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ブルーボトルコーヒーが語る ブランドを「消耗」ではなく「定着」させるために重要なこととは(全3記事)

マスター1人が淹れる「喫茶店」とチームで動く「カフェ」の違い ブルーボトルが大切にする、来店客との5つのタッチポイント

毎回ゲストのコミュニティマネージャーが運営するコミュニティへの想いや取り組みを語る、コミューン株式会社主催のセミナー「コミュマネアナザースカイ」に、地域のファンを獲得しながら成長する「ブルーボトルコーヒー」のStrategic Brand Advisor 井川沙紀氏が登壇。コロナ以前にオンラインサイトにあまり積極的ではなかった理由や店舗設計時のこだわり、スタッフ採用時に見るポイントなどを語りました。

コロナ以前、オンラインサイトにあまり積極的ではなかった理由

杉山信弘氏(以下、杉山):「半歩先の新しさ」についてもコメントいただいています。たぶんブルーボトルがかなり好きな方ではないかと思います(笑)。

「特に日本において、ブランドを定着させるために具体的に変えた部分、途中から変えた部分」などがもしあればお話しいただけるとありがたいです。

井川沙紀氏(以下、井川):先ほどのお話ししたオンラインサイトを、コロナ以前はあまり積極的にやっていなかったことです。「もっと前からやっておけばよかったじゃん」と思われると思うんですけど、そこは意図的に、あまり積極的にやらなかった背景があります。

というのも、コーヒー豆は素材なので、挽き方や淹れ方、取り扱いの仕方によってぜんぜん味が変わるんですよね。うちのレシピをご紹介すると「コーヒーってこうやって淹れるんですね」とお声があったりして。

そういう意味で、きちんと商品を理解していただける環境の中でしか、うちのものをあまり扱ってほしくなかった……みたいなところが最初はあって(笑)。日本のオープンのタイミングでも、オンラインサイトを開けるかどうかですごく悩み、あえてやらなかった。それをやって、「酸っぱいです」「美味しくないです」とならないように、アクセスの制限をすごく意識しました。

店舗設計時のこだわり

杉山:そのあたりからカルチャーの浸透の話に入ってくるかなと思いますが、その前に、今オンラインで買われている方と店舗に行かれてる方は、店舗に行ってオンラインで買い出すのか。25店舗だとまだ全国を周りきれていないので、行きたいけど行けない人が買っているのか。率直に、どちらが多いと感じますか?

井川:コーヒー豆はやはり店頭で飲んでいただいて、バリスタと話をして「この豆すごくおいしかったです」みたいな会話があって、継続して買われる。うちはサブスクもやっているので、そこからサブスク会員になっていかれる方が、ジャーニーとしてはナチュラルかなと思っています。

一方で、うちはグッズもすごく人気です。ロゴマークがついてるものなどをみなさんに買っていただけたりもするので、そういうのは新商品が出ると、けっこう全国からバッとアクセスがあります。

先日、たまたま打ち合わせでお店に来られた方の、大学生の娘さんがすごくグッズのファンで、帰りに買ってくださったりもしたので、入り口としてはコーヒーだけではなく、デザインから入ってくださる方もいらっしゃると思います。

杉山:今ちょうどやられている、ホリデーコレクション(※現在は一部商品を除き販売を終了しています)もすごくかわいいデザインだと思いますので、みなさんぜひWebサイトからお買い求めいただければと思います(笑)。

井川:ありがとうございます(笑)。

杉山:カルチャーの話をもう少し深掘りしたいと思います。店舗で、ハンドドリップで淹れる様子をしっかり見せるレイアウトが特色だというコメントもありますが、明示的にわかりやすくカルチャーとしてお店の中に存在しているものと、それをどうやって浸透させるかについて、お話しいただけるとありがたいです。

井川:おっしゃるとおりで、舞台みたいな感じで、バリスタがしっかりコーヒーを淹れているシーンを見せる。そして、淹れながらお客さまと対話するのを大事にしているので、比較的、淹れている部分がお店のセンターに位置していることが多いと思います。

