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「成果」で人を評価する:パフォーマンス研究で再訪する成果主義(全4記事)

上司と部下の「仕事の範囲」の認識のズレは、日本人が一番大きい 「成果主義」の人事評価が難しい学術的理由

ビジネスリサーチラボ主催のセミナーより、職場での「成果主義」をテーマに、ビジネスリサーチラボ 代表取締役の伊達洋駆氏、フェローの黒住嶺氏が登壇した回の模様をお届けします。「成果」とは何を指すのか、「成果」で人を評価することは可能なのか、学術的研究の視点を踏まえながら解説されました。本記事では、パフォーマンス研究から見る「成果主義」の難しさについて語られました。

「パフォーマンス」の8つの属性

黒住嶺氏(以下、黒住):具体的に「パフォーマンス」は、従来の研究では8つの属性が提案されていました。すべて細かく説明はしないですけれども、少しだけ見ていこうと思います。

1つ目が「職務としてタスクの習熟度」ですね。まさに仕事として行うタスクです。2つ目が「職務に関連する周辺的な作業」ということで、例えばパソコンを使って行う作業であれば、Excelの作業というところは入ってくるかなと思います。

3つ目が「筆記/口頭のコミュニケーション」、4つ目は「一貫して努力すること」このへんは確かに従業員の方で行っていると、確かに良さそうだなと思える部分かなと思ったりもします。5番が「会社の規律の遵守」、6番が「同僚やチームの援助」、7番が「監督と指導」、8番が「マネジメント」、このあたりはどちらかというと上司の方が、部下の方に対してやるものかなというところです。5番はちょっと違うかなと思うんですけれども。

このへんをパッと見た時に、なるほど、これは確かにパフォーマンスとして見て良さそうだね、成果として見ても良さそうだねというところがあるかなと思いますが、こうしたかたちで「8つの属性」というのが、主な「パフォーマンス」であろうということが指摘されていました。

「タスクパフォーマンス」と「コンテキストパフォーマンス」

黒住:続いて「パフォーマンスの分類」というパートに移ります。先ほど8つの基準があるとお示ししました。最初に研究されていたのが、先ほどの8種類だったんですけれども、近年ではもう少し、大きく2つに分けることができるだろうということで、次のような2つの「パフォーマンス」が指摘されています。

1つ目が「タスクパフォーマンス」というところで、与えられた業務とか、期待された役割に関する行動を取っているか。2つ目が「コンテキストパフォーマンス」ですね。こちらは、正式な業務ではないけれども、会社の機能向上を意図して、従業員の方が示す行動です。こうした2つの種類に分けられるというのが、近年のパフォーマンスの研究の動向になっています。

それぞれの「パフォーマンス」の詳細を簡単に見ていこうと思うんですけれども、研究の内容ですね。どのようなかたちで、従業員の方がそれぞれのパフォーマンスを示しているのか。これを測定するということが研究では必ず起きますので、その測定内容を少し対比してみようと思います。

まず「タスクパフォーマンス」。こちらは日常的な勤務態度の測定というところで、多くの研究では、上司の方が部下の方を見てどうだったかということを評価する、みたいなかたちで研究でも測定が行われます。一方で「コンテキストパフォーマンス」は、主に5つの次元で語られることが多いです。こちらはあとで見ていこうと思います。

まず「タスクパフォーマンスの測定例」としては、こんなものがあります。直接的な測定とは、「与えられた職務を適切に遂行しているか」とか、「職務内容で定められた責任を果たしているか」とか、こうしたかたちで直接的に取る場合です。

あるいは「逆転項目」というものがあります。ある行動傾向を測定するにあたって、「そうじゃない行動」を取っていないかを評価するということなんですが、例えば「この従業員は、時々職務上の重要な任務を遂行できないことがある」とか、「時々、遂行義務のある職務を怠っている」こうしたことを取っていないということができれば、タスクパフォーマンスは高いということですね。こうしたかたちで「タスクパフォーマンスの測定例」が見えていったりします。

