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中小ベンチャー企業のための「人的資本経営」の本質(全3記事)

中小ベンチャー企業の経営者が「人疲れ」してしまうわけ 大きなマイナスにもなり得る「人的資本」の4つの特性

白潟総合研究所株式会社と株式会社オトバンク共催のイベントの模様をお届けします。テーマは「中小ベンチャー企業のための『人的資本経営』の本質」。「人」を中心とした経営で会社を伸ばすにはどうすればいいのか、特に中小ベンチャー企業で人的資本経営を行っていくためのポイントが解説されました。本記事では白潟総合研究所株式会社の石川氏より、人的資本経営の基本について解説されました。

中小ベンチャー企業の「人的資本経営」の本質

石川哲也氏(以下、石川):それでは株式会社オトバンク・白潟総合研究所共催のセミナー「中小ベンチャー企業のための『人的資本経営』の本質」、始めさせていただきます。みなさん、改めましてこんにちは。本日はお忙しい中、貴重なお時間いただきありがとうございます。

今回のセミナーはオトバンクの上田さん。今の日本の教育業界では、かなりブイブイと名を挙げている方かなと思いますけれども。

上田渉氏(以下、上田):いやいや、そんなことはないですけど(笑)。

石川:(笑)。いろいろお話しさせていただく中で、中小ベンチャー企業の人的資本経営の本質、根っこのところを一緒にやりたいよねというところで、企画・実現したセミナーでございます。1時間、少しでも価値あるお時間にできるようにがんばります。どうぞよろしくお願いします。

上田:お願いします。

石川:1時間どんなカタチでやっていくかというと、まず第1講座というところで白潟総合研究所の私、石川より「『人』中心の経営の本質」と題打ちまして、人的資本経営の根っこの部分はなんだろうか。そしてそれを中小ベンチャー企業で考えていくにはどうしていけばいいんだろうか、というところのお話をさせていただけたらと思っています。

だいたい私のお話は25分くらいで終えさせていただきまして、上田さんにバトンタッチして、第2講座を進めていけたらと思います。上田さん、第2講座からよろしくお願いします。

上田:はい、こちらこそお願いします。

石川:では前段のお話はこれくらいにさせていただいて、さっそく第1講座から入っていきたいと思います。第1講座は私、白潟総研の石川より「中小ベンチャー企業の『人的資本経営』の本質」というところでお話しさせていただきます。

今日ははじめましてという方もたくさんいらっしゃるかなと思いますので、簡単に自己紹介・会社紹介をさせていただけたらと思います。ただあまり面白い時間じゃないので、サクサクと進めていけたらと思います。

「本当に中小ベンチャー企業のことだけ考える会社を作りたい」

石川:私、石川は白潟総合研究所でNo,2の立ち位置、取締役として、自社の新規事業の開発や子会社の経営をしております。白潟総研は採用支援特化の子会社を2社持っております。この経営と、あとは自社の採用室長。人事部長、人事の責任者をやらせていただいています。

もともとキャリアはデロイト トーマツ グループのトーマツイノベーションというところからスタートいたしました。このデロイト トーマツのトーマツイノベーションをグループ内で立ち上げたのが弊社代表の白潟になるんですけど、白潟がトーマツグループから後任に譲って外れて、「本当に中小ベンチャー企業のことだけ考える会社を作りたい」というところで作った白潟総研に、そのままくっついていって創業を一緒にしていきました。

あとは怪しい人間じゃないことを書いてるだけでございますので、もし万が一、私個人に興味があるという方がいらっしゃいましたら、私の半生をつづった自己紹介noteをお送りしておきますので、もしよかったら、後ほどご覧になってみていただけたらなと思います。

白潟総研は中小ベンチャー企業に特化して、採用から育成、組織開発まで一気通貫で支援している会社です。代表の白潟がいろいろ本を出しておりまして、今日「白潟総研の石川はそこそこおもしろいじゃないか」と思っていただけたら、この一番売れた赤い『上司のすごいしかけ』という本。Amazonでだいたい中古で1円で売ってますので、もしよかったら覗いてみていただけたらと思います。

