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社会から応援され、長く愛されるビジネスとは(全2記事)

社会起業に「ビジネスは顧客創造だ」という言葉は当てはまらない 今ある社会課題に向き合う、応援されるビジネスの作り方

『長く愛される事業をつくる 共感起業大全』の発売を記念して開催された本イベント。著者であり、ウェルビーイング起業家/アントレプレナーシップ研究家の中島幸志氏と、株式会社ボーダレス・ジャパン 代表の田口一成氏が登壇したトークイベントの様子をお届けします。30年で30社の起業や経営を経験し、500人以上の支援をしてきた連続起業家の中島氏が語る、誰もが実践できる「応援され続けるビジネスのはじめ方」とは。本記事では、社会課題の解決とビジネスを両立させる難しさや、価値観の違いを受け入れるためのマインドについてお伝えします。

前回の記事はこちら

社会課題を解決するビジネスの難しさ

中島幸志氏(以下、中島):(ビジネスに共感が必要だとする)一方で、じゃあ共感すればいいのか。よく「(顧客や社会に)共感をしているけど、ビジネスにならない」と言われますが、どうしてこれが起こるのか。先ほどの価値観の話の中で、真善美という3つがありましたけれども、「真理を追い求めて戻れなくなる」ということがよくあります。

100年とか200年単位で変わっていくようなことを、僕らの人生の中で変えようと思っても、なかなか難しいと思うんですよね。

太古から続くことをたった1年で変えてみようと思うのは、やっぱり難しいことがある。例えば宇宙の真理や環境問題のような答えがないものだったら、「人間がいるから悪い」みたいな議論が出てきたりするかもしれませんが、そもそもの部分を追求しても、なかなか難しいと思うんです。

もう1つ、善ですね。どうしても人は「自分は正しいことをしているんだ」と、思い込んだりする。

そういった中で感情に支配されて、「なんでこんなにがんばってる人たちがいるのに、わかってくれないんですか!」と訴えても、やっぱり世の中は変わらない。こんなふうに善に心が持っていかれてしまうこともあります。

ただ顧客や社会に共感するだけではビジネスにならない

中島:そして、美の部分ですね。特にアートに携わる人の中には、とにかく素敵すぎて「もう売るのも惜しい」という商品ができたり。僕は音楽の仕事をやってましたけれど、アーティストの中には、演奏してお金をもらわなきゃいけないのに、頼まれたらどこにでも行って演奏しちゃうミュージシャンとかいるんですね。

「誕生日に」と言われたら誕生日に、「パーティで」と言われたらパーティで演奏しちゃう。でも、それをやっていたらビジネスになっていかない。「頭の共感」と「心の共感」とこの本でも書いていますが、いろいろな共感に対しての自分自身のスタンスとか距離感とか解釈を持っていかなきゃいけない。こういった側面も、共感にはあります。

例えば地球一周してきた僕が見てきたものと、それをここで話した時のみなさんとの間には温度感(の差)がありますね。情報が足りなかったり、経験が足りなかったり、共感をするにも時間がかかる。それを一足飛びに「共感をしてくれ」というのはなかなか難しいわけですね。

そういった部分に一つひとつ理解をしてもらって、興味を持ってもらう。そこから共感が生まれて、信頼が生まれて、お互いが通じ合い、距離感が変わっていく。この段階を踏んでいくことで、企業と顧客と社会との関係性を深くしていく。事業をしてきた中で、私はそんなふうに感じています。

社会起業には当てはまらない、「ビジネスは顧客創造だ」という言葉

中島:このIとYouからどうやってWeに変えていくのか。それには、みなさん自身が「何に共感をするのか」「どんなことに心を動かすのか」。あるいはそれは「どんな価値観から生まれてくるのか」を自分自身で理解して、深めて、広めていくことにすごく価値があるんですね。

私は起業家支援をすごくたくさんやっていて、とっても役得だなと思うことがあります。それは社会の課題を解決しようと思っている人たちの気づきや視点を学べるからなんですね。

