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片付けパパ対談 #20 ネガティブフィードバック ~「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術 ~(全4記事)

管理職2,000人以上をリストラ&降格し、法的トラブルゼロのコンサルタント 相手を納得させる、パワハラにならない伝え方のテクニック

『片付けパパの最強メソッド』の著者・大村信夫氏が旬なトピックでゲストと対談するシリーズ。第20回目は『ネガティブフィードバック』の著者・難波猛氏が登壇。上司・部下の関係性におけるフィードバックのコツや、チーム内の緊張を和らげる、感情管理のための5つの戦略について語られました。

前回の記事はこちら

「言えない」ではなく、「言わない選択をしている」

大村信夫氏(以下、大村):みなさん、悩みがいろいろあるんですね。

難波猛氏(以下、難波):そうですね。このあと少し解説を進めていきます。例えば、「いろいろ言いたいけれど、言えない」という場面があると思うんですね。「言いたいけれど言えない」ことに関しては、ポイントがあります。「言えない」ではなく、実は「言わない選択をしている」ということです。

これはアドラー心理学の『嫌われる勇気』の中に出てくる「目的論」という考え方です。人は何かの理由があってできないのではなくて、「やらないほうが得だからやらない選択をしている」ということなんですよ。だから、モヤモヤしているけど言えないんじゃなくて、言わないほうが、波風が立たない状態のほうが、私にとってハッピーだから言わない選択をしているということです。

例えば部下に対して、あるいは上司に対して、「どうせこの人に言っても、かけた労力だけのリターンが得られないから、言うだけ無駄だ」と思って、言わない選択をしているということなんですよ。

大村:なるほどね。

難波:フィードバックに関しては、言えるんです。なぜならば、みなさん日本語が使えるからです。

大村:なるほど。

難波:「納得できていないんです」ということだったら、「納得できていません」と言うだけで済むんです。でも、「言わない選択を自分はしているんだ」と自覚するということです。自覚した上で、その次です。

「やらない選択、言わない選択をし続けたら、この環境は改善するのか?」ということですね。例えば、先ほどの体臭の話です。言わない状態を続けたら、これから夏場、状況としてはどんどん悪くなるわけです。それは、ご本人にとっても、たぶんアンハッピーなことですし、クライアントにとっても、アンハッピーなことですよね。

であれば、「伝えてあげたほうがいいかもしれない」と思えば、伝えてあげるということですね。部下のギャップに対しても、年上上司に対してもそうです。うまくいかないかもしれないけど、やってうまくいくこともあるはずです。でも、やらない選択をし続けたら、「その状況は改善されない」ことだけは確定するんですよ。

それを5年、10年ほっといてもいいんだったら、言わなきゃいいんです。でも、言ったほうが改善される、もしくは言わなきゃ将来的に絶対困ると思ったら、言ってあげるということです。

大村:うん、うん。

難波:だからこのあたりも、「言えないんじゃなくて、自分は言わない選択をしているんだ」という前提に立って、物事を考えるのが1つの方法ですね。

大村:なるほど。

パワハラを避ける、効果的なフィードバックの伝え方

大村:この物事の考え方は、あまりなかったですね。

難波:そうなんですよ。一方で、言い方を間違えるとパワハラになるので、実はパワハラにならないポイントがあります。

私も、先ほど言ったみたいに、リストラとか降格とか、めちゃくちゃ厳しい状況のコンサルばかりを100社以上、管理職でいうと2,000人とか3,000人にやっています。でも、1回も法的トラブルは起こっていないんですね。1件もです。それはなぜかと言うとポイントがあります。

まずは、「相手を変える」ではなく、「ギャップを埋める」ということです。「この人を変えよう」とか「あいつをなんとかしたい」と、個人を指定して個人を変えるのではなく、発生している問題やギャップについて話し合う。そのギャップを埋めていくということです。