視覚的にイメージ、印象をつけていくことは大事にしていますし、ラテアートなんかも、うちのバリスタの子たちはすごく上手に淹れる子が多いです。「お持ち帰りで」と言われるとすぐに蓋をしてしまいそうですが、蓋をせずにお渡しして、一口飲んでいただいたあとにご自身で蓋をはめていただくことも推奨しています。

もちろんお急ぎの方もいるので全員には難しいと思いますが、例えばミルクのラテであれば適温でスチームしているので、お砂糖を入れていないんですけどすごく甘く感じたりするんですよね。そういう感覚を、飲んでいただくことで理解いただきたいので。見ていただき、ご説明をさせていただきながら提供することもよくあります。

ブルーボトルが大切にする、来店客との5つのタッチポイント

杉山:そのあたりが次の、店舗体験でのホスピタリティの話に結びつくかと思います。例えばお客さまに名前でお声がけすることだったり、先ほどの蓋の話も、浸透させるのはすごく大変だと思います。さらに御社の場合は、場所によってもコミュニケーションの仕方を変えていらっしゃると思うので。

それは緻密にマニュアルを設計しているのか、みんなが自然とできるように、何か特別なことをされているのかについて、教えていただけますか。

井川:まず当然レシピのマニュアルやオペレーションのマニュアルは存在しますが、ホスピタリティに関してはけっこう自発的に、店舗ごとに考えていただいています。

新店が開くタイミングで当然トレーニングを行うわけですが、その店舗のみんなでどういうお店、どういう接客サービスにするかを考えてもらっています。例えば我々では「5ビーツ」、5つのビートと呼んでいますが、お店には5つタッチポイントがあると考えています。

まず入り口に入るタイミング。レジ。ドリンクを待つ時間。受け取ったタイミング。外に出るタイミング。この5つのポイントを5ビーツと呼んでいます。それぞれのビートごとに、お客さまをハッピーにさせたり、良い気持ちにさせることがたくさんあると思うんですよね。

ブルーボトルは、例えば1人のマスターが淹れる喫茶店ではなく、みんなでチームオペレーションを組んでいるのも特徴だと思います。例えばレジのAさんが何か間違ったり、もたついてしまって、お客さまがちょっと気分を害してしまうことがあったとしても、お待ちいただいている間にスッとお水を出すとか。

そこでちょっと会話をして気分を変えていただいたり、帰る時にきちんとお声がけをするとか。そういう、2番目でダメでも4番と5番でポイントを稼ぐみたいなことはできます(笑)。どうすれば、入ってきた時より気持ちよく帰っていただける空間作りができるかをみんなで話し合っています。

ホスピタリティのトレーニングの際は、全部のビーツで「こんなことができるよね」「このお店だったらこういうお客さまが来るから、こういうお客さまにはこう言おうね」とみんなで話し合い、それをみんなで実践していく。チームで戦うみたいなことを一緒に考えています。

美味しさの中には、味とホスピタリティとデザインがあるというのは全体で共通していますが、その中のWhatの部分は、店舗ごとにみんなでしっかりディスカッションしながら、考えていただいていることが多いと思います。

スタッフ採用時に見るポイント

杉山:多くの店舗の方々にとって理想的なフィードバックが回っていると思いました。けれども、一方でそれはすごく難しいことだと感じる方もたぶんたくさんいらっしゃる。

入ってくる人がすばらしいのか、オペレーションがすばらしいのかで言うと、やはり人がすばらしいのではないかと今思ったんですが、採用のやり方とか、仲間集めの仕方とかで、気を使っている点はありますか。

井川:オープン当時と今ではちょっと違うと思います。オープン当時は400人ぐらいからレジュメが送られてきて、そこから選ぶ作業がありました。どちらかというと、スキルがある子よりも人間力が高い子を採用することを意識していたと思います。

スキルは教えていく必要がある部分なので、もちろん持っていればベターですけれど、それがマストではないと考えています。それよりも人と話すとか、コーヒーの良さを伝えることに対してパッションを持てるかどうかが重要だと考え、そういう方の採用が多かったと思います。

杉山:アルバイトの方と正社員の方と、いろんなステータスの方がいらっしゃると思いますが、何か特別な研修などはされていらっしゃるんですか?

