2024.10.10
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『鬼時短: 電通で「残業60%減、成果はアップ」を実現した8鉄則』の出版を記念して、麹町アカデミアが主催し、開催された本イベント。『鬼時短』著者で、元電通・労働環境改革本部の室長の小柳はじめ氏と、編集者の桑原哲也氏が登壇しました。本記事では、経営者ができる「鬼時短」の方法や、渋沢栄一の『論語と算盤』に学ぶ、これからの企業のあり方についてお伝えしました。
司会者:(『鬼時短』は)経営者向けと言いながら、ここ(帯)に若い男女のイラストが載っているのはどういうことかな? と思いました。でもそれは、こういう若い人たちに選ばれ続けるためにということなんですね。
桑原哲也氏(以下、桑原):そうですね。(このままでは)若い人から「かっこ悪い」と思われてしまいますよ、ということです。
小柳はじめ氏(以下、小柳):「藤野さんの言葉があるんだから、この男女のイラストはなくして、藤野さんの言葉を大きく入れましょうよ」と言ったんですが、絶対に譲りませんでしたね。
桑原:(男女のイラストは)あったほうがいい。たぶん、経営者じゃない人に刺さるんじゃないかと思うんですよね。
小柳:本の袖に書いたんですけど、時短すらできない経営者からは人材が逃げていきます。人材がいなくなるということは、当然お客さんもいなくなるわけです。時短を始めると、「どういうこと? 電話しても出ないじゃないか」とか、最初はお客さんが文句を言うんですよ。でも、時短すらできないと、どんどん人が辞めていっちゃう。
そういう状況になっても、「君はうちの会社(の事情)を汲み取って、踏ん張ってよく時短をしないでいてくれたね。君の会社に発注し続けるよ」というお客さんはいませんからね。人材がいなくなれば、顧客から切られます。
結局、顧客が去るということは、資本が去るということでしょう。最近はもうホワイトネス社会なので、(そうじゃない会社は)社会から葬られる。最近では大物芸能人さんも大企業さんも、とにかく内部告発される。
小柳:これは2021年に掲載された、渋沢栄一さんの『論語と算盤』に関する東洋経済オンラインの記事なんですが、もしかしたら大河ドラマ絡みですかね。
桑原:ええ、そうかもしれないですね(笑)。
小柳:『論語と算盤』は、みなさんもお読みになっているかもしれません。渋沢さんは著書の中で「エシカル(倫理的な)経営をすべき」と言っています。これは道徳の話をしているのではないと思います。「道徳的な経営」をしているのが、結局は一番儲かるんだと言っているんですよね。
それが『論語と算盤』ということで、現代のビジネスパーソンにも超ヒットする。時短の話もまったく一緒だと思うんですよ。要は、昔の発想で言うと、急いでいるから悪いことをする、急いでいるからルール違反する。
向こうにある横断歩道を渡るのは嫌だから、柵の立っている国道だろうと突破して向こうに渡る、みたいな。先に車を作って、国土交通省の試験には後で受かったことにすればいい、というような話です。
小柳:これまでの経営は、時短のために悪いことをするのが正当化されていたんだと思います。面倒を省略するために必要悪が認められていると。今まではそれで回っていて、「いちいち、きちんとやっていたら時間がかかるよ」「ですよね」みたいな必要悪経営だったと思うんです。
でも今や、本当に正しく事業をしていないと、めちゃくちゃ時間がかかる時代になったわけですよ。とにかく絶対に通報されるじゃないですか。X(旧Twitter)とかにも必ず書かれるし、膨大な時間がかかる。倫理的な話ではなく、ちゃんとやったほうが時間がかからない時代になってしまったんですよね。
例えばケガをして病院へ行くとか、健康を損なってその間は働けないとなると、お金も時間もすごくかかる。個人で考えた時、その人にとって一番の“反時短”とは、健康を損なうことだと思うんですよ。家族や友人とか、大切なものもあると思うけど、まずは個人として考えると、自分の健康なのではないかなと。
