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キーエンスに学ぶ! 高賃金化〜経営者と社員で「高収益」かつ「高給与」を実現する方法(全5記事)

キーエンスに学ぶ「高収益」と「高給与」を実現するためのヒント 労働時間の短縮と付加価値の向上は実現できるのか?

キーエンス出身で、経営戦略コンサルティングなどを行う田尻望氏の新刊『高賃金化 会社の収益を最大化し、社員の給与をどう上げるか?』。今回は本書の内容をもとに、「収益最大化」と「高賃金化」の両立実現への道を解き明かします。本記事では、付加価値生産性を上げるためのポイントを解説しました。

前回の記事はこちら

労働時間を減らすと値下げ要求されかねない……どう対応する?

井上和幸氏(以下、井上):(イベント参加者からの)質問です。

「付加価値生産性の公式の分母が『労働者数×労働時間』なので、労働時間は短いほうが生産性が高いことになりますが、IT業界ではかかった人工で費用を出す業界慣習があり、労働時間を減らすと値下げ要求されかねません。本来は提供される価値で決められるべきと考えますが、いかがでしょうか?」。

田尻望氏(以下、田尻):おっしゃるとおりだと思います。ご質問いただいた方がどうかはわからないんですけれども……SESやIT業界の中で言うと、お客さまの本当のところがあんまりわかってない状態で人工で受けているパターンもけっこうあります。

お客さまのプロジェクトや開発の目的、それから市場に対してどんな商品を展開していって、プロジェクト規模として最大値がどこにあるのかがわかって提案ができている状態と、わかっていない状態はまったく違っていて。

価値を作ってるのはお客さまなので、わかっていない状態だったら「だとしたら、こういうようなプロジェクトって、この部分をこれだけ短縮したほうが良くないですか?」というのがこっちから提案できるわけです。

わかっていない状態だと、お客さまが出してきた要件定義に対して「これはこういう工程でこうやってやっていくから……」と、お客さまが決めたものに人を当てはめるだけだと本当に人工仕事になりますから、こっち側に価格交渉権はほぼゼロです。

でも、こちら側が一定以上の知識やノウハウを持ってヒアリングすれば、「全体で言うとこれだけ短くできますよ」「あ、そうなの」「その代わり、僕たちの単価を高くしてくださいね。僕たちがやったら短くなりますから」と交渉できる。付加価値生産性の上の価値(付加価値額)が高くなって、労働時間を短くできます。

人工仕事になりがちなIT業界

田尻:ご質問のとおりなんですが、上の価値を高めてない、つまり価値はそのままなのに時間だけを短くしたらお金が安くなっちゃいます。「価値を高める」とは、どうやってやったらいいのかというセオリーが業界ごとに違うんですよね。

このセオリーを理解した上でお客さまにヒアリングしたり、もしくはお客さまのお客さまが何のためにお金を払うのかをしっかりと理解されて、ご提案に進んでいくと、「短くなったんですが、価値がこれだけ高まってるのでこれだけ払ってください」と提案できる。

IT業界とはぜんぜん違うんですが、わかりやすいのがダイエットです。ライザップは2ヶ月で(料金が)40万円から60万円ですよね。(他社の)サブスク型のものは月額5,000円で、年間6万ですよ。期間はお金なんですか? 違いますよね。価値がお金なんですよね。「2ヶ月で夏までに痩せたい」という感動に対してどう対応するかの違いです。

ただ、ご質問者の方のお気持ちはよくわかります。まさにIT業界は人工仕事になってるところではありますが、私のクライアントさまはそこに対してチャレンジをしてくださっています。

「人工仕事じゃなくて、僕たちは価値を出したいんです」と提案していったら、やはり1時間あたり単価は上がりました。その代わり、1時間あたりにしなきゃいけない仕事は増えて、責任のある仕事になった。

