに占有されていてできないので、韓国のヒュンダイ自動車が日本に入ってきた時に、いの一番でディーラー権に手を挙げると事業計画書に書きました。

元「マネーの虎」が語る成功の要因

南原:すると、たまたま東京のアルファロメオのディーラーから、「南原さんが輸入している左ハンドルのアルファロメオを売ってくれないか」と電話がかかってきたんです。理由を聞いたら、レースに出るためにはオートマじゃ無理だからということでした。

太田哲也さんという、富士スピードウェイで事故に遭って死にそうになった人がリバイバルでがんばるから応援してくれと言われて、「タダではやれないけど、特別に応援価格で売ってあげる」という話になりました。

その会社は業界でちょっと危ないという噂があったんですが、社長に「お宅の会社、危ないって言われているよ」と失礼なことを面と向かって言ったら、「南原さんのおっしゃるとおりだ」と言われました。

「うちは日本で第一番目の民事再生を申請した」と言われて、「民事再生って何?」と聞いたんですよ。日経新聞を読んでいたら多少わかったかもしれないけど、日本で最初の民事再生なんて知るわけがないですよね。

でも一生懸命勉強して、なんと弁護士さんが僕を受け皿にしてくださって、いきなり100億円近くの売上を上げていた会社を買収しました。翌期には立て直して2億円の経常利益を出すようにして、あっという間にアルファロメオの日本ディーラーに返り咲いたんです。

安藤:なるほど。

南原:それって事業計画の中に書くほどディーラーをやりたいと思っていたから、そのチャンスを活かせたわけだし、その後も僕らはイギリス車のインポーターになって、この間亡くなられた女王陛下からバッキンガム宮殿に招待されたんですよね。

外貨を稼いでくれるというので、英国大使館ではVVIP(ベリーベリーインポータントパーソン)と呼ばれていて。それも、パガーニ・ゾンダという年間に50台ぐらいしか作られない車のインポーターになりたいと、車の写真付きの事業計画書を作っていたおかげです。

そうしたらTVRという年間700台ぐらいしか作らないメーカーと契約ができて、それからロータス、次にローバーという会社と契約ができた。やはり計画を立てていたことが一番大きくて、そしてチャンスを活かせた。この2つが重要ですね。

ブレイクスルーのチャンスをつかむ会社と逃す会社の違い

安藤:南原さんの中では、チャンスはみんなにやってくるけど、それをつかむ人とつかまない人がいるということなんですかね?

南原:そうですね。

安藤:福田さんはそういう経験ってありますか?

福田悠氏(以下、福田):確かに創業期の最初の3年間ぐらいはありますね。今聞いたお話と、ちょっと事象は違いますけど、そういうことを意識していたかもしれないです。

安藤:ラッキーパンチのようなことでも、張っているからこそチャンスをつかめるというのはありますよね。

福田:そうですね。感度を持っているかどうかで、それをつかめるかどうかが変わってくると思います。少しでもアンテナを張っているだけで、特に創業期はチャンスが転がり込んでくるという経験は私もありますね。

安藤:僕も感度を張っているからこそラッキーパンチやチャンスがやってくると思います。創業期に伸びないベンチャーの人って、南原さんが事業計画に書いた「インポーターになる」みたいなところが何個もあるような、いろいろな事業に手を出している人で。そういう人ってブレイクスルーしない印象があります。要は、張っているようで張れていないところがあるんです。

南原:当時うちは「憲法9条車屋以外やらない」という憲法があってですね(笑)。

安藤:やっぱり(笑)。そういうのは非常に重要ですね。やらないと決めたこと、他のことをやらないということが大切です。

後藤:安藤社長も識学を広めていく中で、リーダーとして実行された部分や、先ほどのようにいろいろな事業はやらないといったことは考えていらっしゃいましたか?