これが企業になると、企業にとっての一番の“反時短”は「不正をすること」という時代になりました。これからは正しく経営することが時短なんです。だから「鬼時短」という正しい経営をしましょうという話をしています。
ちょっとだけブレイクダウンすると、正しいと言っても、正しさは人によって違うから、「俺の正義の経営」をされても困る。だから、ある程度はスタンダードにのっとらないといけない。だとすると、「従業員の時間を奪わないことが正しいと定義したらいかがですか?」というのが、私たちの提案ですね。
小柳:偉い人、あなたに言っているんですよ? 経営者ができる鬼時短とは、例えば昨日の売上や、これからインドに赴任させる人材を選ぶ際の人事のデータ。そのデータは空気と部下に触れさせてはいけません。空気に触れると酸化するわけですから、自分で端末を叩けと。
タレントマネジメントとかで社内のデータはすごくリッチになっていて、HR(ヒューマン・リソース)やBI(ビジネス・インテリジェンス)のシステムも今はすごくなっている。大枚はたいて入れているツールや、超高性能なパソコンが与えられているんだから、自分でツールを叩いて鬼時短につなげろよ、ということです。こういう人は東洋経済新報社さんにはいませんか?
桑原:うちは中小企業なんで。
小柳:こんな話は聞いたことありますか? 「専務にはA3で印刷したものを二つ折りにして、A4で持っていかないと機嫌が悪くなる」とか。会社には、専務のためにA3で印刷するような、役員専属のレポートの魔術師がいるんですよ。それでまたその人が経営企画の部署に行って、専務になったりする。
この8つの鉄則の1番が「(社長は)『私欲』で訴えよう」です。「このままダサい会社になって、人が集まらないのは嫌だ」という私欲を訴えてほしいんです。本気なら、「俺にA3で印刷して持って来なくていい」という背中を見せろよという話ですね。
いいですか、データは空気と部下に触れさせない。真空パックに詰めて、あなたのBIツールに届くようにするんです。これは今日からできます。ちなみに「おーい、このツールのどこを叩けばいいんだ?」というのもなしです。マニュアルなんてオンラインにありますから、「自分でググれ」ということです。
小柳:あともう1つ、社外取締役もいらっしゃるような経営会議とか役員会議がありますよね。そういう場に、明日を担う優秀な方々が、稟議資料を持って来て「では、説明させていただきます」なんてやりますよね。
その時の資料をお化粧する(うまく作る)のはやめさせなさいと。なんだったらテキストでベタ打ちとか手書きがベスト。こういう時にすごく上手に資料を作る、パワポの魔術師みたいな人がいて、またその人が役員だったりするんですよ。
あとは、部下のプレゼンテクニックに大喜びして陶酔している人たちもいます。部下のプレゼンテクに惑わされて決裁してしまうような役員は、すぐに更迭しろと書きました。あまりにも問題があるので出さなかったですけど(笑)。
ということで、人にとっての一番の時短は健康を保つこと、企業にとっての一番の時短は正しく事業をすることという時代になったと。こんなことを書いているのが『鬼時短』でございます。
小柳:最後に、先ほどのやることリストにも似ているんですが、巻末に『コッター8(ジョン・P・コッターの変革の8段階)』を載せていただいて、ありがとうございます。
桑原:ここでまた別の視点から鬼時短でやることをまとめているので、冒頭にあるリストとあわせて読んでいただきたいです。こちらは時系列で何をすればいいのかが書いてあります。
小柳:コッター先生については、『リーダーシップ論 いま何をすべきか』みたいに有名な本がいっぱい出ています。いわゆるチェンジマネジメントの大家ですね。僕たちも、電通のチェンジマネジメントの時には、(コッターの本を)とにかく読みました。本当に勉強のしがいがあります。