IT業界はエンジニア不足ですから、本当はいくらでも時間が欲しい状況です。なので、そこはチャレンジしていただくといいんじゃないかなと思います。

井上:請負成果物ベースでやるのか、開発年月でやるのか。納品物がある時は、理想としては成果物ベースで、逆にそれだけのバリューを出して良いものを作ってくださるのであれば、そこに対していくら払うということなのかという話です。

工数で考えた時に、単価で見た時にそこまでかかってなかったとしても、逆に価値はあるということになると思うんですよね。でも年月でやってきていると、このへんをうまく測ることがなおさら難しいところだと思うんです。

でも今はSaaS型のビジネスにスイッチされていってるから、これまでのような開発人工(にんく)でというところは薄まっていく方向にはあるとは思うんですけどね。保守のところはまた別の話で、かけていただいたサポートの時間でというのはそうだと思います。

相応な報酬形態と、理想の働き方を両立させる難しさ

井上:おもしろい話というか、つい最近、某弁護士事務所のマネジメントの女性の方から転職のご相談をいただいたんです。その方は、副業・兼業で事業会社のマネジメントに入っている方で、それ以外にも「社外取締役とかをやりたいんです」とご相談いただいたんです。

なぜ民間へ行くのかという話で言うと、お子さんもいらっしゃって、子育てもしながら働いてらっしゃるんですよね。その方からすれば、バリューはしっかり出すけど、同じバリューを出すならなるべく短く出したほうがお客さまにも良いし、自分にとっても良い。

ただ、事務所の方針はタイムチャージなので、相談に何時間乗ったのかでチャージされるわけですね。だから、短くすると業績が下がっちゃうんですよ。これが解決できない問題だということで、弁護士業務そのものはすごくやりがいはあるんだけど、そういう世界の中でずっとやっていくのは難しい。

「自分はこういうバリューを出して、こういう働き方をしたい」ということと真逆になってしまっているのが根本矛盾なので、民間企業にどんどん軸足を移そうと思っているという方が実際にいて。今、この話で思い出しました。法律事務所なんかでも同じような構造があるとは思うんですよね。

田尻:確かに。でもその方が民間に行くと、もっとタイムチャージ以下の仕事になってしまうのは気をつけたほうがいいと思いますけどね。

井上:(笑)。ね。

田尻:弁護士さんのタイムチャージ、基本は高いですからね。

井上:そこの兼ね合いはもちろんあります。たぶん彼女からすると、弁護士事務所での非常に高いタイムチャージで得られるものよりは、彼女の中ですっきりする相応な報酬形態と働き方を実現することに価値観を持ってらっしゃるとは感じましたね。

田尻:なるほど、さすがですね。すごいです。

「今のままの日本を自分の子どもたちに継ぐのは恥ずかしい」

井上:あっという間に残り10分弱になりました。おおよそお話はしていただきましたが、個人と会社で高収益・高給与を両立させていこうよという話で、もし田尻さんから補足があれば。

田尻:じゃあちょっとだけ補足しますと、今日は給与についていろいろお話したんですが、これって「生き方」だと思うんですよ。

これは本の最後のほうに書いたんですが、僕と同い年かちょっと下ぐらいの若手の方で言うと、「家に帰って息子や娘との時間を大事にするのが幸せだ」みたいな。いいことだとは思いますが、僕は正直なところ、今のままの日本を自分の子どもたちに継ぐのは恥ずかしいんです。

「パパは家へ帰ってきて優しくしてくれたけど、パパが作った社会ってクソだね。つまんない」って言われたくないんですよね。「パパ。私、正直寂しかったよ。ぜんぜん会えなかったし。でも、パパが作った社会はおもしろいね」というふうに思ってもらえるのは生き方だと思うんですよ。僕は後者のほうを優先したい。

ゼロヒャクじゃないので、もちろん私自身もちゃんと家に帰ったり、今はちょうどみんなカナダに行っちゃってるんですが会いに行ったりもしています。

「社会を変えていく」が優先順位の中で高いことや、ここに熱を持って生きることは悪いことではない。決して家に帰ることだけが我々の仕事というわけじゃない。でも、家に帰らないのも良いことではないので、決してそっちを肯定するわけじゃないんですが(笑)。そういった葛藤の中で生きていくのが我々なのかなと思っています。