「あぁ、まだこんなことに気づいていなかったんだ」とか「まだこういう方々が私たちの意識の外側にあったんだ」とか。「世界って広いな」とか、「まだまだがんばらなきゃいけないや」と。僕はいつも、本当に起業家に励まされています。

そういう方々が(社会の)一つひとつ(の課題)に意識を向けて代弁してくれるからこそ、この社会に希望があると、僕は思うんです。みなさんが応援したい人に、私たち自身がなっていくわけです。

それには多くの人の期待や希望が託されている。その一つひとつに私たちがどんなふうに共感をし、事業を通じて社会に届けていくのか。そこをどうデザインしていくのかがとても大切じゃないかなと思います。でも、その根底には価値観がありますね。自分の中で価値観をどう理解し、社会の価値観に意識を向けていくのかがとても大切だと思います。

ビジネスを学ぶと、よく「ビジネスは顧客創造だ」と言われるんですね。たぶんベンチャーだとそういうふうに習います。けれどもソーシャルビジネスの場合は、もう待っている人や応援したい人がいる。その人に私たちがどう価値観を共有していくか、共感していくかだけではないかなと僕は思うんですね。

だから私たちはその代弁者となって、ビジネスという手法を使って、社会をより良くしていく。あなたの想いを応援したい人がすでにいる。そんな社会にアクセスをして、より良い社会を作っていけたらなと思います。どうもありがとうございました。

1人がすべての社会課題に気づくことは難しい

司会者:中島さん、ありがとうございました。ここからはボーダレス代表の田口も入りまして、トークセッション兼Q&Aセッションのほうに入らせていただきたいと思います。では、田口さん。大きな拍手でお迎えください。

田口一成氏(以下、田口):中島さん、ありがとうございました。

中島:ありがとうございます。

田口:今お話を聞きながら、聞きたいことが1つ出てきたんですけど。あらためて、誰に何を伝えたくて、何を実現したくてこの本を書いたんですか?

中島:やっぱりこの社会をより良くしていくためには、1人がすべての課題に気づくことは難しいと思うんですね。いくらボーダレスさんでも、すべてに気づくことは難しいと思っています。だとしたら、世界中のあらゆる人に一緒になって気づいてもらわなきゃいけない。だから一人ひとりの感性とか感情に頼るしかないと僕は思っていますね。

その感情とか感性って、やっぱりちょっと自信がなかったり。気づいても「これはできないよな」と思うその気持ちを、やっぱり誰かの希望を乗せて、「期待されている」ということで一歩を踏み出す。そんなふうに世界中のみんなを味方につけて社会の課題を解決したいなと思っています。

田口:いい人ですね。

中島:(笑)。

田口:実際、(本の)反応はどうですか。

中島:いや……。「分厚い」と。

(会場笑)

超大作。一番の反応は「(本が)重い」と言われますね。あとは、そうは言っても「読みやすい」と。

田口:うん、確かに。

中島:読む前にもう圧倒されちゃうんですけど、読んでからは早いとすごく言われます。あと、「ビジネス書を読んだことがないけれど、この本は読めました」という感想も多いです。

「顧客ターゲット」という言葉の違和感

中島:ものすごく言葉を選んだので、回りくどくなってしまいましたが。読んでいただいた方はわかるかもしれないんですけど、ビジネスって戦争用語が多いじゃないですか。

田口:うん。「戦略」とかね。

中島:僕が一番嫌なのは「顧客ターゲット」。顧客をターゲットにするなよって思うんですけど。そういう言葉を含めて、(本では)もう全部なくしているというか。私たち全員がお客さまの味方ですから、やっぱり戦う相手を間違えていると思ってます。「みんなで社会を解決していこう」という本に仕上げています。

田口:ありがとうございます。「みんなが立ち上がる」というのは、起業って書いてるけど「スタートアップを起こそう」というわけじゃなくて。みんなが自分の想いを形にしていく生き方。

1つの生き方として、「共感を元に自分ができることをやっていけたらいいよね」という思いでやられてたと思うんですけど。「共感ってなんだろう」と考えていたんですよね。共感って、自分の価値観と相手の価値観が交わったところの感情というか。

