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変革は地方から~富山発スタートアップ会談~(全4記事)

地域ビジネスの課題点は「地元」と「東京」しか見ていないこと まちづくりに必要なのは「地方で尖ってる人」から得られる学び

富山県成長戦略カンファレンス「しあわせる。富山」で行われた、「変革は地方から~富山発スタートアップ会談~」のセッションの模様をお届けします。新潟県妙高市の“異色の半導体ベンチャー”コネクテックジャパンや、北海道発・地域活性型ベーカリー「小麦の奴隷」など、さまざまな地域の起業家が登壇し、デジタル技術も活用しながら活躍する起業論をお送りします。

成長する会社の「3つの原則」

廣岡伸那氏(以下、廣岡):藤野さんはどうですか? 打ち合わせの時に言っていた、過去10年ぐらい地方でもうまくいった日本のベンチャーの事例の共通点が3つあったじゃないですか。

藤野英人氏(以下、藤野):あったっけ?(笑)。

廣岡:メモをとっていて。「1、長老……」っていう。

藤野:あぁ、そうですね(笑)。

廣岡:めちゃめちゃメモをとって、「これは社内報に載っけなきゃ」と思いましたけどね。

藤野:今のことに関連してちょっと別のことを言うと、成長する会社の3つの原則は「お客さま第一主義」なんですよ。これはすごく当たり前じゃないですか。それから2番目は「長期目線」なんですね。長い目線で戦略を考える。3番目が「データ主義」とか科学を見ることなんですが、だめな会社は全部逆をやってるんですよ。

(事業がうまく行かない会社は)まず、お客さま中心主義じゃなくて「会社都合主義」なんです。2番目は「短期主義」。3番目は「経験主義」なんですよ。

廣岡:経験主義。

藤野:お客さま第一主義というと、「そりゃそうだろう」という話なんだけれども、実は仕事を長くやると会社都合主義になるんですよ。

自分の部署、自分の社員、自分の持ってる工場、伝統、先輩の教え、創業者の教えとか、これは全部制約なんですよね。それが全部「お客さま」ではなくて自分の「会社」の都合で商品を当てはめていくことになって、だんだんお客さまのことをしっかり見なくなるんです。かつ、本質的なことを考えなくなっていく。

日本企業は“小さいものを磨くこと”にフォーカスしすぎる

藤野:ただ、僕の仕事は投資の仕事じゃないですか。僕が過去いた会社もみんな投資業の会社なんですが、「今から投資のことについて本質を語りましょう」と上司に言うと、「お前仕事しろ」って言われるんですね。

(一同笑)

藤野:でも、これはすごく大事なことです。たぶんそういう提案をする人は、みんなそれぞれ自分の仕事の本質をすごく考えてる人だと思うんですね。

例えばAmazonでいうと「買うとは何か」を死ぬほど考えていて、なんと哲学者も雇って買うことの意味は何かを議論していて。合宿までして「買うとは何か」「買うことの意味とは何か」とか、世界の人々で買うことの変化が起きているかを徹底的に見つめているんですね。

日本はプロダクト主義になってるので、物を磨くことに対しては非常に関心があるんだけれども、お客さまそのものをぜんぜん見なくなっちゃうんですね。どっちかというと(日本企業は)マニアックにちっちゃいものを磨くことにフォーカスしすぎちゃうという難点があって。だから、どうやって本当のお客さんを見るのかはすごく大事だと思いますよね。

マーケットインではなく、これからはユーザーインの時代

廣岡:アイリスオーヤマさんの大山(健太郎)会長の言葉なんですが、「マーケットインやプロダクトインじゃなくて、これからはユーザーインしないとだめだ」と。

藤野:そう。そのとおり。

廣岡:「ユーザーに寄り添わなきゃいけない」という言葉がありましたね。なるほど。

平田勝則(以下、平田):志を持ったプロダクトアウトはOKだと思うんです。

藤野:そうだね。お客さまの未来の幸せを作る。だけど、お客さまもまだ想像し得ない未来を自分らが提言できるかということですよね。

平田:創業間もない時、銀行の人から「あんたは夢みたいなこと言うな」ばっかり言われて。「だからプロダクトアウト思想は……」って言うんですよ。そのくせに「スティーブ・ジョブズがすごい」って言うわけですよ。

(一同笑)

平田:スティーブ・ジョブズこそ、プロダクトアウトの塊みたいな。

廣岡:ジョブズは自分の頭の中を勝手に売ってるだけですもんね。

平田:「この人たち、頭おかしいんちゃうかな」と思って(笑)。大手町とかにいると……大手町の方が聞いていたら方いたらごめんなさい。

地方での起業ならではの苦労や困難

廣岡:では次に「地方で起業する」というテーマなんですが、地方ならではで良かったことと、逆に地方ならではでの「邪魔された感」というか、「ちょっとめんどくさいなぁ」みたいなところはどうですか?

