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ゆるい職場への対処法 〜叱れない上司、増えていませんか?〜(全3記事)

「働きやすい」職場と「ぬるくてゆるい」職場は違う “優しいだけ”では足りない、チームにとって必要な上司像

ワーク・ライフ・バランスの推進や、職場の心理的安全性が高まる一方で、副作用として「部下を叱れない上司」と「権利主張型の部下」が増え、いわゆる“ゆるい職場”になってしまったという声も上がっています。そこで今回は、「元祖イクボス」として講演や研修、現場でのコンサルティングを行っている川島高之氏が、職場改善のヒントを解説します。多くの企業に広まっているイクボスの重要性や、強いチームを作るために必要な上司像とは。

「ゆるい職場」が、若手の離職につながることも

中川雄司氏(以下、中川):本日のセミナーを企画した背景について、お話しさせていただきます。

昨今「ゆるい職場」という言葉が注目を集めております。さまざまな解釈がされていますが、おおむね若者の期待や能力に対して、仕事の質的な負荷や成長機会が乏しい職場を指します。

会社が、若手を大事に育てようとする思いと、若手の「成長したい」という気持ちとの間に、すれ違いが起きている状況かなと思っています。

(スライド)左の図をご覧いただけますでしょうか。DE&I推進やパワハラ防止法施行などを背景に、管理職の方がメンバーに配慮し過ぎて、適切な指導ができないのが一因とも言われています。

もちろん働き方の変化は、余暇時間の増加であったり、プライベートと仕事の両立、多様な経験を活かせる社会など、ポジティブな効果もございます。

ただ、「若者の期待や能力に対して、仕事の質的負荷が著しく低く、成長機会になるようなタスクや経験が乏しい。かつ先輩や上司からのフィードバックも少ない」。こうした状況がキャリアに対する不安を煽り、若者が離職するケースが出てきているとも言われています。

本日はそのような現状に対して、どのような打ち手が有効なのか、ぜひヒントを持ち帰っていただきたいと思います。

「元祖イクボス」が職場改善のヒントを解説

中川:それでは、本日ご登壇いただくスピーカーをご紹介させていただきます。NPO法人ファザーリング・ジャパン理事の川島高之さんです。

1987年に慶応大学をご卒業後、三井物産株式会社に入社。そして2012年に上場会社の社長に就任され、「イクボス式」の経営により、3年間で利益が8割増え、株価が2倍。残業が4分の1に減り、社員満足度調査も過去最高を記録しました。

そして2016年にフリーランサーとなられ、NPO法人ファザーリング・ジャパンなど複数のNPOの理事、内閣府や神奈川県などの男女共同参画委員、文科省の学校業務推進改善アドバイザーなどを歴任されていらっしゃいます。

講演会の引き合いも多く、子育てや家事(Life)、会社社長や商社勤務(Work)、PTA会長やNPO代表(Social)といった3つの経験を融合したお話で、年に200回以上ご登壇されています。

元祖イクボスとして、NHKの『クローズアップ現代』で特集され、AERA「日本を突破する100人」にも選出されている川島さんに、本日はゲストスピーカーとして講演いただきます。それでは川島さん、よろしくお願いいたします。

川島高之氏(川島):ただいまご紹介いただきました、川島です。お忙しい中、集まっていただいてありがとうございます。

総合商社勤務で仕事漬けだった日々

川島:さっそく始めさせていただきますが、時間が非常に短いのでどんどん進めたいと思います。必要なところだけ説明しますので、かなり飛ばしますけれども、今日は「ゆるい職場への対処法」にフォーカスしたイクボスについてお話をしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

お話しいただいたので、私の自己紹介は省略しますが、もともと総合商社(勤務)だったので仕事漬けだったんです。

どうしても、「24時間戦えますか」という世界だったんですけれども、子どもが生まれて子どもと一緒に過ごしていると、Social、つまりPTAや少年野球とかをやるようになります。

LifeやSocialの時間を作るには、Work、仕事時間を減らさないと作れないわけですが、仕事時間を減らして仕事の成果を下げるわけにはいきません。

じゃあ、どうやって自分の中で生産性を高める働き方改革をするかを、担当者として始めたのが25年前。そのあと管理職になり、経営者となりました。そんなことを組織全体でやってきました。