「コンテキストパフォーマンス」の5つの評価軸

黒住:逆に、「コンテキストパフォーマンスの測定例」というのが、次の5つの点になります。いくつか研究ごとに違う部分もあるんですけれども、少なくとも日本の場合では、こうした5つの観点で見ることができるのではないかと提案されています。

1つ目が「対人的援助」ということで、仕事や組織内での問題を抱える同僚など、他者を援助することです。2つ目が「誠実さ」ですね。苦言や泣き言を示さずに、まじめな仕事ぶりを示すということになります。

3つ目が「職務上の配慮」ということで、ミスの予防や解消を自分でも実践するし、そのことに関して周囲にも注意喚起をするということです。4つ目が「組織支援行動」で、会社以外の場で、自社の利益になる行動をする。業務時間の中で自分の仕事をこなすだけではなくて、例えばお休みの時に自分の会社や、イベントを告知したりすることが「組織支援行動」になります。

最後「清潔さ」というところで、職場の衛生環境を清潔に保つように行動するということですね。ゴミが落ちていたら拾ってあげようとか、お手洗いが汚れていたらその周りを拭いてあげようとか、そういったことが「清潔さ」になります。このように「コンテキストパフォーマンス」には5つの評価軸があるということが、研究としては言われています。

パフォーマンスを左右する要因

黒住:次に、「パフォーマンスを左右する要因」というところを、まとめていこうと思うんですが、主に影響する要因が異なると言われています。「タスクパフォーマンス」のほうですが、例えばこれは3つの主要な影響があると言われています。

業務そのものに関する知識と、あるいは過去にやった経験、そういったことが影響します。あるいはタスク管理をするために求められる能力・スキル、そして、そのタスクに対して努力を投入する量・動機づけというかたちで、まさに仕事をこなすために必要な要素が、「タスクパフォーマンス」に影響すると言われています。

対して「コンテキストパフォーマンス」、こちらは大きく分けて2つなんですけれども、1つ目が企業と個人の「適合」と言われています。これは少し補足しようと思うんですが、その会社・企業側と、本人・従業員側の間で、例えば働く場の提供と、賃金の提供とか、働き方の提供というのが、従業員にとって合っているということが、適合の1つの例になります。

こうしたかたちで双方のニーズと提供することが合っている、合致しているというのが「適合」なんですけれども、こうした適合が起きているほど、コンテキストパフォーマンスが発揮されやすいということが言われています。

あるいは、もう1つも従業員個人の特徴に依存する部分が大きいというところで、やはり自発性が高い方は、よりコンテキストパフォーマンスを発揮しやすいということが言われたりします。こうしたかたちでタスクパフォーマンス、あるいはコンテキストパフォーマンス、それぞれの発揮される、影響する要因でも違うと言われていたりします。

職務範囲の「主観」と「客観」のズレ

黒住:ここまで2つのコンテキストパフォーマンス、あるいはタスクパフォーマンス、ないしパフォーマンスと研究、大きな枠組みを見てきたんですけれども、最後に、もう少し具体的を実証研究を、少しだけ紹介していこうかなと思います。

実践的な示唆を含む研究テーマとして、1つ目に紹介しようと思うのが、「『職務範囲』の認識に関する研究」です。こちらはパフォーマンスを測定する指標というか、前提として発展したということがございます。研究で「パフォーマンスをどうやって測定しようかな」ということを考える前に、そもそも考えなくちゃいけないポイントだよねということで、研究が発展したという経緯ですね。

特にコンテキストパフォーマンスの研究から含意がございます。まず、タスクパフォーマンスは、先ほど見ていただいたように「義務」として達成が求められる行動ですね。その会社に雇われていて、職務として行うべきパフォーマンスですので、ある意味義務的に捉えるわけです。

一方でコンテキストパフォーマンスは、かなり従業員の「裁量」に任されている。もちろん義務ではないので、やらなくても正直評価として悪くなることはないはずなんですが、一定の従業員は実施するというところなので、やはり「裁量」に任されているところがございます。

