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組織と個人の能力を最大化する「目標管理」の失敗と成功(全4記事)

「目標を必ず数字にする」というのは、そもそも間違っている 日本企業でよくある「誤解」と、MBOの本来の目的

スタートアップエコシステム協会が運営する、スタートアップの成長に必要なイノベーションを推進する人材・組織開発にフォーカスした研究プロジェクト「Startup Culture Lab.」。今回は「組織と個人の能力を最大化する『目標管理』の失敗と成功」と題し、組織開発に係る有識者をゲストに迎えたトークセッションを開催しました。本記事では、『図解 目標管理入門』の著者である坪谷邦生氏が、MBOの「よくある誤解」について解説します。

「目標管理」が失敗する理由・成功の秘訣

司会者1:「組織と個人の能力を最大化する『目標管理』の失敗と成功」というテーマで、パネルディスカッションをさせていただければと思います。本日ご登壇の4名さまをご紹介させていただきます。

『図解 目標管理入門』の著者でもあります、坪谷さんです。お二人目が、Scale Cloud代表取締役の広瀬さんです。続きまして、ビズリーチ代表取締役社長の酒井さんです。最後に、本日モデレーターを務めていただきます、WAmazing代表取締役社長CEOの加藤さんです。よろしくお願いします。

ここからは加藤さんにモデレーターをお願いして、みなさまそれぞれの見地から、「組織と個人の能力を最大化する『目標管理』の失敗と成功」というテーマで、1時間程度お話をさせていただきます。よろしくお願いいたします。

加藤史子氏(以下、加藤):みなさん、こんにちは。お集まりいただきありがとうございます。まずはサクッと今日の4名の自己紹介をしていきたいと思います。

私はリクルートに18年3ヶ月(2023年6月時点)おりまして、実はその間の営業経験が1日もなくて。今考えてみれば、“オムライス”が名物の店でオムライスを一度も食べずに退職してしまったんです。

2016年7月に創業したので、もう少しで丸7年です。WAmazingというインバウンドのスタートアップを経営しており、オンライントラベルエージェント事業、地域観光DX事業といった内容をやっています。

インバウンド旅行者は海外からやってくる人たちなので、2020年から(コロナ禍で)いきなり売上がほぼゼロになっちゃいました。その時には100人以上の従業員がおりましたので、生きていくのに精一杯で。

今日はみなさんと同じく学ばせていただく立場として、モデレーターをしていければなと思っております。よろしくお願いします。じゃあ、お渡しします。

疲弊した現場を改善するため人事の道へ

坪谷邦生氏(以下、坪谷):坪谷と申します。よろしくお願いいたします。

はじめの仕事はエンジニアでした。100人のIT企業でプログラミングをしていたのですが、炎上していたというか、今から思うとマネジメントの状況がよくなくて。

技術力を磨いてもうまくいかない状況の中で、どうにか疲弊した現場を良くしたいと思って人事に転身をし、そこから20年以上人事畑にいます。

人事領域を深めるために、リクルートマネジメントソリューションズという会社で人事コンサルタントになりました。私もリクルートで“オムライス”を食べなかったタイプです。

50社以上の人事制度構築や組織開発支援をさせていただいて、アカツキというベンチャー企業の人事企画を立ち上げたあとで、2020年に壺中天という会社を設立して現在です。

『図解 人材マネジメント入門』『図解 組織開発入門』『図解 目標管理入門』という本を書いておりまして、全体的には企業の人材マネジメントの支援をする仕事をしております。Twitterで情報を発信しておりますので、よかったらフォローいただけるとうれしいです。以上でございます。

成長スピードが早い会社の共通点

酒井哲也氏(以下、酒井):はじめまして、酒井です。実は私も11年リクルートにいて、“オムライス”を食べていました。新卒ではスポーツライセンス関連企業に入社したのですが、1年ほどで民事再生となってしまい、その後リクルートを経て、2015年11月からビズリーチに入社して、今に至っております。

先ほど、坪谷さんがビズリーチのCMのポーズをしてくださいましたが、転職サイトの「ビズリーチ」に加えて、目標管理に近しいところですと、人財活用プラットフォームの「HRMOS」と、新卒向けのOB/OG訪問ネットワークサービス「ビスリーチ・キャンパス」を運営しております。

