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キーエンスに学ぶ! 高賃金化〜経営者と社員で「高収益」かつ「高給与」を実現する方法(全5記事)

元キーエンスのコンサルが語る、社員が伸びる企業の経営戦略 報酬だけで人は動かない、重要なのは“ギリギリ手が届く目標設定”

キーエンス出身で、経営戦略コンサルティングなどを行う田尻望氏の新刊『高賃金化 会社の収益を最大化し、社員の給与をどう上げるか?』。今回は本書の内容をもとに、「収益最大化」と「高賃金化」の両立実現への道を解き明かします。本記事では、高給与・高収益を目指すための仕組みづくりのポイントを語りました。

前回の記事はこちら

社員の挑戦を促す「業績連動型報酬制度」とは?

田尻望氏(以下、田尻):社員全員が高い利益目標を掲げたくなり、利益目標を達成したくなり、目標を達成するための能力アップと行動をしたくなる。そのための1個目として、僕が多くの方に提唱してるのが「業績連動型報酬制度」です。ただ、これはインセンティブとは違うんですよ。

営業利益の組織配分、粗利益向上分の組織配分、ストックオプション、従業員持株会は業績連動型報酬制度なんですが、これが重要です。なんでかというと、成長できるギリギリまで目標を高く置こうとします。

目標が7,000万円で6,500万円で未達と、目標が4,000万円で4,500万円で達成、どっちのほうがいいかという話です。経営者としては、間違いなく「7,000万円で6,500万円で未達」ですよね。

結局は最終結果がどうなんだという話なんですが、従業員からすると「4,000万円で4,500万円で達成」を選びたくなるんですよ。そのほうが達成率が高いので。

井上和幸氏(以下、井上):「どこで評価するか」ですよね。

田尻:評価は絶対に「4,000万円で4,500万円で達成」が高いんですが、報酬は「7,000万円で6,500万円で未達」のほうが高いんですよ。

井上:こういう仕組みをちゃんと作れるかどうか。

田尻:おっしゃるとおりです。低い目標をそのままの能力で達成するよりも、高い目標を掲げて成長するほうが合理的。僕の嫁さんがどっちを目指せと言うかというと、絶対に「目標7,000万円、6,500万円で未達」です。

「あんたね、井の中の蛙でなんかいいこと言ってるんちゃうわよ。高い目標を掲げて、ちゃんといい目標を達成して、達成しなくてもちゃんと稼いできなさい」って言われると思います。ごめんなさい、嫁さんをそういうふうに使っちゃだめですね。

井上:(笑)。

仕事のノウハウは「隠す」のではなく「教える」

田尻:じゃあ、高いパフォーマンスの人がノウハウを隠すとどうなるのか。この人は粗利が1億円取れていて、他の9人の粗利は3,000万円で、賞与原資が3.7億円しかない。それと、ちゃんと教えて粗利1億円で、他の人も8,000万円粗利稼げて、賞与原資は8.2億円。さあ、どっちのほうが賞与が多くなるか? 間違いなく下ですよね。

ノウハウは、隠すよりも教えるほうが合理的になっていますか? ただ、業績連動型報酬制度がないんだったら、上のほう(自分が粗利1億円、他の9人は3,000万円)が自分だけ評価が高いので、そっちのほうがいいんですよ。

つまり、ノウハウは隠して、他の人には教えないほうが合理的になっちゃっていますね。隣の人のパフォーマンスが低いと自分の賞与も低くなるわけですから、放置するよりも的確なマネジメントをするほうが合理的になる。

私がまず1つ目にお話しするのは、業績連動型報酬制度であり、個人につくインセンティブではなく、全社につく全社報酬制度を導入するべきだということです。

例えば現状で粗利益が10億円あって、みんなでがんばって同じ人数で15億円になりましたと。15億円になった分の、上の5億円の10パーセントの5,000万円をみんなで配るとか。そうすると経営者の方は痛まないので。

高給与を目指すための仕組みづくり

田尻:正直、経営者の方も苦しい状態だと思うんですよ。「なぜ給与を高くできないのか」というスライドを作ってきました。給与をもらって価値を作るといっても、本当に作れるのか? ってなるわけですよ。作れなかったらどうなるかというと、こうです。

従業員の給与を20パーセント上げました。予想される年間利益は下方修正です。投資家たちはこの下方修正を見て株を売却します。株価下落、時価総額減少、社長は更迭。この選択を自分で取れるかというと、取れるわけないですよね。

そうじゃなくて、価値を作って給与をもらうとしたら、付加価値と利益を向上させて、向上分の一定割合を分配する。ただ、向上分の一定割合なので利益は向上してるんですよね。

そうすると上方修正になるので、株を購入できて、株価向上、時価総額向上、そして「経営者としての判断も合ってましたね」と。経営者と従業員の方々が「価値を創出する」という同じ方向を向いていけるようにする。

本当は最初からそうすればよかったのかもしれないんですが、労使関係であったり、どこかで同じ方向を向かなくなる。「利益vs給与」というやり方をしていることが原因になっていたりもします。

