2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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伊達洋駆氏(以下、伊達):では、いただいている質問に答えていきましょうか。まず基本的な用語についての質問をいくつかいただいているので……「コンテキストパフォーマンスはOCB、組織市民行動とイコールと考えていいんですか?」という質問です。これは黒住さんの内容に関わるので、お答えをお願いします。
黒住嶺氏(以下、黒住):はい、ありがとうございます。そうですね、(コンテキストパフォーマンスは)組織市民行動という和訳も当てられたりするかなと思います。組織市民行動としての研究も発展しているんですが、パフォーマンスの区分から見た時にかなり質的に似たものなので、今回はコンテキストパフォーマンスという名前で紹介しました。組織市民行動の内容をご存知であれば、定義的な部分ではかなり近いのかなと思います。
伊達:もう1つ質問をいただいていて、これは「なるほどな」と思ったんですが。コンテキストパフォーマンスの構成要素は何個でしたっけ?
黒住:5個示しました。
伊達:5個示してもらったかと思うんですが、その中の1つに「誠実さ」があったと思うんですね。その「誠実さ」は「一般的な『誠実さ』の定義と少し異なるような気がしました」と。この点について少し補足をお願いします。
黒住:ありがとうございます。いわゆる「誠実さ」という言葉を見た時に、「嘘をつかない」「熱心に人に貢献する」、そういった意味合いで使うこともあるかなと思います。やはりここは学術的な定義で……ある意味ご了承いただきたいと思うんですが(笑)。研究としてコンテキストパフォーマンスの軸として見る時には、「誠実さ」は「苦言とか泣き言を言わずに真面目に仕事をする」ととらえています。
伊達:性格特性の「誠実さ」との大きな違いは、コンテキストパフォーマンスの場合は「個人と組織の関係性」の話である点です。「組織に対して誠実である」という点が含まれます。
伊達:ほかにいただいている質問の中で、黒住さんが答えておきたい質問はありますか?
黒住:そうですね……じゃあ、まず先に1つ、職務範囲の認識に関して「心理的契約研究の最新動向について教えてください」という質問をいただいておりまして、ご質問ありがとうございます。
私の発表で「職務範囲の~」という紹介をしました。まずご質問の意図として「心理的契約の研究は、こういう研究なんですか」と汲み取ったんですが。今回発表したものは、心理的契約の直接の中身とはちょっと違うかなと思います。
確かに「従業員の方がどういったものを仕事ととらえているか」の中身で、とらえようとしているものは(心理的契約の研究と)似ているかなとは思います。ただ今回はコンテキストパフォーマンスの流れから研究して整理すると、「任意にやる」という行動として見えても、もしかしたら本人は「仕事」ととらえているかもしれないという。この認識の部分で「どこまでを職務の範囲ととらえているか」を紹介しています。
本人同士でお互いに「どこまで仕事か」をすり合わせるという心理的契約の研究とは、若干実証の中身が違っています。今回、心理的契約の研究はちょっと紹介できないんですけれども、私から発表したものは、「自主的な行動でとらえるコンテキストパフォーマンスを、もしかしたら本人は仕事ととらえているかもしれないよ」という実証研究でした。
伊達:おそらく似たような問題関心を持っている領域としては、「役割」の研究があります。参考になるかもしれません。
これはご感想に近いかもしれないんですが。「評価は評価者から与えられるだけ。1つの課にAは〇個、Bは△個、Cをもらったら継続雇用の危機というと、与えられる数まで決まっている現実に疑問を感じています。
そもそも評価法を変えるのは、誰がどのように始めるのでしょうか。ボトムアップで変革を求めることや、方法について提案ができるものなのでしょうか。初歩的な質問で申し訳ありません」ということですね。
評価には非常に広い意味合いがありますよね。例えば先ほど私が出したような「この人はすごく高い能力を発揮してるから、難しい仕事を提供しよう」という意味での評価もあるわけです。
いろいろな幅広い意味での評価を考慮すると、ボトムアップで始めていくことは可能だと思います。ただし、それを賃金に関連づけようとすると、慎重に進めるべきですし、トップダウンで進めなければならない場合も少なくないと思います。
現場で評価者と被評価者が「自分たちにとって優れた実践は何だろうか」「良い状態は何だろうか」をすり合わせながら考えていくことは十分に可能だと思いますし、重要ではないかと思います。
伊達:今気づきましたが、時間になっていますね(笑)。すみません、あっという間に時間がきてしまったんですが。まだいくつかの質問をいただいているので、いったんここであいさつだけして締めて、延長戦にしたいと思います。では、黒住さんから一言お願いします。
黒住:はい、ありがとうございます。冒頭で伊達さんからもあったんですが、成果主義に関わる、成果をどうとらえるか。こういった会を開いたわけですが、やはりかなり難しい論点ではあったなと(笑)。
実際にかなりご質問をいただいているように、考え続けるべきポイントなのかなと思います。実践的に難しさを感じるテーマだからこそ、こうして学術研究を紹介したり、参加していただいた中からなにかヒントを得たりする活動が非常に大事なのかなと、まずは感想としてもちました。
早急に答えを出してしまうのではなくて、じっくりと時間の許す限り考え続けることができればいいのかなと思いました。これがなにかのヒントになればうれしいなと思います。ご参加ありがとうございました。
伊達:成果の評価というと、客観的でドライなものと認識される方もいるかと思います。いろいろ調べて考えていると、対話やすり合わせ、調整、共同的な取り組みなどが大事になってくるんだなとあらためて感じました。また、このテーマを掘り下げていきたいなと考えていますので、引き続きよろしくお願いします。ではいったんここで締めたいと思います、ありがとうございました。
黒住:ありがとうございました。
伊達:では残っている質問のうち、全部はちょっと答えるのが難しいと思うので(笑)。いくつかピックアップしながらお答えしていきたいと思います。まず重要な観点かなと思ったので、こちらにお答えできればと思うんですが。
「評価する上でパフォーマンスを数値化することが欠かせないと思いますが、その点で考慮すべきことがあればご教示願います」ということですね。そのとおりだと思いますね。評価をしていく時にはなにかしらのかたちで、どこかのプロセスで、定量化が必要になってくるかと思います。
ただポイントなのは「どこかのプロセスで」というところです。つまり最初から定量化されている指標を使わなければならないというわけではない。
例えば先ほど私がご紹介したルーブリック、あれはセルの内容としては定性的な記述があるだけです。ただし、レベルを数値で変換することはできますよね。このように評価のプロセスのどこかで、数値化できのであればいいんじゃないのかなと思います。
ほかに黒住さん、なにか答えておきたいものはありますか?
