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グローバル&拡大に対応する人事評価制度の柔軟力(全4記事)

人事評価会議では、報酬と育成の話は切り分けるべき メルカリCHROが語る「育成型組織」への転換点

社会の大変動に対抗し、新時代の組織づくりと経営戦略の本質を掴むヒントをお届けすべく開催されたSmartHR Next 2023。本記事では、株式会社メルカリ執行役員CHROの木下達夫 氏、株式会社SmartHR 執行役員・VP of Human Resourceの薮田孝仁氏、高倉&Company合同会社共同代表/ロート製薬元取締役(CHRO)の髙倉千春氏が、社員の納得感を高める評価制度のあり方について語ります。

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メルカリが「評価の調整の仕方」を思いきり変えた理由

髙倉千春氏(以下、髙倉):ありがとうございます。今「育成」というキーワードが出たんですけど、私、評価の運用って、やはり人を育てるところに直結するような気がしていて。もちろんその評価者であるマネジメントをする人たちも、どうやって人をマネジメントしていくかによって教育訓練されるし、それから大事なのは評価される側。「その期の評価はこれで終わり」じゃなくて、その次どうしましょうかって。

木下達夫氏(以下、木下):そこですね。

髙倉:このフィードバックにも入るんだと思いますけど、ちょっとお二人に聞きたいのは、その育成と評価の掛け算はどう意識されているのか。

薮田孝仁氏(以下、薮田):めちゃくちゃ難しいですね。どっちかと言うと困ってるところなんで、お話をうかがいたい......。

髙倉:じゃあ木下さん。どうですか?

木下:そうですね。我々も採用重視というところから、採用は引き続き大事なんですけども、育成型組織に転換していくところは、まさに道のりを歩んできているところです。この評価のキャリブレーション(調整)の仕方を、けっこう思いきり変えたんですよ。

どう変えたかと言うと、当初はもう同じキャリブレーションミーティングで、評価の話も報酬の話も同時にするんです。そうするとどうしても報酬の話って、やはりおもしろいじゃないですか。

髙倉:なるほどね。「何でこんな金額なんですか?」みたいな。

木下:なかなか合意もしづらいし、上げる下げるみたいな話にけっこう時間を使いがちで、本当の評価の中身とか、もしくは育成の話のウエイトが少なかった。なので、ちょっとこれを分けようと。

報酬と育成の話を分けることで起きた変化

木下:まずは評価、プラス育成も含めた話をちゃんとここでやろうと。なのでキャリブレーションをだいたい1人の社員に対して10分ぐらい取って、マネージャーがみんなで議論するんですけども。

周りから見ていた過去の行動ももちろんですけども、「今後この人に何を期待したいんだっけ」と。「次のグレード等級に行くのに、どこが伸びしろなんだっけ」「どんなアサイメントがあるんだっけ」と。

一人ひとりに「セルフアセスメントフォーム」を出してもらってるんですけど、その中にキャリアインタレストっていうのを必ず書いてもらうんですよ。なので、この方は今の仕事にだんだん物足りなくなってきているようだから、もっと大きなチャレンジを与えていいんじゃないかとか。違う職種に挑戦したいって書いてあるけれども、それはいつ頃作れるかとか。

もしくは、例えば「マネージャーへのキャリアをに後押ししたいよね」という時に、本人のマネージャーに挑戦したいという意欲はどのぐらいあるんだろうみたいな。それをより芽生えさせるには、まずはなんかリーダー役とかやってみたらどうかみたいな話も、相互評価の中でやる。

なので、報酬を分けたことによってこの育成の話をよりリッチにできるようになったというのは、けっこう大きな変化だったと思いますね。

髙倉:なるほど、おもしろいな。やはりみんな「いくらもらえるんだっけ」って、すごく最初は気になるんだけど、それは一応置いといて。

木下:そうですね。評価のあとにやりましょうっていう。

髙倉:それと報酬って、ペイフォーパフォーマンスの場合は、やはりその期のパフォーマンスについて精算するわけだから。それはその期で終わっちゃう話なんで、「次はどうしてくれるんですか」って先を期待しないと、みなさんなかなか夢を持てないですよね。

