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日本企業の空気が変わらない理由―組織の恐れを越えるポジティブ思考―(全5記事)

業界唯一の「19年連続増収増益」企業にもあった苦しみの時代 ヤッホーブルーイングの成長の原点となった「目から鱗」の研修

Unipos株式会社が主催する「Unipos Summit 2023~日本企業・組織の空気を変えろ~」より、「日本企業の空気が変わらない理由―組織の恐れを越えるポジティブ思考―」のセッションをお届けします。長年にわたりウェルビーイングを推進してきた株式会社YeeY・島田由香氏、クラフトビール最大手のヤッホーブルーイング・井手直行氏が登壇し、学びデザイン・荒木博行氏のモデレートのもと、今の「人的資本経営」に感じる違和感や、「チーム」の4つの定義などが語られました。

逸脱が発生した時が組織文化を作る最大のチャンス

荒木博行氏(以下、荒木):僕なんかは最初のキャリアでめっちゃ大企業の人事にいたので、(ルールよりもPrincipal、原理原則を伝えるという)お二人の話もわかりつつ、すごく難しいなって感じる部分もあるわけですよ。どっちかというと性悪説というか、任せてもそれ(ルール)を超えてしまう社員がいたりして。

「ちゃんとここまでは線を引かないとダメなんだ」みたいな、外に行かないように線を引いてきた歴史があるわけですよね。それで、最終的にはガッチガチになる。

みんな「ダメだな」って思ってわかっているんだけど、どこからどうブレイクスルーしたらいいのかがわからなくなっちゃってる状態の会社も、けっこうあるんじゃないかなと思うんですよ。

最初のボタンが掛け違ってる、ということなんだと思うんですよね。根本的に、人をどう見るのか。どうしたらいいんですかね? こういう状態に陥っちゃってる会社って、けっこう多いような気がするんです。

島田由香氏(以下、島田):でも、事件は起こるし、いろいろあるじゃないですか。そんなのは組織じゃなくても、個人の人生においても毎日本当にいろんなことがあるじゃないですか。

いつもいつも晴れの日ばっかりじゃないし、「あちゃー」ってこともある中で、組織で起きたことをきっかけにガーンってなっても、それはすごく宝物だと思うんですよ。なぜなら、掛け違えてしまっているものがあるんだとしたら、起きたことは掛け違いを変えさせてくれるチャンスなわけだから。

荒木:なるほどね。

島田:だとすれば、採用という言い方がいいかわからないけれども、組織って「どんな人たちと一緒にやっていくのか」。かつ、「こういうことをやりたいんだよね」という、理念やパーパスを伝えるところからが始まりだし。

「それを心ゆくまでやってきた結果、今のメンバーなんです」なのか、それともそうじゃなかったのか。違うような視点でやってきたけれども、「これから変わっていこう」という中で出てきた事象は、ある意味仕方がなくて。逆にチャンスだと捉えて、その時にどういう行動をとるかのほうが重要じゃないかなと思います。

荒木:そうですね。まさに、逸脱が出た時が組織文化を作る最大のチャンスなんでしょうね。「管理する」と踏み出すのか、「わかり合うための大事な教育の機会」と見るのか。その積み重ねで、風土は変わっていくのかなって思います。

井手直行氏(以下、井手):そう思いますよ。ルールを作り出したらきりがないと思うので。ルールがまったくないのはよくないですが、最低限にする。ミッション、ビジョン、パーパスとか、「その心は」みたいなものを徹底的に浸透していく。

「うちの会社は何を大事にしていて、こういう行動が褒め称えられる」と、もう何度も何度も言っています。極端な話、たまにそこから外れていても会社が潰れるわけじゃないから。「それは良くないよ、なぜならね」という話を浸透させていけば、余計なルールは減っていくんだと思います。

今の「人的資本経営」に感じる違和感

荒木:もう1つのキーワードとして、今、話題にもなってきつつある「人的資本経営」というキーワード。人に投資をしていこうという流れは、とても歓迎すべきトレンドだと思うんですが、お二人はどのように考えているか、ぜひご意見をいただければと思います。じゃあ、由香さん。

