2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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湯川カナ氏(以下、湯川):みなさん、おはようございます。湯川です。今日のゲストは一ノ瀬メイさん。どう呼ぼうかなと思っていたんですけれども、「メイちゃん」と呼ばせていただきます。
実はメイちゃんとは1年半ぐらい前に京都で知り合いました。京都信用金庫さんの「QUESTION」という建物の1周年トークイベントで、ゲストとしてお隣に登壇されていたんですね。
本当に恥ずかしながら、その時私は彼女のことをぜんぜん知らなくて。でも、とにかく彼女の言葉には強さがあって、一つひとつの言葉が心に刺さってきた。自分もちょっとライターをしていたこともあって、「なんだこれ! すごいね」と思ったんです。だからトークイベントの壇上で意気投合して。
その時私は(チェ・)ゲバラの服を着ていたんですが、メイちゃんが「こんなクレイジーな人もいるんだね」と服をおもしろがってくれて。そこから年齢差もあるので「メイちゃん」と呼ばせていただき、ズルズルそのまま「メイちゃん」と呼んでいます。
今日も失礼かもしれないけど、我慢しても出ちゃうと思うので「メイちゃん」と呼ばせていただきます。メイちゃんも「それでいい」と言ってくれました。
メイちゃんが私のことを何と呼ぶかはまだ聞いてないので、ひょっとしたら「カナちゃん」と呼ばれるか「カナさん」と呼ばれるか。「カナちゃん」と呼ばれたほうがうれしいかな。今日はメイちゃん・カナちゃんでいけたらいいなと思います。メイちゃん、どうぞお越しください。よろしくお願いします。
一ノ瀬メイ氏(以下、一ノ瀬):(笑)。おはようございます。
湯川:おはようございます。というわけで、今日は「カナちゃん」と呼ぶのはどう?
一ノ瀬:カナちゃん、よろしくお願いします。
湯川:よろしくお願いいたします、メイちゃん。
こちらにいらっしゃるのが一ノ瀬メイさんです。今日聞いてくださっている方の中には、「もちろんよく知っているよ。大ファンだよ」という方も多いと思います。でも、ひょっとしたら1年半前の私と同じで、「なんか名前を聞いたことがあるけど、よく知らない」という方もいらっしゃると思います。
今日は最初にメイちゃんの始まりから現在に至るまでのお話をゆっくりうかがって、その後にいくつか質問をしたいと思います。これをダイバーシティという文脈でやっていきたいと思います。よろしくお願いいたします。
一ノ瀬:お願いします。
湯川:メイちゃんのプロフィールはイベントの告知にも書かせていただいたんですけれども、先天性……右手の先がないという。
一ノ瀬:先天性右前腕欠損症と言うんですけど、人よりちょっと手が短く生まれました。
湯川:またミックスというかハーフというか、オリジンの半分が外国のルーツであるという。
一ノ瀬:はい。父がイギリス人で母が日本人です。
湯川:この時点で2つのマイノリティとして生まれていらっしゃる。水泳は1歳半から始め、その後13歳でアジア大会出場と、水泳ではばーっと伸びている一方で、実際プロフィールには書いてないですが、途中で母子家庭にもなられている。
一ノ瀬:はい。9歳の時に両親が離婚して、それからずっと母と2人でした。
湯川:なんかさ、麻雀だったら満貫と言ったりするんだけど。
一ノ瀬:ぜんぜんわからない(笑)。
湯川:それはそうやな(笑)。障害がありハーフであって、かつ母子家庭。いわゆるマイノリティという要素がたくさんある。メイちゃんが自分のことを「歩くSDGs」と言っているのは、やはりそういうところなのかな。
一ノ瀬:そう。最近ね、「SDGs」というワードがよく使われるようになって、そういう文脈でも呼んでいただくことが増えました。あらためて自分のプロフィールを見直した時に、「SDGsの項目に当てはまる数が多すぎるな」と思って(笑)。
湯川:(笑)。なるほど。
一ノ瀬:それで一回「歩くSDGsやん」と言われたことがあるんですね。「確かに」と思いながら(笑)。おもしろいなと。
湯川:ちゃんとそれを言えるのがすごいなと思うねんけど。
湯川:では先にちょっとプロフィール全体のことをうかがおうと思います。予告動画のインタビューで「小学校の時に自分の居場所が、プールの水の中だった。その時だけ自分自身になれた」という話をしていたんですけど、それはやはりバックグラウンドと関係あります?
