2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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井上一鷹氏(以下、井上):サービスのコンセプトが詰まってきた時に、競争優位をどう作るかという話で「競合に対して選ばれる理由と選ばれ続ける理由」をサクッと申し上げます。すごく大事なのでここだけでも持って帰っていただきたいです。
言葉にすると「フック」と「ロック」だと思ってます。
フックのほうに関しては、競合の代替品に対してどうやって選ばれるかを、ふわっとさせたまま新規事業を作ることはけっこう多いです。何をもって勝つのか。ここが大事なんですけど、選ばれる理由を作るのがビジネスの切り口なのか、クリエイティブの切り口なのか、テックの切り口なのかをちゃんと見分ける必要があります。
ビジネスモデルで勝つような新規事業もあるし、クリエイティブの力でUI/UXがめちゃくちゃ良いから勝っているところもある。テックが強すぎて「この機能はこのサービスしかできないよね」とテックで勝っているところもあります。
BTC(ビジネス・テック・クリエイティブ)のどこで勝つかが戦略なので、このへんを見分けた上で「じゃあクリエイティブで勝とう」と言ったら、クリエイティブのUI/UXのデザイナーだけは内製して、めちゃくちゃ強い人を採用しなきゃいけないよね、と戦略や組織、人の話が連動します。
何をもって勝つか、何をもって勝ち続けるかに関しても、知的資産とか無形資産の何が残るかををちゃんと議論した上で選ばれ続ける理由を設計する。この2つが大事になります。
概念的に言うと最初に申し上げたとおり、ビジネスとクリエイティブの人は最初絶対に連動してください。
ビジネスの人は机上の空論を言います。僕もけっこう机上の空論を言っています。クリエイティブの人は、木を見て森を見ずなことを言います。
この2つはどっちも正しいので、お互いに見合った上でミクロとマクロをちゃんと補完する。そこでサービスのコアができて初めて向き合えるはずです。で、そこで作った仮説をちゃんとユーザーインタビューを繰り返して確度や精度を上げていきます。それが一般的な新規事業の作り方かなと思います。
最後のBTCのバランスに関しては、先ほどのVALUE DESIGN SYNTAXを1回埋めてみて、明らかにミクロが弱かったらクリエイティブの人が入ったほうがいいし、マクロが弱かったらビジネスの人が入ったほうがいいし、仕組みの感覚が弱かったらテックの人が入らないといけないんですよね。
なのでサービスの性質がBかCかTのどこに寄ってるのかをちゃんと判断して、足りないピースを探さないといけません。これが新規事業の肝だと思います。
掛け算すべき異能が何なのかを特定するのが大事だし、その特定した人をどう集めてくるかは、さっきの質疑対応でも話した「どうやってそこを補完するか」に向き合うべきだと思います。
Bの起点だとこんなことに悩むとか、Tの起点だったらこんなことに悩むよ、Cの起点だったらこんなことに悩むよというのは、興味があったらぜひ本もそうですし、僕もお話しできるので、お声がけください。
今日は考えるという話を中心にしました。そのあとどうなったら創っていいかと言うと、VALUE DESIGN SYNTAXを下の状況までレベルを高めた上で、500万円とか1,000万円かけてMVPを作って、いいかどうかをジャッジして。軽く失敗して、繰り返してリーンスタートアップしていくという世界観です。
あとはBTCが集まって、その機能の一番大事なところ、「サービスのコアはここだよね」とMVPの価値を決める。その時の機能の優先順位は、ビジネスとテックとクリエイティブの誰かが主導して決めることが多く、それだと失敗します。ちゃんとBとTとCの違う観点で、どの機能が大事かをみんなで議論して決めないといけません。
手段は分かれるけど、目的レイヤーが共通化するのは、さっきの話と一貫しているんですね。BTCが集まってサービスのコアや、顧客の価値に向き合わないといけないよという感じです。
かなり駆け足ではあったんですが、チーム論のあとの方法論の話までさせていただきました。
志賀康平氏(以下、志賀):ありがとうございます。たくさんコメントが来ています。「半年で見切りをつけたほうがいい」というお話がありましたが、これはリーンスタートアップを繰り返す中での話なのでしょうか。そしてなぜ半年なのでしょうか。ここはどういうふうに考えたらよろしいですか。
井上:半年というのはよくあるパターンで言っただけで、半年じゃなければいけないということではないんです。意思決定のマイルストーンを置いて「ここまでにお客さんの受容性が評価されなかったらやめる」という……何が伝えたいかというと6ヶ月が大事なんじゃなくて、「どういう状況になったら撤退するか」をはっきりさせていくことが非常に大事です。
新規事業は1回の打席で絶対にホームランを打てるわけではないからです。やめることを決めておかないと次が打てないんですよ。僕がけっこう問題だなと思うのは、優秀な人が新規事業で金を集めて、ほぼみんながうまくいかないと思っているのに張り続けるケース。なので「撤退基準を絶対に決めた上で動こうね」ということを伝えたかったんです。だから半年にあまり意味はありません。
志賀:撤退基準の決め方はどう決めるのがいいでしょうか。今BTCという話がありますが、3人集まったタイミングで決めたほうがいいのか、1人リードする人が集める前提でマイルストーンを置いたほうがいいのか。このあたりの決め方はどうしたらいいんでしょうか。
井上:一般論として、サービスコンセプトという根幹のところで、その価値について1回仮説を置く。それに対してちょっとだけイメージのサンプルとか、オンリービジュアルを紙で作って、アンケートやインタビューをして、「これくらいの反応しかなかったら、違う仮説に動くかやめるかを判断する」というのはけっこう決めごとではあります。