さらにもうちょっと白潟総研の本を買ってみたいなと思っていただけたら、今年4月に人事評価の本(『中小ベンチャー企業を壊す!人事評価制度17の大間違い』)を出しておりますので、併せてご覧いただけたらなと思います。

あとは白潟総研で採用支援とか評価制度とかミドルマネージャーの育成とか、いろいろやらせていただいておりますが、1つ。今、無料オンラインセミナーを月15〜16回、共催・単独含めてやらせていただいております。ここだけで日本一お客さまのお役に立てる会社を目指しています。

「資源」ではなく「資本」という言葉が持つ強い意味合い

石川:では会社紹介・自己紹介はこれくらいにさせていただいて、第1講座の本題に入っていけたらと思います。最初は「5分でつかむ人的資本経営」。人的資本経営は今すごく話題になっておりますが、あらためて「どういった話なの?」というところを簡単にご紹介させていただきます。

そのあと、もう一歩突っ込んで。経営全体を見た時に、人的資本経営を行うことがどういうことなのかというところを、もう少し視野を広げて、意思決定していくような考え方をご紹介させていただけたらなと思います。

その上で人的資本経営、人を中心に置いた経営でいくのだ、となられたご企業さまに、「人」中心の経営で会社を伸ばす、人的資本経営の本当にキモのところ。細かいところはいろいろあるんですけど、中小ベンチャー企業、あるいは本当に経営にインパクトがある人的資本をやろうと思ったらここです、というところをご紹介させていただけたらなと思います。

ではさっそく「5分でつかむ人的資本経営」から入ってまいります。そもそも人的資本経営って何なの、というところをお話しさせていただくと……これは経産省のサイトから持ってきていますが、「人材を『資本』として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方です」と。何のこっちゃと。

人は大事ですよね。人材こそが企業の礎ですよねと、そういうふうに考えながらご経営されてきたご企業さまにとっては、当たり前っちゃ当たり前の話なんですけれども。

もうちょっと中を見ていくと、「資本」という言葉に強い意味合いがあります。「資源」と「資本」で比べた時に、資源というのは「すでに持っているもの」で「消費されていくもの」ですね。なので人材をコストとして捉えるという考え方。

一方で資本というのは「そこに投下すれば、より価値を生み出してくれるもの」として捉える。人に関するところを投資と捉えると。そんな考え方の違いがある。

これも、もともと「それはそうでしょ、人材こそが企業のすべてでしょ」というふうに、人を大事にする経営をされてきた中小ベンチャー企業さまにとっては、当たり前っちゃ当たり前なんですよね。これを国を挙げてしっかりやっていこう、あるいはグローバルでもここを大事にしていこうという潮流があって、今あらためて強烈に注目されているということです。

なぜ国を挙げて「人的資本」に力を入れているのか

石川:ここにまとめておりますけれども……人的資本の開示動向というところで、本当はもうちょっといろいろあるんですけど、重要なポイントだけ3つ洗い出してみます。こんなカタチで、国の動向があります。

特に2023年1月の、こちらの内閣府令のところに関しては、サステナビリティの項目ですね。上場企業はこの項目に関して「人材の多様性の確保を含む人材育成の方針や社内環境整備の方針」を「サステナビリティ情報の『記載欄』の『戦略』と『指標及び目標』において記載」してくださいと。

特に「『女性管理職比率』、『男性の育児休業取得率』及び『男女間賃金格差』を公表する場合には、有価証券報告書」に入れてくださいね、といったようなカタチで。このあたりでも、まず上場企業からですが、国の本気で人的資本経営をやっていってほしいという意向が読み取れますね。

じゃあ実際に何を開示したらいいのか。人的資本の開示項目です。2022年の8月の可視化指針を見ていただくと、7分野19項目で開示してほしいところが載ってます。このあたりもまた参考にしながら、どういう風に開示していけばいいのか考えていくべきであると。

ここをキャッチしていくに当たって、「なんで国を挙げて人的資本を大事にしようって話になってるのか?」というところを、ちゃんと押さえておくことが大事かなと思います。グローバルだけではなく、特に日本でいくと、結論「日本が人的資本に国としての活路を見出そうとしている」というトレンド、大きな方向性、潮流がありそうです。