橋本玄樹(以下、橋本):移住してホリエモンと一緒に仕事をしてるんですが、彼が「外来魚が行くみたいやな」って言っていて。

(一同笑)

橋本:固有種しかいないとこに外来魚が行く、みたいなノリ。

廣岡:そのノリが地方にはあると。

橋本:一番必要かなと思います。地方に行けば行くほどゴリゴリやる人は少ないという意味だと思うんですが、そんな感じですかね。

廣岡:ある程度様子を見ろってこと? それとも様子を見ずに突っ込めってことですか?

橋本:ちょっと言い方はあれですけど、もう駆逐する勢いで(笑)。

廣岡:アメリカザリガニみたいな感じで。

橋本:そういう勢いがないと、忖度してやることがどんどん薄まっていって、馴染んでなくなっちゃいそうなビジネスになるのかなと思います。

応援してもらうのではなく「見守って」もらう

廣岡:聞いてらっしゃる方の中にも、富山に移住して起業したいとか、地方に移住して起業したい方もいらっしゃると思うんですね。(橋本さんは)土着して2年、3年してからとかじゃなく、ご自身の場合は完全外来種としてバーンと行ったと。

橋本:そうですね。今日泊まらせていただいた山川(智嗣)さんが、飲んでる時にすごくいいことをおっしゃっていて。僕は波風しか立てられないんですが、彼の立ち回り方ですごいうまいなと思ったのが、関係各所の長に挨拶へ行くんですね。

挨拶に行って1つだけお願いするんですが、「見守ってくれ」って言うんですよ。「応援してくれ」と言わずに、「見守ってくれ」。それは「もう口を出さないでくれ」ということなんですが、すごいうまいなと思いました。

廣岡:すごい話ですね。

橋本:それができたら一番いいですよね。

廣岡:でも、確かに我々土着してる人間もそうですよね。いろんな長の方に対して「支援してください」「応援してください」という姿勢よりも、「尖りにいくので見守ってください」みたいな発言って、今までなかったかもしれないですよね。

地域の期待に応えつつ、地元の人とも連携を図る

廣岡:平田さんはいかがですか?

平田:新潟に移ったのは技術の理由も1つあったんですが、富山とか地方でよくあるのが、「いや、こんなところでは」「あんなところでは」と引きまくってる方が多い。でもその中にも「なんとかしたい」と思っている人財の方も多くいるので、見つけ出して、その人を足場にする。

少しずつ面で抑えながら。今は地域の土建屋さんも、週末に手弁当で「壁が壊れてるみたいだから俺がちょっとやっとくよ」みたいな人も出てきたり。13年経ってくると、こういうことにもなるなぁなんて思って。そういう人情味って、都会ではちょっと少ないですよね。

京都から引いた理由も、京都ってイノベーターだらけで今は毎日9社から10社が起業してる地です。「お公家さんは新しいもん好き」という伝統があるから、電気・電子の分野でいったら、日本電産も村田(製作所)もロームもばーっと京都で事業を展開していった。

ここ妙高市では、製造系は十何年間1社もできてないし、長野に上場企業が七十数社あるのに対し、新潟県はわずか30社しかないんですよ。しかも成長企業が1社もなくて、全部プライムだけといういびつなところです。

地域の期待に応えつつ、一緒にやりましょうということで、今のところは地域の方ともうまく連携できているかなとは思ってるんですけどね。

かつては田舎出身であることを「隠す」時代だった

廣岡:地域のほうが人を巻き込む時に人情味があって。一度(経営が)回るとけっこう回る、みたいな感じですよね。

平田:そうですね。回すまでは(地域の人も)みんな警戒心があって、「搾取に来たか」みたいな顔を(笑)。

廣岡:「市場を荒らしに来たか」みたいな。

平田:特に越後はそこがきついところがあるんですが、飲みニケーションでわだかまりを解くと、お酒もいろんな酒蔵さんからいただけるようになって。

廣岡:(笑)。ありがとうございます。地域特性で良かったこと、ちょっと邪魔になったものってありますか?

佐藤正樹(以下、佐藤):私が学生の頃なんかは、「東京に行って、もう二度と山形に戻りたくない」みたいに、田舎から来たのをいかに隠すかという時代だった気がするんですよね。

ただ、今は逆に山形に帰ってきて、山形でビジネスをして、山形の良さもすごく感じています。地方でものづくりすることで、私なんかは「山形」というのをすごくキーワードにしてビジネスをしてるんですが、物を作る環境や物の流れも山形で作っている。

「山形だから作れる」ということをブランドのキーワードにしていくと、「あの人って山形の金髪の人でしょ」みたいな。実は、一昨日も三越伊勢丹でうちの工場見学のツアーがあって。夜はディナーショーをやったりと、「山形まで来ることが楽しい」という環境を作ることも大事だと思います。