島田:はい。私、この言葉が嫌いで。

(一同笑)

島田:のっけからごめんなさい。流れはいいと思うし、いいきっかけだと思うんだけど、みんなが「人的資本経営、人的資本経営」って言っていて。本質をしっかり感じたり、どう捉えたり、どう議論したり、どうあぐねたりしながらやっていくかのほうが大事だと思うんですよね。

避けたいなとすごく思うのは、人の捉え方を変えないまま、数値やKPIやプロセスとか、数値を見て「ちゃんとやっているんです」「上がっているからいいんです」みたいなほうに行くこと。それで終わらせてほしくないから、あえて「私はこの言葉が嫌いなんです」と言っています。

でも、人がすべてです。「人に投資」というのはお金だけではなくて、「気持ちの投資」って言うのかな。思いの投資、チャンスの投資とか、そういったことで一人ひとりについて大切に考える。これをやれるのであれば、この言葉はとてもいいと思う。でも、今の人的資本経営の流れはなんかそうじゃないように見える。

荒木:そうですね。外側の外形的な数字の話をちゃんと提出しなきゃいけないとか、そういうところが先立っている。一方で、一対一の人間関係が変わっていないと、「新しい仕事が増える」ぐらいの感じになっちゃうので。

島田:ジョブ型と一緒だと思うんです。さっきの「学習性無力感」も、その言葉を言うと「なんかよく知っている人」みたいに聞こえるじゃないですか。「あ、ちゃんと勉強してる」「なんかデータを使ってる」とか、そういう左脳的、理論的な部分も大事だと思うんですよ。

でもそうじゃなくて、かたちがあるカクカクした部分と、かたちがなかくて柔らかくて、もやっとしてて、ぼやっとしてて、見えないもの。人間は、この両面を持っているから。

どちらかというと、ぼやっとした感覚的、感性、感情がおざなりになってきた部分があるんじゃないかと思っていて。人的資本経営の流れが、ようやくそれが大事なものなんだと気づき始めたサインだとしたら、すごくグッドだと思っています。

ビール業界では唯一の19年連続増収増益

荒木:てんちょはいかがですか?

井手:私は専門家じゃないので、あんまり人的資本経営という言葉は使わないんです。ただ、うちは社員のことをスタッフって呼んでるんですが、スタッフの幸せとか、楽しく働いてもらって「あぁ~この会社、幸せだな」となってもらいたいというのが、根本にあるわけですよ。

そのためには、スキルを身につける機会もやっぱり必要でしょうし、新しい社員は先輩社員からいろいろ仕事を教えてもらうのも必要だし、悩んだら1on1やミーティングをやったり。

うちは「社員は家族」という価値観があるので、余計なお節介かもしれないけど、プライベートな面でも心配事があったら、家族のように心配して、すごく時間をかけていろんな人たちがフォローしてあげたりしています。

例えば、つい先日新しい社員が入ってきた時に、ちょうど異動のタイミングが重なったんです。何人かがすごく盛り上がって、「明日から違うチームに行きな~」なんて言って、みんなで送り出してね。

僕のアシスタントが、「各チームが、他の異動の人たちをあんなふうに送り出していくのが自然にできるって、めっちゃすごいっすね」と言っていました。

次の日、駐車場で話しいてるスタッフがいて。「どうしたの?」って聞いたら、「昨日送り出してもらって、いろいろ感動してなんか涙が出ちゃって」みたいなことを、新しいスタッフが言っていて。

それだけ先輩社員がいろんなことを手厚くサポートして、最後には感極まって「昨日号泣しちゃったんです」みたいな話をちょうどしていた。

ただスキルやお金をあげればいいというのはわかりやすいし、それも表面的な問題で大事だけど、その人が成長して最終的には幸せになるためにはいろんなことが大事です。それを僕らはかなり意識しながら、スタッフのために、幸せになるために、お金、時間、労力をすごく使っています。