もう1つ、中島さんが大事にしてる多様性。多様性と共感って、2つともすごく大切なワードな気がするんです。多様性って意味では、価値観が違う人と、攻撃しないでどうやって同じ場にいられるか。多様性と共感ってどういう位置づけなのかを、すごく聞いてみたいなと思っています。

価値観が異なる人とどう共存していくか

田口:中島さんを見ていて、ダイバーシティをすごく大切にしてる、まさに共感と多様性の人だなと思うんですよ。でも、「自分は社会をこうしたい」という、社会的なメッセージとしての価値観を強く持っていると、それに本当の意味で共感してくれる人って、一部にはすごくいるけども、ぜんぜんそうじゃない人もいたり。

例えば、僕も社員にいろんな国の人とかいっぱいいるから、「在日○○」と言ってる人を理解できません。なんで人に対してそんなことを言うんだろうと。

彼らには彼らの価値観があると思うんですけど、ぜんぜん共感ができない。でも、そういう人も含めて、同じ国、同じ地域に住んでるダイバーシティというか。だから「お前ここから出ていけ」というものでもないという。この価値観(の違いにおいて)、多様性と共感がどう位置づけられているのか気になります。

なんでこの話をしたかと言うと、この本の中に「ダイバーシティのある組織は強い」という話があるんです。大前提、それはすごくよく言われるし、めちゃくちゃわかるんだけど。

価値観が同じ中での、ダイバーシティという意味なんだと思っていて。でも本当は、価値観が違う中でダイバーシティが存在してるとも思っていて、そこらへんがどうなのか教えてほしいです。

中島:ありがとうございます。まず、ちょっと言葉のあやみたいになっちゃうかもしれないですけども、違うという価値観をどう認めるかが、まず1つありますね。

みんな一緒であることが良いのかと言うと、やはりいろいろな意味で違う存在があるからこそ、我々は存在できているんだと。そういう意味での、役割分担としての価値観の違いがあるというのが1つです。

人としての成長は「共感できる範囲」を広げること

中島:もう1つは、例えば自分が20歳ぐらいの頃にこういう発言ができたかと言うと、「なんだよこいつ」と思ってたと思うんです。そこ(客席)に座っていたら、絶対に「嘘くさい」と思っていました。

人って、成長や情報、経験とか、いろいろなものの中でステップがあると思うんですね。例えば国とか、いろんなものの違いで反感があったとしても、(その国の)友だちが1人できたり、ましてや好きな人ができたらころっと変わっちゃうわけですよ。

「この人は一生変わらないんじゃないか」とか、あるいは人と人がうまく会話できないこととか、「なんだよ」って思うことがいっぱいあると思うんですけど、きっと明日は変わるんじゃないかと、僕は希望を持っている。そのためのきっかけは自分で作ることができるんじゃないかなと思うんですよね。

だから、今日は友だちになれないかもしれないけれど、10年後はなれるかもしれない。そんな希望を持って一つひとつやっています。

田口:なるほど。そういった意味では、共感できる範囲を大きくしていくのは、人としての成長なのかもしれませんね。

いろんな人と出会ったり、いろんなことに触れていく中で、「自分と同じじゃないけどわかる」という。「それはそれでいいよね」と頭ではいくらでもわかるんだけど、リアルにそういう人と肩を組むことが、(自分の価値観の)幅を広げるための方法なんだなと思いました。

中島:やっぱり知らないことが多すぎると思うんですよね。全部知ることも不可能だし。だから、例えば今日僕ができなかったり理解できないことも、明日はできるかもしれない。

もし、今日やってたことが悪いことであれば、今から変えればいいじゃないですか。やっぱりそうやって人って変われるし、世の中は変われる。変わることに希望を失ったら僕は終わりだと思うんです。

でも変われるきっかけは、誰もがいつでも持っているので。やっぱり常にそこに可能性を見出すしかないんじゃないかなと思ってるところです。

田口:ありがとうございます。

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