大村:なるほど。

難波:その上で、相手の性格ではなくて具体的な行動です。例えば、服装が乱れているんだったら、その服装について話す。仕事における言動がズレているということだったら、「その言動は困りますよ」と、ちゃんと伝えてあげる。

最後に、論理的・ロジカルなだけではなく、感情面・エモーショナルですね。フィードバックというと、「ひろゆきみたいに論破王にならないといけない」と思われがちですが、大事なのは論破じゃないんですよ。人って、論破されたくないんですよ。

大村:そうですね。

難波:なので、相手の感情面がどうなっているかを考えながら、相手に感情的に納得してもらえるように、説得するんじゃなくて、納得してもらえることを意識しながらやっていく。

大村:でも、ロジカルも必要なんですよね。

難波:おっしゃるとおりです。感覚的に「あれ、あれ」みたいな感じで言ってもぜんぜん伝わらないので、具体的なファクトに基づいてロジカルには説明するけど、一方で、相手の気持ちの動きや感情の動きはちゃんと把握する。この両軸がすごく大事になると思っています。

上司・部下の関係性におけるフィードバックのコツ

難波:その上でフィードバックって、例えば組織の中の関係性でお話しすると、上司から部下もそうですし、みなさんからいただいている、部下から上司というケースもそうですけど、基本的には「この状態を目指す」みたいなことがポイントになると思っています。

キャリアコンサルタントの方はご存じかもしれないですけど、「Will・Must・Can」というフレームがあります。

「自分のやりたいこと=Will」「やらなければいけないこと=Must」「できること=Can」。これが大きく重なっている状態だったら、本人もハッピーだし、会社もハッピーなんですよ。

自分のやりたいことが会社の中にあるし、それはお客さんからも会社からも期待されている。そして、自分はそれをできる能力もあると。ただ、何かしらでズレてしまっているパターンが、どうしてもあるということです。

大村:なるほど。

難波:このズレている時に、「ここがズレていますよ」と上司側から伝えたり、あるいは部下側から、「私のやりたいことと会社が求めていることには、実はズレがあるんですよ」と話し合ったりすることが、フィードバックの際に、すごくシンプルですけど、わかりやすい話し合いになります。

「なんか会社から言われていることと、自分の考えていることがズレているんだよな」みたいな時には、この「Will」と「Must」がズレているケースがけっこうあります。なので、そこについて、いきなり「ダメだ」と大騒ぎするのではなく、「こういうズレが生じていますけど、どうですか?」というかたちで話し合うのが、上司・部下の関係性ではポイントになると思います。

大村:ごめんなさい、僕、難波さんの本を読んでいなくて。

難波:はい(笑)。

大村:違うんですよ。読んじゃうと、予定調和じゃないけど、「このポイント」とか、「僕のアレ」に行っちゃうので、資料も初見なんです。

ぜひチャットでも、気づいたことを言っていただければ拾っていきます。

難波:そうですね。ご質問とかがあれば、後半でも入れていきたいと思います。その上で、こういったギャップを埋めていくというお話になります。

チーム内の緊張を和らげる、感情管理のための5つの戦略

難波:大事なこととして、先ほど「ロジカルさ(論理面)とエモーショナル(感情面)の両軸が必要です」とお話ししました。それは、本の中では「マインドセット・スキルセット」と表現しています。

1つはマインドセットで、感情面を整えてやることが、めちゃくちゃ大事になります。上司側がイライラしながらしゃべると、相手に対して攻撃的になったり、部下側がイライラしている状態で上司に話を持っていくと、喧嘩越しになったり泥沼化したりします。それが、ハラスメントになるかたちですね。

なので、「感情面を落ち着いた状態で整えてやる」という心理状態が、実はテクニックの前にすごく大事になります。

大村:これは、「お互いに」ということですよね。

難波:お互いにです。だから、相手がイライラしている時に、いきなり話し始めないことも大事です。「ちょっと耳に痛いことを言わないといけないんだけど、今大丈夫ですか?」と確認して、「いや、ちょっと今は勘弁してください」と言われたら、やらないという選択もアリです。

