2024.10.21
お互い疑心暗鬼になりがちな、経営企画と事業部の壁 組織に「分断」が生まれる要因と打開策
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沢渡あまね氏(以下、沢渡):小田木さん、僕の(スライド)右下の空欄に書いていただきたいことがあります。
小田木朝子氏(以下、小田木):はい、書きますよ。
沢渡:「正しい成長イメージが持てる組織にしよう!」「良い人が集まる」。
有馬充美氏(以下、有馬):そうですよね。「女性管理職の比率が高いと企業の株価が上がる」というデータがよくありますが、それはちょっとミスリーディングだと思っていて。相関関係はあるけど、たぶん因果関係ではないと思っていて。
沢渡:そうですね。
有馬:男女に関わらず人材を非常に大切にして、成長機会を与えているからその会社は伸びている。
公平に機会を与え、評価をしている結果、女性が平均的な会社に比べて多くなっているのであって、それなしに女性管理職をむやみに増やしたから業績が上がるかと言えばそれは疑問です。「女性が活躍している」ということが、「人材のポテンシャルを活かしている」ことの代理変数になっている。
一方で、ノルウェーではクオーター制を導入したら企業の業績が落ちたという例を出して「女性を活躍させる必要があるのかどうか」というふうに、どんどん議論が変になっちゃうんです。そうじゃなくて、「男女含めて人材がいきいきと活躍している会社は伸びるんだよ」ということを(株価は)示しているんだと理解しています。
沢渡:そうですね。一過性で見た目だけ株価が上がっても、今の時代はその後、内部の声で事実が露呈されちゃいますからね。
有馬:そういうこともありますね。そういう観点も踏まえて、今は人的資本だとかESGという流れが来ているわけですよね。
沢渡:はい、おっしゃる通りです。
小田木:「女性」とか、いろんな枕詞をいったん置いといて、お二人のお話を聞いていると「『正しい成長』をどう描いているのか」「その要件がうちの組織にとっては何なのか」ということに終始しますよね。大きなキーワードとしては、「正しい成長を描く」「その要件を定義する」で、そのためのプロセスを組織の中に作っていくということ。
沢渡:そうですね。
小田木:一貫した筋が見えてきました。
沢渡:そのためにも、一人ひとりが「正しい成長って何なんだ?」ということをきちんと言語化して、発信して、共感者を増やしていく。
有馬:そうですね。「正しい」という言葉も、若干響きがあれですけど。自分の能力ややりたいことがあって、それが社会や組織の「こうあってほしい」と方向性が合致している。そういう組織と人の関わりをどうやって作っていくか、ということですよね。
沢渡:そうですね。人の組織において「何が正しいか」「何が正しくないか」って、結局対話とコンセンサスなんですよね。
有馬:さっきどなたかのコメントで「何度課長に提案してもなかなか伝わらない」とありましたが、あるあるだと思いました。これもさっきの話とちょっとつながりますが、女性は自信がなくて、リーダーシップを発揮するのが難しいこともある。そういう中でちょっと勇気を出して、自分の考えを表現するチャレンジをしていただきたくて。
有馬:私の場合はたまたま、自分なりに勇気を出して、何か思い切ったことをやろうとした時には必ず拾ってくれた人がいたんですね。最初、ほとんどは「そんな非常識なこと、この会社ではしないよ」みたいな反応だったんですけど(笑)。
小田木:非常識(笑)。
有馬:最初の留学だって、「女性が留学なんて絶対にできないよ」という中で、人事の担当者の方が「女性を留学させるべきだ」とがんばってくれたり。
留学から帰ってきて「営業担当をやりたい」と言ったら、「銀行の中は良くても、お客さんから『女性の担当をつけるなんて我が社を軽く見てるのか』と言われると困るから、絶対に無理だ」と。一般的にはこう言われていたんですが、とある部長が「自分のところで引き取ってやらせてみる」と言ってくれたりね。
こんな感じで、必ず支援してくれる人がいたからずっと同じ会社で続けてこられたんですね。どうしてもそういう人が現れなかったら、むしろ早く見切りをつけて辞めたほうがいいと思っていて(笑)。そんな会社に未来があるのか? っていう。
