2024.10.10
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今津行雄氏(以下、今津):では次に、この物的証拠と供述証拠、それぞれメリット・デメリット何ですかというお話をさせていただければと思います。この物的証拠のメリットですが、正確性が高く証拠としての証明力が高い。
先ほど物的証拠で防犯カメラの映像というお話をしました。例えばですが、先ほど社員XがAさんに張り手をしている、そういった映像が出てきた場合には、基本的にはその映像が偽装されているといったような事象がない限りは、基本的にはそのパワハラの事実、その証拠だけで証明することが可能です。それだけ、そういった物的証拠というのは証拠としての証明力が高いということになります。
じゃあ物的証拠だけでいいじゃん、とお感じになるかもしれませんが、物的証拠にはどうしても越えられないデメリットがあります。これはすべての事実について物的証拠が存在するのはまれであり、証明できる事実に漏れが生じてしまう、ということです。
先ほどの防犯カメラの前で社員XがAさんに張り手したというところですけれども、会社の中に防犯カメラが一分の隙もなく張り巡らされている、というような状況はおそらくまれだろうと思います。ですので物的証拠、あればとても強いんですけれども、その物的証拠がそもそも存在しない、事実をカバーできないというケースが極めて多くあります。
ですので物的証拠、とにかく証明力が大きいので、やはり物的証拠を集めることを中心に考えなければなりません。ですけれどもこの物的証拠はない、ということがあるということを常に頭に入れつつ、人的証拠のバランスを考えていかなければならないということになります。
では人的証拠、供述証拠。人が話す証拠ですけれども、これのメリットとデメリットはなんぞやというところですが、これは実は物的証拠のメリット・デメリットと逆です。人的証拠のメリットとしては、これ書かせていただきましたけれども、人的証拠によって物的証拠の存在しない事実を確認することができる、ということです。
先ほどお話ししましたけれども、被害者は被害事実についてそのすべてを知っています。ですので例えば社員XからAさんが張り手を受けました。防犯カメラの映像はありません。ですがAさんは自らその事実を経験しているので、自らその体験を語ることができるんです。ですので仮に防犯カメラの映像がなかったとしても、Aさんはその事実を話すことによって証拠化することができる。これが人的証拠のメリットなんです。
他方で、人的証拠のデメリットですけれども、これは先ほど被害申告は虚偽と誤りの可能性がある、という話がありましたけれども、まったく同じ話でして、虚偽供述、誤った供述がなされる可能性があり、証拠としての証明力が物的証拠と比べて一般的にはとても弱いんです。
よくドラマなどでは決定的な証人が見つかった、というのをよ見たりしますけれども、実は裁判実務において証言だけで事実を証明できるというケースは、極めて稀と言ってもいいかもしれません。
やはり裁判官というのは、判決を書くということは、ある意味人の人生、会社の人生を左右する、極めて強大な国家権力を行使することになるので、やはり人の証言、嘘かもしれないし間違ってるかもしれないし、というあやふやな証言だけで認定をするというのはやはり及び腰になりがちなので、証拠としての証明力はとても弱いなというのは、裁判実務をやっていると感じることです。
ですので戻りますけれども、物的証拠、証明力が強い物的証拠を中心にしましょう。ですがどうしてもやっぱり見つからないものもあるので、そこの部分を補うというところで人的証拠、これもバランスよく集めていきましょう、ということを頭の中に入れていただければと思います。
では、証拠も集まりました。では次は何をするかというと、事実認定です。これまでの調査を踏まえて、証拠上認められる事実が何かを確定してください。先ほどのパワハラ被害という話ありましたけれども、具体的に何があったのかと、その時その現場で何が起こったのかということを確定をしていってください。
この収集した証拠の信用性。先ほどお話しした、この証拠は信用できるのかというところと、証明力、どれぐらいこの事実を証明する強さを持った証拠なのか、ということを判断した上で、適切に事実認定をする必要があります。
この証拠の評価を誤って、適正に事実認定ができなければ、仮にその後懲戒処分を科したとしてもこれは裁判で敗れてしまえば無効となります。会社が訴訟で最終的には敗訴するという重大な結果を招く恐れがありますので、この事実認定については慎重にしていただければと思います。