黒住:じゃあ1つ。「タスクではなくて、コンテキストパフォーマンスにおいて高評価を得やすい人物(属性)と行動特性の傾向がありますか」というご質問をいただいております。ありがとうございます。
直接の情報提供にはならないかもしれないんですが。コンテキストパフォーマンスとは、職務ではない行動として会社に貢献すること。確かにこれを「評価を得たいがためにする」という実態が報告されています。
それがどういう行動傾向によるのかは、研究ごとにまたいろいろな報告があるんです。実はコンテキストパフォーマンスを「評価しすぎることの弊害」としても報告されているので、かなり重要な指摘だったかなと思います。
伊達:コンテキストパフォーマンスは、利己的な動機でなされているという研究もあります。「みんなを助けることが自分にも返ってくるだろう」という気持ちでやっているケースもあるんですね。
それから「成果とその評価が企業に閉じている問題、とても重要だと思います。せめて業界や職種横断的な議論ができればと思います。なにか具体的な動きはありますか?」ということですね。
岸田内閣の「新しい資本主義」の文脈で「三位一体の労働市場改革の指針」が出されましたが、その中で基準やその標準化に関わる論点が含まれています。ただし「企業の中での基準を考えていきましょう」という方向性にも読め、企業を越えたすり合わせは、今後の課題ですね。
黒住:その点、確かアメリカの「O*NET(職業情報ネットワーク)」もそういった文脈という話がありましたよね。
伊達:そうですね。長い年月をかけてO*NETも作られてきているので、私が申し上げた標準化も、1年や2年すり合わせれば完成するわけではないです。標準化は非常に時間がかかります。粘り強くやっていく必要があるのかなと思いました。
伊達:では最後にしましょうか。少し長めの感想をいただきました。せっかくなので読み上げて、簡単にそこに一言二言添えて終了したいと思います。
「感想です。職務範囲について、上司と部下間での認識にずれがあるのはよく感じます。『これはさすがに公私混同ではないか』『他部署の案件ではないか』と思われる際は、上司や周囲とすり合わせを行うことがあります。
成果についても上司や周囲、社会との認識にずれがあるというのは、なるほどと思いました。成果についてもすり合わせを行い一般化・ルール化することは、難しいけれども理想的だと理解できました。まずはじめの一歩として上司も部下もこうした認識を持つことから始めたいと思いました」。
私たちの発表内容プラス、ディスカッションの内容をまとめていただいている感想かなと思ったので(笑)、最後に取り上げさせていただきました。すばらしいご感想をいただいてありがとうございます。
最後に一言ずつ述べて終わりたいと思います。この「すり合わせする」と「標準化」、つまり「ローカルにすり合わせする」ことと「一般的な標準を作る」ことを、両方とも想定しながら成果の評価を進める必要があるんだろうなと。どっちかにあまりに行き過ぎると、うまくいかないんだろうなと感じています。
そのバランスをいかにとりながらやっていくのかが重要なんだなと感じました。黒住さんはどうでしょうか。
黒住:確かに非常によくまとめていただいて(笑)、ありがたいなと思いました。言っていただいているポイントがまさにそうだと思うのが、「上司も部下もお互い仕事の認識がずれてしまうということを認識する」。ここがまず大事だよね。まさにおっしゃるとおりだなと思います。
日常的に業務をこなしていく中で……「こなす」という言葉は少し良くないかもしれないですが。日々仕事をしていく中で、やはりどうしてもどこかでお互いのずれは生じ得る。ある意味研究で見せられると、非常にずれていることがわかる。
どこかで顕在化する(ずれ)、そういったことが起き得るんだという認識を持っていただくことは、その先のより健全で建設的な評価と、成果主義とその運用につながっていくんだろうなと思います。
まさに生々しくリアルだけれども、いざ注意深く見ていこうという視点は、議論の中でも大事なポイントなのかなと思います。非常に良い気づきをいただきました。
伊達:今回のセミナーではご感想やご意見をたくさんいただけました。では以上で延長戦も終了します。最後まで多くの方に残っていただき、あらためましてありがとうございました。
黒住:ありがとうございました。
伊達:では、失礼いたします。
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