「イクボス」というのは、その経験値を踏まえて私が作ったんですが、よく「働きやすさ」と「働きがい」が重なったところが、「人が集まる職場」と言いますよね。

左側が「働きやすさ」系、右側が「働きがい」系なんですが、実はかなり重なっているのと同時に、両方やらないとなかなか人が集まる職場にならない。そのためにイクボスが必要だということで、イクボスのセミナーを全国でやっております。

日本中でブレイクした「イクボス」

川島:イクボスをご存知の方もいらっしゃると思いますけれども、9年前に我々ファザーリング・ジャパンで世に出しました。さっき申し上げた、私が管理職や経営者として経験したこと、意識してきたことを、3つの定義と10ヶ条にまとめて世に出したものです。

これが正しいのか、これが上司としての一番の考え方なのかはよくわからないですけれども、私自身はこの3つの定義と10ヶ条を常に意識してやってきました。それを世に出したら、たまたま日本中でブレイクしたということです。

1つ目の定義が「部下の私生活と仕事を共に応援する」です。ここで重要なのが、どうしてもワークライフバランスやイクボスというと、私生活を応援というところに目が行きがちです。もちろんそれは大事ですよ。ただ、「仕事も応援」ですからね。

ということは、成長をバックアップする、伴走する、あるいはいろんな必要に応じて厳しさも出していかないと、仕事の応援にはならないですよね。

人は、「自分が成長しているんだ。しかもそれは誰かに支えられた上で成長しているんだ」という時に初めて伸びるので、やはりイクボスで大事なのが、1つ目の私生活と同時に仕事、特に成長を応援する上司だということです。

2つ目。上司自身もワークライフバランス、できればワーク・ライフ・ソーシャルを満喫することですね。上司自身が、仕事一本足打法で眉間にしわ寄せていると、部下たちは「あ、上司って管理職っておもしろくないんだな」と思っちゃいます。

部下たちが成長したくなる、自分の管理職を目指したくなるようにするためには、目指したくなるような憧れの管理職や上司・経営者になる必要があるので、上司も仕事以外のことにも、しっかりと人生を満喫しようよというのが2つ目の定義です。

優しいだけの上司は、部下にとってもマイナス

川島:3つ目の定義は、「組織の目標達成に強い責任感」。ここも今日のテーマで重要です。

9年前にイクボスを世に出そうと定義を考えた時に、当時からワークライフバランスという言葉はあったんですが、3つ目の定義がパッと思い浮かんだのは、「仕事は適当で私生活を優先していい」という、ぬるくてゆるいイメージがワークライフバランスにあったからです。

今でもそのイメージが残っていますよね。だから今日のこのテーマなんですが、「これじゃアカン」と思ったんだよね。そんなことをしたら会社は潰れちゃうし、本人は使えない人材になっちゃいますからね。

だから、上司として部下たちに対して、「やることをやるから自由をもらえるんだよ。仕事だから当たり前だろ」「どんどん休んでいいんだぞ。その代わり、他の同僚と情報共有したか?」「君の残業が多いのは、受け身で仕事をやっているからだよ。もっと主体的に能動的に仕事しなきゃだめだよ」という厳しさ、責任感、主体性をしっかりと部下に指導するのが上司です。

優しいだけの上司は、部下にとっても組織にとってもマイナスですから、「厳しさを持ち合わせようよ」と伝えるべきだなと思ったので、3つ目にこの定義を入れました。たぶん3つ目の定義が入っていなかったら、イクボスはこんなに流行っていなかったはずです。

定義だけでは足りないので10ヶ条を作りました。10個ありますが、当然、私も全部できているわけではなく、むしろできていないから意識をしてきたことを、10個まとめて10ヶ条にしました。

一つひとつの説明は省略しますが、例えば4つ目の「浸透」。「権利主張の前に職責を果たそう」という意識と、私生活充実の大切さの両方を組織全体、部下たちに浸透させるんですよということで、10ヶ条の4つ目にしました。