多様性を活かせずに、社員のやりたいこと、私利私欲じゃなくて本当にいいと思っていることを試させてもくれない会社に未来はあるのか。
沢渡:スパイス来た。
有馬:(笑)。
小田木:スパイス来ましたね。
有馬:自分を卑下することなくね。
有馬:以前、日本マクドナルドのCEOのサラ・カサノバさんの講演を聞いたんですよ。今のマクドナルドは絶好調ですが、これは鶏肉偽装問題とかいろいろあって、そこから再生する時のことです。
ある1人の女性が、当時の苦境を打破するためのアイデアを思いつき、それを直属の上司に提案をしたけど「そんなの無理だ」と却下されたと。
でも諦めずに、その上の上司に提案してもダメで、さらに上もダメで、最後は社長に直接「こういうことをやりたい」とメールしたそうです。それで、カサノバCEOが「やりましょう」と。それでやってみると、ずいぶん会社の雰囲気が変わったそうなんですね。カサノバさんは、日本マクドナルドが再生したのは彼女のおかげだって言ってました。
1人の思いが、意外に組織を動かすこともある。声を上げてみたら、それに対して共感してくれる人が実はいる。少し勇気を出して、あきらめずにやってみる。それでもダメだったら、その会社は見切ったほうがいい(笑)。
沢渡:そうですね。有馬さんのスパイスに、僕がちょっとココナッツミルクを加えるとすると。
有馬:甘くするんですか?(笑)。
沢渡:今日は大企業の方の参加が多いと思うんですが、大企業であればあるほど、意外に共感してくれる人が見つかりやすいんですよ。
有馬:そうなんです。みんな黙っているんです。
沢渡:そう。人口が多いからね。だから、やっぱり対話する接点を増やしていくことがすごく大事で、それでもダメならもう辞めりゃいいんですよ。
小田木:本当に、大企業の魅力ってそこだなと思います。(大企業は)「多様な考えと価値観を持った人が存在する大きな組織である」ということだと、あらためて感じました。
沢渡:「じゃあ、中小企業の私たちはダメなの?」と思われた方に、ここでいいお知らせがあります。
有馬:(笑)。
沢渡:ITを使えば、地域の中小企業と共感できたり、同じ立場同士で越境してつながることができる。そうして合意形成していったり、何か仕事の解決につながることを一緒に始めてもいいと思います。そうすれば、本来業務の価値創造につながっていきますから。デジタルもアナログも使いながらの、“総合コミュニケーション格闘技”が大事なのかな。
有馬:そうですね。自分の考えが正しいかどうかを考える意味でも、世の中に出てみて、いろんな方とつながってみる。そうすれば「やっぱりそうなんだ」「自分の考え方はそんなに独りよがりでも、突飛でもなかったんだ」と感じられたりもするから。
沢渡:そうそう。
有馬:会社の中だけにいると、自分がすごく異端な感じがしてくるから。
沢渡:「俺、ダメな子なのかな?」みたいなね。
有馬:「私が変なのかな?」って思うけど、外に行ってみたら意外に「そうだよね、そうだよね」みたいな。
沢渡:そうですね。
有馬:そこで「これは言ってみる価値があるかも」という勇気をもらうためにも、自分の外、会社の外につながりを持つことはすごく大事だったと思いますね。
小田木:自分の中に外部の視点を持つことは、さっき有馬さんがおっしゃった「自己キャリアをどのように評価するのか」「次にどんな経験を積むべきか」「どういう戦略や機会を探求していくのか」などにもつながる話だと思いました。
小田木:かなり盛り上がっていますが、次のプロセスに進んでもいいですか?
沢渡:そうですね。まだ3番目が残っていますね。
有馬:どうぞどうぞ。
小田木:いつも時間との戦いなんですよね。ということで、「要件の言語化」まで進んできました。今の要件を組織的に実現していく、個人も組織もハッピーなかたちに仕掛けていくための最後のポイントです。
「人事ができる現場への支援」「組織的に働きかけていく要点」を2人に聞いてみたいと思います。では最後に「人・組織に関わる私たちに元気をください」ということで、お願いします(笑)。
沢渡:では、ここも有馬さんからお願いできますか?