井川:最初に「エンバーク」という、うち独自の研修プログラムがありまして、社員でもアルバイトでも、みなさんにそれを体験していただきます。

ブランドの理解もそうですし、私たちがやっていること、ドリンクやメニューの話もありますが、例えばフィードバックの仕方とか、チームでの働き方の研修もあるんですよね。なので、1ブルーボトラーとしてどう立ち振る舞うかみたいなことも、研修の中でシェアしています。

杉山:アルバイトの方も一律で研修をやっていらっしゃると。そこまで徹底するのは大事ですね。ありがとうございます。

店舗ごとに異なるデザイン・内装コストの大きさ

杉山:時間が迫っていますが、「店舗にすごくお金をかけているよね」というコメントもいただいています。

井川:(笑)。

杉山:場所もそうですし、普通のカフェやコーヒーショップではなかなか難しいぐらい、内装にもお金をかけられていると思うんです。具体的にどう使うかはちょっとお教えいただけないかなと思うので、どういう考え方なのかだけ教えていただけるとありがたいです。

井川:ちょっと語弊があるかもしれないんですけど、店舗をピラミッドのように考えています。フラッグシップみたいにしっかりお金をかけて作り込むお店と、コーヒーショップとして佇むお店とに分けているんですよね。

ブランドを牽引するような立地で、しっかり発信をしていく必要があると考えた場合には、しっかりお金をかけて、デザインもそうですし、内装も考えていきます。

一方で、小規模なお店ですと、ある程度フォーマットがあってだいぶコンパクトにできるようになっています。その両輪で推し進めています。なので一律に「このようにコストをかけています」ではなく、全体のポートフォリオの中で考えています。

杉山:質問はだいたい回答できたと思いますので、最後にこれからどういうブランドにしていくか。目指してる方向性など、今後の展望を教えていただけるとありがたいです。

井川:ブルーボトルコーヒージャパンとしては、いろんな新しい地域に、継続して出店もしていきたいですね。今はまだ関東と関西だけですけど、ほかにも出していきたいと思っています。

先ほど申し上げたコーヒートラックやポップアップで地方に行かせていただくことで、その土地の環境やコーヒーシーンを理解したり、すごくいろんな情報を得ています。そこから発展して店舗出店というかたちになるといいなと思っています。

全世界的なブルーボトルで言いますと、今年は中国・上海に出店しましたが、ここからまたどんどん出店していく予定ですので、楽しみにしていただけたらと思います。

創業者の思い入れで日本から始まったグローバル展開

杉山:グローバルで出店していく国選び、順序みたいな基準は何かありますか? 日本はすごく早かったと思うんですが。

井川:日本は、創業者のジェームスがすごく日本が好きだったからです。日本に出したことでアジアのマーケットに広がったというのはあります。日本のブルーボトルに行ったことがあって、ファンになってくださるアジアの方がすごく多いんですよね。

なので韓国・香港・中国という順番は本当に自然なステップだったと思います。あとは東南アジアからもたくさんお声がけをいただいていますので、そちらにも展開できるといいなとは思っています。

杉山:日本の出店がすごく早かったのは、それもいわゆる縁と言いますか、創業者の思いがあったと。

井川:そこが一番の原動力になってスタートしたプロジェクトだったと思いますね。

杉山:先ほど回答いただいた、店舗ごとにお客さまに合わせてあり方を工夫されているのはすごくすばらしいと思いました。一方で、店舗ごとに工夫されている内容の共有などの仕組みがあるかを、最後に質問させていただいて終われればなと思います。

井川:例えばメニューを変えるとか、そういうことはまったくありません。ベースの部分は全店共通になっていますが、それをどう表現するかや、どうお客さまとつなげるかで、店舗ごとの色を出していると思うんですね。

共有の仕組みについては、エリアマネージャー的なポジションのメンバーがたくさんいますので、そのメンバーが横につないでいます。例えば「A店でやったこの施策がすごくハマったから、じゃあB店でそれをやってみよう」みたいな情報交換は、活発に行われていると思います。

杉山:ありがとうございます。井川さま、本日はたくさんの質問に回答いただきましてありがとうございます。

井川:ありがとうございました。

杉山:みなさんぜひブルーボトルさんに行っていただいて、ご自宅が遠い方はECですばらしい商品がたくさん載ってますので、ぜひご購入いただけますと幸いです。ありがとうございました。

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