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亀山流、今日本の企業に必要なものとは?~オープンイノベーションと事業創出~(全3記事)

部下が怖がるから、トップは“ナメられるぐらい”がちょうどいい DMM亀山会長流・事業が生まれる風通しのいい会社づくり

「失われた30年」を打破し、日本がオープンイノベーション先進国へ変わるため、国内のオープンイノベーションの雄が集結したイベント「JAPAN OPEN INNOVATION FES2023」が開催されました。今回はその中から、DMM会長の亀山敬司氏と株式会社eiicon中村 亜由子氏のセッションの模様をお届けします。本記事では日本企業の構造の問題点を指摘しながら、イノベーションを生むために必要な考え方を明かしました。

前回の記事はこちら

日本でイノベーションを起こすために必要なもの

村田宗一郎氏(以下、村田):一方でみなさんきっと、今後の日本をより良くしていきたいという思いを持っているので、未来の話もしていきたいなと思っています。

設問の2つ目ですが、そんな状況の日本で、「未来に必要なものとは何か?」という設問です。中村さん、これはいかがですか。

中村亜由子氏(以下、中村):日本の未来にオープンイノベーションが必要だと思っています。自社だけで考えるよりも、得意な企業同士がコラボしたほうが事業推進のスピードも圧倒的に上がりますし、規模も大きいものも出てくるというのは間違いないなと思っているんです。

なぜオープンイノベーションが必要だと叫ばれ始めているかと言うと、人材活用で昨今言われている「ダイバーシティ&インクルージョン」が、ビジネスの場でも必要だということも一つあるのでは、と考えています。

多様性の受容で交ざることでイノベーションが生まれることは、世界のサービスの作り方を見ても自明です。テクノロジーがどんどん発展していくことによってさまざまなニーズに応える形で少量多品種の時代も到来しています。

ただ、日本はどうしても「大量生産で同じものを作る」というところで戦後勝ってきた部分があるので、少量多品種にスイッチし切れていないんじゃないかなと感じるシーンは多くあります。

ニーズはすごく早く変わっていくので、リーンに早く出して、その1個1個のロットが小さかったとしても複数出していくことによって、事業の規模を大きくしていく。そんな考え方がやはり必要だなと思います。

「1,000億円のホームラン級の事業を作るんだ」という企業の考えを別に否定するつもりもないですし、それもすごくいいなと思うんですが、「じゃあ100億円の事業を10個じゃダメなのか?」というところで、そっちのほうが実は早いんじゃないかと考えます。

村田:ありがとうございます。

「10→100」の仕事は、今後AIで効率化される?

亀山敬司氏(以下、亀山):今の話で言うと、うちなんかはまさに事業が60個に分かれているけど、全部がスタートアップの寄せ集めみたいな会社なので、各自がそれぞれ権限を持って動きます。ただ、法務とか財務といったバックオフィス的なものだけは一緒にやりましょう、みたいな考え方でやっている感じです。

共通化する守りの場所だけは見るのは、スタートアップってそういうところは弱いのよ。裏側の「ちゃんとする」というところが、だいたいのスタートアップはできていないから。アイデアやスピードはあるんだけど、安定的な運営ができなかったりするんだよね。そこは、大手企業がけっこう強いところです。

例えば、よく、アイデアを出す「0→1」、軌道に乗せる「1→10」、安定成長の「10→100」とか言うけど、大企業が得意なのは「10→100」のところ。

世の中の9割方の人間が「10→100」の仕事をしていて、ほとんどはある程度軌道に乗った事業を毎年5パー、10パー上げていったり、ちゃんと毎日安定的な運用ができるようにする仕事に関わっているかなと思うんだ。

一方でイノベーションというのは、「0→1」か「0→10」あたりまでの話を、みんな求めてきているかなと思うんだけど、これは今まで以上に待ったなしという状況です。なぜなら「10→100」の仕事は、今からAIで効率化されやすい仕事ではあるんだよね。

会社は生き残れても、社員の生き残りが厳しくなる

亀山:「10→100」の仕事をする人員の20パーセントがAIに替わられたりすると厄介じゃない。そうなった時にどうなるかと言ったら、20パーセントの人間を減らすか、または20パーセント売上を上げるか、どっちかしかないと思うんだ。

となると、今の雇用を守るためにも、彼らに仕事を振るためにも、「1→10」の仕事をもう20パーセント増やさないといけないということになるかな。じゃないと、AIが20パーセント効率を上げた時に、その分の雇用が支え切れなくなるのはあるかなと思うので。

