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MBA or 起業?アメリカエリート層のキャリア観と人材活用の違い(全3記事)

恥をかいて「弱さを見せること」も、リーダーの資質 人間性を重視する、アメリカエリート層の「リーダーシップ」 

日本とシリコンバレーを繋ぐコンサルティング会社TOMORROW ACCESSでは、シリコンバレー発の業界エキスパートが最新情報を解説する「01 Expert Pitch」を開催しています。今回は「MBA or 起業? アメリカエリート層のキャリア観と人材活用の違い」をテーマに、元SAPシリコンバレーで現在はダートマス大学MBAプログラム在学中の坪田駆氏が登壇したピッチの模様を公開します。最終回の本記事では、MBAの就活事情について、坪田氏がMBAに通う中で学ぶ「リーダーシップ」について語られました。

MBAに来た理由は、アメリカで上を狙っていくため

傍島:それでは引き続きプレゼンをお願いいたします。

坪田:ありがとうございます。私がなんでMBAに行ったのかという話を少し......。

一部シリコンバレーでも働かせてもらいましたが、基本的には日本でキャリアを積んできました。IT業界、つまりアメリカを中心に産業ができあがってる業界の中でキャリアを作っていこうと思った時に、なんとなく「やっぱりアメリカに出たほうが、自分のキャリアの伸びしろとしてあるだろうな」と、すごく純粋に思ったんですね。

さっき傍島さんにもお話をしたんですけど、その中でいろんなパスがあると僕は思ったんです。自分が少しアメリカに進出したことを活かして、そのままその会社の中で、アメリカでがんばっていく可能性もあったと思いますし、MBAを挟まなくても、そのまま応募する選択肢もあったと思うんです。

もちろんビザの問題もあるし、そもそも移民が活躍しにくい環境っていうのもある。いろんなことを考えた時に、短期的な4,000万円の出費っていうのを除けば、MBAを出て上を狙っていくのが、自分のキャリアの中ではリーズナブルかなと思ったのが、MBAに来た理由です。

仕組み化されたMBA生の就職活動

坪田:私の2年間のフォーカスは、いかにアメリカの就職をちゃんと勝ち取って、この選択を肯定できるようにするかということと、アメリカの中で日本人としてというより、一移民としてどれぐらい戦えるかということを見てみたい。

だから在学中はいろんなことに手を出そうと決めて、それが今の生徒会の活動とかいろんなクラブのポジションになっていて、毎日力試しをしている感じです。

傍島:なるほど。アメリカのMBAに限らず、こういうスキルをつけると選択肢は増えますよね。いろんなことができるようになりますよね。

坪田:そうです。まさに傍島さんに言っていただいたとおりで。アメリカは本当にアンフェアな環境だというのを日々痛感しています。要は自分がえこひいきされる立場に回れば、ものすごく加速度的に機会が降ってくる。学校の中でもそうですし、学校を卒業した後の就職の機会でも痛感しています。

就職の話で、例えば自分自身の就活の様子を考えたんですけど。まずMBAの就活は、ものすごく仕組み化されてます。何を言いたいかというと、我々はそこらへんの、社会人経験が5〜10年ぐらい経った人向けの中途採用に応募していくわけではなくて、MBA生を雇いたい企業が、MBA生を雇うための待遇を用意しています。

その枠に、世界中のMBA生がわーっと応募をして、その中でしのぎを削って、そのポジションを勝ち取っていくという就活戦線があります。なので「MBAに行かないと入れない環境」があるんです。

就活は入学前から始まっていることも

坪田:私の去年のクラスメートがいつオファーをもらったかというものです。何を言ってるかというと、9月に入学をして、2年間勉強していくのが基本的なアメリカのMBA生のパターンです。

1年終わった後に夏休みが来るわけですね。その間に、自分が働きたい会社でインターンを3ヶ月ぐらいして、そのさらに1年後、卒業後の就職のオファーを勝ち取っていくというのが、ものすごく基本的な流れになります。