その人は長くうちの会社で働きたいと思うし、「みんなのためにチームでパフォーマンスを出したい」って誰よりも思うから、結果的には業績がすごく良くなって、成果を出すことにつながるので。

そういうふうに人には必ず成長してもらいたいし、幸せになってもらいたいと思ったら、当然いいパフォーマンスを出すと思う。それが時間差で、後から売上になる。

そのサイクルが1回動き出したら、人の投資が先なのか、売上と利益が上がるのが先なのかって、もうわからなくなるんですよね。ちなみにうちは、ビール業界では唯一の19年連続増収増益で、過去最高益を更新しています。

荒木:すごい。

成長の原点となった「目から鱗」の研修

井手:コロナ禍でビール業界の売上がみんな下がっている中で、ヤッホーブルーイングはがーっと上がっている、すごくめずらしい会社なんです。19年連続でずっと成長していると、人の投資が先なのか、売上利益を出すことが先なのかは、もうどっちが先かわからなくなる。

けど、思い起こせばスタートのところは、「これからは人が幸せに働かなきゃいけないから、売上や利益が良い時に、人にもっと手厚くサポートしよう」と。その後良い循環になってきているという、こんな順番でしたね。

荒木:てんちょの会社も今はそうですが、かなり厳しい時代があったじゃないですか。その時の第一歩目って何だったんですか? 

井手:2008年に私が社長になった時、売れないビールをインターネット通販で売って、業績が上がり出していったんですよね。

ただ、私ともう1人の2人でインターネット通販をやっていたんです。当時20人ぐらいの会社だったんですが、私が途中で社長になって担当から外れたので、2人で業績伸ばしていたことを1人だけでやるのが無理になっちゃって。

「これは全員でやらなきゃ無理だ」と、すごく思って。そこでいろいろな取り組みをやったんですが、私がやればやるほどみんなの心が離れていく、噛み合わない状態になって。

ちゃんとしたチーム作りの学びを得ようと思って、チームビルディングの研修に自ら出たんですが、そこでもう目から鱗が出て。「こうやってチームを作るんだ」「良いチームができたら、こんなにみんなのモチベーションが上がって、こんなにすごい成果が出るんだ」というのを体験したことがきっかけです。

そこから14年ぐらい、もうひたすらチームビルディング、チームビルディングって言ってます。今はさらに熱が加速してやっている、という感じですかね。

チームの4つの定義

荒木:由香さん、今のてんちょの話はすごく良い話だと思うんですが、何か感じたことあります?

島田:どれほどその時が大変だったのかって、ご本人にしか当然わからないと思うんだけれども、大変だった時を体験しながらも今は増収増益している。

てんちょの会社って、いろんなところで例に挙げられるじゃないですか。いろんなことをされてきたと思うんだけれども、そのカギの大きな1個が「チーム」だというのは、とっても大事なポイントだと思っています。

「グループ」と「チーム」は、やっぱり違うわけですよね。何が違うかと言ったら、「じゃあ、ここで4人1つになって」と言ったら、それはグループです。共通の目的がなかったり、力を合わせて何かに向かっていくという目的がなかったりしたら「グループ」です。

私の中で「チーム」の定義は4つあって。「Team」と書くからそのままなんだけど、「Trust(信頼)」があって、Eは「Engagement(エンゲージメント)」。「この人のために」「これのために」「このチームのために」と思える、第三者がいること。

Aは「Authenticity(オーセンティセティ)」と言って、正直であるとか、ありのままであるとか、ここにいたら自分でいられるということ。「かっこつけなきゃ」とか「ちゃんとしなきゃ」とかじゃなくて、本当に素を出せるという意味ですね。

最後のMは「Meaning(ミーニング)」といって、このチームである理由、この会社にいる理由、自分がここにいる理由みたいな、存在意義みたいなもの。これらを感じられているのがチームなので、ヤッホーブルーイングはそれをすごく作ってこられたんだろうなと思って。

仕掛け・仕組みっていろんなところにヒントがあるから、きっと参考になるものがいっぱいあると思うし、そこから私も学びたいなとすごく思いました。

井手:ありがとうございます。

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