これから、今まで以上に「1→10」までの間の投資とか、そこに対する危機感を持たないと、ちょっと大変。会社は生き残るかもしれないけど、社員の生き残りが大変になってくる。そこを守ろう、ということかなと思います。

中村:亀山さんって、ご自身もすごくアイデアマンですし、たくさん事業を仕切っていらっしゃるし、先頭を切っているという感じもすごくあるんですが。

一方で「亀チョク(事業計画を持ち込んだ起業家と契約を結んで資金と人材を提供する制度)」のような、「アイデアがあるんだったら持っておいで」と言って、良かったら「いいよ。君に会社をやらせてあげよう」というふうにされているのは、今の文脈にも関係あるんですか?

亀山:さっき「DMMのプーチン」とか言ったけども、基本「隠居しているプーチン」「じじいプーチン」みたいなものなので。

村田:(笑)。

亀山:権力とかはあるのかもしれないけど、いずれ死んじゃうので(笑)。

旧来型の構造ではイノベーションは生まれにくい

亀山:14~15年前から亀チョクを始めたけど、結局は権限をいかに次世代へ渡せるかという話なんだよね。なぜかと言うと、その頃に「外部からでも(新規事業を)集めよう」となったのは、やはり中でなかなか新しいものが生まれにくかったから。

どうしても新卒の頃から「上司から言われたことをやりなさい」とか「残業しちゃいけない」とか言われて育ってきた若者たちが、そこから先「じゃあ、次のイノベーションでどうやってビジネスを作るか?」というところに意識が向くかというと、なかなか向きにくいのがあって。

どこの会社も構造的な問題として、どうしても上司に気に入られたほうが出世しやすいとか、ルールを守ったほうがいいとかがあって。「ここは変えたほうがいいんじゃないですか?」と言った時に、「いや、昔からこれなんだから黙ってやれよ」と言われたら、「はい」と言ったほうが、関係として一応うまくいくじゃない。

そういう中で育っていった時に、じゃあイノベーションが起きるかというと、なかなか起きにくい。そうなったらやはり外部の血を入れていこうと、まったく新規でやりたい人間を募集した。そういう中で、例えば『艦これ』というゲームやオンライン英会話のサービスが生まれてはきたんだけれども。

それまではどちらかというと「俺についてこい!」「じゃあ次はインターネットだ」「次はこれだ」と俺が言ってたんだ。だけど、さすがに50歳ぐらいになると、今時のアイデアやトレンドがわからない。俺、本当は新しいSNSとかインスタとかやりたくないのよ。

村田:(笑)。

亀山:まだTwitter(現X)とかFacebookまではやれたんだけど、「インスタで写真をアップしろ」とか言われても、俺みたいなオッサンは上げるものもないし。

事業は若手に任せ、ベテランはフォローに回る

亀山:ソーシャルゲームが流行りだと言われても、『ゼルダの伝説』とか『バイオハザード』まではやれるんだけど、『艦これ』とか『刀剣乱舞』は、やる気にならないわけよ。さっぱりわからないので、感覚的についていけない。だから、ソシャゲもFXもやったことがない。

だから(実際に自分が)やったことがないビジネスはけっこうあるんだけど、結局のところ、そういうのをわからない中でやるのはちょっと無理になって。なので、「じゃあこいつならやれそうだ」「このアイデアなら将来がありそうだ」ということに対する、ある意味投資的な考え方になるしかなかったという感じかな。

もちろんビジネス的に、「データ分析はこうやったほうがいい」「CMはこれぐらい打つとこれぐらいの価値があるよ」というところはフォローしたり、決算書の見方とかは指導はできるんだけど、基本線は何が当たるとか、どんなゲームが当たるか、どんなサービスが当たるかというトレンドを追うのはちょっと無理がある。

たぶん大企業の役員なんかもほとんど無理だね。俺なんかはまだ「最先端年寄り」のほうだと思うんだよね。それでも無理だと言っているんだから、他の年寄りはほぼ無理よ。トレンド的には、まだ20代のやつの話のほうが当たるから。

だから、若手を事業の中心にする。ただ、彼らは経験がないから、財務諸表とか法務はフォローしてあげるという制度に切り替えたということかな。

多様性と言いつつ、実態が伴っていないことがほとんど

亀山:外部からいろんな人間を入れていくと、中の社員も刺激を受けるし、そのうち中からも新しいことをする人が出てくるようになる。ここ数年で始めたビジネスは、ほとんど現場の中から上がってきて、俺が承認したものだよ。