地方の魅力は「ストーリー」があるかないかで変わる

佐藤:今の若い子たちみんなが、昔みたいに「都会がすごい」って本当に思ってるかというと、決してそんなことはなくて。だから、田舎の地方が意外に(地方の価値を)わかっていなくて、東京を追いかけようとしちゃうから、東京を真似した町作りしたりとか。

廣岡:そうですね。

平田:あるある。

廣岡:新しく駅をきれいにして、3階建てでエスカレーターつけたりとか。俺だったらそうじゃなくて、さくらんぼの収穫の時期に金髪で駅長になって切符切りをやって、(観光客に)昔の切符を手に取ってもらったりとか。

廣岡:ストーリーですよね。

佐藤:いかに田舎にストーリーがあるかで、これから地方の魅力を出すことができる。欠点は、やっぱり地元の人。うちもいろいろなことをやって、自分のブランドの服が日本で一番最後に入った店が山形だったんですね。

山形の人は自分の地元で作ってるものをすごいと思われないというか、一番最初にニューヨークでやって、パリでやって、東京でやって、大阪でやってと都会から入っていって、「最後に山形の店」かって悲しかったんですけども。でも、認知されるとすごく応援してくれるのも地方の良さかなと思います。

廣岡:なるほど。

地方のほとんどは「東京」という街しか見ていない

藤野:今の佐藤さんの話を踏まえてお話ししたいことがあるんですが、このセッションの1つのきっかけは、事務局と今日のセッションをどういう会をしたらいいのかを話した時に、「地方で尖ってる人を集めてやろうよ」という話をしたんですよ。

ほとんどの地方は「自分の地方」と「東京」だけ見ていて、他の地方を見てないんです。富山だと富山、もしくは石川ぐらいまでは見るけれども、あとは東京を見て、たまに東京へ出張して情報を取りにいくんだけど、これは全県そうです。

山形県であっても、それが熊本県であっても、沖縄であっても、自分の地域と東京だけを往復してるんです。東京との比較で、地方のことを話してるんです。だから「米がうまい」「自然が美しい」「人情がある」というふうに言うんだけれども、これは他の地域にも全部あるんですよ。

佐藤:ありますね(笑)。全部そうなんです。

廣岡:どこに行っても米がうまい(笑)。

藤野:全部ある。どこへ行っても米がうまいんですよ。

廣岡:日本は米所ですから。

藤野:そう。本当に米がうまいんです。そのことを知らないと、自分たちにどういう特色があるのかはわからない。

他の地域にいる“尖った人”から得られる学び

藤野:僕がいつも言うのは「富山の人こそ他の地域に行こう」ということです。他の地域の尖った人たちと話すほうが、学びが深いんです。それはなんでかというと、地域課題はよく似ているところがあるから。

その地域の中で尖ってる人たちの元へ学びにいったほうがいいし、他の地域で尖ってる人たちが遊びに来たら、絶対になんでも教えてくれるので。

廣岡:なんでも教えますね。

藤野:めちゃ教えます。本当に教えますよ。なので地方を回ったほうがいいんですよ。僕が富山県の人に伝えているんですが、富山県の人がとにかく地方を考えて、他の地方のベストプラクティスを集めまくったら、富山県は絶対に強くなりますよ。

なぜなら、他の県はしてないから。だからぜひそれをやろうということで、その皮切りに今日の登壇者に来ていただいたので、ぜひみなさん受け入れてください(笑)。

廣岡:受け入れてください。お願いします。全国ツアーが始まります。

藤野:みなさん連絡してね。

(会場拍手)

藤野:ほらほら、拍手が出たよ。

廣岡:「しあわせる。富山」のツアーが決定しましたね。北から順に(巡っていきましょう)。

自分たちの町の「いいところ」を理解する姿勢が必要

佐藤:今日はBed and Craftに泊まったんですけど。そういう商業施設があるのを知らなかったんですよ。泊まって思ったんですが、細かいところまで含めてこだわりがすごいなと思うんですよね。朝、歩いてここまで来たんですが、「こんなところにこんなのがあるの?」っていうぐらい。

廣岡:本当にそうですよね。

佐藤:宿泊も朝ごはんもすごく心地よく、楽しませてもらって、「今度うちの社員も連れてこよう」とか思ったりしたんですが、そういう横のつながりっていいですよね。

廣岡:いいですね。いろんな地域を回って、そこの地域の特性を聞かせていただく前に、我々県民が自分たちの県や自分たちのいいところをちゃんと歴史上理解するのも大事だなと思いますね。

僕も京都の伏見区で大学生をやっておりまして、その時に伏見区つながりで近いところに住んでたんです。大学時代にバーテンダーをやっていて、観光地でイタリア人・フランス人が来た時に、「お前どこ出身だ」と聞かれて、「富山だ」って言ったら、「富山の何を知ってるんだ?」と。何も答えられなかったんですよね。

そしたら彼らは、自分の地元のイタリア、フランスについて「こんな城があってどうのこうの」と、つたない英語で教えてくれるんですよね。そのあり方が、これから富山に必要なのかなと思いました。ありがとうございます。

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