大村:なるほどね。

難波:その上でどんなふうにやるかというと、合計5つほどですね。

(チャット欄より)「言って悪化するリスクをどう取ればよいか」。このあたりも、このあとお話ししたいと思います。

難波:まず、ポイントとしては5つですね。

「①嫌われることを覚悟する」「②期待するが、期待しない」「③感情を込めるが、感情的にならない」「④真剣に職務に取り組む」「⑤自分で決める」。これを、それぞれ解説していきます。

まず、「言って悪化するリスク」とチャットに書いていただきましたけれど、ポイントとしては、耳に痛いことを相手に言って喜ばれるはずがないんです。

大村:そうなんだ(笑)。

難波:「好かれようと思って言う」というのは間違いです。前提としては、一定レベルで嫌な顔をされるということです。喜ぶ人はいないんですよ。

大村:そうですよね。

相手に対する期待を持ってフィードバックする

難波:その上でどうするかなんですけど、課題を分離することが大事になります。これも先ほどの『嫌われる勇気』のアドラー心理学の考え方です。例えばギャップが生じていて、問題が発生している状態があった時に、上司として言うのか言わないのか。それは、上司側が選べる、自分の課題なんですよ。

一方で、言われた相手がどう受け止めるのか。「うっせえな、こいつ」と思うのか。「言ってくれてありがたいな」と思うのか。それとも、「いつも小言を言ってるな。スルーしよう」と思うのかは、上司側が選べないんですよ。

大村:なるほど。

難波:言われた相手が選ぶ、相手の課題です。なので、「言ったら嫌われるかもしれない」というのは、ぶっちゃけた話、「考えるだけ無駄」ということです。

大村:なるほどね。相手次第ですよね。

難波:そうです。だから、そこを考えている暇があるんだったら、言うべきことがあれば、ちゃんと言う。そして、相手にいったん判断を預けるということがポイントになります。ただし判断は相手に任せるので、言いっぱなしでいいかというと、そういうことではありません。「ちゃんと期待してあげましょう」ということです。

この人は改善できる、この人には気づいてもらえると信頼して、相手に対する期待を持ってフィードバックすることが大事になります。「どうせ言っても無駄だけど、とりあえず言っておく」みたいなのは、けっこう相手に伝わるんですよ。

大村:なるほど。

難波:数字としては、だいたい93パーセント伝わりますね。

大村:93パーセントの人なんだ(笑)。

難波:これは、「メラビアンの法則」というコミュニケーション理論です。人が矛盾したことを言っている時、口では「信じていますよ」と言っていて、顔は嫌そうな顔をしていて、声は「もう無理だろ」みたいなかたちで諦めた声を出している時、口で言ったことは7パーセントしか伝わらない。

なので、相手に対して「改善できるはずだ」という期待を持てないんだったら、言わないということです。

大村:確かにそうですよね。

相手軸の感情でコミュニケーションを取る

大村:でも、改善できると思っているから言いたいんですよね。

難波:そうです。

大村:本当にダメだなと思ったら、声をかけないですものね。

難波:そうなんですよ。だから、少なくとも組織の中で働いてもらっている以上、一定の成果を期待しないといけないし、期待するはずなので、ちゃんと期待して伝えるということです。そして、「100パーセント自分の思いどおりの行動は期待しない」ことがポイントになります。

大村:はい、はい。

難波:これはアンガーマネジメントの考え方です。人は、自分のコア・ビリーフ、信念が阻害された時にイライラするんですよ。「世の中こうあるべき」「仕事はこう進めるべき」という、自分の「べき」が強すぎて、それを相手に押しつけたり、押しつけられたりすると、人ってイライラするんです。

