2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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友末優子氏(以下、友末):今日は『マネジメントの正念場 真実が企業を変える』の内容を中心にご講演いただきます。それではロバート・フリッツさんにご登壇いただきましょう。ロバートさん、よろしくお願いします。
(会場拍手)
ロバート・フリッツ(以下、ロバート):ありがとうございます。ここに来られて、とてもうれしいです。
この本の共著者であるブルース・ボダケンについて、少しお話ししたいと思います。ブルース・ボダケンは、哲学の大学教授としてキャリアを始めました。僕が会った中でも、最高の経営者の1人と言っていいでしょう。
『マネジメントの正念場 真実が企業を変える』(Evolving )
ヘルスケアや、ヘルスケアのファイナンシングに関心を持っていました。そして、健康保険サービスを提供するブルーシールド・オブ・カリフォルニアという非営利組織の会社に入社しました。
入社してまず、COOになりました。ビジネスだけではなく、現場で何が起こっているかという技術的なことも非常によくわかっていたんですね。その後ブルースがCEOに就任して、1週間経った時に僕に連絡をくれて、自分のエグゼクティブコーチ、そして自分の部下の経営幹部たちのエグゼクティブコーチに僕を指名しました。
ブルースはその後経営の職を離れて、また大学で哲学を教える仕事に戻りました。ブルースは非常に単純でわかりやすい経営の原則を授けました。その原則の1つは、「自分の部下を知るだけでなく、部下の部下まで掌握するように」ということでした。そしてもう1つの原則は、「意思決定する時はエビデンスベースでする」こと。
1ヶ月くらい一緒に仕事をして、(その間に彼は)10か12くらいの経営原則を作ったんです。僕はブルースにこう言いました。「これはすばらしい原則だけれど、これは誰もやらないよ」と。
なぜかというと、その会社の中で「お互いに本当のことを言い合う」という習慣がなかったからです。嘘をつき合っていたわけではありません。ただ、本当に礼儀正しく、良いことしか言わないので、いったい何を言っているのかお互いにわからなかったんですね。
そこで、僕はその後「MMOT(Managerial Moment Of Truth)」と名付けられることとなった(メソッドを)、ブルースとその計画チームのために開発しました。これが今夜のテーマです。
ブルースが社長に就任した時は、(ブルーシールド・オブ・カリフォルニアは)30億ドル程度の、旧態依然たる企業でした。そしてブルースが社長に着任後、5年で70億ドル以上の規模に成長し、市場の中で最も革新的な成長企業になっていました。
この結果に寄与した要因はMMOT以外にもあります。そのことについては『偉大な組織の最小抵抗経路』という、3年前に翻訳された本の中にも書いています。構造的に優れていて、実用的で、人が使いやすい原則を導入した、優れた見本だったんですね。
ではここから、MMOTがいったい何なのか具体的に話します。
まずMMOTは、お互いに、どんな時にも常に本当のことしか言わないというものではありません。MMOTは哲学ではありません。マネージャーが仕事をしている時に、期待していたことと実態にズレがある。これがMMOTのチャンスなんですね。実態と期待にズレがあった時、これを「正念場」と呼んでいます。
このズレは2種類あります。多くの場合は「期待に実態が届いていない」。別の場合は、「期待を実態が上回っている」。どちらの場合も、会社が成長するチャンスを提供してくれます。
多くのチームで一般的に、非常に出来の良いハイパフォーマーがいて、一方で平均的な中間の人たちがいて、時々何人かは、冷蔵庫の残り物のような、ちょっと難しい人たちがいます。“冷蔵庫の残り物”というのは、捨てるには惜しいけれども、食べるにはちょっと難しいものです。クビにするわけにもいかないけれども、一緒に仕事をするのはちょっと難しい。
MMOT、つまり「マネジメントの正念場」とは、期待と実態のズレのことです。
ズレがあった時に、マネージャーのみなさんには2つの選択があります。それを扱うか、無視するか。たいていの場合、マネージャーの人たちは、それを無視するんですね。
なぜマネージャーがズレを無視するかというと、多くの場合「たいしたズレじゃないな」と考えてしまう。小さなズレだからこのくらいはいいかといって見過ごしていると、だんだんそれが積み重なって大きくなっていくんですね。
期待に届かない実態がずっと積み重なっていくと、だんだん凡庸な人、パフォーマンス、組織になっていきます。何回かその食い違いを無視していくと、その人はずっとなんのダメ出しもされず、ずっと同じ仕事ぶりです。そして突然上司が怒りだすんですね。