メルカリの社員同士の評価は「Good」と「Motto」

木下:そうですよね。あとはもう1個すごくうまくいってるし、今のリモートワークの話ともすごく関連するんですけども、どうしてもマネージャーだけで見きれないじゃないですか。だから周りの方がどれだけその1人の人に対してサポートしてあげるか。

その育成のサポートをしているかが大事で、我々は「ピアレビュー」という、いわゆるピアフィードバック(上司からだけでなく、同じ階層のメンバー同士でお互いの改善点や評価すべきポイントを話し合う手法)をこのサイクルで必ず取るんですよ。

これは自分が一緒に仕事する仲間、マネージャーだったら自分のチームのメンバーや、他部署で自分がよく仕事をする仲間からもらうんですけど、その時(の評価は)すごくシンプルに「Good」と「Motto」なんですよ(笑)。

薮田:はあー。

髙倉:Goodと?

木下:もっと。箇条書きでできるだけバリューベースで書いてほしいって言ってて。「Good」は良かったことで「Motto」は「ここをもっと」。

髙倉:あ、「Motto」、More。いいですね。

木下:それは匿名じゃなくて実名なんですよ。

髙倉:へえ! 責任を持って言ってあげている。おもしろい!

木下:そうですね。一応みんなからメッセージをもらえると、マネージャーの方がアドバイスをするよりも、ある意味刺さることがけっこうある。

髙倉:なるほどね。

木下:けっこうみなさん、ストレートに言ってくれてるなと思っていて、そこの建設的なフィードバックをお互いにできるようになるのも大事かな。

薮田:受け止めるほうはすごく心が強くないと難しくないですか?

木下:そこ、大事ですね(笑)。

薮田:弊社も、そのピアレビューをいわゆる執行役員でやったことはあるんです。すごくためになるんですけど、やはり受け取るのはしんどい(笑)。

木下:バリューの軸をやることによって、共通言語化される。これはみんなが大事にしてるからっていう納得感があふれ出るんですよ。

薮田:なるほど。

SmartHRの評価者側を育成する仕組み

髙倉:薮田さん、どうですか? これからの課題っていう、人材育成の話も言っていましたけど。

薮田:そうですね。先ほど評価の話もあったんですけれど、ちょっとさっきの続きを話します。その評価制度を使うマネジメントの育成とか、その方への支援が大事という話をさせていただきました。(SmartHRでは)どんなことをしてるかを、簡単にいくつか紹介させていただきます。

まず制度として下にあるのが、よく一般的にありそうなのが評価対象者が自分で評価をして、その上長が評価して、その上の上長がハンコを押して、人事が評価する。フロー型で評価していくんですけれども、直上長がすぐに評価するかたちをとっています。いわゆる課長が全部評価を決めてしまうと。

目の前で見ている人が、一番その部下のことを見ているだろうという考えでこのような仕組みを置いています。ただ、見えないところはこの関係者ヒアリング、いわゆる360度に近いようなかたちで「聞いていいですよ」って仕組みを1つ置いています。

髙倉:なるほど。

薮田:2つ目が、マネジメント層が集まって全員の評価を並べて、自分が甘くないか辛くないかっていうキャリブレーション。人事からは次のページの資料を提供しているんですけども、ザーッと自分のメンバーがどういう評価をしてるか。評価者がどう評価をしてるか、ギャップを見ているんで。

木下:ああ、そうですよね(笑)。確かに(笑)。

薮田:こういうのを可視化するのって、自分でやるのは大変じゃないですか。

髙倉:そうですね。わかります。

薮田:こういうのを人事で作って、「ああ、こうなってるんだ」と見て、その議論のきっかけを作る。そういったことをして人事を支援しています。

評価者の目線を合わせることの重要性

髙倉:こういう可視化も評価者の訓練というか、自分がピープルマネジメントをどうやって行っていくかの1つのヒントになりますよね。どういう目線で人を見ているのかっていう。

薮田:そうなんですよ。この議論で一番学びになるのは、「このマネージャーはこういうふうに考えてるんだ」という議論をすることで擦り合っていくことがあるんですね。「バリューってそういうことだ」みたいな。それもやはり1つの効果かなと思っています。