個人の幸せの基準は「高賃金」だけではない

田尻:今回は高給与・高賃金化について話していますが、それが幸せとは限らないわけですよ。日本の中で言ったら東京が一番高賃金ですが、生活レベルで言うと日本の中でも下のほうになっちゃう。

和歌山県が、実は給与と生活の物価と家賃で考えてみたら一番住みやすい。つまり高賃金だけが幸せの1等なわけじゃないわけですから、それは(個人それぞれの)生き方だなと思ってます。

ただ、高賃金化を目指す経営者は多いと思いますので、ぜひ書籍(『高賃金化』)を手に取っていただけたらなと思いますし、相談等々もいただけたらなとも思うところでございます。

井上:ありがとうございます。まさしくという感じですね。みなさんの中にもいろんな価値観があると思いますし、総じて言うと住む土地との関係はやはりあります。「日本は世界に置いていかれてる」という話はしましたが、一方で今の段階で言うと、実は世界の中では今の日本は“和歌山”です。

田尻:おっしゃるとおりだと思います。

井上:例えばアメリカへ行くと、同じ職務で年収が上がりますが、一方ですべてがものすごいことになっています。非常に苦しいと僕の知り合いも言ってますし、バランスで言うと今の日本は別にそんなに悪いわけでもなかったりする。

日本もちょっと格差があるから、昔で言う中流所得世帯はどちらかというと下がっちゃっているので、厳しい方が増えているとは思うんですが。(参加者コメントで)「子どもに誇れる日本を作るという価値観、とても共感と尊敬を感じました」。ありがとうございます。。

田尻:ありがとうございます。ぜひとも一緒にがんばりましょう。

日本のサービス業で高付加価値を実現するためのヒント

井上:みなさん、もしご質問がありましたら1、2問お受けしたいと思いますが、どうでしょう。

田尻:質問をいただく前に1個。さっきの需要と供給の話で、日本の飲食店さんやホテルさんで絶対にやったほうがいいと思うことがありまして。それが「言語別ダイナミックプライシング」というものです。

人種別でやると差別になるんですが、言語は能力なので、「英語でサービスするんだったらプラス30パーセントください」「中国語でサービスするんだったらプラス50パーセントください」というかたちで、言語別でダイナミックプライシングをする。だから、タブレットで注文の時に「英語」を押したら、全価格が30パーセントアップ。

井上:英語圏の方に対しては英語で対応するので、プラスのプライシングをしていると。

田尻:そうです。だって言語は能力なので、価値なんですよ。

井上:なるほど。おもしろいですね。

田尻:英語圏のパパだったら、娘や家族と一緒にいた時にスタッフが日本語しかしゃべれなくて、「私、英語わからないです」とか言われて、「パパ、なんでこの店連れてきたの?」みたいな目で見られるのか。

スマートに「Oh, here you are」と言いながらちゃんとやってくれる人がいて、「な、俺が連れてきたのいい店だろ」って子どもから見られるのか。どっちがいいかといったら、そんなの決まってるじゃないですか。

今、アメリカや英語圏はまさに物価が2〜3倍ですから。日本で1.3倍とか1.5倍にされようとも「Oh, cheap, cheap」って言われるわけですよ。

井上:(笑)。確かに。程度の問題はあるけど、許容範囲にはなるのかな。場合によっては炎上しそうな気もしますが(笑)。考え方としてはおもしろいですね。

田尻:言語は価値なので。人種ではそれはやっちゃだめです。

井上:わかりました、了解です。参加者の方で関連する方がいたら、ぜひトライしてみてください。

田尻:ぜひやってみてください。

井上:田尻さん、今日は本質的な話も含めてしていただきまして、ありがとうございました。みなさんもありがとうございました。

田尻:ありがとうございました。

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