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ウクライナ問題、世界的なインフレはいつまで続く? ~変化が求められる経営手法と 世界経済の展望~(全4記事)

なぜトイレットペーパーの買い占め騒動が起きるのか? 東芝・島田社長が語る、「データ社会」の進展で生まれる価値

グロービス経営大学院が主催した「あすか会議2022」。本セッションでは、東芝・島田太郎氏、慶應義塾大学教授・神保謙氏、そして三菱総合研究所の武田洋子氏が登壇したセッションの模様をお届けします。「ウクライナ問題、世界的なインフレはいつまで続く?」をテーマに、金融政策を考える際のポイントや、ウクライナ戦争後の世の中の変化などが語られました。

金融政策を考える際のポイント

御立尚資氏(以下、御立):あえてもう1つ答えにくい質問をすると、普通に考えれば金利が上がると株は下がり、地価も下がる。しかし、なぜかいい不動産については、世界中でリスクオフの中で上がり続けています。

そんな中で我々が一番気にするのは、為替はどうなるかです。特に日本はエネルギー・食料については輸入に頼らざるを得ない中で、これが140円・150円になる。

しかも、先ほどの供給サイドのインフレ圧力との両方がかかったとすると、(日本は)金利を上げるわけにいかない国ですから、経済が立ちいかなくなる可能性がかなりある。このリスクはどれくらい高いものですか?

武田洋子氏(以下、武田):今の円安はかなり急激に起きています。それ自体が先が見えないという意味では、企業の経営もそうですし、輸入に依存している(立場)、家計の立場から見れば打撃であると思います。

ただ、アメリカが利上げをしているから日本が円安を止めるために直ちに利上げをできるかといえば、日本の今の物価は必ずしもディマンドプルで物価の上昇圧力が高まっているわけではないため、正直に申し上げると、直ちに金融政策で為替をターゲットに行うのはなかなか難しい。

御立:無理ですよね。

武田:はい、そういった問題があります。したがって、この急激な為替変動を国際協調や今後のアメリカ経済の行方が減速してくれば、そのうち利上げのペースが……。

御立:金利差が小さくなるかもしれないと。

武田:はい。先行きについての利上げペースが少し見通せてきますので、そこを見極めていくしか今の時点でできることはないのではないかと思います。

御立:そうすると、アメリカも含めたディマンドサイドのインフレが収まるかどうかを2022年の間に見極めながら、その間が日本にとっては非常にリスクの大きい期間であると考えておいていいですかね?

武田:はい、そうですね。基本的に今申し上げたとおりです。日本銀行の金融政策は為替をターゲットに行っていないので、為替動向で直ちにということではないです。

ただし当然ながら、その結果として日本経済にさまざまな歪みが出る。企業の収益も、円安によって儲かっている企業が3割いらっしゃるわけですね。過去史上最高益、儲けがしっかり賃金などで経済に還元されていくかのメカニズムを見ていく必要があります。

仮にそれがうまく機能せず、そして円安のリスクばかりが高まっていくようであれば日本経済にとっても良くない状況です。日本の物価の安定という観点でも阻害されますから。経済や物価の安定に問題が生じるかどうかは金融政策の運営としてしっかり見て、その結果として取りうる政策は何なのかは考えていく必要はあると思います。

御立:武田さんに日銀総裁をやってもらったほうが安心な気がします。ありがとうございます。

ウクライナ戦争後の世の中の変化

御立:島田さんお待たせしました。時間軸の長い話も含めてお話をうかがいたいと思ってます。

先ほどルネッサンスの話もしたんですが、今の我々が生きている社会がすごく変わったのは、19世紀の第3次産業革命あたりからですよね。特に1908年にT型フォードが出て、モビリティとGEのおかげで電力が広がりました。

東芝さんもご縁がありましたが、テクノロジーで、エネルギーとモビリティがいろんなかたちで明らかに変わったのが、今の世界のもとになっている。

武田さんもおっしゃいましたが、20世紀後半にあきらかにグローバリゼーションを掛け算にして経済が成長してきた。世界的には豊かな国が増えてきたんですね。ところが、ずっと「デジタルだ、データドリブンだ、AIだ」と言っている。

みんな、これから出てくると信じている人がほとんどですが、仮にピークが20世紀だとすると、社会全体に前の産業革命に至ったような大きいインパクトを与えるものをもたらすことができるのか、まだその“幼少期”の最初の50年ぐらいなのか。

「いやいや。これはドッグイヤーで早いから、実はこの後ものすごく変わるんだ」とか、要は今回のパンデミックとウクライナの後に、世の中の変化は特に大きいとご覧になっているかどうかを、まず1問目として聞きたいんですがどうですか?

島田太郎氏(以下、島田):最終的には答えるので、ちょっと聞いていただきたいことがあるんです。

御立:どうぞ。

島田:まず最初に、私はあすか会議がすごく大好きで、数あるグロービスの会議の中で一番好きな会議です。みなさんの未来について直接話ができる会議を作ってくださって、ありがとうございます。しかもそれに呼んでくださって、ここでしゃべらせてもらうことを本当に光栄に思います。それに敬意を表して、BAPEを着てきました。

それで、最初にルネッサンスの話をされましたよね。聞いていておもしろいなと思いました。パンデミックはタイミングの問題なので、僕は関係ないと思います。別事象です。

ただし今、それと似通った問題は「オーソリテリアン」と言われる権威主義ですね。彼らは「そうじゃない」と言うかもしれませんが、中国とロシアがこれに当たると言われています。それと民主主義の戦いはまったく同じ構造ではないかと思います。いわゆる民主主義であったギリシャとか、ローマの時代と、その間ずっと続いた抑圧的な中世の時代との交差点ですね。

