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組織変革のためのダイバーシティ 〜多様性を強みに繋げるインクルーシブ・リーダーシップとは〜(全3記事)

ダイバーシティが進まないのは「特権性」が手放せないから 組織が陥る3つの“罠”と、乗り越えるためのリーダーシップ

「真面目に楽しい教育の創造」をミッションに掲げる株式会社ヒップスターゲートは、ビジネスゲームを中心に、新入社員から管理職向けの集合・オンライン研修を支援する教育コンサルティング会社です。今回は同社主催のセミナーより、多様性を強みに繋げることのできる「インクルーシブ・リーダーシップ」をテーマにしたセミナーの模様をお届けします。東京大学の星加良司氏が、DE&Iが注目される背景と“壁”になっているもの、これから求められる組織やリーダーシップの在り方について解説しました。本記事では、ダイバーシティがうまくいかない理由について解説されました。

組織のダイバーシティが進まない3つの理由

星加良司氏(以下、星加)今の話が大きなストーリーではあるんですけれども、(DE&Iは)なかなか思うようにいかないのが現実の世界です。ではなぜうまくいかないのか。

そういうストーリーがうまく流れていけば組織全体にとってもメリットになるはずだし、そこで働いている人たちにとっても、マイノリティを含めて、多様な特性や属性を持っている人たちにとってもハッピーな状態になるはずです。けれども、なかなかそれが進まないことでお困りの方がいるのではないかなと思うんです。なんで進まない状態になっているのか、いくつかの要因が考えられます。

今日は、3つの観点に分けてそれをお伝えしていければと思います。

1つ目は、「マジョリティ性の壁」と私たちが呼んでいるものです。これは、先ほど来、マイノリティという言葉は使ってきましたが、それはこれまで社会の中で十分に活躍ができてこなかったような人たちですね。これがマイノリティ。

その反対語がマジョリティ。多数派を意味するんですけれども、これまでの社会の中で十分に活躍の機会が与えられ、ある種その組織の中でも幅を利かせてきたという人たちがマジョリティです。この「マジョリティとマイノリティの間の関係性」に着目する必要があります。

マジョリティとマイノリティ。文字どおりに考えるとこれは数の問題、どっちが多いかという話ですけど、今ここまでのお話しでもお分かりのとおり、より本質的なのは、力の違いです。発言権と決定権ですね。どちらがどれだけのパワーを持っているかがより重要で、このパワーの違いがある種の壁になっているんです。

マジョリティが「特権性」を手放せない問題

先ほどから、組織の力学、意思決定の力学を変えていくことによって初めてイノベーティブな化学反応が生まれてくるとお話してきました。そうだとすれば、従来組織の中で意思決定をする側にいたマジョリティが、その特権性を手放すことが必要になってくるんですよね。

これまで十分に尊重してこなかった意見や人に対して向き合うことが必要になる。組織全体にとってはそれがメリットになるとしても、個人的な単位で考えると、自分がこれまで築いてきた地位とか、あるいはその中で形成されてきた、「自分ってすばらしい存在なんだ」「自分は有能な存在なんだ」という肯定的なアイデンティティを傷つける。掘り崩す可能性があるわけですね。

これまでは、自分たちはちょっと有利な立ち位置で仕事ができてきたから成功してきた。これからは、その特権を手放して新しいあり方に転換していかないといけない、と受け入れることになるので、それはけっこうしんどいことだったりもするのです。

できれば今のままのほうが居心地がいいので、その状態を維持したいという、心理的・認知的なメカニズムが働くんですね。これが働くと、結局現状維持がずっと続いていく。結局今の組織の中ではその人たちのほうが力を持っている。

当然マジョリティが力を持っているので、その人たちが今のままにしようと思った場合は、今のままになってしまうわけですよね。だから変化は起こらない。ということで、このマジョリティ性とマイノリティ性の力の不均衡が、実はその現状維持につながり変化を留めてしまうことにつながる。これが1つの壁ですね。

ダイバーシティをリスクと捉える「管理的思考」の足かせ

2つ目としては、「管理的思考の罠」です。組織は当然ガバナンスを効かせないといけないので、ある種の管理的な思考、上位職にある人が組織全体についてマネジメントをする。

マネジメントの1つの考え方としては、人員とかリソースとかを適切に管理をして、そうしたリソースが成果につながるように責任を持つ、そういうことですね。そのためにいろいろなチーム作りをしたり、仕事の割り振りをしたりしていく。