安藤:僕らは企業向けにマンツーマンのコンサルティングをやっていて、紙に図表を書いて経営者の方に組織の仕組みを解説するんです。12時間で100枚ぐらいの紙をお渡しするんですけど、ほぼその事業だけで上場しました。紙とペンだけで上場した会社です(笑)。

南原:仕入れが要らないし、原価が安くていいね。

安藤:そうですね。今ではクラウドの事業とか他の事業も少し展開していますが、4年目で上場した時には本当に紙とペンだけの事業でした。その事業を広げることしか考えていなかったので、もう南原さんの憲法9条どころの話じゃない(笑)。事業内容も限定していますので。

債務超過まで35億円の余裕があるのに、銀行の一言でまさかの転機

後藤:経営をされているといろいろな停滞フェーズや難局が訪れると思いますが、それをどのように乗り越えてきたのかについておうかがいできますでしょうか?

南原:僕は1人で始めて社員が300人ぐらいになり、インポーターになった。インポーターになると、会議の時に右を見たらカルロス・ゴーンがいて、左を見たらヤナセの社長がいるという状況になりました。

そんな中で、車メーカーって普通倒産しないんですが、ローバーという会社が倒産したんです。日産が何年も連続で赤字を出して債務超過になっていた時は、ルノーが買収しました。するとゴーンという優秀な社長が配置され、資金も注入されて、あっという間に業績がV字回復しました。実はこれは日産だけでなく、ボルボも同じなんです。

僕らが若い頃はボルボのステーションワゴンにすごく憧れて、うちでも何千台と輸入しました。でも、その後ボルボが良い車を作らなくなって駄目になりかけた時に、GEELYという中国の4番目の自動車会社がボルボを買収しました。

今ではすごく良い車を作るようになって、世界で一番早く自動運転を達成するんじゃないかと言われています。これは笑い話ですが、例えばホンダの自動運転の実験車が人をはねたりしたら、何年も自動運転の実験なんかできなくなるけど、中国では何人か引き殺しても知らんぷりする。事故を起こした新幹線を埋めちゃうぐらいだから。

安藤:確かに。

南原:だからある意味、中国は実証実験がやりやすいんですよ。かつお金もある。他にも、ジャガーという会社も、故障が多すぎて駄目になりかけた時にインドのタタ自動車が買収して今では良い車を作っています。ランボルギーニもアウディが買収しました。

買収された自動車メーカーは良い車を作るようになるので、僕らも買収後にすごく会社の業績が伸びて何万台も売れるだろうと思っていました。ところがローバーは、今世紀始まって以来の自動車メーカーの倒産という憂き目にあって、僕は20億円の特損を出したんですね。

でも当時うちの会社は非常に儲かっていて、純資産は55億円ぐらいあったので、債務超過までまだ35億円あるから楽勝だと思っていました。ところが銀行が来て「困りました」と言うんです。「何をそんなに困るんだろう」と聞いたら、「社長、今期の赤字はどれぐらい出ますか?」と言うので、「15億円かそれぐらいは出るよな。もうちょっと出るかな」と答えたら、「そんな赤字の会社にはお金を貸せません」と言われて。

「いや、債務超過じゃないし大丈夫でしょう」と言ったら、「未上場でその赤字額の会社がお金を借りることはできません」と言われたんです。

安藤:ひどっ(笑)。

20億円の特損を乗り越えた奮闘の日々

南原:普通、経営していると、例えば1億円を50回で返すと言って借りているじゃないですか。それが何本もあって、例えば1億円の借り入れが5,000万円に減ったら銀行が来て、「あと7,000万円貸すから借りてくれ」と言われて、その繰り返しで会社の資金が回っているんです。自社ビルを担保に7億円借りるとかね。

ところが、折り返しができなくなると、一気に毎月のキャッシュ・フローが1億円悪くなる。そういう状態でローバーが倒産してしまったんです。どうするんだと。

今までは、例えばショールームを1つ出すのに、1年前からどんな条件で工場の人材の採用をかけて、そのコストはどうするといった事業計画の枝葉を考えてくれていた優秀な人材が、逆にどうやったら倒産を回避できるかという事業計画を考えて、1ヶ月後に出した結論が「全社員を解雇しよう」というものでした。全社員を解雇しても、たぶん1〜2億円ぐらいお金が足りない。いろんなものを売却して銀行に返済していきました。

