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ウクライナ問題、世界的なインフレはいつまで続く? ~変化が求められる経営手法と 世界経済の展望~(全4記事)

国連決議で「反ロシア」を表明しない国が一定数いる事実 見逃せない、西側の価値観とアジアのリアリズムのギャップ

グロービス経営大学院が主催した「あすか会議2022」。本セッションでは、東芝・島田太郎氏、慶應義塾大学教授・神保謙氏、そして三菱総合研究所の武田洋子氏が登壇したセッションの模様をお届けします。「ウクライナ問題、世界的なインフレはいつまで続く?」をテーマに、ウクライナ侵攻を回避できた可能性や、これから見逃してはいけない論点などが語られました。

ウクライナ侵攻を回避できた可能性

御立尚資氏(以下、御立):神保さん、今のお話でデータAIの話があるんですが、今回のウクライナの戦争は情報戦の側面がすごくあると思っています。

我々が受け取っている情報のほぼ100パーセントは、アメリカ、NATOサイド。それからゼレンスキーという一種情報をデリバーする天才の力。こういう広報情報線と、もう1つはサイバーウォーがある。

もともとアメリカは、ウクライナに兵士を送らない代わりにマイクロソフトに言って、インフラに入っているマルウェアを全部取るような戦争準備はちゃんとしていたわけじゃないですか。

しかし本当の意味で、「NATOを含む西側に対して、ロシアが本格的にサイバーウォーを仕掛けているわけではない」と言われているんです。今回の戦争とデータデジタル、情報の関係。実際に今はどんなステータスで、これからどうなると思っていらっしゃるか。一部言いにくい部分もあるかと思いますが、教えていただければと思います。

神保謙氏(以下、神保):どうやったら今回の戦争を止めることができただろうか? と考えると、今の島田社長のご指摘にすごく刺激を受けました。

もし、ロシアがそんなに簡単に戦争には勝てないことを事前にわかっていたら、そのような行動を取ったらNATOを拡大させない方針だったのに、実際はフィンランド、スウェーデン、中立のスイスでさえ態度を変えてしまった。

世界中から経済制裁を受けて、ロシアのビジネス環境を根本的に転換させてしまった。どう見ても、ロシアはネット(総額)マイナスなわけですよね。これが事前に示せていたら、彼らの戦略的な計算は変えられたかもしれない。

こういうPath Dependence(経路依存性)的な思考をどうやって為政者に対してデータとして送ることができたかは、けっこう重要な教訓です。しかも、その戦いはまだ終わっていないわけですね。

ロシアが3年後に「なんだこの程度か」と思ったら、これはぜんぜん歴史的な教訓にはならない。経済制裁は成功させないといけないわけですね。「これは歴史的な失敗だった」という結論を出して、初めてその次の侵略者は「なるほど。こんな戦争を起こせば、こんな悪いことが起こる」となるので。

データの戦いというよりも、これはナラティブとか教訓の戦いだと思うんです。確認しないといけない。

御立:まず、ナラティブのほうだと。

「反ロシア」の態度を明確にしない国の多さ

神保:あと、もう1つ。我々の得ている情報が、いわゆる欧米系ウクライナ発になっているのはそのとおりです。これは大事なことだと思います。いわゆる自由主義社会の結束を固めて、フェイクニュースを排除する意味では大事ですが、同時に見落としてる情報はないかも注意する必要があるわけですよね。

例えば、国連決議があったじゃないですか。ロシアを批判する決議と、国連人権委員会から排除する決議、そして経済制裁に参加している国。これをフルスペックで満たしている国は世界に37しかないんですよ。

ロシアとかベラルーシ、エリトリアとか北朝鮮がまさにブラックな国ですが、実はその他50から130の態度を明確にしていない国があるんです。

その中で我々がNATOの首脳会議やニュースを見ると、「やっぱりロシアは悪者で、結束しないといけないんだ」と、倫理としては確立していくわけです。

でも、中東を見ても、東南アジアを見ても、南アジアを見ても、そのような共感が常に世界中に響いてるわけではないこともまた現実ですね。そういう情報に敏感であるかどうかは、今後の外交政策やビジネスにとって非常に大事だと思います。

御立:なるほど。ファクトとして、もともとインドの立場が一番わかりやすいですが、対中国という意味ではいろんなアライアンス(同盟)についても議論に応じるけれども、第三世界の名主たりたい自分たちは違ったスタンスを取る。明らかですよね。

もっと本音で言うと、前の産業革命の時に東インド会社を含め、植民地化されてひどい目に遭った。これは中国の友人と話しても、「前の時はアヘン戦争以降、自分たちは工業化できなかった。今回はそんなことは絶対しない」と言っています。その部分も含めて、センサーが立っていないと理解できない話ですよね。

神保:そのとおりだと思いますね。例えば、共感はすごく大事です。おっしゃったように、経済安全保障、サプライチェーンの見直しとか、輸出規制があるわ、政府調達の見直しはあるわ、機微技術の海外移転と言っている。

それで、「安全なネットワークの中でサプライチェーンを見直そう」みたいな動きを、東南アジアやインドに持っていったりしている。

5Gは、この会社は危ないですよね。だからクリーンなかたちでネットワークを作る時に、「じゃあ、あなた方には魅力的な代替的なプロダクトやサービスがあるのか?」と。そういった場合、明らかに中華系、その他のモデルに競争力のあるかたちで示しているものは少ないんですね。

