2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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伊達洋駆氏(以下、伊達):それでは定刻になりましたので、本日のセミナーを始めさせていただきます。本日は「“曖昧さ耐性”を科学する 人や組織を変えるために」と題して、1時間にわたってセミナーを行います。
私はビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達と申します。本日のセミナーは、私ともう1人、神谷さんと2名の体制で行います。神谷さんは後ほど登場しますので、もうしばらくお待ちいただければと思います。
では、最初にイントロダクションを行わせていただきます。まず、自己紹介をさせてください。ビジネスリサーチラボという会社の代表取締役を務めている、伊達と申します。
私はもともと、神戸大学大学院経営学研究科で研究者としてのキャリアを歩んでいました。大学院在籍中にビジネスリサーチラボという会社を立ち上げて、現在に至っています。
こちらのビジネスリサーチラボという会社なんですが、データ分析に関するサービスを提供しています。主に人事領域が活動の領域となっていて、例えば組織サーベイや社内データ分析といったサービスを提供しています。
私自身は今まで、いろんなテーマで情報発信をしてきています。採用であったり、あるいは広く人と組織を巡るさまざまなトピックを取り上げたり、そして『越境学習入門』という本を書いたりと、かなり幅広く情報発信をしてきました。今年も、心理的安全性についての本(『60分でわかる! 心理的安全性 超入門』)が来月(2023年5月に)出る予定になっています。
本日のセミナーの流れなんですが、大きく分けて3つのパートから構成されています。このあとは、最初に私から講演を行います。続いて、神谷さんの講演ですね。最後に質疑応答の時間をとります。
最初に私の講演から始めていくんですが、今回の講演では「曖昧さ耐性」というのがテーマになっています。
そのテーマの中の、曖昧さや曖昧さ耐性とは何なのか。曖昧さ耐性が高いと何が良いのか。そして4つ目の構成要素として、曖昧な状況で上司はどう振る舞うといいのかといった観点について、お話しさせていただきます。
私がお話ししている最中でもけっこうですので、Q&Aの機能を使って、ぜひ気軽に質問を投稿してみてください。
さらに聞いてみたいこととか、疑問に思ったこと、あるいは曖昧さ耐性についてふだん悩んでいること、または素朴な感想などでもけっこうです。お気軽に投稿していただければと思います。最後に質疑応答の時間をとっていますので、そこで紹介しつつ回答させていただきます。
ではさっそくなんですが、「曖昧さ耐性を活かすリーダーシップ 部下の特徴を理解し、有効な働きかけを行うために」というテーマでお話しします。
まずは、曖昧さとはそもそも何なのかということです。実は「曖昧さ」と一口に言っても、2つの特徴があると言われています。
1つは「多義的であること」です。多義的というのは、1つの情報が複数の意味を持っている、すなわちいろんな解釈ができるような状況のことを指します。
もう1つの「情報不足であること」というのも、曖昧さの特徴になっています。情報不足というのはそのままの意味なんですが、情報が足りない、欠落している。ですので、十分な手掛かりがないような未知な状況のことを指します。こうしたものが「曖昧さ」の意味しているところです。
もう少しだけ具体的に説明していきましょう。「多義的であること」というのは、具体的にはどういう状況なのか。例えば、みなさんが上司から「この資料を改善しておいてほしい」と言われたとします。これ、なかなか曖昧な指示ですよね。
改善と言われても、内容を拡充させればいいのか、デザインをきれいにすればいいのか、不要な箇所を削除すればいいのか、いろんな解釈があり得るわけです。
あるいはチャットでやり取りしている時に、事務担当の人から「書類の提出を早めにお願いします」と言われたと。これも曖昧で、多義的ですよね。
(締切が)今日中なのか、それとも今週中なのか、そんなに急いでないのか……と、「早めに」という言葉から複数の解釈ができてしまうんですね。こういう状況のことを「多義的である」、そして「曖昧さが高い」と呼びます。