こうしたコンテキストパフォーマンスという研究の中から見えてきた部分として、1つ職務範囲ということになるんですが、もう少し細かく見ていくと、「主観」と「客観」の間にズレがあるということが言えます。

どういうことかと言いますと、「どこまでが自分の仕事なのか」という、従業員の主観的な職務範囲ですね。この認識というのは、いわゆる客観的な部分である雇用契約とは、違う可能性というのが指摘されています。言ってみれば、紙1枚にきれいに書かれた条件、あるいは義務と、本人がどのように捉えているのかというのは、必ずしも一致しないということですね。

上司の方が役割定義を広く捉える傾向にある

黒住:こうした2点から踏まえて、パフォーマンスとしての職務範囲を、本人・従業員がどのように捉えているのかということを、研究として確認するアプローチがございます。具体的にこちらの研究を紹介していこうと思います。日本人の職務範囲の特徴を表した研究ですね。

知見1つ目が、上司と部下の間で認識のズレがあるということです。なかなかドキッとする一言かなと思うんですけれども、上司の方が役割定義を広く捉えているという傾向が確認されました。職務として達成してほしい内容、あるいは職務としての期待ですね。役職としてこのぐらいは達成してほしいなと思う期待が、上司ほうが部下よりも広く、いろいろなことを仕事と捉えているということが確認されています。

さらには国際研究で、日本と他の国との比較を行っていたんですけれども、その中で上司と部下の得点の差の開き方が、一番大きかったのが日本だった。他の国と比べて日本が一番この差が大きかったというところも指摘されています。

日本人は他の国に比べて職務範囲の認識が「広い」

黒住:知見2つ目ですね。職務範囲の認識の「中身」についてです。これも海外との比較研究ですが、報告の内容が混在しています。ちょっと丁寧に解説したいと思います。

まず尺度研究において、質的な差異が確認・報告されたというところがございます。コンテキストパフォーマンスで先ほど5つ見ていただいた思うんですが、その尺度の構造が、日本と海外とでは微妙に中身が違うことがわかってきました。

2つ目がグローバル企業での比較という研究ですね。いろいろな国に支社があって、それぞれの従業員がそれぞれの土地で働いているというグローバル企業の中で、国際比較を行ったという研究がございました。

この研究では、職務範囲の認識が日本人は「広い」と、確認されたということになります。例えば欧米、アメリカ、オーストラリアに比べて、アジア圏の従業員、この場合は日本と香港の方々が対象ですけれども、こうした比較を行ったところ、日本の方のどれくらいが仕事なのかと捉えている範囲が、他の国に比べて広かったということが言えました。

新しい基準となりうる、組織の「革新・発展」につながる行動

黒住:3つ目ですね。こちらが逆の結果だったということなんですが、国際的なアンケートですね。これは1つの国籍ではなくて、いろいろな国の方々に、所属を問わず聞いてみたという国際的なアンケート調査です。

こちらの研究では、職務範囲の認識の中身について、海外、日本との違いはあまり確認されなかったというところですね。1点、対人的な行動、例えば従業員同士をお互い助け合う。こうした面においては、日本の従業員の方の認識が広いということが言われたんですけれども、他の部分、先ほどであれば清潔さだったり、文句を言わずに働くみたいな誠実さといった点に関しては、他の国の方と差が見られなかったと言われています。

「職務範囲」の研究からの含意をまとめようと思うんですが、一言で言うと、従業員の認識は職務記述書とズレているということですね。こうしたことを考えると、「職務記述書に準拠して成果主義を進めていこう」「こうしたことがみなさんに求められているので、これをきちんと達成してください」と、客観的なものだけで進めるということは、やはり難しいのではないかということが、研究から言えるかなと思います。

実践的な示唆を含む研究テーマとして、もう1つ挙げるのが、パフォーマンスの中にも「新しい基準」がまたあるだろうと提案するものです。具体的には組織の「革新・発展」につながる行動を取るかどうか。こうしたことも新しいパフォーマンスとなりうるだろうということが、比較的新しい研究として行われています。