これから経営者に求められる報酬戦略とは

田尻:次が「社員の『価値最大化』と報酬戦略」です。評価制度とかいろいろあるんですが、評価によって多少のモチベーションは作れますよ。でも、家に帰ってテレビを見て、スマホを見て、奥さんのお話や旦那さんのお話をお互いに聞いて、「お金がないってひもじい」と思っちゃうことはやっぱりありますよ。僕も本当にありましたもん。

お給料がぜんぜんなくて、自分で家を持てていない状態、家賃を払えてない状態の時ってどうですかね? (給与をもらえているのは)ありがたいとは思いますが、このままでいいとは思えなかったですし、その状態がいいわけじゃないですよね。

なのでこれから経営者の方は、社員の方々の価値をちゃんと最大化してできるような報酬戦略を取っていただいてもいいんじゃないかなと思います。

井上:本当にそうですよね。みなさん、話の流れに直接関係ないことは今の流れだと聞きにくいかもしれないんですが、この後に(質疑応答の)時間はとりますので、よろしかったらチャットに書き込んでください。

業績連動型でやっていくことについて、正直言うと自分ごととして思うところもあるし、相談される時にも同じようなことがあるんです。仕組みはあるのに、結局は4,000万円止まりというか、逆に社員がさらに下だったりして頭を抱えている経営者は少なくない気がするんです。このへん、どうしたらいいんですかね?

田尻:いろんな切り分けがあるんですが、それはモチベーションの問題なんですかね。そもそも4,000万円売れる商品なのか、4,000万円、5,000万円、6,000万円売れる仕組みになってるのか、その単価になってるのか。まずは戦略の部分で、本当に全力を尽くしたらいけることなのか。

あとは経営者の方々の話で言うと、今はいろいろあると思うんですが、人に対する目線が決してちゃんと分析ができてないことも多いと思うんですよ。

「手に届くギリギリぐらいの目標」を設定するのがポイント

田尻:例えば(目標を)目指せない方にそれだけ押し付けても、モチベーションは逆に下がります。「お前、がんばったら3,000万円やるよ」と言われても、高い目標の3億円を掲げられてもできるわけないじゃないですか。「まだ小4のレベルなのに、なんでエベレスト登頂だと言ってるんですか?」という話です。

期待はしつつも、経営者としてその方が手に届くギリギリぐらいの目標を掲げないと、逆にモチベーションは落ちちゃいますよ。僕自身もここが難しいなと思っています。期待しなさすぎても伸びないし、期待しすぎても伸びないので、非常に重要な観点かなと思う。ただ単に、報酬だけでは決して人が動くわけではないんです。

井上:今の話を抽象化した総論的な話にはなるんですが、非常に人に依存する部分があって。古巣なのでリクルートの話をすると、全部がそうというわけじゃないんですが。昭和から平成ぐらい、いわゆるネット基盤になる前のリクルートだと、もちろんすばらしい商品企画があって、そのお膳立てはあるんです。

紙の情報誌で、特にフリースペースを使って求人広告の事業をやっていくと、営業も制作もいい意味でも悪い意味でも依存度が高いから、個人力ですごく差が出るところがあったんですよね。やりがいももちろんあるんですが、ある程度はボラティリティが出てしまったりするんです。

これがネットの時代になるのと同時に、リクルートも仕組み化をどんどん進めていって、今は個人ごとの差があんまり出なくなった。単純に言うと、オペレーションをがんばってるかどうかみたいなところです。

もちろんお客さまとのコミュニケーションでの差は出るんですが、大きく言えば、それなりにやっていれば、ある一定のアベレージの営業成績は出るようになっている。会社としては非常にいいんですが、個々人を見るとただ仕組みを回してるみたいになってしまって、やりがいが持てなくなったりモチベーションが落ちる。

仕組み化の良さと、そうしてしまった時の社員のキャリアパス、成長感、付加価値の出し方が、どんどん逆に振れていって悩みが出る。そういうことを進めている会社を経年で見ると、そんな構造はわりと多くあるんだなと思います。「そういうことありますよね」っていうだけの話なんですが。

単発の施策だけではなく、再現性のある仕組み化が重要

田尻:ちなみに2つぐらい質問が来てるので、後ほど答えられたらなと思いますが、今の仕組み化について画面を共有させてもらっていいですか。

仕組み化を体験したからこそわかるんですが、仕組み化してなかったらこんな感じなんですよ。臨機応変、単発、臨機応変、単発、臨機応変、単発……と、積み上がらない。

最近で言うと、経営レベルで積み上がってないなと思うのが、分かりやすそうなのが「今さらパーパス経営って言ってるんですか?」みたいな。

井上:(笑)。

田尻:パーパス経営って昔から「理念経営」という言葉であったのに、何年やってるんですか? という話で、「人的資本経営? え、今さら?」っていう。ちゃんとやらなきゃいけないのは積み上げです。

臨機応変にしたものをちゃんと再現可能にすることが重要です。パーパスはめちゃくちゃ大事ですが、理念を浸透をし続けられる仕組みに変えてますか? もちろん人的資本経営も大事ですが、年間を通じてちゃんと人々のスキルセットとかをチェックをした上で、その人たちが最適に働けるようなかたちを作ってますか?