中村:最近は内部から上がってきたものも。

亀山:そうだね。最近だと動画配信のDMM TVとか、EV充電サービス、あとはオンラインクリニック、オンラインクレーンゲームとか、全部が若手社員が始めたもの。当初は「そんなもの誰がやるんだ」とか言っていたんだけど(笑)、「やります!」とか言うし、まあいいかと。

中村:十数年前は外からが多かったけれども、ここ数年ですか? 10年ぐらい血を入れていたら。

亀山:そうだね。もちろん中途入社で始めた奴もいる。「うちの中で新しいことをやりますよ」というのを推してきたら、やはりそういうのが集まってくるよね。実際入った人も、「本当にやれるよ」となったらまた知り合いを呼んできたりするから、そういう流れをなるべく作りたかったのはあるよね。

さっき多様性の話が出たよね。世の中の会社は「女性の雇用機会を増やす」「外国人も平等にする」とか言っているけど、体裁ばかりで、ほとんど実態が伴っていない。役員にするけど実権を与えないとかね。

女性役員の数はそろっているとか、外国人もちゃんとしていると言っているけど、結局実態が伴わないと、中でその雰囲気にはならないんだよね。

新規事業創出のカギは「権限委譲」

亀山:だからうちの場合は、例えば中国人だろうが女性だろうが、権限をどんどんやれるやつには任せていくし、そのへんに関してなるべくチャンスを与える方向に持っていかないと、そういった人が集まらない。実態が伴わないと、だいたい失望したり辞めていくからね。

ということで、どんどん新しいものを作らせて、もちろん失敗したら一から出直しで「誰かの下につけ」となるんだけどね。そんなふうにやっていくと、だんだん中に「新しいことをやりたい」という雰囲気が出てくるので。

中村:今もどんどん新規事業が出てますものね。

亀山:だけど、俺はほとんど何も考えていない感じ。

中村・村田:(笑)。

亀山:ほんとほんと。

中村:ありがとうございます。日本の未来に必要なものは権限委譲ですよね。政治もそうですし、企業もそうです。世代交代して20代の社長になって、すごく成功しているところも最近は出始めていますし、権限委譲しようとされる企業も増えてきています。

オープンイノベーションも出島が大切だということで、しっかり出島になって、決裁をそこで回せる金額をもらえている企業も増えてきているのは、だいぶ機運が向いてきているんだろうなと思っています。

高齢化でみんなが元気で長寿な国にもなってきているので、50代、60代、70代、最近は80代で現役でCEOでトップでという方もまだまだいるということを考えると、今の亀山さんのお話はすごく必要ですね。

村田:そうですね。

若手に寄り添うため、スーツの着用をやめた亀山氏

村田:ぜひ亀山さんにおうかがいしたかったのですが、大企業のみなさんも、「わかってはいるけどできない」ということがあるのかなと思っていまして。

「権限は任せたほうがいい」と思っているけど、「しがらみの中でそうはできない」「責任は結局自分に下りてくるから、やはりそこに入っていたい」ということを考える方も多いのかなと思います。そのあたり、亀山さんの発想はぜんぜん違うなと思うんですが、どういうふうに考えて現場に任せていらっしゃいますか?

亀山:まずはスーツを着なくなったよね。若いやつって、スーツを着ているのを見ただけで怖がるのよ。特にスタートアップね。

俺も初め、スタートアップのイベントにはスーツで行ったんだけど、みんなTシャツとか楽な雰囲気でいた。だから、俺はなるべくがんばってゆるく努めているつもりなんだけど、それでも怖がられているわけね。

基本、子どもは大人が怖いんだよね。いかにも取って食われそうじゃない。「いろんな大人たちにうまく利用されるんじゃないか」「したたかなんじゃないか」とか。

実際、俺なんかは取って食うタイプなんだけど(笑)、基本的には「食われてもいいな」と思えるぐらいの雰囲気がゆるく出せるかという話かな。みんな怖がっているから、大人から寄り添ってあげるというか。

部下にナメられるくらいがちょうどいい

亀山:例えて言うなら、飲み会でよく「無礼講だ」と言っていても、実際は無礼講ではないじゃない。うちなんかは誰も俺にお酌に来ないから。順番にこっちから「乾杯」と言わなきゃ誰も来ない。みんなナメてるわけよ。

