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仕事はできるが組織を衰退させる人(全5記事)

仕事はできるが職場の雰囲気を乱す「自己無価値感が高い人」の特徴 経営心理士が明かす「欲求不満型野心家」の問題点

年商300億円超の企業から個人事業主まで、これまで1,200件超の経営改善を行ってきた経営心理士の藤田耕司氏。心の性質を実例に基づいて体系化した「経営心理学」の観点から、「仕事はできるが組織を衰退させる人」というテーマで講演を行いました。本記事では、会社を潰しかねない「欲求不満型野心家」の人の特徴を解説しながら、その問題点を指摘します。

前回の記事はこちら

仕事はできるが、承認欲求が強く他人を否定する人

藤田耕司氏(以下、藤田):私が「欲求不満型野心家」と呼んでいるタイプの人がおります。この方は承認欲求が強く、プライドが高く、感情的になりやすい。非を認めることができず、自らを正当化しようとする。他者を否定したり見下したりする傾向がある。組織やリーダーを批判し、周りを巻き込もうとする。

この人がただの嫌なタイプであれば、放っときゃまだどうにかなるんです。だけど困るのが、このタイプの人が仕事ができる場合なんです。

このタイプの人は承認欲求が強いので、「認められたい」という気持ちから人一倍仕事をがんばったりします。その結果、仕事ができるようになるケースもけっこう多いんです。

仕事ができるようになると、周りから一目置かれるようになるので、発言力を持つようになる。そして、自分のためにその発言力を使おうとするところがあったりします。

「自分は十分に組織に貢献している」と態度が大きくなり、統率や雰囲気を乱し、それが原因で離職者も出る。こういうケースも出てきております。

さらに主張も激しくなり、(他のメンバーを)「受け入れられない」といって派閥を作って、反発的な態度をとることもある。こういった人が組織の衰退を導いている事例がとにかく多いです。

仕事はできるんです。例えば営業成績がナンバーワンとか、経理のトップでその人がいないと経理が回らないとか、とにかく仕事が早くて正確とか。ただ、例えばそういう人が、朝9時出社と言ってるのに平気で10時に出社したり、「でも、自分が一番売ってるから別にいいでしょ?」というかたちで、会社のルールを平気で破るとか。

あるいは仕事ができる人は自分が求める水準が高いので、その水準を部下にも求めてしまう。その結果、部下がその水準を満たしてないと当たりがきつくなる。

「なんでこんなのもできないんだ」「これぐらいの仕事に何時間かかってんだ」「なんでこんなクオリティなんだ」と、つい当たりがきつくなってしまう。そういう原因で人が辞めるということが、いろんな現場から見受けられます。

社内で派閥を作り、社長が居場所を失うケースも

藤田:さらに困るのは、自分の主張がどんどん激しくなって、発言力を持ち始めると、社長や上司にどんどんと自分の意見を言うようになってくる。その意見が通らないと派閥を作って、その派閥で会社や社長に対抗しようとする。そんな人もいます。

過去には、社長に対してどんどん意見する営業ナンバーワンの方がいらっしゃいました。その方の意見がかなりわがままに近いものだったので、社長はそれを「受け入れられない」と断った結果、派閥を作り、その派閥のメンバーで飲みに行って、居酒屋で社長の悪口を言うと。

そうすると派閥のメンバーまで、白だった人が黒に染まっていくわけです。「社長ってそんな人なんですか?」「そうだよ。社長はそういう人間だよ。だから気をつけたほうがいいよ」と、そんなふうなことを言っていく。

その結果、社長が仲間外れ的な状況になっていくわけですが、社長がいないところでそういうことをやっていく結果、社長がどんどんと居場所を失っていく。そういったことが原因で出社拒否になっちゃった社長もいますし、「会社には自分の敵しかいない」という状況になった人もいます。

ナンバーツーに現場を任せて、社長はもっぱら営業で外回りな状況が続いた中で、ナンバーツーが現場のメンバーに対して「自分がこの会社を回してんだ」「社長なんかお飾りなんだ」ということを、どんどん言って回った。

その結果、現場のメンバーはナンバーツーの言うことは聞くけれども、社長の言うことは聞かなくなるという状況になってしまって、社長が居場所を失う。そんな状況で悩んでいる会社もあります。

上司の独り言を部下は意外と聞いている

藤田:とにかく、この「欲求不満型野心家」の例をあげるときりがないぐらいご相談が多いんです。仕事はできるんだけれども、組織の統率を乱す。ルールを破るとか、あるいは組織の雰囲気を乱す。

特に気をつけなきゃいけないのは「独り言」なんです。仕事のスピードが早い人ってせっかちな方が多いので、仕事がなかなか前に進まないと、その方が独り言を言う。上司の独り言って、部下は意外と聞いているんです。

そして、上司は自分が独り言を言っていることにあまり気づいていない。無意識のうちに独り言を言っている方もけっこうおられます。こういうところが職場の雰囲気を悪くして、それが原因で部下がストレスを抱える。

例えば「なんだこのメール」「ふざけんな」「なめてんのか」ということをブツブツ言いながら仕事をする人。これを部下が聞くと「えっ、自分のこと? 自分が送ったメールのことかな?」と、疑心暗鬼になってしまう。余計なストレスを抱えながら仕事をすることになっちゃうわけですね。

そういうふうに、上司の独り言が職場の雰囲気をものすごく悪くしている。ただ、上司本人は独り言を言っている自覚がない。これはよくあります。

なので、私がそういったご相談を受けてご本人と面談して、「ちなみに独り言を言っている自覚はありますか?」と聞くと、「いや、自分は独り言はそんなに言ってないですけど」と言う人はけっこういるんですね。