これが組織を機能させていくために必要な管理だと考えられてきたわけですが、この管理の思考がダイバーシティ&インクルージョンを妨げる足かせになっていると指摘されています。

なぜかというと、管理の思考の本質には、あらかじめ計画を立ててそのとおりに物​​事を動かしていくことによって良い成果を生み出していく、計算可能性に基づいたマネジメントの発想が色濃くあるんですよね。ただし、この計算可能性というものを重視することは、逆に計算不可能なものは重視しない、そこにウェイトを置いて考えなくなってくる。

ダイバーシティとはどういうものかというと、これはある種のリスクとして見えやすい部分があるんですね。というのは、先ほども言いましたけれども、ダイバーシティとかインクルージョンを進めていくと、ぶつかり合いが起こってくるとか、これまでのやり方を変えないといけなくなるわけですね。

そうすると少なくとも短期的にはそれはネガティブな要素・要因になりうる。必ずなるとは言いませんけども、なりうる可能性があるわけですよね。これまでのやり方をいったん止めないといけないから、仕事が停滞するんですね。

場合によってはその組織の中で対立とか紛争が起こりやすくなって、それも組織全体にとってはデメリットになる。ダイバーシティがそういうリスクとして現れてくるのは短期的に見えやすいので、ダイバーシティをリスクとして計算してしまうことがまず生じるわけです。

「プラスの部分は計算しづらい」という厄介な性質

リスクは当然マイナスの要因です。一方でダイバーシティがメリット、ベネフィットを生み出すのは、今日冒頭から登場しているように、イノベーションです。過去のやり方の延長上ではない新しいものが生まれてくる可能性ですね。

これがイノベーションですが、それを生み出すためには、実はダイバーシティが重要だったということです。

しかし、みなさんご承知のようにイノベーションは、「今これをやっておけば3年後にはイノベーションが起きます」と、あらかじめわかっているものではないわけです。あらかじめわかっているものは過去の延長上で得られている成果で、それとは違うブレークスルーが起こるのがイノベーションだとすると、それはいつどういうかたちで実現するかが計算できないものです。

そう考えると、このダイバーシティは、マイナスの部分はある程度計算できるけれども、プラスの部分は計算しづらいという、厄介な性質があるわけですよね。

それを既存の、計算可能性を重要視する管理的思考に当てはめると、マイナスの部分だけがクローズアップされてしまって、ポジティブな部分はあるかもしれないけどもないかもしれないから、あらかじめ計算には入れづらいよねという話になってしまう。

そのプラスマイナスの計算として「マイナスのほうが大きいかもしれないから、ちょっと今はやめておこうか」みたいな話になりやすいということです。実はこの管理的な思考が、D&I、あるいはそれを通じたイノベーションの阻害要因になるところがあるんですね。

近年注目される「インクルーシブ・リーダーシップ」の考え方

そうしたことを踏まえて、実はそのリーダーシップモデル、あるいはマネジメントスタイルについても転換していく必要があると言われています。これが今日のテーマのインクルーシブ・リーダーシップの話につながるんですが、その従来のトップダウン型のリーダーシップのあり方は、計算可能性に引きずられやすいし、マジョリティ性の壁を強化してしまう。

そのため、世界的に、トップダウン型のものを変えていく必要があることが大きな問題意識として検討されるようになりました。その中でいくつかのリーダーシップのモデルとか、タイプが提唱された。

そのうちの1つがインクルーシブ・リーダーシップです。インクルーシブ・リーダーシップには、実はいくつかの考え方があります。というか近年注目されている考え方なので、いろんな論者がいて、その中で誰の考え方が、全体としてコンセンサスになるのかがまだ定まっていないところもあってですね。

ある意味ではいろんな考え方が乱立しているわけですが、しかし当然、考え方の中には共通している部分があります。

今日はその共通している部分にフォーカスをしてお話しをしたいと思います。そうですね、いくつかの論者が語っている中で、1つはやはりリーダーシップ。

リーダーシップというと、言葉のニュアンス、語感としては、リーダーの問題で、リーダーがどう振る舞うか、どう行動するか、どういう意識を持つかという話で完結しているように思われがちですが、この新しいインクルーシブ・リーダーシップはリーダーだけではなくて、リーダーとフォロワー、つまりチーム全体、組織全体で実現していくものです。