一ノ瀬:そうですね。やっぱり人と違う部分がすごく多いし、日本の社会の中では、いかになじむかが大事やったりもする。大人になるにつれて、自分のコミュニティをどんどん見つけたりもすると思うんですけど。
でも、保育園や小学校では、どうやってみんなと仲良くしてなじむのかがすごく大事。これだけ人と違いがあった自分としては、溶け込むことや仲良くすることが難しかったり、嫌なことを言われたりという機会もすごく多かったので。
そうやってうまくいかない時も、水の中では自由に泳げたし、いろいろ言ってくる人たちよりも速く泳ぐことができた。すごくシンプルなことだけど、そのシンプルなことが自信になっていたから、自分にとってプールの中はホームだったなと感じています。
湯川:「1週間に何日も通っていたよ」という当時のコーチの話を聞いて、本当にすごく長い時間プールにいたんだなと思いました。それもあって、史上最年少の13歳でアジア大会に出場、その後ばーっとキャリアを積んで、2016年のリオデジャネイロ・パラリンピックでは8種目に出場、トップアスリートになっていくんですけど。私ね、トップアスリートになったことないねん。
一ノ瀬:(笑)。うん、知ってる。
湯川:バレた、バレた。トップアスリートとして、どんな毎日なの? メダルも期待されているってことでしょう?
一ノ瀬:そうですね。私の場合は「人生の中に水泳がある」というのを忘れて、「水泳が人生だ」と思っていた。水泳がすべてだったし、自分には水泳しかない。人間としての自分の価値も水泳の成績で決まると思ってずっと過ごしていて。
一ノ瀬:けっこう日本のスポーツあるあるなんですけど、「人間力=競技力」と言われているんですね。人間性の向上が競技力の向上に直結すると言われていて。それは合っていると思うんですけど、でもコーチがそれを選手に伝える時に、一人ひとりの成長の話をするんじゃなくて、他の選手と比べて言っちゃう場面がすごく多い。
例えば、私がパラリンピックに出られていない選手だったとすると、「パラリンピックに出ている選手は、あなたより人間力が高いから出ているんだよ」と言われたり。じゃあ次にパラリンピックに出られて決勝に残れなかった、メダルが取れなかったとなったら、「メダルを取った選手や決勝に残った選手は、あなたより人間力が優れているんだよ」と、競技力とセットで語られてしまうことがすごく多い。
個人個人で見たら合っていると思うんですよ。確かに私の競技力を向上させるためには、人間力を上げる必要はある。でも、それは人と比べた時に絶対にイコールではないことを知らなかった。だから、言われ続けていたことをずっと鵜呑みにしていました。
ずっと「足りない、足りない」と思っている選手生活でしたね。アスリートとしての結果も足りていない、メダルにまだ届いていない。すなわち「人間としてもまだ足りていないんだ」と自分にずっと言ってしまっていたのが、個人的な選手生活です(笑)。
一般的にはどういう生活かと言うと、本当に水泳が中心で、最後の何年やろ。大学に入ってから引退するまでの8年間は、週に何回泳いでいたかな。多い時は9回とか10回とか泳いでいて……。
湯川:週7日なのに?
一ノ瀬:うん、1日2回泳ぐから、週に11回泳いで、ウェイトを3回して、有酸素トレーニングを週3回やってみたいな。ずっとプールにいるから、家にいても髪が濡れている感じ(笑)。
湯川:(笑)。そう。あんまり陸上生物になってないような感じ?
一ノ瀬:なってない感じですね(笑)。
湯川:毎日の食事や睡眠も、全部メダルを取ることに集中させて?
一ノ瀬:そうですね。私の場合、9歳からパラリンピックに出ることが夢で、19歳の時に出たんですけど。パラリンピックに出るまでは、「パラリンピックに出るために何をすればいいか」がすべての生活のコンパス、物差しみたいな感じで。パラリンピックに出たら、次はメダルが欲しくなり、その後は「メダルを取るための選択かどうか」を常に頭に置いて生活をしていました。
一ノ瀬:当時のコーチも「表彰台にのぼるための選択かどうか」という意味で「podium choice」という言葉をよく使っていて。コーチから「What is that podium choice?」「それはpodium choiceですか?」と常に聞かれてた。
湯川:これ、あれなんかな。きつねうどんか天ぷらうどんかを選ぶ時も、「podium choice?」と自分に問いかける感じ?