部下の方からは「いや、相当言っている」と聞くんです。あの独り言が、本当に職場の雰囲気を乱している。ただ、本人はその自覚がない。よくある話ですけれども。

欲求不満型野心家の方はとにかく承認欲求が強いんです。「認められたい」という気持ちが強い。なので、仕事ができるようになろうとすることはいいんですが、自分の意見が通らなかったり、あるいは他者を否定する傾向が強いと、これが組織の問題になることがあります。

この世で最も認めてもらいたい人は、他の誰でもなく「自分」

藤田:「欲求不満型野心家」は私が名づけてるんですが、何が欲求不満なのかをお話ししたいと思います。自己承認という話は心の深い部分で、自分のことを認めることを言うんですが、この世で最も認めてもらいたい人は、他の誰でもなく「自分」という人なんです。

自分という人が自分のことを認めてくれると、欲求が満たされるわけです。ただ、自分という人が自分のことを認めてくれないと、ものすごく強い欲求不満を覚えてしまいます。

そして「自己価値感」という言葉は、自分に価値があるという感覚。人より劣っていても、未熟なところがあっても、自分はかけがえのない価値のある存在だという感覚のことです。

一方で「自己無価値感」は、自分には価値がないという感覚。これらはいずれも、無意識レベルでの感覚になります。なので、「自分は自分のことを認めることができている」ということを、意識レベルで認識するのはかなり難しいと考えていただければと思います。

自己承認ができていないと、最も認めてもらいたい「自分」という人が認めてくれないので、強い欲求不満を感じ、そして自己無価値感につながっていきます。

自己無価値感が低い人は「認められたい」という気持ちが強い

藤田:自己無価値感を自分という人が認めてくれないので、自分という人以外の人から認めてもらうことで補おうとする。つまり、他者から認めてもらうことで補おうとすることを「欠乏動機」と言います。

その結果、他者からの評価を強く気にするようになり、その評価が少しでも損なわれそうになると、怒り、不安、緊張、焦りが生じやすくなる。そして、他者を認めることよりも認められることを優先するため、心理的衝突が多く、深い関係を築きにくいという傾向があります。

ですので、自分で自分のことを認めることができていないと、他者から認められることでその欲求不満を満たそうとするので、より強く他者から認められようとするんです。

先ほど「欲求不満型野心家」と言いましたが、何が欲求不満かというと、自分という人が認めてくれないことに対する欲求不満が原因で野心家のようになっていく。つまり「認められたい」という気持ちが強いわけですね。

その「認められたい」という気持ちを、社内で影響力を振りかざすかたちで使っていく。そうすると、「上司を立てる」「会社のために貢献する」といったことよりも、「自分が認められるために何をするか」を優先しがちになるわけです。

自己無価値感が高い人がよく使うワード

藤田:自己無価値感が強い人の傾向としまして、他者からの評価に執着し、評価が下がるととり乱す。他者との比較を強く意識し、劣等感を過度に嫌う。他者の評価や見栄のために贅沢品を買う。非があっても正当化しようとし、素直に謝らない。「絶対」とか「いくらでも」など、過剰な表現を頻繁に使う。

「絶対」「いくらでも」「誰でも」「みんな」といった表現は、半ば嘘のようになってしまうケースが多いです。例えば「これは全部自分がやった」という言い方をする人はいますが、本当に全部なのか、誰の力も一切借りなかったのかというと、実は力を借りていることもあるわけですね。

「あれは全部俺がやったんだ」とか、あるいは「そんな案件だったらいくらでも取ってこれますよ」という言い方をする人はいますが、「いくらでも」って本当ですか? と。それも無量大数な数字になっちゃうわけですね。

こういう言葉って、使ってしまうと半ば嘘のようになっちゃうんです。でも(自己無価値感が強い人は)この言葉を使う。その背景には、自分の発言に重要性を持たせようとすることが原因としてあるんです。

「自分の発言はこれだけ大事なんだぞ」というふうに、重要性を持たせようと過剰な表現を使おうとするんです。たまに使う分にはぜんぜんいいんですが、頻繁に使う場合は要注意です。

他者を下げることで自分の価値が高くなったように感じる人

藤田:それから、自分の話ばかりしようとし、相手の話が聞けない。成功したり偉くなったりすると、態度が横柄になる。店員さん、部下、下請け先とか、自分よりも立場が下の人や自分がお金を払う人に対しては、態度が横柄で当たりがきつい。

それから、悪口が多い。頻繁に愚痴を言い、共感を求める。この「悪口」というのは、他者の評価を下げることによって相対的に自分の評価を上げるという心理的作用があります。なので、自分は何も価値が変わっていないけれども、悪口を言って他者を下げることによって、自分の価値が高まったように感じる状況を求める。

それから、くよくよ悩み、迷いやすい。ころころ考えが変わる。精神的余裕がなく、感情的になりやすい。こんな傾向があるわけです。

以前、私がこのテーマで講演をした時に、講演が終わった後にある方が半ば駆け足で私のところに来られまして、「名刺交換をお願いします」と。その方は、企業再生のお仕事をされておられたんです。

企業再生というのは、要は潰れた会社を立て直すお仕事なわけですが、そのお仕事を専門にされておられる方が「私は会社を潰した社長を相手にしてるんです。その社長って、本当にこういうタイプの人が多いんです」と、興奮気味に話しておられました。

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