こちらは、「経営組織革新行動」と名前がついておりまして、もう少し見ていくと、コンテキストパフォーマンスを分離したということになります。先ほど申しあげたように、タスクパフォーマンスが業務として求められていることなので、それ以外の部分ですね。

企業の発展につながるんだけれども必ずしも義務ではない。こうしたコンテキストパフォーマンスがありましたけれども、この中でも特に周りを助けるという「援助に関わる行動」と、それとは別に「経営組織革新行動」ということで、組織を発展させるためにどういう行動を取るのか。これが分離して考えるといいんじゃないのかということで、研究として起こってきたということになります。

4つの「経営組織革新行動」

黒住:研究では、こうした組織の革新発展に関わる行動について、具体的にこのようなものがあるんじゃないかとまとめたということになります。少し見ていこうかなと思うんですが、1つ目が「問題の発見と解決行動」ですね。成員の現状や職務や職場に関する問題意識をもって、実際に改善や改革へつなげる行動をとるということです。

2つ目が「重要情報収集行動」というところで、経営革新へのきっかけや推進に重要な情報を、社内外で収集する行動です。今、自分たちの会社の中で必要な情報、新しいプロジェクトに対して必要な個々の従業員の経験だったり、市場調査だったり、こうしたかたちで新しい情報をきちんと集めていこうというのが重要情報収集行動です。

3つ目が「顧客優先行動」。顧客への満足を最優先する行動ですね。「なかなか納期が厳しいんだけれども、顧客へ提供するためには、もう少しがんばっていかないとね」ということで、顧客を優先する。そうした行動が3つ目になります。

最後が「発案と提案行動」ということで、業務改善のみではなくて組織のオペレーション、規則、方針を革新するべく、周囲に対して発言・提言する行動です。先ほどの「問題の発見・解決」というのが自らが見つけて解決するということでしたが、プラスアルファ、新しくこうするほうがいいんじゃないかと提案するということです。

こうした4つがですね、コンテキストパフォーマンスの中でも、周囲を助けてあげる行動とは違う特徴を示すものとして、経営組織革新行動という、1つ新しいパフォーマンスの軸として考えられるべきなんじゃないかと、研究が起きています。

新しい基準があることを示す研究からの含意は、性質は異なるけれども「いずれも会社への貢献にあたるだろう」という点が挙げられるかと思います。

成果の評価にも「多様性」が重要に

黒住:先ほど見ていただいたように、義務としてのタスクパフォーマンス、周囲に働きかけることの援助に関する行動、そして組織の革新に関わる行動。この3つのパフォーマンスは、いずれも会社に貢献していることが言えるかなと思います。

言い換えると、成果の評価にも多様性が重要かなと。いずれも会社への貢献なので、どれも評価することが大事だということが1つ言えるかなと思います。

では私からの発表のまとめで、パフォーマンス研究からの含意を一覧していこうかなと思います。まず1つ目は「パフォーマンスをとらえる」べきだろうという点です。旧来評価されていたアウトプットや成績は従業員に制御不可能な要因が含まれていましたので、不公平になりかねない点がございました。

2つ目は「業務外の貢献にも注目する」べきだろうというところです。従業員が自発的に行うコンテキストパフォーマンスも、組織の発展に寄与することが示されています。必ずしもタスクパフォーマンスだけではなくて、コンテキストパフォーマンスにも注目することが2つ目の示唆かなと思います。

最後が「多面的な基準を想定する」べきであろうという点です。職務記述書だけでは認識を統一することが難しいなどと指摘されていました。さまざまな形式で会社への貢献があり得ることを踏まえて、多面的な基準を設けるべきではないかということが、最後のまとめになります。

少し駆け足になりましたが、成果を考える上でいくつかの基準があり、そうした研究を紹介いたしました。では続いて、伊達さんにまたバトンをお返ししようかなと思います。よろしくお願いします。

伊達洋駆氏(以下、伊達):ありがとうございました。

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