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人と組織のパフォーマンスを上げる4ステップ ロバート・フリッツ新刊『マネジメントの正念場』出版記念セミナー(全4記事)

なぜ上司は部下に「余計な手出し・口出し」をしてしまうのか マネジメントの「やり方」を知らないと“自然発生”する問題

Evolving合同会社主催で行われた『マネジメントの正念場 真実が企業を変える』刊行記念セミナーより、共著者のロバート・フリッツ氏の講演の模様をお届けします。ロバート氏は『学習する組織』著者のピーター・M・センゲのメンターとしても知られており、人と組織のパフォーマンスを上げる方法「MMOT」を開発した人物です。本講演では、期待と実態のズレが起きた時にどのようにマネジメントをすればいいのか「MMOT」のエッセンスを解説。本記事では、参加者より寄せられた「MMOT」についての質問に答えました。 ※本記事のロバート・フリッツ氏の発言は、田村洋一氏の翻訳を書き起こしたものです。

「1人でやったほうが早くできる」という考え方はやめる

友末:では時間になりましたので、対話セッションを開始したいと思います。何名かの方はまだ質問を書かれていると思いますので、書き終わりましたら、合図をいただければ私のほうで回収にうかがいます。よろしくお願いいたします。

では、(会場の質問が)こんなにたくさんあったり、事前の(質問)もあったりしますので、さっそく始めていきたいと思います。よろしくお願いいたします。

田村洋一氏(以下、田村):「チームワークや分担が苦手です。人に仕事をお願いしても期待した成果が出てこないことが多く、それを修正する手間を考えると、自分1人でやったほうが早くできると思ってしまいます。その分、人より多くの仕事を抱えてしまいます。仕事の分け方、頼み方が下手なのだと思います。アドバイスをお願いします」というご質問です。

ロバート:それをやめてください(笑)。

(会場笑)

これは、自然にしているとこうなるのです。そうすると自分が燃え尽きるか、あるいは部下や他のチームメンバーの人たちが、力を使い切れない。力を余らせてしまうのです。

ですから、もともと得意だとか苦手だとかは気にしない。それは現在地です。そこからどこに行きたいのかが、重要です。

これがプライマリーチョイス(一次的選択)とセカンダリーチョイス(一次的選択を達成するため二次的選択)の関係です。もしプライマリーチョイスが、「良いチーム、仕事のできるチームを作りたい」ということであれば、自分がもともと苦手であっても、チームのメンバーと協同して仕事をする。それがセカンダリーチョイスです。

1人でやったほうが早くできるからと、仕事を抱えてしまう。このパターンのほうが、僕が話したパターンよりも、より一般的です。このような状況の人こそ、MMOTを学んで使うべきなのです。

「小さなことから始めること」がマネジメント成功の鍵

ロバート:さっきもお話ししましたが、MMOT導入の成功の鍵、全体的な戦略は、まず小さなことから始めることです。もうすでに危機的なことや、あと少しで危機的なことになる前に、小さなことからスタートする。

これは飛行機が飛ぶ原理ですね。飛行機が軌道を外れたら、修正する。外れたら修正する。外れたら修正する。外れたら修正する......。飛行機は、軌道修正されても腹を立てません。

(会場笑)

人間は腹を立てるのですね。特に夫婦の関係ではそうですよね(笑)。

(会場笑)

(手でジェスチャーをしながら)軌道を修正する、軌道を修正する、軌道を修正する......もう、わかったよ!!

