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成長限界突破の鍵はストーリーにあった!「成長企業のための、ストーリーによる経営戦略」(全4記事)

「今だけ」「あなただけ」の割引では潜在ニーズを引き出せない 「新たな顕在層」を作る、顧客獲得の“幅”の広げ方 

「ストーリーによる経営戦略」をテーマとするクロスメディアグループ主催のイベントに、『ブランド戦略論』の著者で中央大学名誉教授の田中洋氏と、「空調服」の開発、製造・販売を行う株式会社セフト研究所の元取締役・西村統行氏が登壇。本記事では、本や講演で伝えた「ストーリー」が生む効果や、自社のストーリーの作り方が語られました。

本や講演で伝えた「ストーリー」が生む効果

美濃部哲也氏(以下、美濃部):西村さん、田中先生、ありがとうございます。私も今のお話をおうかがいして、実際に本も読まさせていただいて、思い出したことがありますので、ぜひクロージングトークとしてお話しさせていただきたいと思います。

今、西村さんから聞かせていただいたお話は、この本(『世界が変わる 空調服』)の中にたくさんの実話のストーリーも含めて書いてあります。この本を読んで、私は空調服の方々と同じこと、同じものを信じられる気持ちになりました。

恥ずかしながら、私は空調服を着たことがなかったので、Amazonで空調服を調べてみたら、本家本元ではない、いろんな商品が出てくるんですよね。その時に感じたことは、本を読んだ私としては「本家本元じゃなきゃ絶対に嫌」という気持ちになっていて、そこがすごいなと実感しました。

マネジメントの壁とか顧客獲得の壁に直面した時も、ストーリーの力がすごく重要だと私はいつも考えています。同じものを信じられたり、賛同者が増えていくことが、その壁を乗り越える時にすごく重要だと思います。

空調服さまの会長の周りにいろんな人が「助けたい」と集まってくるのも、会長自身がものすごくストーリーをお持ちの人で、生きざまにストーリーがある方だなと感じました。

新たな顕在層を作る、顧客獲得の“幅”の広げ方

マネジメントの壁やお客さまを増やすための壁を突破する時、今まではブランディングやPRがすごく重要でした。西村さんは今、マーケターの方ですよね。そのようなすごく優秀な方と出会わないと壁の突破ができなかったり、それなりのマーケティング投資が必要だったりして難易度が高いです。PRの場合はメディアに露出されるかどうかがわからないという不確実性もあります。

ストーリーをどう活用するかという発想(ストーリーマーケティング)や、そのストーリーをぎゅっと詰めた書籍を活用した「ブックマーケティング」という手法があります。実は我々クロスメディア・マーケティングは、このブックマーケティングが得意な会社です。

限界突破がどういうことかを図にしました。今はデジタルマーケティングも、(スライドの)黒い「顕在層」と言って、ニーズもウォンツも常にある人だけに対して、デジタルプロモーションで顧客獲得をしています。

多くの場合、ストーリー性のあるコンテンツではなくて、セールストークのオンパレードみたいに、「今だけ、あなただけに割り引きます」「キャンペーンがあります」とか、「今買わないと不幸になりますよ」みたいな感じで展開して、ストーリー作りは偶然に任せるというケースがすごく増えています。

でも、(スライドの)オレンジのところに書いてある「背景にあるストーリーと共に、伝えたいことが伝わることで生まれる気づきや発見」みたいなことがあると、マーケティングの幅が非常に増えていく。水色の「オリジナルの顕在層」が生まれて、そこからお客さんになる人も増えていく。

要は、空調服さんが市場を作ったんですよね。伝えたいことが物語と共に伝わることで、新しい市場が生まれやすくなる。

かつ、すでにユーザーになっている人がますますファンになることも可能になるのかなと考えています。そのすごくわかりやすい事例の1つが、空調服さんのストーリーだなと感じています。

ブックマーケティングの特徴

ここから少し宣伝になってしまいますが、セミナーが終わって社員のみんなに「もうちょっと営業してください」みたいに言われると困るので(笑)、最後に私たちの会社のことを2、3分話させていただければと思います。

我々は、「物語の力で運命の出会いと可能性を作っていきたい」と思っています。良いものを持っているけど、口下手で困っている企業や会社さんが日本全国にたくさん存在すると思っていまして、物語の力でその会社さんの可能性を作り、広げていくことをお客さまとご一緒していきたいのです。

プロの編集力によって磨かれ、生まれる喜怒哀楽のストーリーを、リアルの場所やデジタルで展開していく。リアルな場所とは書店や本で、デジタルはWebやメディアのことです。それを起点に、どんどん物語を広げていきたいと考えています。

編集力はすごく重要だと思っています。例えば、空調服さん、セフト研究所さんにも、たくさんの素材とか物語の原石がありますが、その中から何を選び、何を引き出し、どう磨いていくかは、編集者のなせる技かなと私は思っています。