さあ、証拠も集まりました。事実も確定しました。では次、何をするか。ここからはよくあるお話ではありますけれども、懲戒処分の検討をしてください。この懲戒処分に関しては、非常に論点も多いですし、多くのセミナーでも取り扱っている、ある意味有名論点でもありますので、今回は時間の関係上さらっとお話をさせていただきますけれども、問題社員による問題行動が確認できた段階で、問題社員への懲戒処分を検討してください。
この際もう1つ検討していただきたいのは、この問題社員を自宅待機処分とするかも併せて検討してください。この自宅待機ってこれ何ですかと、何の必要性があるんですかってお感じになるかもしれませんが。
これから懲戒処分をします、というようなステージになった方が、そのまま出社し続けるということが、やはり他の社員に対する悪影響という意味もありますけれども、それだけではなくて、例えば関係者に働きかけて証言を変えるように働きかけてしまう可能性がある。また、横領なんかの場合にはよくあるんですけれども、帳簿を隠してしまうとか改ざんをしてしまうとかいうかたちで、いわゆる証拠の捏造、証拠の破壊と、証拠隠滅です。
これが行われてしまう可能性があるので、そういった意味においては問題社員について、これはどういった証拠が今集まってるんだろうか、今後どういった証拠が出てくるだろうか、証拠隠滅の可能性がどれだけあるのか、ということも考えながら、自宅待機処分をするかということも併せて検討していただく必要があるかなと思います。
では次に予防法務の観点からお話をさせていただければと思います。予防法務といっても、問題社員が出ないようにという趣旨ではありません。法的に問題社員が出ないようにというのはなかなかないので、これは問題社員が起こった場合に適切に対処するために事前に何を準備すべきか、というような観点からお話をさせていただければと思います。
予防法務的観点です。問題社員に対して適切な対応ができるかは、就業規則が整備されているか、これが肝要です。その中でも検討すべきポイント、これは私がこれまでご相談いただいてきた中から抽出させていただいたものです。
多くのご相談いただいておりまして、この3つがやはりおおむね問題があるというか、困りました、厳しいというところが多かったので、おそらく他の企業さまも同じような問題意識を抱えているのかなということで、今回3つ挙げさせていただきました。
まずは懲戒処分と懲戒事由の紐づけの柔軟さ。懲戒処分に向けた適正手続きの制度設計。自宅待機処分の法的意味合いに関する規定。この3つを検討していただければと思います。それぞれ具体的にお話をさせていただければと思います。
まず1つ目、懲戒処分と懲戒事由の紐付けの柔軟さです。NG例と書かせていただきましたけれども、これ実は多くの企業さまにおいて、こういったかたちの懲戒の規定を定めているケースがとても多いので、これ自体が法的にダメですよと、無効ですよというわけではないんです。
NGという言葉がちょっと強いんですけれども、ただこれ戦う時には極めて厳しい、自らの手足を縛ってしまう条文であったというのが、私の裁判実務上の経験からいえる話なので、一応裁判実務上はNGね、という書き方をさせていただきました。
具体的にはどういうことかというと、「第何条、以下の事由がある場合には戒告の懲戒処分をくだすことができる」と書いて、その懲戒事由です。「遅刻した」とか「3日以上無断欠勤した」という懲戒事由がばーっと書いてある。次の条文で「以下の事由がある場合には減給の懲戒処分をくだすことができる」というので、また「3日以上遅刻した」とか「無断欠勤5日以上した」とかっていう事由が具体的に書かれているという事例です。
これ、なぜダメかというと、例えば今回は戒告の懲戒処分をくだしたいな、という時にはこの第★条、上の条文の(1)、(2)に書かれている事由があるかどうかというのを検討しなければならないです。
にもかかわらず、今回の問題社員の行動はここには当てはまらない、いや、どちらかというともうちょっと重い、減給や停職や懲戒解雇の条文の事由にしか当てはまらない、となると本当は戒告が相当なのに減給とか停職とか、そういう重い処分しかくだせない。
逆もしかりなんです。今回は減給が相当な事案だろう、停職が相当な事由だろうと思っていても、いざ就業規則を見てみると、戒告の事由(1)にしか当てはまらない。