もう1つの特徴が、情報不足であることです。情報が欠落している状況ですね。例えば、情報不足である状況として、プロジェクトの開始時が考えられます。目標が定まっていないとか、周囲からの期待も明確ではない。こうした状況は情報不足ですよね。
あるいは、プロジェクトを進めている中で予期せぬ変更が発生してしまいましたよと。そうすると、「今までの進め方でいいのか」「どこを改善すればいいのか」「どう進めればいいのか」というのがわからなくなってきますよね。このように、情報が不足する状況のことを曖昧だと呼びます。
多義的であること、情報不足であること。こうした状況のことを「曖昧さが高い」と呼ぶんですね。では、「曖昧さ」の定義が終わったところで、「曖昧さ耐性」とは何なのかを説明します。
人は基本的に、先ほど説明したような曖昧さというのは嫌なんですね。多義的な状況とか情報不足な状況って、やはり嫌ですよね。ただ、おもしろいことに、そうした曖昧さを脅威だと感じる人もいれば、逆に曖昧さが好ましいものなんだと感じる人も、世の中にはいるんですね。
曖昧さ耐性の高い人は、先ほど挙げたような曖昧な状況に対して、「望ましい」「好ましい」、あるいは「やりがいがある」と捉える傾向があります。曖昧さ耐性が高いというのは、曖昧さに対してポジティブな姿勢を持っているということなんですね。
ただ、ちょっとイメージが湧きにくいかもしれないので、曖昧さ耐性が高い人ってどういう人なのか、少し例を挙げながらイメージをしていただきたいと思います。
例えば、チーム内でプロジェクトを推進している時に3つぐらい意見があって、「どうするの?」というふうに意見が分かれたとします。これは、いろんな情報や解釈があるような状態になってしまっているわけですね。
そうした状態に対して、曖昧さ耐性が高い人はすべての意見を検討していきます。そして、それぞれの長所を見極めた上で判断することができる人なんですね。
あるいはプロジェクトで急な変更が発生した時に、すぐに「今、どういう状況になっているのか」ということを理解した上で、柔軟に立て直していくことができる。こういった人が、曖昧さ耐性が高い人のイメージになります。欲しい人材ですよね。
今、このような曖昧さ耐性が高い人のイメージを聞いていただいても、「曖昧さ耐性ってなんか良さそうだ」というふうに思われるんですが、私の講演の3つ目のパートは「曖昧さ耐性が高いと、いったい何がいいのか」ということです。
曖昧さ耐性に注目が集まっているのは、もちろんそれが有効だからなんですが、じゃあ、どういう意味で有効なんでしょうか。これまでの研究から、実は3つの意味で有効であることが実証されています。
例えば、曖昧さ耐性が高いほど仕事のパフォーマンスが高い。与えられた役割をしっかり遂行することがわかっています。
これはなぜかというと、やはり仕事を進める中で、曖昧さが高い状況はなかなか避けて通れないわけですね。そんな中で、曖昧さが高い状況にも適応して解決策を出せるような人は、仕事のパフォーマンスが高くなる傾向があります。
2つ目の効果なんですが、曖昧さ耐性が高いほど創造性が高い。より具体的には、創造的に問題を解決したり、革新的な行動をとったりすることがわかっています。
曖昧さ耐性が高いと、自分と異なる視点や意見があっても気にならないというか、むしろそういったものをポジティブに捉えることができるんですね。そうなると、新しいアイデアって生み出しやすくなりますよね。それで、結果的に創造性が高くなる。これが、曖昧さ耐性の2つ目の効果になります。
3つ目の効果なんですが、心理的健康が高いという効果です。曖昧さ耐性というのは、心理的健康、すなわち自己報告の健康状態に対して良い影響を及ぼします。
基本的に人は、曖昧な状況ではストレスが溜まりやすいわけです。ところが、曖昧さ耐性が高いとストレスを感じにくいんですよね。そして不安も覚えにくいので、心理的健康にプラスの影響があるということです。
「曖昧さ」、そして「曖昧さ耐性」、それから「曖昧さ耐性の効果」ということで、今日のセミナーの前提となる知識を整えるような説明をさせていただきました。ここからは、曖昧さ耐性というテーマで、私自身が特にみなさんに情報の共有をしたかった点に踏み込んでいきたいと思います。