「私生活を大切にしろよ」だけでは足りない。もちろん「職責を果たせよ」だけでも足りないので、やはり片端じゃダメだということですね。

イクボスは、上司が潰れないためにも必要

川島:10ヶ条の8つ目は、まさに「育成」ですね。部下を育てる。イクボスの「イク」は、部下を育てる・次世代を育てる「イク」ですからね。イクメンのイクではないです。

部下を育てるためには、部下をコントロールしちゃだめですよね。指示をしたら、やり方は部下に任せる。そしてやり方を部下に任せても、そう簡単にうまくいかないですから、成長をサポートする。このあたりもイクボスの10ヶ条の大事なところです。

そうやって始めたイクボスなんですが、日本中に広がっています。これは、大企業版のイクボス企業同盟です。今、262社になりましたね。中小企業や地方、公的組織にも広がっています。

なぜイクボス、あるいはワークライフバランス、ダイバーシティ、人的資本経営が必要なのか。それは若手のため、部下のためでもあります。共働きが増えていますからね。

それから上司自身のためでもあります。間に挟まれて潰れていく上司が増えていますから、自分が潰れないために働き方改革を進めないといけない。

上司と部下の「学ぶ時間」を確保する

川島:そしてまた、今日のテーマの1つであり、働き方改革の1つの目的が(スライドの)左側の「学ぶ時間」を作るためです。

私が部下たちによく言っていたのは、あるところまでは残業を減らす目的を「子育てができるようにする」「親の介護ができるようにする」とか、あるいはそもそも残業を減らすことで健康になる。「そういうことで残業減らそうよ、でも組織の成果を出そうよ」ということで、社員たち・部下たちとやってきて、ある程度、残業は減りました。

そのあと部下たち・社員たちに、「もっと仕事時間を減らそうぜ。なぜなら学ぶ時間を作るためだ。君たちも僕も、学ばないとどんどん地盤沈下、劣化していくからね」。

「本を読むことも、歴史を読むことも、哲学を読むことも、そして新しいスキルを身につけることも全部学び。学ぶ時間を作らないとどんどん時代遅れになっちゃうよ。だからもっと労働時間を減らして、生産性を高めようぜ」と、言い続けてきました。

イクボスが働き方改革をする1つの大きな目的が、自分と部下たちが学ぶ時間をもっと持てるようにするためです。ダイバーシティや働き方改革は、今度は組織全体でも必要ですね。

今申し上げました、一人ひとりがいろんなことをやるという横軸と、多様性のある組織。多様性のある個人と多様性のある組織で、カラフルな感じになるから新しいものが生まれると。

多くの日本組織は右側(単色モノクロの組織)です。日本人男性ばかりでモノクロ。これでは(多様性が)なかなか生まれず、オールドボーイズネットワークになってしまいます。

みなさんの会社はどうでしょうか。少なくとも意思決定者は日本人男性が中心で、その人たちの仕事が大半じゃありませんか? オールドボーイズネットワークで、排他的で、新しいものは生まれませんよ。左側にするためにも、働き方改革やイクボスが必要だということです。

“勝てるチーム”を作るために、上司に求められること

川島:管理職が野球、サッカー、ラグビーの監督で、部下たちが選手だとします。昔の監督は楽でした。

いつでもどこでも働ける部下が大半ですが、今はいつでもどこでも働ける部下は減ってきていますよね。このメンバーで勝てるチームにすることが、監督である上司に求められるんです。

このチームで勝つためには、上のチームは1番バッターから9番バッターまで、大谷翔平を含めてWBCみたいなもんです。そんなチームは、これからはあり得ないですから。

下のチームで勝つためにも、一人ひとりの私生活を重視します。だけど成果を出してもらうために、個人としてチームとして何をやるべきか、そのへんのことをしっかりと持ち合わせていないとできないということですね。

「人的資本経営」というのは何度も出ています。今年度は「人的資本経営元年」とも言われていますね。いろんなもので(人的資本経営が)企業経営に求められてますが、実はここで求められている開示項目の大半が、さっき申し上げた、9年以上前に作ったイクボスの定義と10ヶ条に関連していたということですね。

「なんだ。言っていたこと、やってきたことと同じか」と、個人的にもすごく安心しました。これらも一つひとつは大事です。でも一番大事なのは、これらを実行する課長、部長、役員、社長たちがイクボスになっているかどうか。じゃないと、単なる言葉だけになっちゃいますからね。あるいはKPIを定めて終わっちゃいます。

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