だから(就活は夏休みが始まる)7月から始まってるんです。これ(左のグラフ)は入学前のデータから始まっていて、いわゆる入学前からすでに1年後の夏休みのインターンシップを獲得した人間もちらほらいるんです。

9月に入学した後に、この3ヶ月はもう死ぬ気で就活をやって、12月ぐらいからだんだんと増えて、2月にピークになって、8月の夏を迎えて、3ヶ月間インターンをして、基本的にはそこですでに1年後のオファーが精査をされて、いいところの会社はもうそこでバックで動いています。

小川:すごい、早い。

坪田:テック企業なんかも、ものすごいヘッドハントしてると思います。もちろん景気に左右される部分は非常に多いんですけれども、だいたい1年サイクルで決まってくる通常のハイヤーのヘッドハントとは別に、幹部候補生を雇うための資金とその枠は、各企業がしっかり用意してる。

それがどれくらいの数かということです。私が見た中でも5,000件ぐらい求人をなめて、その中で自分が応募したい会社を74社選んで。結局72社通って、でも面接は8社しか呼ばれなくて(笑)、内定1社で、一番初めに内定もらったところでは夏のインターンを決めました。

最終的に来年のオファーももらえたので、今はまだサインしてないんですけど、そういう状況です。

傍島:もう来年の採用までオファーをいただいたんですか?

坪田:はい、もらいました。

傍島:すごい。おめでとうございます! 

小川:おめでとうございます! 

坪田:ちょっと金額はさすがに言えないんですけど、いつ入社してもいいよと。

傍島:へ~。

坪田:この1年の間、もしくは期限がないんですよ。だから極端な話、5年後に入社してもいいオファーになってました。

小川:すごいですね。

坪田:あまり短期的な投資じゃなくて、中長期的なんですね。もちろん基本的には来年卒業したらすぐ入る前提で出てるんですけど、そのあたりの縛りがないオファーが、どんどん出てくるわけですね。

傍島:K-POPアイドルの熾烈さよりもすごそうな……(笑)。

小川:確かに(笑)。

MBA卒業後の基本給平均は約2,000万円

坪田:ちなみに私はIT業界のバックグラウンドがあってIT業界に応募しているんですが、それでもapplicationを72件出して面接は8社しか呼ばれていません。これはもちろん僕の経歴が大したことないっていうのがもちろんあると思うんですが、だいたいみんなそんな感じなんですね。

だから、そもそも勝負する母集団がぜんぜん違うんです。私の友だちだと500人ぐらいのチームを率いていた人間がいたり、オリンピックの金メダリストがいたり、アメリカの大統領オフィスのコロナの専門対策チームの一番上のリーダーが来たり。

さっきのトレーダー・ジョーズのオペレーションの責任者がいたり、非常にいろんなバックグラウンドを持った人間が受けているんです。そういう人間と戦っていくとなると経験が足りない。そういう感じですね。

ちょっとこのあたりも、みなさんにもし興味があればと思うんですけど、ざっくりと待遇の話を少しだけ。実際もう公開されてる情報で、Employment Reportがあります。

私の学校の、2021年の卒業生の給料のデータです。ざっくりなめると150kドルぐらい。日本円にするんだったら、2,000万円近くのベースサラリー(基本給)が、だいたい5年ぐらい働いた人間にポンと出ると。今年は……。

傍島:ベースサラリーですよね。2,000万円をいただいて、プラスアルファもあるんですよね。

坪田:はい。プラスアルファがどんなもんかっていうのは、ちょっとみなさん驚かれると思います。あとでまたお話をします。

例えば、マッキンゼー・BCG・ベインみたいな、いわゆる戦略コンサルティング。本当に頭を使って仕事をしていくようなコンサルティング会社のオファーは、ベースが今年200kドルぐらいに上がっています。だんだん高騰しているんですね。これはインフレにあわせてっていうのもあると思いますし、いろんな事情があると思います。

