CLOSE

社員の自律を促す「新・マネジメント術」とは?(全4記事)

イヤイヤ仕事をしながら、会社に留まるキャリアになる要因 「やらなきゃ」の焦燥感に駆られて働くことの弊害

東京・乃木坂から、「真面目に楽しく」をキーワードにした教育でビジネスパーソンを支援する株式会社ヒップスターゲートの主催イベントに、組織マネジメントの専門家で『遊ばせる技術 チームの成果をワンランク上げる仕組み』 の著者である神谷俊氏が登壇。「社員の自律を促す『新・マネジメント術』とは?」をテーマに、高いレベルと低いレベルの2種類の自律の違いや、高いレベルの自律を身につけることの効果などを語りました。

人によって解釈が異なる「自律」

神谷俊氏(以下、神谷):みなさん、こんにちは。よろしくお願いします。神谷です。お忙しい中、セミナーにご参加いただきうれしく思います。今日はみなさんと一緒に「自律」というテーマで、考えを深めていきたいと思います。

私のレクチャーの持ち時間は30分を想定しています。限られた時間ではありますが、実際に反映できるような内容を、わかりやすくお伝えしていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

簡単に自己紹介をさせてください。エスノグラファーという会社をやっています。組織調査や採用系の調査をやっているビジネスリサーチの会社です。最近ですと、エンゲージメントや心理的安全性、あるいはオンボーディングの調査、商品開発やマーケティング関連の調査、地域開発の調査などをやっています。

もともとアカデミックな領域でキャリアを進めた人間でして、経営学を学んできました。経営学でよりインパクトを起こすためには、ずっと研究だけをやっているよりも、いかにビジネスに反映できるかを考えたほうが、研究的な知見をスピード感を持って世に広めることができるだろうと考えて、2016年に起業しました。

それ以降は、大手やメガベンチャー企業さんと関わりながら、リサーチとコンサルティングを進めてきました。半分はアカデミック、半分はビジネスというキャリアを歩んでいます。

今日お話する内容は、『遊ばせる技術』という書籍の内容をまとめたかたちになります。より詳細を知りたい方は、ぜひご購入いただけたらうれしく思います。

あとは毎週配信する無料のメルマガもやっていて、人事的な知見を定期的に発信しているので、興味のある方はご登録いただけたらうれしいです。自己紹介はこれぐらいにして、さっそく内容に入っていきたいと思います。

今日扱う内容は「自律」というテーマです。「自律」は、けっこう人によって解釈が異なるんですよね。経営者の方に話を聞くと「自分を律することだ」と。「嫌なことでも積極的にやることだ」なんておっしゃる方もいます。

Z世代と言われる若手社員の方に聞くと、「好きなことをやればいいじゃん」と。「自分のやりたいことをやるのが自律ってことでしょ?」という解釈をしていたりする。なので、「自律」とは何かという概念からスタートしたいと思います。

高いレベルと低いレベルの2種類の自律

「自律が大事だ」「キャリア自律が大事だ」と、いろいろ言われますが、自律を高めていく、強化していくためには何を刺激したらいいのか。さらにその実践的なアプローチとしてのジョブ・マネジメント。ここでは仕事をどのようにハンドリングすると、自律レベルが高まるかについてお伝えしたいと思います。

また質問があればQ&A機能が画面の下にございますので、こちらに記入いただければ、のちほど質疑応答の時間で解説をしたいと思います。それでは、さっそくチャプター1から始めます。

「自律という概念を理解する」というタイトルです。自律に関しては、さまざまな解釈があるんですね。解釈の幅を縮小していきたいと思います。学術的に「自律」とはどのように語られているのかを整理します。

アカデミックの領域での「自律」の概念は、「レベルがある」と言われています。自律レベルが存在するということです。大きく分けて低いレベルの自律と、高いレベルの自律に分けられます。

まず低いレベルの自律とは、どういう状態なのか。先ほど経営者の方が「自分を律する」とおっしゃった話をしたんですが、要するに自分自身の気持ちを抑えて、真面目に振る舞うことですよね。義務感や責任感、「ルールだから」など、そういう自分の外にある影響要因に突き動かされながら、自分をコントロールする状態です。

就業規則に従って働くこともそうですし、「社会人なので仕事をするのは当然だろう」という常識に適用することもそうです。仕事を任せられ、「恥をかきたくないからやる」というのもそうですよね。タスクとして定まっているので「やらざるを得ないです」というのも、これにあたります。

あとは、大事だからやる。「仕事をしなきゃ給料がもらえないし、生活できないから大事」だと思っている。「本当はやりたくないんだけど、大事だと思っているからやるよ」という感じ。ちょっと受験勉強に似たモードで仕事をする。こういう状態は低いレベルの自律です。

このような状態は、セルフマネジメントと言われます。本当はやりたくない。気持ちがぜんぜん乗っかっていないし、欲求も乗っかっていないんだけれども、なんとかそれを抑え込んでコントロールしている状態です。

セルフマネジメントとは、もともとは医療で用いられる概念です。例えば、何らかの疾患を持っている方が、回復のために食事療法や運動療法をする。本当はやりたくないんだけど、健康のために自分の気持ちに鞭打って行動を管理する状態。これがセルフマネジメントの基本です。

イヤイヤやる。世の中に適用するために真面目にがんばる。これが低いレベルの自律です。

子どもが遊びに夢中になるように仕事を楽しむ状態

じゃあ高いレベルの自律とはどういう状態なのか。これはセルフリーダーシップと言われる状態です。セルフリードなわけですよ。どんどん気持ちに駆られて、やりたくてしょうがない。おもしろくてしょうがない。のめり込んじゃう感じですね。