一ノ瀬:うん。きつねうどんか天ぷらうどんやとしたら、「天ぷらは油やからpodium choiceではないかな。きつねにしよう」と。
湯川:なるほどね。
一ノ瀬:(笑)。
湯川:しんどいね。金メダルを取っていないとしたら、常に競争の中で必ず何かを越えなければならない状況。他人と比べながら「私は何か足りないからできてないんだ」と引き算していく感じなのよね。
人間力は他人と比べられるものではないのに、常に他人との比較の中でやっていく、本当に想像を絶する厳しい日々だっただろうなと思います。メディアに一番出ていたのが、2016年リオのパラリンピックの時ね。
一ノ瀬:そうですね。
湯川:何歳?
一ノ瀬:メディアに出始めたのがそれぐらいだと思います。19歳です。
湯川:19か。メダルも期待されていたでしょう? オリンピックでメダルが取れないと、やはり自分を責めるの? 負けるとどんな感じになるの?
一ノ瀬:そうですね。私の場合は2016年のリオの選考会前に、選考会で超大ベストを出さないと代表になれないところにいたんですよ。でも、すでに代表になったようにメディアでは書かれてしまっていて。
湯川:だって、「美少女パラスイマー爆誕」みたいな感じだからね。
一ノ瀬:(笑)。「水のプリンセス」と呼ばれてた(笑)。
湯川:おお、うんうん。
一ノ瀬:でも……(笑)。常に自分の実力より何歩も先をずっと期待されている。だから、メディアを通して私を知っている人の思っている「一ノ瀬メイ」と、実際の私のいる立ち位置が常にかけ離れているのがすごくしんどくて。出場やメダルを期待されているのがしんどいんじゃなくて、自分とかけ離れた期待がすごくしんどかったなと感じています。
湯川:なるほど。
一ノ瀬:私の場合はパラリンピック出場が決まった時、世界ランク13位だったんですね。決勝に残れるのは8人だから、決勝に残るのも5人抜かないと残れないし、メダルとなったら10人も抜かないといけない中でメダルが期待されていた。自分の実力とかけ離れた期待がとてもつらかったなと思います。
湯川:日本ではオリンピックやワールドカップがあるたびに「いやいや」みたいに思うよね。メディアは「さあ目指せるぞ。オリンピック金メダル」と言うものね。でもメイちゃんは、これだけ話題の中心になり、ちゃんとオリンピックにも出て、東京オリンピックも確実と言われていた中で引退をする。
ちょうど引退後にメイちゃんとは出会って、その時「もう『元パラスイマー』と言うのもやめました」と言っていた。その言葉が一番衝撃的だったんですけど、なぜそういう決断に至ったのかを教えてもらってもいいですか?
一ノ瀬:引退ですか? そうですね。本当にいろいろな理由があるんですけど。でも、そもそも水泳をしていた理由が自分にとっては、自分の声を大きくするための手段だった。もちろん9歳からパラリンピックに出るのが夢だったんですけど。
そのパラリンピックに出るために、最初はカナさんが(予告動画の取材で)行ってくれはった京都市障害者スポーツセンターというプールで泳いでいた。でも「本当にオリンピックを目指すなら、みんなが練習するようなスイミングスクールに入ったほうがいいよ」と言われて、京都で一番有名なスイミングへ入会の申し込みに行ったんです。
最初はすごくスムーズに申し込みが進んでいたの。だけど、途中で私の腕が短いことを知った途端に、態度が急変してスイミングへの申し込みを断られたんですね。その時、私は同い年の子よりも速く泳げたし、自分のことは全部自分でできたのに、泳ぎも何もまったく見ることもなく、「いや、でも障害者の方は入会いただけないです」と一点張りだったのがすごくつらかった。
今まで自分を障害者だと思ったことがなかったけど、「あ、障害者にされるってこういうことなんや」というのを9歳で初めて感じました。そこから、「どうやったら世の中の思う『障害者』というカテゴリーへの思い込みや偏見を変えられるんだろう」とずっと考えていて、高校1年生ぐらいで「あ、水泳だな」とたどり着いたんですね。
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