VALUE DESIGN SYNTAXで考えていただくと、左の2列だったらこういうことまで判断しましょうとか、競合優位性をこれくらい顧客が感じてくれなかったらやめる、もしくはピボットする。やめると言うとだいぶ刺激的なので、価値をちゃんとピボットするという観点で決めないといけないです。
質問に答えると、基本はフェーズごとにプロマネは有機的に変わるべきだと思います。
難しいですが、例えばここの左の2つだとビジネスがプロマネしたほうがいいんですけど、作り始めたらテックの人がやったほうがいいとなります。
意思決定の判断がBTCのどこにあるかは、そのフェーズによってバランスが変わってきます。そこの比重が高い人間が意思決定を促す人間としてプロマネをしたほうがいいと思っています。
なのでそれでフェーズを切って、いつまでにどこまでいったらやめる、もしくはどこまでいかなかったらやめる、という話をしなければいけないと思いますし、そこの設計は非常に大事ですね。
志賀:フェーズ、フェーズで何の要素が強いのかが変わるので、ここの意思決定をBTCの誰が持つのかを先に決めて、その人物が決めていく。このプロセスが大事ということですね。
井上:そうです。とはいえ企業内でそれをやると、意思決定者がまた別にいるじゃないですか。その人を捕まえられるタイミングも経営会議などマイルストーンがはっきりしていますから、次の12月までにどうするか、という逆算をしないといけないのが現実だとは思いますね。そこまでにBTCで、どこのフェーズまでいってどうするかをやっていくのが一般的なやり方かなと思います。
井上:最後はけっこう軽めですが、ここに出てきてくれている方はたぶんビジネスの人が多いでしょうと、SPEEDAのみなさんとも話していました。このへんの、よくあるつまずきみたいな話を共有して終わろうと思います。僕もBですが、けっこうつまずいてきたので(笑)。
1個目が、0→1、1→10、10→100、これをちゃんと分けるのがまず大事です。これができていないことが散見されます。今までの経験上、企業の中で意思決定をする人は、Bの人であることがどうしても多いですね。
意思決定者は、0→1で「1まで作れたのか」みたいな話をした時に、だいたい10のことを言っているんですよ。事業が成立して「それって投資したら伸びるの?」と聞いているんですね。
だけど新規事業をやっている側の人は、0→1の1を(スライドを指して)この1だと思っているんです。「顧客課題に対して最小価値が見えて、MVPを作ったらけっこういけた」と。これを新規事業の0→1だと思っているんですね。
でも経営側からすると、10の世界を描かないと大きな投資判断ができないんですよ。方程式が見えて「ここに10億円入れたら100億円返ってくるな」みたいなことがわかっていないと、大きな意思決定ができない。なのでこれを分けて社内で通すことが、ビジネスの人の責務になります。
もう1つが10→100の世界。既存事業がうまくいっている大企業は、「それはどうして確実なんですか」という質問をするような経営会議が意思決定の場だったりするので、この観点で新規事業を見ると全部死ぬんですよね。
新規事業は確実性は見つかっていなくて、他の人やサービスよりも、どれだけ不確実性を下げられるかの勝負なので。その観点でちゃんと事業を見たり、意思決定を促したりできないといけないのが、ビジネスの人の責務かなと思っています。
Bの人はピラミッド構造にしたがる人が多い印象があるんですけど、ピラミッド構造でうまくいくことはほぼないので。別に偉い偉くないではなく、BTCという違う機能のチームが集まっていると、腹の底から思える状態を作らないといけないと思っています。
チェックポイントとして6つ用意していますが、大事なところだけお話しをします。1つは、わりとビジネスの人に多いです。ウォーターフローという言い方をしますが、「こういうやり方をしたらうまくいくよね」というワークブレイクダウンシート(WBS)を書いて、それがスタックしていないかを追う。
これは別に合っているんですけど、新規事業は絶対に揺り戻しがあったり、仮説が間違っていた、みたいなことがあるんです。WBSを書く時に、数回この行き来をする前提でバッファを積んで、でも行き来を有限にすること。行き来を無限にした瞬間、プロジェクトにならないので、このへんの観点がビジネスにとっては非常に大事です。
あとテックの人は、あとから入ればいいやというパターンもけっこう多いんですけど、これも良くないです。スタートアップやソフトウェアの産業だとよくありますが、テックの人をもともと入れておくと、テックの人は「俺これ週末作ってみるわ」と超かっこいいことを言えたりするんですよ(笑)。
すごい仮説を机上で考えるよりも、「1回作ってみて俺らで体験してみようよ」と言い出すという。これが3ヶ月の考えを2日にしたりするので、ちゃんとテックの意見を最初から聞くようにする。これはめちゃくちゃ大事です。
あと、最初に申し上げましたが、ビジネスとクリエイティブの人はすごく補完的なので、マクロとミクロを見るためにタッグを組むことが大事です。
もう1個が、インタビューとかお客さんの受容性が超大事で、今はお客さんのインタビューをZoomでできたりするじゃないですか。なので全部録画して、全部の一次情報、RAWデータに全員が触れること。
これをしない人が意思決定をしないことは本当に大事です。お客さんの反応を見た時に、ビジネスの人が気になることと、クリエイティブの人が気になることと、テックの人が気になることはぜんぜん違うので。
例えばクリエイティブの人が「こういうことがわかりました、こういうのはいらなかったです」と勝手にノイズとシグナルを分けたとします。だけどそれはクリエイティブの観点でノイズとシグナルを分けているだけで、「ビジネスの観点で言ったらそのノイズがすごい大事なんだけど」みたいなことは本当に起きるんですね。
なのでBTCの全員が絶対にRAWデータや具体的な話に触れること。これを意外とみんな避けますが、絶対にやってほしいと思います。
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