だから、伝えるのは伝えるけれど、最終的な行動計画、どういう行動をするかは相手に預けるといったポイントは、必要かもしれないですね。

その上で、「感情を込めるが、感情的にならない」。無感情でロボットのようにコミュニケーションを取るのではなく、「あなたに期待していますよ」という前提で、コミュニケーションを取っていただきます。

その時に「込めるべきではない感情」は、先ほどチャットにもいろいろ書いていただきましたが、ギャップが出ている相手とコミュニケーションを取る時って、面倒くさいとか、「嫌われたら嫌だな」とか、いろいろ思うんですよ。でも、そのネガティブな感情は、だいたい自分に向いています。「嫌われたら嫌だな(私が)」なんですよ。

大村:はい。

難波:「忙しいのに面倒くさいな(忙しい上司の私が)」ということなんですよ。

フィードバックは相手のためにやるものなので、みなさん自身の感情、「自分がどう思われたいか」とか「自分がどうしたいか」よりは、「相手にどうなってほしいか」という、相手軸の感情でコミュニケーションを取ることがすごく大事になると思います。

「お前が言うな」と思われないために

難波:「真剣に職務に取り組む」というのは、一言でいうとこれです。フィードバックする時には、「お前が言うな」と思わせない。これは、けっこう大事なポイントです。ネットスラングだと、「おまゆう」といいます。

大村:「お前が言うな」ということですよね。

難波:そうです。だから、例えば「うちの部門には変革と挑戦が必要だ」みたいなことを言いながら、何の変革も挑戦もせずに、役員の顔色だけ見ながら媚を売っているような管理職がいたとしたら、その人の言うことなんて、誰も聞かないんです。絶対に聞かないんです。なぜならば、「お前やってねえじゃん」という話ですね。

大村:なるほど。

難波:なので、「スーパーマンであれ」という話ではなくて、例えば「変革と挑戦が必要だ」と言うんだったら、少なくとも変革しようともがいているとか、挑戦しようと思ってがんばっているとか。そういった姿勢を、少なくとも見せるところはすごく大事になります。

例えば、私の場合は「人間は何歳からでも変われますよ」とキャリア理論でお伝えするんですけど、「なぜならば、私も45歳からランニングを始めて、年間3,500キロメートル走っています」みたいなことを言います。体重も、当時に比べると20キログラム痩せているんですよ。そうすると、「できない理由」は言いにくくなるところがあります。

何でも構わないんですけど、仕事上でも人に何かを言うからには、自分がそういうスタンスをちゃんと見せることが大事かなと思います。

弱みもちゃんと見せるリーダーシップ

大村:実はこれも質問があって、「自分も完璧にできていないのに、こんなことを言うのはおこがましいと感じてしまう」という方がいらっしゃいます。

難波:その点に関しては、最近のリーダーシップ理論で、「オーセンティック・リーダーシップ」があります。「自分らしいリーダーシップ」という意味合いです。弱みもちゃんと見せるということです。「私も完璧じゃなく、できていないところがあるけど、こういったことは必要だと思う。私も一生懸命勉強しているので、一緒に勉強しよう」ということです。

大村:なるほど、それは聞き入れやすいですね。

難波:「俺はやっているけどね」みたいな話じゃなくて、「自分も不完全なところはあるけど、一緒にやっていこう」という話をちゃんとするということですよね。その点では、「自分で決める」というところがあります。最終的に、こういった耳の痛いフィードバックって、みなさん言いたくないので、言い訳しちゃうんですよ。

「上から言われていてさ」とか、「人事から言われていてさ」とか、「嫁さんから言われていてさ」とか。誰かのせいにしたくなるんですけど、そういった言い訳付きのコミュニケーションは、間違いなく伝わりません。「言いたくないんだったら言うな」という話なんです。「自分が必要だと思った時だけ言う」ことのコミットメントは要るかなということですね。

大村:なるほどね。

難波:「言いたいけど言えない」ということじゃなくて、「言いたいことだけを言う」という感じかもしれないですね。

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