そうだとすると戒告しか処分ができないんです。つまり軽すぎる処分しかできない。なので、要は本当はこの処分が適正なのに軽すぎる処分しかできない、また逆もしかり。重すぎる処分しかできない。つまり適正な処分ができなくなってしまうという、会社の手足を縛ってしまう条文がこういったかたちになっています。
ただこれは繰り返しになりますけれども、非常に多くの会社さんでこういった規定になっているケースが多いですし、決して無効というわけではありませんが、果たしてそこまで事由と処分と紐づける必要性があるんですか、その必要性は何でしょうか、っていうのは今一度ご検討いただければと思います。
OK例というかたちで書かせていただきました、OKというのも変ですけれども、労働者に以下の事由がある場合には戒告、減給、停職、戒解雇の処分をくだすことができる、というかたちで処分を網羅的に書いて、懲戒事由を網羅的に書く。そうすると、この処分と(1)と(2)、この組み合わせが自由自在にできるので、適正な、相当な処分をくだすことができるということになります。
すみません、お時間もありますので少しちょっと駆け足でお話をさせていただきますけれども、次は懲戒処分に向けた適正手続きの制度設計、というところです。例えばですけれども、こういったかたちで懲戒処分前に対象者に弁明の機会を付与する、というような条文を1つ設けていただければ、と思います。
実際、懲戒解雇に関しては弁明の機会を与えなければならない、という裁判所の考え方があって、過去、私争った裁判では懲戒の事実については争いません。つまり悪いことやったのは争いませんが、ちょっと手続きに落ち度があった事案だったんです。
労働者側は手続きの適正だけを争います、というかたちで争われた事案がございました。ですので、こういった適正手続きの制度設計をしっかりできているのか、というのも検討していただく必要があるかなと思います。
自宅待機処分の法的意味合いに関する規定ですけれども、これは自宅待機処分の必要性は先ほどお話させていただいたとおりです。もし設けるのであれば、例えばこういった就業規則違反の疑いがある場合に、調査の間、会社が必要と認める期間出社を禁止し、自宅待機とすることができる。なお、自宅待機期間中は有給である、というようなかたちの条文を設けていただくのが、1つ、方法としてはあるのかなと思います。
最後にまとめでございます。この企業活動を円滑に進めていくためには、やはり問題社員への適切な対応は必要不可欠であろうと思います。ただ、かかる対応というのは問題社員に対してもやっぱり人権はあります。ですので当然、問題社員への人権の配慮もしなければなりませんし、被害者の方への人権も配慮しなければなりません。
また、訴訟を見越した適正な事実認定、法的に意味のある証拠の収集など、さまざまな方面に目配り・気配りをする必要があります。そういった意味では問題社員への対応に精通した弁護士のサポートを受けなければ、適切な対応ができなくて、結局紛争の火種が大きくなってしまう可能性がある、というところです。
ですのでそういった事態というのは、会社にとってもですけれども、この問題社員にとっても実はデメリットでしかないんです。もうWin-Winじゃなくて本当Lose-Loseの関係です。ですので、問題社員への対応の必要性に直面した場合には、今日お話しした内容を踏まえて、自社で対応するということだけではなくて、早期に問題社員への対応に精通した弁護士に相談する、ということも検討されてもよろしいかなと思いました。
また、就業規則です。先ほど予防法務的観点の話と繰り返しになりますが、懲戒事由と懲戒処分を紐づけていて、選択できる懲戒処分と事由とが縛られてしまっている。柔軟で適切な懲戒処分の選択ができない事案になってないだろうか、当社の就業規則は、と。
そういった観点からも、御社の就業規則を見直して、適切な懲戒処分を柔軟に選択できるような内容となっているのか、というところも今一度弁護士を活用するなどして、点検をしていただくとよろしいかなというところで、私のまとめとさせていただきました。すみません、最後ちょっと駆け足になってしまいましたが、以上となります。ご清聴ありがとうございました。では画面共有切らせていただきます。
石川:今津先生先生ありがとうございます。しびれますね。ちょっと思わず、過去のお客さん先であったAとXのやり取りとか、なんか就業規則のところとかも、今自社の就業規則めっちゃ確認しちゃいました(笑)。
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