(会場笑)

ですから、これは「どう向き合うか?」という姿勢なのですね。これはいったん学んだら、忘れることがない方法です。ですから状況にいちいち反応するのではなく、MMOTで進路を決めることを学ぶことが、自分にとってもメリットになります。

もう1つメリットがあります。部下の人たち、チームの人たちがしぶしぶ従うのではなく、積極的に足並みを揃えるようになります。

「コンプライアンスにしぶしぶ従う」のは、やりたくないけれども、しぶしぶ従うということですよね。「アラインメント=足並みを揃える」とは、足並みを揃えたい、一緒に力を合わせたいという方向になっていることです。

なぜマネージャーは「余計な手出し・口出し」をしてしまうのか

田村:「MMOTのレクチャーを聞くと、マイクロマネジメント、細かいことを直すことのように聞こえるんですけど、違うのでしょうか?」というご質問です。

ロバート:マイクロマネジメントとは違います。マイクロマネジメントとは、手出し・口出しをすべきではない時に干渉することです。

なぜ、マネージャーが「マイクロマネジメント=余計な手出し・口出し」をするかというと、「コントロールできないことをコントロールしたい」と思うからです。マイクロマネジメントはなぜ起こるかというと、仕事をするための十分な生産力、実務能力がないので、なんとかして動かそうとしてしまうからです。

マイクロマネジメントは、MMOTのように期待と実態の食い違いからスタートすることはありません。マイクロマネジメントは、部下の人がまるで仕事のやり方を知らない、頭がからっぽの人かのように、「こういう時にはこうして」「こういう時にはこうして」と手引きする。これがマイクロマネジメントです。MMOTをやればやるほど、マイクロマネジメントはなくなっていきます。

『マネジメントの正念場 真実が企業を変える』(Evolving )

友末:「詰めモード」の質問にならないテクニックを知りたいですとのご質問です。

ロバート:それはテクニックというよりも、取り組み姿勢ではないでしょうか。なぜ部下を詰めるのでしょうか? 部下を追い詰めるのは、どうやって部下を助けるか、手助けするか、力を貸すかというやり方を知らないからではないかと思います。

ある意味、今の質問の答えは、本を読んでトレーニングを学んで、やり方を学んで実際にやることです。「自然に気の赴くままにやっていると、部下を詰めるとかプレッシャーを与えることを自然にやってしまいがちだ」ということがわかっていて、MMOTというメソッドがデザインされているからです。

その人の「ベストな状態」は、本人よりも他人のほうがわかっていることも

ロバート:(手でジェスチャーをして)緊張構造はこれです。緊張構造のこの上の「望む結果」は、自分の部下、同僚、あるいは上司ですら、プロフェッショナルとしてこの上の方にある同じ位置の状態にいる。

本人が思っているよりも、他の人が見たほうが、「この人は本来このくらいできるはずだ」とわかっていることが多いのですね。「Optimal」という英語がありますけれども、「最高の」「最適な」という意味ですね。

「Optimal」の英語の意味は、「この人がなり得る最高の状態」という意味です。その人がなり得るレベル以上のものではなく、その人がなり得るベストな状態です。

ですからMMOTでやっているのは、その人のベストな状態、それをここ(上方)に置いて、今の状態、それをここ(下方)に置いて、いかにその人のベストを引き出して、その状態に引き上げてあげるか? そのための1つの手段として、MMOTを使うのです。

これには統計データがあります。いろいろな組織からの統計です。さっき、コストをかけずに25パーセントから40パーセント生産力を向上させることについてお話ししました。

これは実際の仕事のパフォーマンスに現れています。実際に仕事のパフォーマンスが上がる事実を突きつけられたら、目を背けるわけにはいかないですよね。

これで答えになったかどうかわかりませんが、なっているといいなと思います。

期待と実態がズレている時に、感情的にならずに向き合うには

友末:では次の質問です。期待値とのズレがあった場合、そのズレに感情的にならずに向き合うコツ、事実を伝える時のコツを教えてください。

ロバート:なぜ期待と実態が違うのか。実態が違うのは、何か誤解があったか、あるいは利益相反があったということです。文学では「先導的事件」といったりしますが、MMOTでは1つの状態からスタートします。

例えば小説で登場人物が酒場に入ったら、そこに死体が転がっている。そこから推理小説の物語が始まります。ロマンチックな映画、恋愛映画だったら、2人が出会い恋に落ちるという事件。でも何らかの理由で一緒になれない。それで、映画全体ができ上がるのです。ですからMMOTを起爆する最初の事件は、期待と実態に食い違いがあることです。