地政学リスクが与える影響の大きさ

島田:今のウクライナ状況を含めた地政学の状況だと、我々の置かれている状況もそれに近くなってきていると考えています。どっちがいいかと言うと、なかなか難しい問題です。オーソリテリアンの場合には安定化しますし、例えばパンデミックのような時に最も効果的に動くのはそちら側になるわけです。

一方で民主主義は非常に不安定で、大胆な行動を取りづらいんです。今から徴兵制度が復活されて「徴兵に行きますか?」って言われたら、おそらく……ちなみにこれ、ドイツではかなりシリアスな問題になっています。彼らは2011年まで(徴兵制を)やっていましたから。

私はドイツ語が聞けるので、ドイツ語でニュースを聞いているとそのことが一番の話題です。果たして我々はそういう時代に耐えられるのかというと、とてもではないけど耐えられないと思いますね。

経済のインフレーションが起こっているのも、この現象だと思うんです。さっき武田さんが言われてたグリーンインフレーションの話もですが、特に経済安全保障の影響は完全に地政学から来ているものです。

神保先生に申し訳ないんですが、僕は本当に地政学が嫌いです(笑)。嫌いだからと言って勉強しなくていいわけではなくて、地政学が関係ない状態がおそらく人類にとって一番幸せだと思います。残念なことに、我々は今それに直面しているんですね。その状況から考えると、パンデミックよりもはるかに影響が大きいと思っています。

その中で言われていた3つの原因は、グリーンインフレーション、安全保障、労働の問題。経営者の立場から言いますと、我々がやらないといけないこととして、まずは値上げを絶対にしないといけない。値上げをしないと、会社は本当に持たないです。

それからもう1つは、賃上げをしないといけない。「しないといけない」と言うとなんだかネガティブですが、「賃上げをがんばるぞ」ですかね。それからもう1つ、これが最終的に御立さんのご質問に対する答えですが、データ社会と言われていますが、はっきり言ってまったく足りていないですね。今、我々はデータ社会の一番最初に至っているわけです。

これらの問題の根本的なソリューションは、データの力とテクノロジーの力をどれだけ成功させられるかにかかっていると思っています。

御立:先ほど、グリーンインフレーションとエネルギーという問題がありました。これも今までのやり方だと、需給をどうコントロールするかというと「OPECにプレッシャーをかけてもっと出してくれよ」というやり方だったわけです。

そうではなくて、ディマンドサイドだとかマーケットのマッチングのあり方も含めて、データとテクノロジーを使ったパラダイムにいかないと、そう簡単には解決しない。

島田:まったくおっしゃるとおりですね。

情報の非対称性を解消することの重要性

島田:私が一番重視してるのは、アマルティア・センさんという人がノーベル賞を取った時に「ベンガル飢饉は食糧があった」という問題を解き明かした点です。

これはすなわち情報の非対称性ですね。物があることを知らない。トイレットペーパーがなくなるのと同じ問題です。それと同じで、サプライチェーンの問題であろうとエネルギーの問題であろうと、巨大なるミスマッチが存在していて、まったくそのデータにアクセスできるようになっていないのが問題だということです。

御立:そうですよね。昔ソ連が崩壊した後に、私が前にいた会社では「食糧危機をなんとかしないといけない」と行動したんです。

けれども現地に行ってみてびっくりしたのは、全員が年に10キロ食べれるだけのジャガイモが腐っているんですよ。要は、どこに何があって、どうロジスティックスでつないでいって、しかもマーケットメカニズムがなかったので、計画経済でやることがぜんぜんできなかった。

今まではそれを市場で補ってきたけれども、もう1歩先で、市場プラスあるいは市場に組み合わせるかたちでデータを活用する時代が来る。現時点ではまだ来ていないという問題ですね。

島田:僕もずいぶん調べたことがあるんですが、実際にフードロスの問題は巨大ですよね。

御立:巨大です。

島田:でも、例えば日本で余っているお米をアフリカに送れますか? と言うと、そういう問題でもないわけです。問題は、ミスマッチがどのような状態で起こっているかを正確に理解することが一番大切なわけですよね。

御立:そうですね。

今までのITと、これからのIT

島田:どんな問題でもそうですが、だいたいどういうことが起こっているのかがわかれば、対策は立てられるわけです。その前に「こうではないか」と仮説を立てて、いろんなものを投資してテクノロジーで解くと言っても、成立しないんです。

御立:いわゆる今までの“IT”は、正直に言うとそういうやり方だったわけですね。

島田:はい、そうですね。

御立:我々はまさに巨大なポテンシャルはあるけれども、それをやっと使えるだけのコンピューティングパワーであり、ソフトウェアのパワーであり、あるいはデータのアベイラビリティ、データをやり取りするバンドウィドゥス(帯域幅、通信容量)の問題。このへんがやっと解決に近づいてきている。

島田:そうですね。それもありますが、一番大切なのはプライバシーを含めたデータの共有性がどうなるのかという、「ソーシャル・アクセプタンス」ですね。

御立:ルール作りであり、慣習を作り上げていかないといけないですね。

島田:ルールよりもソーシャル・アクセプタンスのほうが大事です。ルールはあとでなんとでもなると思っています。今でもそうじゃないですか。実際問題、法律が別に変わったわけでもないんだけど、10年前に当たり前だったことが今ではNGなことって、ものすごくたくさんあるわけですよね。

ということは、本当に社会のためになるために、何をすればその情報がつながるのか。詳しくは私が書いた『スケールフリーネットワーク ものづくり日本だからできるDX』という本を読んでいただければと思います(笑)。

御立:ありがとうございます。みなさん、ぜひご覧になってください。

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