有馬:そうですか? 今のでずいぶん申し上げたような気もしますけど。
小田木:そうですね。いっぱいエッセンスが出てきたので、まとめに入っていきましょうか。
有馬:旧来の人事部さんは、わりと人材をマスで管理をしていましたよね。新卒を一括採用して、同じようなタイミングで集合研修をして、同じような年代で課長に昇格させる……。
沢渡:大量採用みたいなね。
有馬:大量採用で。用意されているいろんな研修や制度も、わりと典型的なパターンの人に焦点を当てていた。でも今は新卒だけじゃなくて、中途の方も含めてこれだけ多様な人が入ってきている。
あるいは、人それぞれいろんな事情があったり、やりたいことがあったりする。根本的に人事の役割をどう考えるのか、というすごく大変な時期に来ているんですよね。
有馬:なんでも欧米のようなジョブ型にすればいいのかというと、必ずしもそうではないと思うし。やっぱり、「仕事のゴールが何であるか」「それに必要な能力は何か」「そのためにどういう人材が必要か」「その人が今後成長していくためにはどういう支援をしていくのか」という、一人ひとりにパーソナライズされた支援が求められていると思う。
そういう能力を人事部だけじゃなく、現場で部下の支援に関わっている方も含め、組織として作っていく。そうしないと、今や日本型のモデルじゃ太刀打ちできなくなっているので。今までの人事の仕事を、根本的に全部見直さなくちゃいけないと思うんですよね。
沢渡:まず、人事に「変わる覚悟」が必要なんですかね。
有馬:人事は私の目から見ると……ちょっと人事部の人たちにはスパイスが効きすぎて、耳が痛かったら申し訳ないんだけど(笑)。
沢渡:またスパイス効かせちゃうんだ。
有馬:銀行員時代にいつも思っていたのは、人事が情報を独り占めしているということです。例えば「自分の部下がよくやっているから昇格させてあげたい」という話をすると、「いやいや。もっとよくできるAさんという人がいるので。それに比べてこの人は……」みたいな。
そういう情報を全部人事が握っているんですよ。だから、「私は一体、自分の部下にどうやって動機づけしてあげればいいのか?」と、いつもすごく無力感を覚えていたんですね。もっとそういうことがオープンになったらいいなと。
沢渡:グサリときた。
有馬:今までは、ザッとすくって網に残った人だけでやっていけばよかった。人が豊富にいた時代はそれでよかったのかもしれませんけど、今は少子化だし、本当に一人ひとりが大事なんですよね。
一人ひとりが持っているポテンシャルをどう開花させてあげればいいのか。これを考えることが人事の一番大事なお仕事だと思うので、ぜひみなさんそこのチャレンジをしてほしいです。
沢渡:めちゃめちゃ共感します。
有馬:それが本質的なところですね。
小田木:「響きますね」というコメントもいただいています。
有馬:あとは個人としても、今までは人事が「ここに異動しろ」「ここで研修しろ」みたいに、いろんなことを「やれ」と言ってきたことに乗っかっていればよかった。でも、これからは自分のいる会社そのものが沈むかもしれない時代なわけです。
沢渡:そうですね。
有馬:そんな中では、常に自分が主体となって自分のキャリアをどうするのかを考えないといけない。残念ながら日本は、社外でも社内でも「自己啓発」というのか、自ら勉強している人の数も、そのためにかけているお金も欧米やアジアの国と比べてとても少ないわけです。
沢渡:悲惨ですよね。
有馬:その理由を聞くと、「勉強する時間がない」「お金がない」「勉強したとしても、それがどう活かされるかわからない」みたいな、それこそ「ないないづくし」なんですよね(笑)。
だけど今後、仕事の定義やスキルの定義がなされて、「そのために、あなたは今こういうことをやらなきゃいけない」ということがはっきりしてくれば、一人ひとりがもっと「いくつになってもずっと学び続けよう」となるはずなんですね。それでも学ばない人は、もうそれでしょうがないかなと(笑)。
私の主宰する「一瞬一生の会」では、オン・ザ・ジョブでの一瞬一瞬が学びのチャンスであり、それを一生続けることが喜びであり、楽しいことでもあるとお伝えしているんですね。本当に、それが“最大の失業保険”だと思っているので。
組織の中にいる個人個人も、良い緊張感の中で変わっていかなきゃいけない。そういう時代になっていると思います。3つじゃないんですけど、大きくはそんな感じですね。
小田木:「人事と個人」という対比を描いていただきました。ありがとうございます。
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