飛行機には滑空比というのがあって、どの高度でどのスピードだったら何メートル先まで飛べるって決まっているんです。ところが、「エンジンが全部壊れました。空港まではまだ遠く、1キロ手前に落ちます。これはどう計算しても難しいです」という状況になったんですが、それでもチャレンジしました。

全員解雇して僕1人になって、会社にあった机を売ろうと買取業者に電話をかけたら、「引き上げ料として30万円よこせ」と言われました。そこで、毎日1個ずつヤフオクに出したりして、奇跡的になんとか空港までたどり着いた。

最後にはこんなことがありました。ソフトバンク(の携帯の代理店)が来て、「携帯を1,000台借りてくれ」と言うんです。「うちは社員は俺しかいないよ」と言ったら、「1,000台を借りてくれれば、明日2,000万円払います」と。ただし、1年分か2年分の基本料金を全部払ってくださいと言われました。

でもそれって金利なしで借りるのと同じじゃないですか。それで「今月はセーフ」「でも来月はいよいよやばいな」と思っていたら、今度はau(の携帯の代理店)が来て、「携帯を契約してくれ」と。「(ソフトバンクの代理店より)もうちょっと良い条件でやります」と言われました。

「なんで?」と聞いたら、うちは資本金が10億円あったんです。資本金10億円の会社が1,000台契約すると言うと、KDDIもソフトバンクもかなり大きなインセンティブを代理店に払うんです。そのインセンティブの一部を僕らに回してきたんです。

そんな神風も吹いて、なんとかランディングしました。ところが、僕の気持ち的にはランディングした滑走路を走ってそのままもう1回飛び立っちゃったという感じでした。

安藤:すごいですね(笑)。

M&Aと新事業の成功

南原:その後、金のかからない商売として不動産とM&Aの仲介を始めました。これって安藤さんよりもお金がかかりませんからね。

安藤:まあ、そうですね(笑)。

南原:紙と鉛筆もいらないんです。口先で大丈夫(笑)「社長、ビル買ってよ」と言うだけで済むんです。

M&Aの仲介ではグッドウィルの解体のお手伝いもしました。政府の命令でグッドウィルが解体されて、すべての子会社を売却することになったんですよ。それでファンドのお兄さんに呼ばれて、ここからこっちは野村証券がやって、ここからこっちの安い案件は南原さんがやってくれと言われました。

その中にすごくおいしい会社を見つけたんです。以前、静岡で肉屋をやっている友だちが「本当にうまい肉は客に出さない。自分で食うんだ」と言っていたのを思い出して、これは自分で買おうと思い、医療系のアウトソーシング会社を買いました。

実を言うと、その時のお値段は1億7,000万円でしたが、決済日の3月31日にその半分しか持っていけなくて、めちゃめちゃ怒られたんですけど、なんとか乗り切って、その会社は最終的に社員数が4,500人になりました。

安藤:なるほど。

南原:困難や危機をどのように乗り越えてきたかという質問ですけど、自分でもよくわからないんですけど、なんとか着陸しようとがんばっていたら、その勢いでまた離陸したという感じですかね。銀行には一度も遅延せずに全額お金を返したんです。「まさか返してもらえると思わなかった」と接待されて、なんだそれって話ですけど。

後藤:会社をいったんたたむみたいな選択肢はなかったのでしょうか?

南原:優秀な事業計画を考えてくれた社員たちからは、「オートトレーディングという会社を生き残らせるのが一番難しいです」「社長が一番苦労します」と言われました。

ロータスのインポーターだけを切り離して、そこの社長に就任すれば、相変わらず英国大使館にも呼ばれますし、給料も毎年もらえるので、社長はそっちに飛び移ってくださいという案も出たし、在庫を換金して、数億円の手元資金を持ってフィリピンにでも逃げたらどうですかという話もありました。でもなぜか一番苦労が多い道を選んでしまったんですよね。

安藤:偉大ですよ。

南原:奇跡的に銀行にお金を全部返したので、「5億円返したんだから5,000万円貸してよ」と言ったら、「駄目」と言われて。理由を聞いたら、「社長、売上がないでしょ」と言われました。「その5,000万円で車を買って、車屋を始めて売上を作る」と言ったら、「売上ができてから来てください」と。

後藤:すごい局面ですね。ありがとうございます。

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