イノベーションを起こす人や経営リーダーの方は、こういった自律レベルの高さを発揮していると言われています。モチベーションがすごく高い状態です。子どもたちが遊びに夢中になる感じで、シリアスプレイ(真剣勝負)の中にどんどん入り込んでいく。自分ごと化して仕事を楽しんでいる状態だと言われています。

もちろん、全員が自律レベルの高い状態を100パーセント維持できるなんてないんですよ。私も自律の研究をずっとやってきましたが、1日の中で高い(自律)レベルで仕事ができているのは、高くても4割~5割ぐらいじゃないですかね。

それ以外は「メールを返信しなきゃ」「事務処理をやらなきゃな」など、やらなきゃいけないという気持ちでやる仕事もあります。でも大切なのは、このセルフリーダーシップの状態で仕事ができている時間の割合を、増やしていくことなんですよね。総量を増やしていく。1週間、1年、その中でこの高いレベルの状態で、どれだけの仕事に従事できたのか。

セルフリーダーシップの状態、高い自律レベルの状態を多く増やすことができればできるほど、「こんないいことがあるよ」というエビデンスが報告されています。

まずクリエイティビティ(創造性)が高まります。いわゆる仕事が面白くて仕方ないという状態ですから、パフォーマンスを高めようとして、あの手この手を考えつく。試行錯誤してアイデアを出すわけです。

さらに学習意欲も高まります。パフォーマンスを出すために自分が知らないことに対して、貪欲にインプットしていく。どうしたらうまくいくだろうかと、いろいろな専門家に教えを乞いに行く。さらに夢中になっているので、満足度や幸福感も高い状態である。当然、会社を辞めるなんて選択肢は頭にない。離職意識も低下します。

セルフリードが次第に組織リードへ

このような状態で仕事をしているとどうなるか。パフォーマンスが上がるわけです。パフォーマンスを高めたいがために、自分のポテンシャルの全部を投げうって、自分のリソースを全部投資して、あの手この手を尽くして学びながら進んでいくわけですから、「それはパフォーマンスが上がるよ」という話です。

イノベーティブ(革新的)なことを手がける人は、自律レベルが高い人だったりします。大きな成果を生み出していくだけではなく、コンテクスト・パフォーマンスも高まる。コンテクスト・パフォーマンスとは、自分の仕事じゃないのに、チームや部署のメンバーに対して働きかけたり、他の人の仕事のサポートをしたりすることです。

組織のために、チームのためにがんばるわけです。当然自分の仕事をうまく進めたい、このプロジェクトを成功させたいと思えば、みんなで協力してより良い状態を作っていくことに、関心を持つようになるんですね。

そうすると、リーダーシップをどんどん発揮するようになります。セルフリードしていたものが、いつの間にかチームリードになり、組織リードになっていく。リーダーシップの影響力も高まっていきます。リーダーシップ開発の原点は、実は自律レベルを高めることだったりするわけです。

「やらなきゃ」の焦燥感に駆られてあくせく働くことの弊害

一方で、低いレベルの自律。ずっと「やらなきゃ」という義務感、責任感に追われて仕事をしている状態が続くと、どうなってしまうのか。これはDriven to Work(駆り立てられる仕事)と言われています。常に仕事に追いかけられて、駆り立てられる状態です。

やりたくないのに「やらなきゃやらなきゃ」で常に焦燥感に駆られて、ToDoリストをチェックしたり、リマインドやアラートにあくせくしながら働いている。そうすると、まず健康状態が悪化しますね。肩こりや腰痛を患ったり、風邪をひきやすくなったり。週末になると熱が出るなど、健康状態の悪化が見られるようになります。

さらに学習レベルと創造性が低下すると言われています。当然の話でしょう。1日の間にやらなきゃいけないことをやることで精一杯ですから、新しいことを学んだり試したりなんて、想定しないわけですよね。

とりあえず仕事を満たすことで精一杯になってしまう。結果的にパフォーマンスが下がりやすい。短期で見ればパフォーマンスは維持できるんですが、長期で年単位に見た時にはパフォーマンスは低減すると言われています。

個人のキャリアも当然停滞します。新しいことにチャレンジしないし、経験の幅が広がらないので、プラトー化しやすいと言われています。プラトーとは、平原を意味するキーワードです。キャリアプラトー(停滞状態)やプロフェッショナルプラトーと言われたりするんですが、いわゆるキャリアに変化がなくて、新しい価値が生まれない状態です。

だから当然やりがいも感じられないし、「この仕事もやりたくないなあ」「この会社、嫌だな」と辞めたい気持ちも強まる。でもキャリアがアップしていないので、労働市場で高い評価を受けることはできずに、転職先が見つからないということです。

結果として現状維持をするしかない。「嫌だ嫌だ」と思いながら会社に行って、ストレスを抱えながら仕方なく仕事をし、その会社に居続ける。そんなキャリアを歩んでしまうと言われています。

だから「キャリア自律が大事だ」と言われる背景は、やはり自律レベルも関係してるんですよね。セルフマネジメント型の仕事の働き方を変革していくことが求められてきます。

続きを読むには会員登録
(無料)が必要です。

会員登録していただくと、すべての記事が制限なく閲覧でき、
著者フォローや記事の保存機能など、便利な機能がご利用いただけます。

無料会員登録

会員の方はこちら

関連タグ:

この記事のスピーカー

同じログの記事

コミュニティ情報

Brand Topics

Brand Topics

  • “退職者が出た時の会社の対応”を従業員は見ている 離職防止策の前に見つめ直したい、部下との向き合い方

人気の記事

人気の記事

新着イベント

ログミーBusinessに
記事掲載しませんか?

イベント・インタビュー・対談 etc.

“編集しない編集”で、
スピーカーの「意図をそのまま」お届け!