MMOTを日常のマネジメントで使っている企業の観察では、使えば使うほどその違い(差)が何かを正確に描写できるようになっていく。ですから、「何が期待か?」についての混乱がどんどんなくなっていくのです。

それは部下のレベルだけではなく、上司のレベルでクリアになっていくんですね。「期待がズレていない」ことになれば、感情的になることもないだろう、ということなのですね。

感情については、プロセス、メソッド自体が主観的ではなく客観的であることでデザインされています。それは「人が仕掛ける感情を感じない」ことではありません。

自分の仕事が期待に届かなかったと分かっている担当者、部下は、たいていがっかりしたり、相手をがっかりさせて悔しかったり、いろいろな感情を抱えています。これは主観的体験の領域です。ですからみなさん上司としては、主観的感情の体験からその人(部下)を客観的観察、理解のところに連れて行ってあげるのが仕事です。

主観的とは、「リアリティをこう感じる」ことであり、客観的とは、「現実が実際にこうである」ことです。ですから「感情をコントロールする」ことは必要ないのですね。それをする必要がないのです。

神経がやられても、すごく嫌な気分で気持ちがかき乱されていたとしても、客観的に期待と実態が違うことを認識することはできます。どんな気持ちであろうと関係なく。

自分の感情に流される「主観的」なやり方は、自分の立場を悪くさせる

ロバート:さて、自分が感情的な葛藤を抱えているから、この事実を無視し、これを正すチャンスももし無視したとすると、今後もまたズレがたくさん生じて、学習するチャンスが勝手にたくさん訪れることになります。

それから、自分の望む結果を実現したことによって、自分が感じること。これがプライマリーチョイスを支える、セカンダリーチョイスになります。

例えばみなさんがすごく感情的で、いろいろなことを気にしすぎる傾向を持っていたとします。体中が反応して、「何かと対決することは避けたい」「避けよう」と言っているとします。

しかしどんなに体が嫌だと言っていても、もし「部下を手助けして、その人たちの力を上げてすばらしいチームを作りたい」ことが「第一の目的=プライマリーチョイス」であれば、体がどんなに嫌がっていてもそれをやることができます。たいていそれはうまくいきます。

そしてまたもう1回やれば、またうまくいきます。何度やってもたいていうまくいきます。これを5回か6回、うまくいく連続の体験をすると、最初に感じていた「嫌だなぁ」という体の感覚や感情は、もう関係のないものになっていきます。良い習慣を身につけることによって、悪い習慣を断ち切ったのですね。

自分の感情、気持ちに従ってしまう、流されてしまうことのコストは、非常に悪い立場に自分を置くということです。そして客観的にこれに向き合うことによって、良い立場、良いポジションに自分を置くことができます。

組織として「足並みを揃える」こととは

ロバート:ですから、自分の価値の階層、価値体系の中で、どちらが大切なのかを知ることです。力を上げていくことが大切なのか、それとも嫌な気分になるような会話を避けることのほうが大切なのか?

もうこれは決定的だと思えるようなことを、1つお話しします。この今の2つの選択の中で、プロとしての選択は1つしかないのです。自分を甘やかすことは、プロの仕事の中では許されないんです。

自分は報酬と契約によって上位の価値をサポートする任務があるのですね。もしそれができないのであれば、その仕事が合っていないのです。そうですよね?

(会場笑)

これでもう完全にダメ押ししましたかね(笑)。

(会場笑)

友末:まさにプライマリーチョイスの話が出たのですけど、プライマリーチョイスに関して2つ質問をいただいています。

1つ目(の質問)は、プライマリーチョイスの合意が取れていないチームがあるとして、まず何をしたらいいですか?