なので、私たちはすべての企業のマーケティング活動と採用活動も含めて、物語の力で深さと広がりを作っていきたいと考えています。

クロスメディア・パブリッシングという出版事業の会社が生まれて18年になります。ビジネス書をずっとやってきて、それぞれの会社さんの商品やサービスが持つ物語の原石を選び、オリジナルストーリーにしていくことがすごく上手な人たちがたくさんいます。

そういったことで、ストーリーをマーケティング活動と採用活動に組み込んでいきたいと思っています。

このあたりのビジネス書を展開しています。

空調服さんの書籍もそうですが、いろいろ展開させていただいています。ホームページとかに載っていますので、ぜひご覧いただければと思っています。

最後に、書籍の特徴として、本屋さんにも並びますしAmazonでも売られることもあって、また、書籍の中に専門性の高いいろんな人が登場してくる場合もあります。そういうことで権威性や信憑性が高まったりと、空調服さんの本もそうですが、かなり網羅性もあります。そして、専門性を出したり、物語性も作ることができます。

もう1個の特徴が、普通のマーケティングのアウトプット、例えばテレビCMだったら毎年か毎シーズン作り変えなければならないとか、いろいろあると思うんですよね。

その点で、書籍はすごく本質的なところまで深掘っていきますので、賞味期限、有効期限がすごく長いという特徴があると思います。

我々はこういったストーリーがあるが故に、伝えたいことが伝わりやすくなるということを通じて、クライアント企業さまの成長に伴走していきたいと思っています。

以上で、クロージングトークを終わらせていただきます。

トップの想いを「言語化」することの重要性

鈴木愛氏(以下、鈴木):ご登壇のお二人も、本当にありがとうございます。時間も押しているので、質疑応答に移らせていただきたいと思います。こちらで質問を読み上げさせていただき、どなたにお答えいただくのがいいのか、ご指名させていただければと思います。

まず1つ目です。「中小企業の総務人事部で採用を担当しています。求職者や社員、株主など、ターゲットによって心に響きやすいストーリーができたらいいなと思いましたが、代表の想いや言葉が度々変わってしまっています。どうしたら良いでしょうか」とのことでした。

美濃部さんには手法や考え方のところをお答えいただいて、もしよければ本を作ったりされているので、西村さまにご実感やご感想等あればいただければなと思います。では、美濃部さん、お願いします。

美濃部:私も創業社長のもとで何社かの成長に伴走してきていて、代表の言葉が度々変わるという経験がすごくあったんですよね。ただ、「なぜそういうことを言うんだろう」という、「なぜ」を深掘りしていくと、本質的なところが見えてくるので、それを言語化します。

意味を創る感じで、少し本質的なところの「なぜ」を翻訳して言語化していく手法です。「度々変わっている」というのは単なる表現上の言葉で、「本質的なことは変わっていない」という見方をするようにしています。

鈴木:ありがとうございます。西村さまにお聞きしても大丈夫でしょうか?

西村統行氏(以下、西村):僕も経営を長くやっていましたが、環境変化に適応しなければいけないので、頭の中がくるくる変わる。社員から見たら、「西村さん、朝に言ったことと夕方に言っていることが違うじゃん」という朝令暮改どころか、朝令朝改みたいなことがまあまああるんです。

そこについては、先ほど美濃部さんがおっしゃったとおりだと思います。表現というか、そのへんは変わるんだけど、社長としてのものの価値観とか大事にしたい部分はそんなに変わらないんですよ。美濃部さんが言った「言語化」がきちんとされるとすごくわかりやすくなるなと思います。

うちの場合は会長が非常にピュアで透明度がすごく高い人なので、表現の仕方はいろいろあるけれど、ある程度行き着いたら、周りの人も「これだよね」というのが合いやすいと思いますね。

鈴木:社長、経営者のお二人が、根っこの部分は変わらないということなので、ご質問いただいた方も、例えば第三者を含めて話されると、「軸はぜんぜんずれていないじゃん」と気づくタイミングもありそうかなと思います。

自社のストーリーの作り方

鈴木:次の質問に移ります。「経営者です。今日のストーリーの話は、おもしろく聞きいってしまいました。自社にも企業理念・ビジョン・ミッションがありますが、社員にうまく浸透できていない感じがしていました。西村さんのようなストーリーを話せる人がいたらいいなと思いました。

どうやってストーリーが作れるかがまだ想像できていないのですが、何から始めたらいいでしょうか。また、社内のどんな社員を巻き込むといいですか」とのことです。こちらは西村さんをご指名かなと思いますので、ご回答お願いします。

西村:専門家を前に僕ごときが言うのもあれですが、最後はストーリーという言葉や理念になりますが、僕は「体験」だと思うんですね。よく一人ひとりの理念の浸透と言いますが、みんな生き方も生まれた世界も世代も違うので、体験が違うんですよ。要するに1,000人1,000通りあると思うんです。