日本は少子高齢化の、世界でも先を走ってるような国でございますので、労働人口もガンガン減少してます。そういう中で採用難易度がどんどん上がっていくと同時に、社員の交渉力も上がっていっています。

企業と社員で比べた時に、社員のほうが圧倒的に強い。社員が働く場所を選ぶ側であり、働き続けるかどうかの選択権を強く持っている状況になってますよね。さらに人材の流動性も上がっています。

こういったマクロ環境の状況を捉えた時に、今、上場企業も含めて、特に中小ベンチャー企業では明らかに「最強の採用力」「強烈な求心力」が歴史上もっとも重要な時代です。生き残りをかけて、ここにいくべきだという時代に差し掛かっていると認識すべきである。ここを今日、主張させていただきたいなと思ってます。

生き残りが厳しい企業が陥っている「人材」の問題

石川:戦略論、それこそ学者さんたちや世界中のコンサルティングファームが、どういった経営を推進してきたかという歴史で見ても、1970〜1980年は「戦略の時代」と呼べる時代でして。戦略的にすばらしいものを作った企業が大きく伸びる時代だった。だからこそ一番戦略論もいろんなものが出ましたし、その戦略論で世界を取った企業が増えてきたってことですよね。

そのあと1990年代は「組織の時代」と呼ばれてまして、組織の中でどれくらい実行できるかというケイパビリティ(実行力)。ここに注目、戦略の中心が移っていったような時代です。

そして2000年代からは「人材の時代」と言われていて、いかに良い人材を確保し育てられるかというところに、戦略の中心が移ってきています。だからこそ、人材の可能性を思いきり花開かせるような「モチベーション」に着目した戦略論だったり、あるいは「ティール組織」といったような人の可能性を最大限解放する組織論も、世の中を風靡していました。

最近で言うと「パーパス経営」ですね。このあたりも、あらためて「何のために会社ってあるんだっけ」というところに、人のエネルギーをしっかり共感させてやっていくべきですよねという、古くて新しい考え方ですよね。古くからずっとやっている企業さまが当然いらっしゃった。それがあらためて注目されて……という流れがあります。

なので今、私自身もいろんな中小ベンチャー企業さまを回らせていただいてますが、戦略で大負けしてる会社は実はほとんど見たことなくて。もちろん戦略がうまくて大きく伸びることはあるんですけれども、それよりも人材の確保、そしてその人材の育成・成長というところで、企業として生き残りをかけて厳しい状況に立たされてしまっているご企業さまが非常に多い印象です。

おそらくみなさんも「確かにな」と。「戦略よりも完全に人材のところで差がついてるな」って思われる方が多いと思うんです。それをまさに反映しているのが、人的資本経営を国として挙げてやっていこうという流れなんだ、というお話でございますね。以上がざっくり、5分でつかむ人的資本経営というお話でございました。

人的資本の4つの特性

石川:それを踏まえた上で、あらためて人的資本経営を、もう少し経営を俯瞰しながら一緒に見つめていきたいなと思います。

企業がその存在意義やビジョンを達成し、収益を上げていくために使うべき資本、持つべき資本、育てるべき資本って、実際いろいろありますよね。そういう中で「人的資本」の特性をちゃんと捉えた上で、本当に人的資本経営をやるかどうかを意思決定すべきだと思うんです。

大事なポイントだけ4つにまとめて、人的資本の特性をご紹介させていただきます。

1つ目、人的資本は「価値の変動幅が異常にでかい」というのが特徴だと思います。あえてわかりやすいように、人というのを資本として見た時に、その資本を仕入れる人が……「仕入れる」ってすごくドライな表現になりますが、仕入れた時の価値が10だったとして、それが1年後、2年後、3年後にプラス100と、すごい跳ね方をする。これが人的資本の1個の特徴だと思います。

ここで押さえていただきたいのが、人的資本はほかの資本と比べて、プラス100だけではなくてマイナス100や、1,000にも振れる可能性がある。プラス幅だけではなく、企業の価値を減退させる、マイナスにさせるような跳ね方もするのも人的資本の特徴です。