アメリカで「リーダーシップ」を学ぶ価値

坪田:最後にちょっとだけ、当時お約束した順番と少し入れ替わっちゃったんですけど。私がMBAですごく勉強になっていることは、もちろんお金を稼ぐための場所でもあるんですけど、すごくいろんな環境でのリーダーシップを学べるんです。

特にアジア人はだいたいそうだと思うんですけど、同じ言葉をしゃべって、同じ見た目をした人たちの中でどうやって勝負していくかというのと、(多様な人種のいる)アメリカの中でどうやってリーダーシップを取っていくかっていうのは、ぜんぜん違います。そういうところも生々しく学べています。

例えば私の仕事の1つで、小さな仕事なんですけど、献血を誘致するという仕事があって。この間、そのメールを全体に流したら、LGBTQのコミュニティから少し怒られました。ゲイの人は、ちょっと問題なんです。

基本的にはパートナーの方とAIDS(エイズ)がないことを保証できないので、献血ができないんです(※注 献血前の男性パートナーとの性交渉について、アメリカでは3ヵ月の待機期間が制限として設けられている。2020年4月までは待機期間が1年間であった)。

献血自体が少し、色を持っているものだと。すごく局所的な話ですけど、そういうことをわかっていないといけない。企業でこれをやっていたら一発でクビになります。やっぱり自分が成功していくために学ばなきゃいけないことがものすごいあるなと。

あとは例えばよくある男性クラブみたいなのを作ったら、その瞬間に問題になって謝罪沙汰になったりとか。いろんなことを私も経験できたなっていうことですね。

自分自身を開示して恥をかき続けることを肯定してくれる環境

坪田:これは私と友だちの写真で、サマーキャンプみたいな感じですね。

小川:気持ちよさそうですねぇ。

坪田:みんなで楽しく。冬はマイナス20度ぐらいなんですけど。

小川:あ、寒い(笑)。すごい。

坪田:あとこれ(写真)はちょっとわかりにくいと思うんですけど、みんなでパブリックスピーキングするイベントがあって、自分の原体験とかを話すんですね。

私も実はスピーカーとして、去年、自分が留学生としてどれぐらいしんどい思いしてるかみたいなことを話したんですが、ものすごく反響があって、150通ぐらい手紙をもらいました。右側の写真ですね。

自分自身を開示して恥をかき続けることを肯定してくれる環境だなと。これはアメリカらしさもあるし、やっぱりビジネススクールに来ているエリートは、人間性みたいなことを(重視するんだなと感じました)。

小川:どういったご意見が一番多かったんですか? 

坪田:やっぱり私が自分の弱みを見せて、アジア人として、もしくはアメリカ人ではない人間としてここにいることがしんどいという話をした時ですね。留学生だけじゃなくてアメリカ人からも「自分も同じような気持ちを抱いて、本当に代弁してくれてありがとう」ということを言ってくれた人が多いです。

「弱さを見せる」ことが、リーダーの資質でもある

坪田:だからアメリカのリーダーシップって、なんとなく旗を振って「俺についてこい」みたいな、そんなイメージを私は持ってたんです。でも、日本語でちょっと言い方わかんないですけど、vulnerability(脆弱性)というか、繊細さというか、弱さを見せるということが、リーダーの資質としてもよく言われています。

日本でもサーバント・リーダーシップって、よく話に出るんですけど。つまり自分が手本になって人間らしい姿を見せられると、ついてくる人はついてくるんです。アメリカのリーダーシップ観もすごく変わっているなぁと感じています。

今日の趣旨に話を戻すと、こういうことを300人のエリートの中で学んできた人たちが、社会にうわーっと出るわけですよね。そのタイミングで、アメリカの企業がばーっと食いついたわけです。

今日のご参加されてるみなさんの観点でいくと、日本という国の人材競争力もそうですし、そういう人材が作ったビジネスの競争力という観点でも、どうやったらこういう環境で来た人たちと戦っていくかとか。

日本は非常にモノカルチャーなので、なかなか自分のつらかった話とかは会社では話しにくいと思うんですよね。そういうことをちょっと考える機会を少しご提供できたらなと思い、お話をさせていただきました。