非常に重要な原則を話します。葛藤があって、感情的な対立・衝突があって、この葛藤が強まることで行動につながるんですね。
突然叱責を受けることになった時、あんまりこっぴどく叱られると、じゃあなんとかしようということで行動に移すんです。行動に移ると、もともとの感情的な葛藤は和らぎます。感情的な葛藤が和らぐと、今度はアクションも和らいでくるんですね。
部下のパフォーマンスを上げてやろうと手助けする時に、どういうことがよく起こるでしょうか? つまり、厳しく何かダメ出しをしたり指導したりした時は、一時的に良くなるんですが、また元に戻ってしまうのです。
この原理を理解することが非常に重要です。小さな食い違いでも、それをきちんと扱って、もっともっと伝えていけば、やがてそれがその人を育て、チームの力につながっていくんですね。
ずっと食い違いがあるのに、「まぁこのくらいいいだろう」ってずっと見過ごして、最後に堪忍袋の緒が切れて、がーっと厳しいダメ出しをすると、この現象が起こります。
もっとひどい現象もあります。なんとかその食い違いを扱おうとして、あまりうまく指導できなかった場合です。そうすると、「前回言ってもダメだったからな」ということで、次に食い違いがあった時もあまりうまく扱えない。あるいは無視することになります。この状況では、マネージャーも「自分にやれることはあまりない」と、無力感を覚えます。
期待と実態にズレがあった時に、無視しないで、それが小さい芽のうちにきちんと扱っていくと、いくつかのことがわかります。
1つは、葛藤と行動のサイクルが起こりにくい、起こらないということですね。もう1つは、小さいうちにきちんと扱っていくことによって、仕事ぶりが改善する可能性が高まります。他にも良いことがあります。きちんと扱っていくことによって、フィードバックを受けた部下は、自分も会社の組織の一員だという意識を強く持つようになります。
では、ここで期待と実態のズレがあった時に、それをどう扱うか、僕が開発した4つのステップをご紹介します。
最初のステップは「期待と実態にズレがあったことを認める」。組織によっては、この「ズレを認める」が最も難しいステップです。まったく難しくない会社もあります。どうして会社によって違うのか、僕は深い知識・知恵を持っているわけではありませんが、難しくても易しくても重要性は変わりません。
このステップ1は客観的なステップです。主観的なコミュニケーションではなく、実際に期待したことと実態にズレがあったという事実を指摘するんです。
このステップ1をやっていくと、多くの場合、マネージャーがそもそも期待を正確に設定していなかったと気がつきます。この段階で学べることは、「上司が部下に何を期待しているか」をはっきりさせるということです。
「期待」が当初の期待と変わっていたり、あるいは変更されることもあります。例えば報告書の期限が水曜日なのに、今日は木曜日だといった時。その作業中に新しい情報が入ってきて、新しい期限が金曜日になっていたということもあるかもしれません。
これは期待を刷新しているので、まだ(期待と実態の)食い違いが起こっていないと気がつきます。
MMOTのステップ2は、「どうして、どのようにこのズレが生じたのかを分析すること」です。これは誰かがちゃんとデータをくれなかったからとか、システムがうまく動いていなかったといった、言い訳をするステップではありません。
ステップ2でやっていくことは、その人が「自分の仕事のマネージメント」をするために、どう計画して、どう実行して、どう終わらせたのか、マネージメントの考え方を振り返って分析することです。
多くの場合、マネージャーは「きっとこうだろう」という思い込みを持っています。それが現実には正しくないこともあります。
例えば、納期の遅れ。納期の遅れがあったとわかったら、最終的に間に合わせるためにどう考えて、どう動くのか。これは当初わからなかったことがわかった時に、非常にクリエイティブにトラッキングしてどうするかを考える、というステップですね。
ここで非常に重要なことがあります。このMMOTの会話をしていく時、期待に実態が届いていないわけなので、これを上司に言われている人は、当然感情的に居心地の悪い経験をしています。
なので会話が非常にうまくいっていて、いろんな気づきがあったとしても、最終的に部下が上司に圧迫されて、「なんとかしなきゃ」と感じていたのでは、せっかく気づきがあってもうまくいかない。
このMMOTのテクニックで最大の効果を引き出すためには、この原理を理解しておくことが非常に重要です。これがそれを示した図です。
上司が部下をプロとして見て、プロフェッショナルの成長や発展をサポートしていく。期待と実態にズレがあった時に、それを叱責したり批判したりするのではなく、これは学習のチャンスだと気がつくことが重要なんです。