少し前に「EVILな人材」、企業を破滅に導くような悪魔的な人材は採っちゃいけませんということで、ちょっと話題になったと思うんですけれども、まさにそのお話です。

やばい人材をもし採用してしまったり、自社に合わない人材を採用してしまった時の、マイナスへの跳ね幅はすごく大きい。特に中小ベンチャー企業では1人の影響がでかいので、プラス100~1,000に振れるのか、マイナス100~1,000に振れるのか、すごく変動幅がでかいのが特徴かなと思います。

勝手に成長する資本もあれば、成長しない資本もある

石川:さらに2つ目。経営の視点で見た時に、人的資本ほど「いきなりなくなる」ものはないと思うんですよね。要は離職・転職です。プラス100で価値があって、会社にとって大切だっていう資本が、急になくなってしまうリスクがあります。

特にこの時代においては、人的資本に定着していただくのはものすごく難しい時代になってる。だからこそ開示項目でも「エンゲージメント」という項目は、非常に重要になってるのかなと思います。

さらに3つ目として、ほかの資本でも例えば財務的資本、お金もちゃんと投資してると増えていくという特性はあるんですが。人的資本も同じような特性として、「勝手に成長していく」。勝手に歩いていく、勝手に動いていくという特性があるかなと思います。

正確には勝手に成長する資本もあれば、ぜんぜん成長しない資本もあったりするので、すごくドライな表現ですが「勝手に成長することもある」。ぜんぜん伸びない資本なんかもあったりしますね。

あともう1個、「模倣が異常に難しい」というところです。人的資本ほど他社の真似をすることが難しい資本はないと思います。そういう意味でも、1回確立できると非常に強い競合優位性になります。

このあたり、価値の変動幅に関してはプラスにいくこともマイナスにいくこともあるので黄色。いきなりなくなるというリスクに関しては赤、良いところに関しては青というところで、赤・黄色・青の信号でまとめさせていただきました。

こんな人的資本の特徴を捉えた時に、自社内であらためて問うべきことは、「人的資本が超大事だよ」というところで、日本政府がそれこそ主導して人的資本のお話を「大事にしていきましょう」「開示していきましょう」としてます。

「人疲れ」してしまう、中小ベンチャー企業の経営者

石川:この特性を見た時、そしてこの市場環境を見た時に、「本当に会社として競合優位性を作るための中心を、人的資本に置きますか?」と。本当に採用するのも難しいですし、定着もすごく難しい。今ほど難しい時代はないと思うんです。そんな中で一生懸命採用した人がすぐにいなくなっちゃって「とほほ……」というところで、人的資本というところの「人」に関して「疲れちゃったよ」っていう経営者さんによく会います。

バイアウトしていくような中小ベンチャー企業の経営者さんと会っていく中で、けっこうな理由が裏側に「人疲れ」ってあるんですよね。

これをあらためて考えた時に、本当に人を中心に置いた経営を行いますか? これだけ重要って言われるくらいなので難しいですし、かつ徒労に終わる可能性も非常に高いです。経営の安定性を考えたら、人的資本の部分ではなくてほかの優位性、例えば仕組みだったりビジネスモデルだったりに競合優位性の資本の部分をしっかり作って投資すれば、価値を生む部分を作って、人は誰でも回っていくようなかたち(になります)。

あるいは今、私がお会いさせていただいている企業さまの中での1つの勝ち筋として、従業員数は実は3名から4名くらい。残り100名が複業・業務委託で経営を回してるという勝ち筋もあるんですよね。つまり正社員という資本に頼らないところで経営を回している。そういう経営の仕方もありますよね。

本当に(経営の中心を)人的資本に置くかどうかは、置かなきゃいけない、置いてほしいという国の方向性はもちろんありながらも……もちろん上場企業であればそっちの方向性に従うべきだと思います。

が、中小ベンチャー企業であれば、上場していくご企業さまの最低限の開示は行いながらも、本当に人的資本を中心に置くかどうかというのは、実は1つの選択肢としてニュートラルに見て判断した方がいいんじゃないかな、というのが前段のお話でございます。

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