髙倉:なるほど。ありがとうございます。本当にいろいろ多面的にお話を聞かせていただいて、「評価は永遠の課題だなと思う一方、やはり運用の柔軟性をきちっと取っていかないと、納得感が出ないな」というメッセージをいただきました。それでは、視聴者の方からお二人に質問がありますので、紹介させていただきます。

メルカリさんへということですけども、「バリューがとても参考になりました。その中でバリューという言葉をどう定義しているのかが気になります。外側ではなくて、内側(社員)に向けたもののように感じたのですがいかがでしょうか?」

木下:そうですね。そこはたぶん、SmartHRさんと同じだと思うんですけども。その社員に求める行動をValueと呼んでいるので、「Value行動が発揮されたかどうか」というような言い方をしますね。

髙倉:なるほど。やはり行動なんですね。発揮された行動が何なのか。

木下:なので「Go Bold」というところで言うと、少し要素分解をしていて「大胆にやろう」ってことなんですけども。1つはやはり自分のやりたいことをしっかり周りに伝える、在りたい姿を伝えることができていますか? という、自分から仕掛けるってことですね。

「行動ベース」で多面的に評価する

木下:もう1個の「大胆にやろう」は、前例に囚われずにリスクを取って、失敗から学ぶことができるか。こういうふうにちょっと言語化します。

髙倉:なるほど。

木下:要素分解しているので、じゃあそういう行動を発揮させていたか、させていないか、まずはご自身でセルフアセスメントしていただいて。周りからもプレビューをもらって、それでマネージャーの方が最終評価にするというふうにしています。

髙倉:なるほどね。非常によくわかる。

木下:行動ベースですね。

髙倉:やはり「私はGo Boldです」って言われても、何をやったのかがわからないと(笑)評価もできませんから、「何をやったんですか?」と聞いて、多面的に評価をする。

木下:ご自身でまず考えていただくので、「自分はこの半年間、どれだけGo Boldできたんだろう」と考えるのは、みんなけっこうハッとしますね。

髙倉:薮田さん、どうですか? この行動評価という話にも類似してくると思うんですけど、そのあたりどんなふうに見てますか?

薮田:それで言うと、最近我々は「当たり前にできている行動」とか「価値観」って言い方をし始めましたね。やはりその事業を成功させるためのバリューなので、それは全員できることで事業が成長するだろうと。そういったつながりは絶対あるはずなので、評価でも「当たり前にできるようにしていきましょう」というお話はよくしています。

パーパスやバリューを「絵に描いた餅」で終わらせないために

髙倉:ありがとうございます。本当に「パーパス経営」とか「企業のバリューが大事です」ってもう長年言ってきてるんですけど、単に絵に描いた餅、お題目になっちゃってるところが多くて。お二人が言うように、それをどういう行動にしていくかが、将来的にはその人の育成にもつながると今日は思いました。

さて、時間がもう少なくなってまいりましたけれども、今回のセッションをしてみてどうでしたか。お二人に一言ずついただきたいと思います。薮田さん、どうぞ。

薮田:そうですね。やはり多様化していくという拡大と、弊社で言うと人数が増えていくという、いろんな拡大があると思うんですけども。やはり柔軟性、変わることはとても大切だと思いますね。その中でバリューとか人のポリシーって、やはり未知数というか軸は必要なので、そこが自社の事業成長につながるものがあるかどうか。これはとても大切だなと学びになりました。

髙倉:なるほど。

薮田:メルカリさんから学んだことは、そこに対してちゃんとデータをとって(いることだと)。

髙倉:そうですよね。

薮田:定量・定性両方とも。やはりそこはとても見習わないといけないなとすごく学びになりました。

髙倉:ありがとうございます。木下さん。

木下:SmartHRさんの話を聞いても思ったんですね。やはり組織はどんどん発展してくるので、人事制度もどんどんそれに合わせて進化・発展させていくのがすごく大事で。ミッションとバリューにセンターピンを置きながら、「運用8割」という言葉もあるので、しっかりとファインチューニングし続けるのがあらためて大事だと思いました。

髙倉:そうですね。今日は木下さんと薮田さんをお迎えして、特にグローバル&拡大というこの組織の流れの中で、どういう人事制度がいいのか、運用のところも含めてお話をうかがわせていただきました。大変参考になったと思っております。どうもありがとうございました。

木下・薮田:ありがとうございました。

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