ビズリーチでは外部から採用を行い、企業の人材活用でHRMOSを連携することによって、より一層パフォーマンススピードを上げていきたいと思ってやっております。今日は、私自身も「学ぶ」という姿勢をもとに参加させていただいていますので、あらためましてよろしくお願いします。

広瀬好伸氏(以下、広瀬):最後に、株式会社Scale Cloudの広瀬と申します。私はリクルートではございませんでした(笑)。

前職は16年以上前になるんですが、あずさ監査法人というところで会計士をやっていました。起業してから16年経つうちに、今は会計士の能力はゼロになりまして、そういう活動はしておりません。KPIばかりやっている人間でございます。

16年経つうちに、数字を通していろんな会社さんとお付き合いさせてきていただいたんですが、成長スピードが速い会社の共通点の1つに「数字とうまく付き合っている」ところがありました。なので、数字の中でもKPIに特化してサービス開発しています。

各部署でバラバラにされがちな数値管理

広瀬:たまたまこの16年間のうちで、4回ほど上場に携わるシーンがありまして、今も2社ほど社外役員をやらせていただいています。1つは、みなさんもご近所に「ダンダダン」という餃子の居酒屋あるかもしれないですが、そこの社外役員をしています。ぜひご利用いただければと思います。

もう1社はi-plugという、「OfferBox」という新卒向けのダイレクトリクルーティングをやっている会社です。みなさんも、新卒を採用される時はぜひご利用いただければと、ちょっと宣伝させていただきました。そんな社外役員をさせていただいています。

私どもScale Cloudが何をやっているかを少しだけご案内しますと、みなさんの会社でも部門として存在するかどうかは別として、マーケティング、インサイドセールス、カスタマーサクセスと、いろんな部署・機能があられると思います。

数値管理は、得てして部分最適に・バラバラにされがちなんですが、円環図のようにつながっていくべきものなんです。そういうものがちゃんと分断されて、一気通貫で管理されているかというと、そうでもないシーンが多いです。

Scale Cloudをもってそれを一元管理して、各部署でバラバラに管理されがちな指標を集約しまして、全体最適な目線の中でボトルネックをちゃんと発見しようと。それで事業の未来の予測をしながら、組織的にロジカルにPDCAをみんなで回していく。

そうすることによって、事業のパフォーマンスや生産性を上げていく。そんなプラットフォームをクラウド上で提供している会社です。本日はよろしくお願いします。

加藤:ありがとうございます。

そもそも「目標管理」とは何か

加藤:さっそくなんですが、坪谷さんからレクチャーをいただく時間と、そのあとに4人でディスカッションをさせていただいて、最後には質疑応答も受け付けていきたいなと思います。では坪谷さん、よろしくお願いします。

坪谷:ありがとうございます。では、まずは問いから始めます。「MBO」とも呼ばれますが、そもそも目標管理とは何でしょうか? ぜひ考えてみてください。正確な定義ではなくイメージや持論で大丈夫です。

「Management by Objectives and Self-control」というのが、もともとの言葉ですね。P.F.ドラッカーという人が1950年代に書いた『現代の経営』という本に出てくる概念です。

Managementは「組織を使って成果をあげる」。byは「〜によって」。Objectivesには「目的」とか「客観」なんていう意味もあります、客観的な共通の目的・目標ですね。今回は「共通の目標」と訳しました。

andは「〜と」ですね。Self-controlが一番大事なんですが「自律的な貢献」です。このand Self-controlが失われているのが、今のMBOでけっこう重要な論点だと思っています。

「MBO」と略されてしまうので余計にだと思うんですが、Management by Objectivesだと思っている方が多いんですね。and Self-controlが忘れられている。

日本語訳された時に「目標管理」とされたことも原因だと思います。Webなどで調べても、Self-Controlのことが書かれていない解説がけっこう多いです。「目標」と「管理」だけになってしまっている。

管理とManagementは違います。管理というのは、何か特定の基準によって統制していくこと、つまり「基準から外れていたらNGで、基準に合っていたらOK」という意味なので、Managementとは別物なんですね。

Managementは、組織を使ってなんとか成果をあげていくこと。その「Management by Objectives and Self-control」がもともとのMBOだったんだなというのを、少し頭に入れていただけるとうれしいです。

MBOのよくある誤解

坪谷:先ほど申しあげたとおり、MBOは誤解されているんですよね。(スライドの)左側がよくある誤解で、「経営者と人事が管理するための人事制度」だと認識されています。