僕は組織開発のコンサルティングもやっていますので、僕だったらちゃんと対話して、「なぜこの商品が世の中に必要なのか」とか「企業理念はいろいろ書いてあるけど、なんでうちの会社が必要なの? 逆になくていいじゃん」と、深く根源的な、ある種青臭い話し合いがとても大事だと思います。

僕が会長と最初のお付き合いをした時も、相当長い時間1on1で対話しました。わかりやすい人ではありますが、その人の根っこにあるものをお互いに深く話すことで何かをつかんだというプロセスを、今思い出しました。

2つ目の質問の「どうやって社内に浸透していくか」を言うと、私だったら社内をもっとより良くしたいという意見を持つ人や、「こんな会社おかしいよね」という人を巻き込みたいなと思います。

「社長の言うことだったらわかります」という面従腹背よりは、「おかしいよ」という問題意識を持つ若手だったり、特に社長や創業者とバックグラウンドが違う人こそが共感しないといけない。

違う世代だからこそ理解し合える、深くやれるということを、あえて問題意識の高い文句ばかり言っている何人かから始める。そう思いました。

「同じ方向を向いていきたくなるものを作る」

鈴木:美濃部さんもすごく笑顔で聞かれていましたね。

美濃部:そうですね。意見を持っている人を巻き込むというのはすごくいいなと思って聞いていました。

原野守弘さんというクリエイターが書いた『ビジネスパーソンのためのクリエイティブ入門』という本があって。その中に「愛とは同じものが好きということ」と書いてあって、私はそれを読んだ時に『星の王子さま』の作者のサン・テグジュペリが「愛とは見つめ合うことではなくて、同じ方向を向いて歩いていくことだ」と言っていたことを思い出したんですね。

それ以来、私は同じ方向を向いていきたくなるものを作るといいんだな、といつも考えています。

あと、尊敬される人って、市ヶ谷さん(空調服の会長)もそうだと思うんですけど、勇敢さと大胆さが半端ないはずなんですね。空調服さんの本でも、生命保険を解約して作った資金を投資してまでやる勇気がすごいんですよ。

ストーリーを作る時は、そのあたりの「同じ方向を向いていく感じ」や「勇敢さ、大胆さ」みたいなのを大切にすると良いのかなと感じています。

鈴木:ありがとうございます。ご質問をいただいた方は、今の内容を参考にしていただければと思います。チャットでもご質問をいただいています。

「飲食店を経営して20年ですが、これからは今までと違ったお店を作っていきたい。そのために、田中先生のところでブランディングを勉強したいのですが、どうしたらいいでしょうか?」。生徒さんになりたいということですね。田中先生、いかがでしょうか?

田中洋氏(以下、田中):中央大学はもう定年退職して、もうビジネススクールでは教鞭をとっていないんですが、例えば事業構想大学院とかですね。

あるいは、こういうかたちで講演などの活動は続けますので、講演にも着目していただければありがたいです。

鈴木:ありがとうございます。田中先生の情報はどこでチェックをすればいいでしょうか?

田中:Facebookが一番よいと思います。イベント情報などは必ずアップしていますので、Facebookでつながっていただければと思います。

会社がストーリーを持つ価値

鈴木:では、次の質問に移らせていただきます。

「企業理念やビジョン、ミッションを掲げていらっしゃいますが、ストーリーにすると何が変わってくるのでしょうか?」とのことです。たぶん、こちらは西村さま向けで、セフト研究所さん、空調服さんに対して、「ストーリーがあることで、何が変わりましたか?」というご質問かと思いますので、よろしければお願いします。

西村:一言で言うと、非常に伝わりやすくなりました。もっと言うと、人はストーリーがないと伝わらないなと。

うちの会長って技術者なので、思考が非常にオブジェクティブというか、いわゆる断片的なんですね。「こういう話があった」「こういう話だ」って。でも、これは点なんですね。それをストーリーという、線とか物語にすることによって彼も気づいていなかった世界がある程度言語化できたりする。

だから、僕とのやりとりで、「会長、実は本当はこういうことをしたかったんじゃないんですか?」と聞くと、「そうだよ、そういうことなんだよ」と返ってきたりする。技術的な「点」をちゃんと奥行きも含めて、表現するのがストーリーの力だと思います。

鈴木:私たちや美濃部からすると、とってもうれしい回答ですね。本当にそう思いますし、クライアントさまからも「ストーリーがあることで、伝わる力が全然違う」と言われますので。今回のセミナーで、みなさんにストーリーの力が伝わったかなと思います。

みなさまからの質問は以上になりますので、こちらで質疑応答は終了とさせていただきます。本日はご参加いただきありがとうございました。

一同:ありがとうございました。

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