曖昧さというテーマに対して、主に上司と部下の関係性に焦点化して説明を行います。具体的には、曖昧な状況で上司はどう振る舞うべきかという点についてお話しします。
「曖昧な状況」というのを簡単に振り返っておくと、多義的である状況、それから情報不足である状況ですね。そういった状況において、上司は部下に対してどう働きかければいいのか。これが、私が考えたいことです。すなわち上司の振る舞い方、マネジメントです。
マネジメントについて少し考えてみましょう。なぜなら、後ほど紹介するとおり、曖昧さ耐性という考え方を持つと、従来言われている定説を少しだけ見つめ直す必要が出てくるからなんですね。
では、経営学のリーダーシップ研究の古典をもとに、曖昧な状況において上司が部下にどう働きかければいいのかを考えていきます。
リーダーシップ研究の中に、「パス・ゴール理論」と呼ばれる古典的な研究があるんですね。多くの経営学の教科書に載っているんじゃないですかね。
実はこのパス・ゴール理論の中で、「曖昧さの高い状況」というのが扱われているんです。パス・ゴール理論に基づくと、曖昧さが高い状況において上司がとるべき行動が明らかにされています。
それはどういうことなのかというと、多義的で情報不足な状況において、上司は部下に対して指示的な行動をとるといいですよと。要するに、部下に対して明確な指示を与えていきましょう。状況が曖昧であれば、明確な指示を与えたほうがいいということが明らかになっています。
「指示的な行動」と言われると少し抽象的なので、例を挙げます。例えば、具体的な目標を与えたり、期待される成果、自分が期待している成果を部下に明確に伝えることであったり、役割や責任をきちんと割り当てて、さらに期日も設定する。そして、タスクを進めるための手順や方法、いわゆる進め方を示していく。
あとは、部下がタスクを進めていく中で、なかなか難しい課題に直面することがあるかと思います。そういう時に、上司から部下に対して解決策を提示していく。これが、指示的な行動と呼ばれているものの例になります。
要するに、仕事の面倒を見るということですね。曖昧さが高い(状況下だ)と、こうした指示的な行動がいいんですよということが、パス・ゴール理論の中で言われています。
他方で、曖昧さが低い状況においてはどうかというと、曖昧さが低いわけですから、多義的ではない。そして、情報も不足していない状況です。そういう状況だったら、上司は指示的な行動を出す必要はなくなってきますよね。
上司は思いきって部下に仕事を任せていって、部下の自主性を尊重するような働きかけが有効になってくるわけです。思いきって、現場をよく知る部下に任せてしまったほうが、曖昧さが低い状況においては有効だということですね。
例えば、部下の仕事ぶりをふだんからきちんと観察して、部下の能力や強みを理解する。そして、それらに応じて仕事をきちんと任せていくという行動があり得ると思います。
あるいは、部下と話し合いながら目標を一緒に考えていきましょう。ただし、達成の方法については部下に任せていくやり方もあるでしょうし、思いきって部下に権限を与えてしまって、自分で判断するように促していくという行動もあると思います。曖昧さが低い時には、こうした「仕事を任せる行動」が有効だと言われています。
以上が、古典的なリーダーシップ研究の中で指摘されていることなんですね。曖昧さが高いと指示的な行動をとりましょう、曖昧さが低いと仕事を任せる行動をとりましょう、ということが今までは言われてきたわけです。
ところが、これはあくまで一般的な話なんですね。部下の曖昧さ耐性を考慮すると、ちょっと話が違ってくるんですね。
先ほど、曖昧さ耐性の説明で少しお話ししたんですが、部下の曖昧さ耐性が高い場合には、曖昧さをポジティブにとらえてるんですよね。だから、曖昧な状況に対しても挑んでいくことができるわけです。そのような部下の場合には、定説とはちょっと違う対応が必要になる可能性があります。
具体的には、曖昧さ耐性が高い部下の場合に限っては、曖昧さが高い状況においても、もしかしたら上司は指示的な行動をとらないほうがいいかもしれないんですね。部下に明確な指示を与えるよりも、部下に仕事を任せてしまったほうがいいかもしれない。