御立:今のところないですね。私の立場上「楽天は大丈夫だ」と申し上げたいですが、西側でほとんど唯一の仮想で全部動く5Gですよね。

神保:ええ。そうすると、百何十ヶ国、グローバルサウス(途上国)と言ってもいいんですが、これからGDPがぐわっと伸びてくる、2030年に世界におけるメジャープレイヤーになっていく場所に、我々はちゃんと関与してエンゲージする手段や倫理やビジョンを持っているかは、大事な論点ではないかと思いますね。

日本に求められる、西側の価値観とアジアのリアリズムとをつなぐ役割

御立:みなさんにそれぞれの思い、ご専門の分野の話を聞いたんですが、ここからまとめに入っていきます。

「さて、これからどうなるんだろう?」というところで、事前に武田さんが非常におもしろいことをおっしゃっていて、僕に刺さったんです。政治も含めて、新興国も含めて、これから世の中がトータルでどうなってくるか。全体像を見ていかないと、我々が見えていないところもいっぱいあるので。

武田さんからあすか会議のみなさんに対して、我々がこれから先の何年かを総合的に判断することで、政治にとどまらず、見逃されがちなところ。あるいは「こことここの関係をちゃんと見ないといけない」「ここが自分たちが世の中を変えていく上で見落とせない」という、本当に大事なところがあれば教えてください。

武田洋子氏(以下、武田):ありがとうございます。時間も限られるので、見逃さないほうがいい点を3つ申し上げたいと思います。1つ目は、神保先生がおっしゃったことと関係します。

我々はふだん報道等を通じて、どうしても西側対国家権威主義という単純な対立軸で考えがちです。先生がおっしゃったとおり、今回決議の国数を見ても、人口で見ても、実は大きく姿が変わっていることはしっかり見ておいたほうがいいと思います。

特にアジアの国々はまだまだ経済発展をしたい中で、必ずしも西側の価値観だけで、犠牲にするものが大きくなっている状況を良しとできるのかどうか。リアリズムが必要な外交において、それが必要な場面、そして特に西側の価値観とアジアのリアリズムとをつなぐ役割は日本に期待されていると思います。

ただ、その期待のされ方も、そんなに時間的な猶予はないのではないか。2030年になると、日本の経済力とASEANの経済力が近づいてくることが予想される中で、それまでに日本が架け橋になれるのかどうかは1つポイントになってくると思います。

これから見逃してはいけない論点

武田:2つ目は、先ほど「データで社会を変えよう」という話がありました。私もそれは大賛成ですが、データで何を変えるのかが大事です。

言われて久しい日本の社会課題を本当に変えられるのか。ゴールを共有して国民からの共感を得られないと、プライバシー侵害のほうが上回ってしまう。もちろんメリットのほうが大きいと思うんですが、ゴールを明確にした議論は必要だと思います。

また、それを動かすための経済基盤ですね。日本経済社会システムのOSと言ってもいいと思うんですが、言われて久しい新陳代謝の問題。それから労働市場の問題。こうしたものはしっかりクリアしていかないと、データだけで解決はできないのではないかというのが2つ目のポイントです。

要するに、データで解決するとしても、社会問題と経済基盤の解決も併せて必要だということですね。

3つ目は、今日は話題にならなかったんですが、日本は危機に対して本当に財政の余力があるんでしょうか? ここは最後に、みなさんに問いかけたいです。

先ほどインフレで金融政策の話が出ましたが、究極的には日本の信任を崩さないことが非常に重要な局面になってきていると思います。円安も、円安のメリット・デメリットの話というよりは、その先の日本の信用を失墜させないことが大切。そのためには何をすべきか、その議論も見逃してはいけない論点ではないかと考えています。以上です。

御立:ありがとうございます。これから未来を見ていく上で、おそらくは脆弱国家と言われている国が、まず食糧危機になる。「数億人単位で飢餓になるのではないか」と、WFPはすごく心配しているんですね。

一方で国際秩序がどうなってくるかというと、先ほど島田さんが「パンデミックはややイレレバント(見当違い)」とおっしゃったとおりです。唯一レレバント(妥当)なところは、パンデミック対応でグローバル・ガバナンスに近いものとどうやってコラボするかが少しずつできてきている。

ただ、第2次大戦以降に作ったガバナンスの仕組みが、政治・戦争でもう成り立たなくなってることは間違いない。その中で、ここにいるみなさんも含めてどうやってグローバル・ガバナンスを作っていくか。

友人のイアン・ブレマーが新しい本を書いています。今、その日本語版の一部を一緒に書いているんですが、彼はおもしろいことを言っています。「心地いい、緩やかに時間がかかる危機は、新しいガバナンス、仕組みを生んでくれる」と。

ウクライナも含めて、本当のホットウォー、核戦争にもなっていない。これでだんだんやばくなってくると、「何かしないといけない」と西側はまとまり始めた。今おっしゃった共感を含めて、今度はそれ以外の国をどう巻き込んで、新しいグローバル・ガバナンスを作るか。こういう、まだできていないものを作っていく必要があると思います。

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