その中で、例えば共通目標とか共通ビジョンを持って、相互に関係を作っていくやり方が必要であるとか、あるいはそうした状態を作っていくためにはリーダー自身がオープンでアクセシブルでアベイラブルな存在になっていかないといけないんだと語られたりしています。

インクルーシブ・リーダーシップの「6つのC」

今ご紹介した2つの考え方は研究者が定義している考え方ですが、ビジネス領域では、デロイト・トーマツが示したインクルーシブ・リーダーシップの6つの要件、6つの特性が知られていまして、これは6つのCというすごくわかりやすいかたちで要素を示しているので、ビジネス領域ではけっこう広まっている考え方です。

その6つのCとは、1つはCommitmentですね。これはリーダー自身がインクルーシブな組織、チームを作っていくことに対してコミットを持つ。やらされているからやっている、世の中そういうことが流行りみたいだからやっている、ではなく、それは本当に重要だとリーダー自身がコミットして、そのことを周りにも伝えて実施をすることが重要。これがコミットですね。

それからCourage、勇気です。勇気ってあらゆる側面、あらゆる場面で使われる言葉ですが、ここでの勇気とは、組織全体の中でうまくいっていない部分とか、何か変えないといけない部分に向き合う勇気ということです。。逆に、私たちはうまくいっている部分とか、これまでどおりでよい部分については向き合いやすいわけですよね。

そのことを考えるのは、「あぁ、うまくいっているんだ」と思えることで、そういうポジティブなものには向き合いやすいんだけれども、ネガティブなもの、問題とか課題とか、悪いところとかには向き合いづらい。でもそこに向き合わないとインクルーシブな組織はできていきません。そういうネガティブな部分、あるいは摩擦とかコンフリクトとかに向き合うのが重要だというのがこのCourage、勇気ですね。

曖昧な状態に対して「好奇心」を持つ

それから3つ目はCognizance of biasというバイアスに対する認識です。近年アンコンシャスバイアス(自分では気づいていない、ものの見方の偏り)という言葉が流行っていますが、私たちはバイアスを持ちうる存在、常にバイアスが働いているはずだという感覚、センスを持つことが非常に重要です。

それからCuriosityです。これは好奇心ですね。あるいは何か不確定で、不確実で、これから何が起こるかわからないといった、曖昧な状態に対して好奇心を持つということです。私たちは組織の管理的な思考の中では、どうなるかわからないものはできるだけなくしておきたい。

もっと安定的な、あるいは既知の、すでに知っている状態に持っていきたいという発想になりがちなわけです。けれどそうではなくて、新しいもの、どうなるかわからないものに好奇心を持って、そこから何が生まれていくのか、ポジティブな関心を向けることが必要です。

それから5つ目、Cultural intelligence、文化的な知性です。これはいろんな意味での多様性ですね。単に言語が違うとか、宗教が違うという意味での異文化ではなくて、ジェンダーの中ででもそれぞれ性別役割として指定されてきたことが違っている。

そうした社会的な期待が違っていることもありますし、生まれた地域とか、経済的な状況によっても、それぞれが持っている背景が違っていて、それに対応して考え方や慣習が違う場合もある。そういう多様性に対する文化的なバリエーションがあることについての感覚を持つということです。

それから最後はCollaboration。これはわかりやすいですけれども、こういう要素がインクルーシブ・リーダーシップでは必要だと言われています。

リーダーは「牽引役」から「リソース」に

そうした状況の中で、インクルーシブ・リーダーシップについてはいろいろな考え方があるんですが、共通項を挙げると、1つはさっき言ったトップダウンの垂直的な力の働きですね、上から下に力が働いてくるあり方を変えるのが1つ。

それからリーダーは、単にチーム全体を牽引する存在としてではなくて、チーム全体にとってのリソースになってくる。リーダーというか、メンバーから見て使える存在になることが重要。それからリーダーだけではなくてフォロワーとの関係性がきちんとインクルーシブな関係になっていることが重要。などなど、このようなことがあります。

さらにそこに、今日冒頭から強調しているような、マジョリティとマイノリティとの不均衡を是正していくことが非常に重要だと思うんですね。あるいはリーダーとフォロワーとの関係を変えていくためには、組織全体の文化を変えることが必要だと思います。

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