曖昧さ耐性が高い部下は、部下の自主性を尊重したほうが、曖昧さが高い状況においても有効かもしれないということがわかります。だからこれ、逆のことなんですよね。定説で言われている行動とは、逆の行動をとったほうがいいかもしれないということが示唆されるわけです。
すなわち、私が何を言いたいかというと、上司が部下に対していろいろ働きかけを行いますよね。マネジメントとは、まさにそういったものの結晶なわけなんですが、働きかけの方法を考える時に、部下の曖昧さ耐性の高さを考慮に入れていったほうがいいのでは? ということが、お話ししたかった点になります。
ただし、みなさんがここまで聞かれて「なるほど」と思う反面、「部下の曖昧さ耐性ってどうやって把握するんですか?」という問題がまだ残されているかと思います。部下の曖昧さ耐性の高さがわからないと、働きかけを変えることは難しいからですね。
では、部下の曖昧さ耐性を把握するためにどうしたらいいのかということなんですが、部下の反応や対応をふだんから観察していきましょう。そうすると、曖昧さ耐性の高さを推測していくことができます。
例えば、部下に新しい仕事を与えるような状況があったとします。その時に、詳細が明確でなくても、自分でどんどん情報を収集して解決策を見つけてくるタイプは、曖昧さ耐性が高いタイプだと言えます。
他方で、詳細が明確でないとなかなか不安になって、いろいろ意見を聞いてくる。それから決められないという場合は、曖昧さ耐性が低いと考えられるかもしれません。
ほかには、プロジェクトを進める中で予定の変更を告げるような状況があるかと思います。その状況に対して、曖昧さ耐性が高い部下は変更にうまく適応していって、スケジュールを組み直したりすることができる。そういった行動をとっているかどうかを見ていけばいいですね。
予定の変更を告げると半ばパニックになってしまって、あまりうまく適応できないという状態になると、曖昧さ耐性があまり高くないと言えます。
あるいは、目標が定まっていないような状況で仕事を依頼された時に、自分で目標を立てる、そして明確化する。その上でアクションプランを練り込んでいくようなタイプは、曖昧さ耐性が高いタイプであると考えられます。
逆に、目標が定まっていないと何をすればいいのかがよくわからなくなってしまって、行動がなかなか起こせないといったタイプは、曖昧さ耐性が低いと考えられます。
このように、ふだんの仕事ぶりを観察していくことによって、部下の曖昧さ耐性が高いのか・低いのかを推測していくことができるんですね。そしてその結果、部下の曖昧さ耐性に合わせて対応を変えていくことができるということです。
以上、私の講演を簡単に整理すると、「曖昧さとは何か」、そして「曖昧さ耐性とは何か、その効果」、それから最後に「曖昧さが高い状況で上司がどう振る舞うのか」というお話をさせていただきました。
2点だけ、私の講演についての注意点をお話ししたいと思います。1点目が、私の話しぶりからすると、「曖昧さ耐性の低い部下ってダメなんじゃないのか」と思われた方がいるかもしれません。ただ、曖昧さ耐性が低いからといって、それだけで低評価にするのは危険なんですよね。
それぞれの人にはそれぞれの特徴があるわけです。それぞれの人の特徴に合った仕事を与えていく、そしてそれぞれの人に合った働きかけを行っていくのが、マネジメントにおいて重要な点ではないかと思います。切り捨てるのはやめましょう、ということです。
2つ目が、「曖昧さ耐性」と呼ばれると、生まれつき決まっているものかのように聞こえてしまうんですが、一生変わらないものではないんですね。変容させていくこともできますよ、ということを示している研究なんかもあります。
このあたりについては、あとで神谷さんがじっくり語ってくれます。曖昧さ耐性は変容させることもできるので、その点にご注意くださいというご指摘でした。
では、私からの講演は以上で終了とさせていただいて、神谷さんにバトンタッチしていきたいと思います。すでにいくつか質問をいただいているんですが、神谷さんのセッションでもQ&A機能を利用して、さらに聞いてみたいことや感想を含めて、お話ししている最中でもけっこうですのでぜひいただければと思います。
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