傍島:いや、当たり前のようにいろんな人種の方がいて、本当にそれだけでも大変ですよね。やっぱり日本は単一民族なので、周りを見てもほぼ同じような顔の人たちだったりするわけじゃないですか。

坪田:そうですね。

傍島:アメリカは文化も違えば考え方も違えば、でもその中でいろんなことをやってらっしゃる。いや、大変だろうなと思います。

終身雇用制ではなくなる未来に向けた「準備」

傍島:今お話しいただいたのって、わりと極端な、最先端の先までいっちゃってる例だと思うんですけど、でも日本でも終身雇用制がだんだんなくなってきたりして、自分のスキルがないと生きていけないような世界になってくると思うんですよね。

なので、管理職側の人たちも含めてどうやって自分のスキルをつけて、どんどん人が動いていくんだろうなぁと。いきなりそんな世界が来るとはなかなか思えないですけれども、だんだんそういう世界になっていくんだろうなって予想して、いろんな準備を始めたほうがいいかなっていう気はしますね。

坪田:さっきの(ポストMBAの)就活の仕組みもそうなんですけど、無理なくステップとして就職したいと思うような仕組みができあがっているのは、すごく大事だなと思いました。

日本企業で、アメリカ人のMBA生向けに出ている求人ってすごく少なくて。武田製薬とか楽天とか、いくつかの企業に絞られる。もちろん日本ベースの、日本人を採用するっていうのはもう少しあるんですけどね。

ごめんなさい、お時間だいぶ過ぎちゃいましたね。プレゼンテーションはこのあたりにします。

小川:ありがとうございます。

傍島:ぶっ飛びすぎてて、すげえなと思ってましたけど......すごい極端な例ですけど、ここを理解しておいて、どうなっていくのかっていうのを考えるきっかけになればなぁ、なんて思いますよね。

ぞのましいのは、外を見る日本人が増え、日本に戻って貢献すること

小川:ありがとうございます。では最後に坪田さんから、みなさまにまとめやメッセージなどございましたら、お願いできますでしょうか。

坪田:今日の話は、自分が「アメリカに行きたい」というコンテキストを中心にお話ししたので、だいぶ偏ったお話だったかもしれませんが、やっぱり外を見る日本人が増えて、彼らが切磋琢磨する経験を積んだ上で日本に帰りたいなと思う世界ができることが、本当は望ましいんだろうなと日々思うことが多いです。

ただ、日本人で、いろんな学校に行ってる仲間ともよく話をするんですけど。アメリカに行きたいけど、家庭の事情だとか、就活が大変とか、いろんな事情があってなかなかアメリカに行けなくて、日本に帰るしかないという友人も多いんですよね。

そうではなくて、パスとしてしっかり我々が誇りに思えるような社会を作る。私自身もやっぱりアメリカに行った後はいずれは日本に戻って、いい社会を作っていくことに貢献したいなと思っています。そういう観点で、少し気づきがあれば、お話しできて意義があったなと思います。

小川:ありがとうございます。これからのご活躍も影ながら応援させていただきます。ありがとうございます。傍島さん、何か最後にメッセージありますでしょうか。

傍島:ありがとうございます。坪田さん、夜中だと思うんですけれども、本当に貴重なお話をありがとうございます。私はなかなかMBA行こうなんて思う気にもならなかったんですけれども、なんか0.0001パーセントぐらい考えようかなって思いました(笑)。

小川:(笑)。

傍島:でも、本当に何かしらきっかけになって、いろんな選択肢が増えるようになればいいなって思っています。また坪田さん、この後の話もまたどこかのタイミングで聞かせてもらえたらうれしいです。よろしくお願いします。

坪田:はい。ぜひ。ありがとうございました。

小川:ありがとうございました。それでは、そろそろお時間となりますので、本日の「01 Expert Pitch」は終了となります。坪田さん、傍島さん、ありがとうございました。

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