さて、ステップ3は、分析して現実がわかったところで、その知識をもとに、次からはどうするのか。「次のプランをつくること」になります。最後のステップ4は、新たに作ったプランが実際にうまくいくかを確かめるための「フィードバックシステムを作る」。
この4つのステップを説明するのは難しくありませんが、4つのステップを機械的に、ただ知識として知っているだけでは十分ではありません。これを上司と部下の2人で、実際に起こった現実を一歩引いて客観的に眺めて、それを理解して、学習して活用しようという、「実際にどうやってやるか」という部分も大切なんですね。
では社長のブルースがどうやってこのメソッドを導入したか。まず自分自身と、自分の部下である経営幹部の12人くらいのチームだけでMMOTをやりました。導入してから2ヶ月試したんですね。その後、そのトップの12人に上層部30人を加えて、さらに4ヶ月導入しました。その後、次の上層部100人に導入しました。
会社全体で「今日から改革するぞ!」とドーンとやるのではなく、まずは自分たちトップから、うまくいくことを確かめて、それを体現してお手本にして、上から下へと浸透させていったんですね。
このプロセスでいくつか驚いたことがありました。1つは、このMMOTがどういうものかを知った社員たちは、「これは自分のプロとしてのキャリアのプラスになる、自分を後押ししてくれる」とすぐに気がついて、喜んで使い始めたんですね。
もう1つ発見したことは、本当に驚くべきことでしたが、組織の実績、パフォーマンスと実力とキャパシティを、25パーセントから40パーセントくらいの比率で高めることに成功しました。これはビジネスの観点からMMOTを導入するメリットがあるという話です。
大きなコストをかけずに、25パーセントから40パーセントの生産性向上を図れるとしたら、これは非常に大きいことです。
ここで、ポジティブなMMOTについても簡単にお話しします。非常に良いパフォーマンスを出して、目標を超えるような優れた実績を上げると、その人はたいてい賞賛されますが、組織としては何も学習しないで終わることがあります。もし期待を実態が上回っていたら、なぜ、どのように上回っていたのか、そこから学びたいんですね。
そこで期待を実態が上回るポジティブな場合にも、同じ4つのステップを導入します。ステップの1は、その違いを認めること。ステップの2は、どういうわけでそうなったのかを分析すること。
ステップの3は、次のプランはどうするか。特に良い実績を上げた人以外の、他の人たちがそこから学んで、パフォーマンスを上げることができるか。そしてステップ4は、フィードバックシステム、この新しいプログラムがうまくいくように広げること。
ここで、自明の理とも言えることをお話しします。フェアなゲームでは、みんなフェアにプレーするんです。アンフェアなゲームでは、フェアにプレイしません。つまりアンフェアなゲームでフェアプレイはできないんです。アンフェアなゲームでフェアプレイをしようとしたら、打ちのめされてしまいます。
MMOTを導入することで何をやっているかというと、組織の中でフェアプレイができるゲームを設定しているんです。
MMOTを知った社員の人たちが、会社内だけではなく、家に帰って子どもたちにMMOTを使うようになったんですね。すばらしいことでした。息子や娘と話す時に、「これが期待したことで、これが実態だ」と話すんですね。その時にいろんな言い訳を聞くのではなく、規律をもって何が起こったか、客観的に事実を聞いたんです。
そうすると、じゃあそれをどうするかというプランが生み出されることになり、そのプランがうまくいくためのフィードバックシステムを作ったんですね。
このトレーニングプログラムは僕が作ったんですが、MMOTを開発した後、ビデオ教材などを作って、実は今年株式会社日本マンパワーで日本語のプログラムも開発されて、今提供されています。そして本も出版されて、世界のあちこちで翻訳されて、世界中に紹介されることになりました。アメリカだけでなく、カナダ、アフリカ、ヨーロッパ、メキシコ、南アメリカ、あちこちでMMOTに効果があると実証されています。
今回、このMMOTという本が新しい完全なかたちで翻訳されたことに感謝したいと思います。アメリカではSimon&Schuster(サイモンアンドシュスター)という大手の出版社が原著の版元です。後でわかったのですが、この本の最初の日本語の翻訳は不完全でした。いろんなニュアンスが間違っていたんですね。
ですから、新刊の翻訳が完全な翻訳で、非常に正確であることに感謝しています。ありがとうございます。糸賀社長、ありがとうございます。
(会場笑)
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