もともとのドラッカーのMBOを(スライドの)右側に書いたんですが、「マネージャーと働く人が持つべき哲学」。(MBOとは)ものの見方、考え方であるとドラッカーは言っています。

次に左側の2つ目の「上から降ってきたノルマを目標とする」と思われていますが、実際は右側の「自分が果たすべき貢献を明らかにして目標とする」。Self-controlですね。自ら果たすべき貢献を明らかにすることが、もともとのMBOです。

左側の3つ目が「上司が管理するために目標達成度を評価する」。たぶん、多くの会社さんがこうされているんじゃないかと思うんですが、もともとは「自分の仕事を自分で測定して評価する」という意味です。

最後が「目標は必ず数字にする」。この誤解、めちゃくちゃ多いと思いますね。「SMARTに設定しよう」みたいな話もよく出てくるんですが、もともとドラッカーは「真に重要なことは数字にならない」と、真逆のことを言っているんですよ。

なんでこの誤解が起きたのかというと、今の日本では人事制度、評価、報酬の仕組みとして目標管理が導入されてしまったという経緯があるので、この誤解が起きているんです。だけど、もともとは哲学・ものの見方だったということを今日はお伝えしておきたいなと思って、ご紹介しました。

加藤:いきなりお尋ねして申し訳ないんですが、今日のスライドって、運営としては写真撮影や配布のポリシーはどうなってらっしゃるんでしたっけ?

坪谷:坪谷は大丈夫です。ぜひ配布していただいて、『目標管理入門』が売れるようになるとうれしいなと思っております。

加藤:ありがとうございます。じゃあ、写真を撮ってもいいし、配布されるということですね。

坪谷:はい。

加藤:すみません。失礼しました。

坪谷:ありがとうございます。

MBOを実現するための「OKR」とは

坪谷:次に行きますね。「OKR」って何でしょう? イメージしてみてください。

「MBOはもう古い。これからはOKRだ」みたいな宣伝をされることが多いので、「MBOとはまったく別物のアルファベット3文字がまた出てきた」と誤解されている人事の方も多いんですが、OKRはインテル社によるMBOの実践手法の1つです。

MBOは哲学・概念・考え方でしたが、OKRはそれを実践するための「手法」です。ドラッカーとアンディ・グローブというインテル社の元社長は、もともと親交があって仲が良かったので、ドラッカーの言っているMBOをインテル社の「i-MBO」としてアンディ・グローブが実践してきたやり方がOKRです。

インテルにはジョン・ドーアという人がいまして、その人がアンディ・グローブがやっているMBOのやり方を体系化して本を書いたんですね。ここに書いてある『Measure What Matters』という本なんですが、これによってOKRが広がりました。

そしてGoogleにジョン・ドーアが入ってOKRを伝えたことが、たぶん広がった一番の理由だと思います。そこからシリコンバレーのベンチャー企業にOKRが浸透して、日本だと、メルカリさんが2013年からOKRを入れたことが大きかったのかなと見ています。

定量・定性の二軸で測ることが、OKR最大の発明

坪谷:OKRが何なのかというと、「Objectives」は、目的や客観といったMBOの「O」と一緒です。Objectivesは「共通の目標」、何を達成すべきかですね。先ほどの話にあったとおり、これは定量じゃないんですよ。Objectivesは目標なので測定できなくていいんです。

例えば、当時のインテルのObjectivesは「インテル8080がモトローラ6800より高性能であることを証明する」です。これは測れないですよね。

それだけだと、本当に達成されたかどうかがわからないので、Key Results「主要な結果指標」を別途置きましょうとしたのが、OKR、アンディ・グローブの発明ですね。定性的な意味・目的であるOと、定量的に測定できるKRを分割したわけです。

主要な結果指標(KR)をどのように達成するのか、時間軸をはっきりさせて、測定可能で、検証可能なモニタリングの基準を置く。

さっきのObjectives(「インテル8080がモトローラ6800より高性能であることを証明する」)に対しては、「5つのベンチマークを完成する」「デモを作成する」「現場部隊のために営業トレーニング教材を作成する」など、実際に測れて、やったかどうかがわかるものを別途KRで置く。

だから、定性の目標を置いて、行ったかどうかを定量的に測ろうというのがOKRの工夫の仕方で、これが大きな発明だったというのがOKRです。

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