ハーバードの大先生が言っていることに合わせれば、だいたい合っていると思うんですよ。(『鬼時短』は)個人の経験を書いた本ではないと知っていただきたくて、コッターの8段階に、鬼時短の8鉄則をあてはめた表を作ってもらいました。
要は、今中心でがんばっているビジネスパーソンの方々には、再現性があるものがマストじゃないですか。「昔はこういうことがあった」という個人の体験談はダメと言われます。
プライベートであっても、とにかく再現性のあるノウハウを大事にする。それで言うと、学術的にもある程度、コッター先生は(『鬼時短』を)認めてくれるんじゃないかなと。(この本で書いていることは)コッター先生のおっしゃることなのではと思っています。
再現性があるノウハウなので、鬼時短ができた組織であれば、その先にある本当の改革も必ずできると思います。ひょっとしたらそれはデジタライゼーションなのかもしれないし、サステナビリティ系の何かかもしれない。それは本書のスコープじゃないですが、必ずできますね。
時短だけではダメだけど、時短ができたってことは、再現性のあるノウハウを手に入れることになる。それを、ぜひわかっていただきたい。
桑原:全体を通して言えるんですけど、時短のハウツー本ではないということですね。組織とは結局のところ、人の集まりです。人の心の機微まで全部含んでいるから、感情で動く。感情を無視したことって、結局は空論だと思うんですよね。
小柳:そうですよね。そのことはこの鉄則1、「社長は『私欲』で訴えよう」に当てはまるかと。私欲で訴えないとまず聞いてもらえない。ちなみにこの私欲とは、心からそう思ってるんだという意味ですよ。
それを言って初めて、ひょっとしたら聞いてもらえるかもしれない。でも、その先にもやらなければいけないことがありますと、いっぱい書いています。
僕は特に、鉄則3の「現場の主は社長が自分で口説こう」を伝えたい。この「主」は、現場に本当にいらっしゃる。もしかしたらみなさんが主かもしれませんが、この主をパスして何かを進めるのはありえないんですよ。会社の規模にもよりますが、そこで社長が一人ひとりのもとに足を運ぶべし、ということです。
115ページにある鉄則3の最後には、まさに自分ならではの名言として「時短のプロセスを時短してはいけない」と書いていますが、本当にそうだと思っています。これはすべてのコミュニケーションに共通するんです。
司会者:電通だったら「主」が大量にいたわけでしょう?
小柳:各部署にいて、とにかく仕切っていらっしゃいます。
司会者:その全員に根回しして、とか多いですよね。でも、電通ぐらいの大きな組織で、それを本当にやったのかしらと。
小柳:だから山本(敏博)社長はすごいですよね。7番(「結果」で納得を得よう)は、先ほどの機械的でわかりやすいことですが、5番(トラブル処理は「すべて」引き受けよう)はお客さんが文句を言ってくるくだりです。
そんな時に、現場の主が「(文句に対して)そこはうまく言っとけよ」なんて言ったら、その瞬間にゲームオーバーです。そういう時こそ、経営者が「私が謝りに行く」くらいの姿勢を見せないと。
繰り返しますけど、(企業が)時短しないと本当に困るのはお客さんですから。その信念を持ってやってください。そして8番(「内部統制」という言い訳を封じよう)はよく載せてくれました。私も経理とか内部統制係だったこともあるぐらいなので、思いを持って書きました。
私は昔、広告業界の論文コンクールで賞をもらったことがあるんです。JAA(日本アドバタイザーズ協会)のコンクールで、「広告業界を元気にする内部統制」という論文を書きました。
ちょうど2008年のJ-SOX(内部統制報告制度)が入る時かな。「形どおりの内部統制を入れると広告会社の予算が失われてしまう。だから、俺たちらしく、クリエイティビティ溢れる内部統制にしよう」と書いて激賞されました。今また同じことを書いているということでございます。本当に駆け足になってしまいましたが、ご清聴、誠にありがとうございました。
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