ロバート:組織の中では、これは単純です。組織の中で上位にいるものが、それを決定します。なぜこれが単純かというと、組織の中では、見解に相違があったとしても、上位にいるものがそれを決定する権限と裁量を持っているからです。上の人は下の人に向かって、「もしあなたが僕の立場にいるなら、あなたが決めるが、僕は僕の立場にいるので、僕が決めるよ」と。

これが本当の足並みを揃える(=アラインメント)というものです。会議室でずっと話し合いをして見解が違うことをやり取りしているかもしれません。しかし決定が下されたあとは、部屋を出ていくチームはもう足並みが揃っているんですね。

もともと「だれの意見がどうだったか?」は関係ないのです。組織の中におけるチームとして、決めたことに従っていく。これは本物のプロフェッショナルであることで、本物のアラインメントです。これが僕の回答です。

緊張構造とは「1つのシステムの中で2つのポイントを望む状態」

友末:ありがとうございます。もう1つ、プライマリーチョイス関連(の質問)です。クリエイティブテンションは、ただ望ましい状況を描くだけでは生まれず、プライマリーチョイスがあって初めて生まれるものですか? プライマリーチョイスはトレーニングによってできるものなのか、だれもが当たり前におけるものなのか?

ロバート:まずクリエイティブテンションではなく、「構造的なテンション=structure of tension(緊張構造)」であることを言っておきます。

かつて一緒に仕事をしていたピーター・センゲが、これと同じものをクリエイティブテンションと呼んだ理由は、僕が「structure of tension=緊張構造」、構造という言葉を使った時に、ピーター・センゲのMITでのシステムダイナミクスでは「structure=構造」という言葉が少し違う意味で使われていたのですね。

僕がこれをクリエイティブテンションではなくて緊張「構造」、「構造的」と呼ぶ理由は、この緊張自体がクリエイティブなのではなく、根底にある「構造」が原因となって、いろいろな現象を引き起こすという意味で、この呼び方にこだわっているのですね。

マーティン・ルーサー・キングは、クリエイティブテンションという言葉を使いました。蔓延っている差別が緊張を作り出し、その緊張を解消する。そういう使い方でした。

この2つのデータポイントがあることによって、緊張が生まれること自体に、何もクリエイティブなことはありません。これは構造的なものなんです。「1つのシステムの中で2つのポイントを望む状態」になって、それが構造を作り出しているのです。

プライマリーチョイスは、自分が望んでいるものを“でっち上げ”て作り出す

ロバート:ちょっと技術的・専門的な話に時間を費やしましたが、2つ目の質問は、「どうやってプライマリーチョイスを生み出すのか?」でした。これは大きな秘訣です。でっち上げるのです。でっち上げる時は、何か実際に自分が望んでいるものをもとにして、作り上げていますよね。これは学校では教わらないことです。

学校ではプロセスを教わり、「そうするとこういう結果になる」と教わります。多くの経営技術には、プロセスがあって、結果がついてきます。それに対してアート・芸術分野ではこんなことはできません。

ジョージア・オキーフは「どういう絵を書くか、ハッキリわかっている」と言っています。ジョージア・オキーフは自分の書きたい絵がわかっていなければ、たくさんのキャンパスを無駄にするだけだと言っているんですね。

もっと具体的に、もっと単純に、重要なことがあります。みなさん、自分の人生があります。人生の中で欲しいものがあります。自分にとって、もっとも大切なことを中心に、自分の人生を作り上げていくことができます。

(それは)キャリアかもしれないし、生活のクオリティかもしれないし、健康、人間関係・パートナーシップ……こういったものがプライマリーチョイスになって、それに対応する現実との間に緊張構造が生まれるのです。

いったんこの「tension=緊張」が生まれれば、「どうやって自分の望むところに近づくのか?」というセカンダリーチョイスが生まれていきます。これが「創造プロセス」のエッセンスです。これで答えになっていますか? ただ、でっち上げる時には良いものをでっち上げてください。そのほうが気に入るでしょう(笑)。

(会場笑)

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