「臨機応変で、一時期やって終わりました」というのは違うんです。ちゃんと作り続けてください。みなさんに安心してほしいのが、人の欲望も人の向上心もぜんぜん終わらなくて、臨機応変は残るんですよ。

仕組み化の中で「自分には自由がない」って思ってしまう方もいるんですが、「階段を登り切った先にはまだ作らなきゃいけないものがあった」ってなりますから。逆に言うと、階段を登ってる仕組み化の中だけで生きられてる状態って、けっこう楽ですよね。

井上:そうですよね。

田尻:「楽していいのかどうか」というのはちょっと話が別ですが、楽だとは思います。

井上:ちゃんと階段を積み上げてるということを知ってるかも大事でしょうね。上のほうにいる方はわかってたりするんだけど、特に現場で特にやってくれてる人たちや、ある局面から入社してたりすると、積み上げの体感がないまま当たり前にある仕組みをただ前提として動いてる感じになっちゃったり。でも、すごく大事なポイントだと思いますね。

インセンティブで社員を競わせるのは悪いこと?

井上:ご質問ありがとうございます。1つ目が「社員に競わせてインセンティブをちらつかせて、モチベーションを上げさせようというやり方が多いなと思うのですが、これは何がまずいのでしょうか」です。

田尻:立ち上げの時期によるんですが、例えばスタートアップとかで立ち上げ時期にインセンティブをやるのは決して悪いことじゃないと思います。なぜかというと、一人ひとりが「個」として、1人でガガガってやらなきゃいけない時はあるので、立ち上げ時期に社員に競わせてインセンティブをあげることは別に問題ないと思います。

ただ弊害もあって、お互いの中でノウハウのシェアが起こらないんです。個人にノウハウがついちゃうということは、その個人にお客さまがついちゃうので、会社としての資産が貯まりにくいというのはあると思います。

なので、ある一定の規模になってきた時にインセンティブのみになると……正直、インセンティブだけでできてる会社はめちゃくちゃインセンティブが高いんです。

保険代理店さんみたいにインセンティブメインで、会社はちょっと管理してるだけですという状態で、インセンティブ8割みたいなところだったら規模は拡大してますが、ちょっとしたインセンティブの会社だったら基本的にはそんなに大きくなってないですよね。

社内でノウハウをシェア・蓄積できる仕組みづくりが必要

田尻:じゃあ大きくなってる会社はどうなのかというと、会社として稼げるようなポイントをお持ちで、会社としてのノウハウをいかに貯め込むかというところがあります。

質問の答えで言いますと、別に悪い施策じゃないです。ただ、インセンティブ施策だと、会社にノウハウがたまりにくいところがあります。

例えば会議体やフォーマットなどを用いて、会社にちゃんとノウハウが貯まるようにして、ノウハウが横展開されるようにする。お客さまが個人につくのではなく、会社につくような仕組みを用意していく。そういったことが必要になってくるんじゃないかなと思います。答えになってますでしょうかね。

井上:ありがとうございます。少し心理学の側面で言うと、まず前提としては田尻さんがおっしゃるとおりだと思うんですよね。社員を競わせること、インセンティブを出すことは仕組みとしてぜんぜん悪くないんですが、徐々に効かなくなってくるんですね。同じインセンティブが出ていても、最初は喜ぶんです。

「ドラクエ理論」って僕は言ってるんですが(笑)。最初にスライムを1ポイントで倒せるとうれしいんですけど、だんだん10ポイントぐらいで倒せるものとかを倒してもつまらなくなるので、あのゲームの進行上の肝は、敵のポイント数がどんどんレバレッジして上がっていくところにあるわけです。

そうすると、次は数100ポイント、次に数千ポイント、さらには何万ポイントのモンスターたちを次々と倒していく爽快感を味わい続けることができる。

インセンティブに依存すると効果が減退していく

井上:インセンティブの額で言うと、例えば最初は1万円でやっていたとしても喜ぶんだけど、だんだんそれだけでは喜ばなくなって、それを繰り返していこうと思うと5万円にする、10万円にする……みたいになっていくんです。

当然、そんなことをし続けることはできない。結果として感度が悪くなっていくというのが、インセンティブ制度を中期的にやっていった時に出てくる弊害なんですね。社員を競わせるのも一緒で、最初は競わせるとがんばってやるんですが、同じメンバーでやっているとだんだんマンネリ化してくるので、やはり盛り上がらなくなってくるんです。

恒常的にやること自体は悪いことじゃないんですが、あんまり依存すると効果性がどんどん減退していくので、ここぞというところでキャンペーンのようにインセンティブをやるほうが効果的です。

あとは、さっき田尻さんから歩合の話がありましたが、これはぜんぜん別次元です。歩合がないと正直給与がやってられないとか、困るという世界だったら、「お金をもらわなきゃ生活の問題もあるし」と、がんばり続けるんです。

ただ、それはインセンティブで喜んでもらってモチベーションを上げるという話とはちょっと違ってくるのかな。そんな感じですかね。ありがとうございます。

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