ナメられる雰囲気を作って、やっとちょうど話ができるぐらいかな。さっきもうちの会社がこのイベントに出展していたから「何を出展しているの?」と聞いたら、なんだっけ、DMM……。

村田:DMMイベントテクノロジーさまです。

亀山:イベントテクノロジー。これは俺が昔、「DMMオンライン展示会」という名前で最初にリリースさせたのよ。「これでいこう」と。だけど知らない間に名前が変わっているわけ。ナントカカントカって(笑)。

村田:(笑)。

亀山:「何の会社だ?」と思ったら、もともと展示会の会社だったというので、「勝手に名前を変えやがって」みたいな感じなんだけど。ただ、そういった感じで怒らないで、少々ゆるめにしておく。

こういうふうに話していても、みなさんシーンと聞いてくれているけどさ、うちなんかはワイワイ勝手に飲みが始まったり、スマホ触ったりしていて、誰も聞いていなかったりすることもあるのよ。それぐらいがちょうど良く、風通しが良くなるんじゃないかな。これぐらいしても、それでもみんな忖度がたまに出ちゃうね。

現場の雰囲気はなるべくゆるく、若手の裁量に任せる

中村:まさにトップの器というか度量だと思うんですが、たぶん今日ご来場のみなさんはどちらかというと、トップが社内にいて、そこを忖度しなければいけない……。

亀山:ああ、そうか。「何言ってんだよ」とか言ったらクビになるか(笑)。じゃあそのへんは、上司をうまいこと言いくるめて、とりあえず予算だけ確保して、「なんとかなっています」とか言って引き受ける。あとはその中で、現場をなるべくゆるくやらせてあげる感じにするしかないよね。

「あと何年間だけ黙って見ていてください」「責任は僕が取りますから」「常務のせいにしませんから」とか。だったら大和田常務みたいな人でも、「お前が責任を取るんなら、俺は黙っていてやろう」みたいな話になるかもしれないわけだからね。

結局のところ、イノベーターと関わっているみなさんは、たぶん会社の中でその資質のある人が集められたんだと思うんだけど、そういう人たちは「ここでうまくいかないなら、俺たちもそっち側のスタートアップと一緒にやっていく」ぐらいのやつもけっこう出てきやすいんだよね。「そっちのほうが楽しそうだから」みたいな。

だから途中でそうなったら、それはそれでいいんじゃない? 「責任取ります」と言って、失敗したら責任を取って、また別のところに行けばいいぐらいの感じかな。ただ、うまく会社内で功績を出して当てたら、そこの次の社長になれるわけよ。だからけっこうでかいと思うんだよね。

不確実なAI時代をどうやって生き抜くか

亀山:たぶん今は企業だと、そこで失敗してもクビになったりしないよね。減給になったりもしないのかな? もしくは出世から外れる。外れたら外れたで別のところへ行ってもいいけども、とりあえず当たればその会社を任されることになるから、おいしいんじゃないかと思うんだよね。

今の本体の成長部署に比べたら、たぶん数パーセントのちっちゃい部署だと思うんだよね。(本体の)部署にはたぶん人数も100倍ぐらいいる。だけどこっちだと、成長すれば自分がトップでどんどん人を増やしていけるじゃない。

たぶん本体の部署は徐々に人数が減っていくなりでポジションがなくなるから。そこで10億円売上を上げたって「そんなもんか」と言われて、大して出世もしないという感じになると思うので、ある意味こっちの部署へ来たほうが夢はあるよ。

どのみち10年、20年先は不確実な世界だから。AI(時代)になったら、既存の部署にいたら放っておいてもリストラされるかもしれない状況になるので、それに比べたら、うまくスタートアップと組むなりしたほうがいいんじゃないかな。どうやるのかは俺は知らないけどね。マッチングはここ(eiicon)の本業らしいから相談してみたら。

または、本体のAI導入とかの主導権を握ってもいいじゃない。「本社のAI導入は全部自分たちでやります」と言ってやれせてもらえたら、人事よりも役員よりも上の立場になるかもしれない。などと、ちょっとそそのかしておりますけども(笑)。

中村:でも、おっしゃる通りです。結局、結果が出るのは1年とかではないので、数年単位で上長にどうしても忖度しなければいけない。執行役員を説得しなきゃいけないという場合は、3年や5年という期間を、笑って成功させるまでやるのは本当に必要なことだろうなと思います。

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