2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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井上和幸氏(以下、井上):続いて、少し話の絡みも出ていますので、組織編のほうをおうかがいしていければと思います。こちらのスライドで、問題点を15個挙げていただいていますが、こんなかたちですよね。組織ベースで言うと松岡さんが捉えていらっしゃるのはどうですか。
松岡保昌氏(以下、松岡):上司1人の責任ではなく、組織としての、会社としての考え方とか、会社として起こっている現象とかが、モチベーションを下げていることがすごくあると思います。今回本の中に出したあるあるは全部実話で、たくさんある中でそれを集約していったんですね。
そして究極の上司の問題10個と、究極の組織の問題15個を出したんですけど、やっぱりこの構造的問題は、人事とか経営者が、真剣にその仕組み自体を変える努力をしないと難しい。
井上:そうですよね。
松岡:典型的なのは6番目の「挑戦」「改革」とか空手形の言葉ばかりが飛び交っている。
井上:(笑)。確かにあるあるという気がしますけどね。
松岡:言いにくいですけど「チャレンジ」という素晴らしい言葉を、違う意味に変えた会社もあったじゃないですか。
井上:(笑)。確かに。
松岡:けっこうこれが多い。
松岡:あと若い会社で創業経営者に理念とか思いとかがあると、5番目の「理念」は、言葉とリアルが結びついているケースが多いんですけど。少し時間が経ったり、社長が変わったりすると、理念が言葉だけになっている会社とか、すごくありますね。
井上:ありますよね。やっぱり自分、もしくは自分たちが作ったものではなくなっているから。引き継いでいくことはいいことだと思うんですけど、僭越ながら僕もいろんな会社を見させていただいてて、自分ごとになっていないケースはけっこうあるなという気がします。
松岡さんもおっしゃていたとおりで、僕はスタートアップ系の企業とかともよくお付き合いしますが、ミッション、ビジョン、バリューとかパーパス自体が、そのまんまみなさんの原動力になっている状況。みなさんで会社を作っていますから、そのステージでの自分ごと化はすごくいい状態のことが多いです。
松岡:それが求心力になっていますからね。
井上:一方では、企業ステージが進むにつれて、頭では理解しているんだけど、自分ごとにはならないまま受け継がれて、もらったものみたいな感じになっているケースも多いですよね。
松岡:このへんの、特に「理念」とかすごく重要なのにね。
井上:はい。
松岡:いろんな人事の施策は、この「自社の企業理念」をどう実現するか。その実現につながるような人事の施策になっているかどうか。
それともう1つは、自社の強みですよね。コア・コンピタンス。中核となるような強み。社員が考えたり行動することが、自社の強みをより強くする。そういう行動に結びつく人事の施策を作らないといけないんですね。
意外と人事の人もこういう発想がない方が多いんです。この1冊目の著書『人間心理を徹底的に考え抜いた「強い会社」に変わる仕組み』で、このへんの考えをすごく詳しく書きました。
これは経営層の方が読むと相当刺さるんです。そういう視点で人事の施策とか仕組みを作らないといけないんだけれども、理念がリアルと結びついていない会社は、こういう設計になっていないところが多いんですよ。
だから理念に則ったことをしても評価されない。逆に理念に則らないことをしたほうが評価されるようになっているところとかも、現実にありますからね。そうすると理念は言葉だけになります。
井上:ありがとうございます。
松岡:今日聞いていただいている方は、もう1回自社がそうなっているかどうかを見直すべきです。
井上:決して一般的な話ですべて括れるものではないとは思いますけれども、僕もいろんな会社を見させていただいていて、大手になるとそういうことがすごく起きているようには見えますね。
井上:今はだいぶ違う考え方が強くなっていると思うんですけど、10年前くらいかな。一時期、「戦略人事」が大手さんを中心にすごく流行った時に。具体的な会社がどこかは置いておいて。けっこう大手の人事の方の集まりに僕も呼ばれて、顔を出していたんです。
その方々が言っていたことが、僕にはけっこうムカついた話で、その場で「違うのではないですか」と偉そうに言ったことがあるんです。その方々が言っていたのが、「経営がなってないので、俺たち人事が戦略人事として人事を作って、会社を動かすんだ」と言っていたんですね。いいか悪いかはあると思うんですけれども。
松岡:合わせないといけないんだよね。
井上:まさしくさっきおっしゃった、会社の目指しているものとか経営戦略とかビジョンとか。ここをある意味切り捨てて、「人事こそが戦略を考えるんだ」みたいなことを言っていた時があった。これは大変なことになるのではないかなと思いながら、その時はお話していたんです。
松岡:そのとおりですよ。だから本当の戦略人事とは、経営が戦略を考えるところに、HRのトップとしてどう入り込んで一緒にそれを作るか。そして、それを実現する仕組みまで結び付けられるかがすごく重要です。
井上:そうですね。
松岡:理念が本当に浸透しているかどうかを知るには、例えば私がいろんな会社に行った時、「理念は何ですか?」と聞きます。大抵、言葉を覚えていたりしますよね。「じゃあ、この部署で何をすることがそれになるんですかね」とポロッと問いかけるんですね。そこが出てくるところは魂が宿っている。多くのところは理念を覚えているだけで、それが自分の部署のリアルと結びついていない。
井上:そこですよね。
松岡:聞いていただいている方も、いくつかの部署に聞いてみてもらうといいと思います。
井上:そのへんはそうですね。今のようなかたちで何気なく聞いてみるのもいいですよね。
松岡:例えば、私は経営者向けの講演とかもするんですけど、1級キャリアコンサルタント技能士も持っているキャリアの専門家でもあるので、学生さん向けのキャリア教育で講演することもあるんですね。学生さんの場合、就職活動が切り離せないので、「どうやったらいい会社かを見極められるんですか?」みたいなことを聞いてくるので、その中の1つとして私はよくこれを言います。
今日は詳しくは言いませんけど、その会社が世の中に対して、どういう価値を出して存続し、尊敬される会社であろうとしているか。私はそれを「社外規範」と名付けていて、これはすごく重要です。企業理念は、その社外規範とそれを成し遂げるために社員に求める社内規範。この両方を言葉にするケースが圧倒的に多いんですよ。
どっちが上か下かは会社によって違うけど、やっぱり世の中に対してどんな価値を提供するか。それをやるために自分たちはどんな考え、行動でそれを実現するのか。この2つなんですね。
だから学生さんに言うのは、その会社の先輩に会わせてもらったら、「『先輩、どんな時に褒められたんですか?』と聞きなさい。まず事実を聞いて、その褒められた時は、自分のうれしいことと合うのかを見極めなさい」と言います。そのあとにもう一言「『それは御社の理念とどう結びついているんですか?』と聞きなさい」と。
井上:なるほど。
松岡:そこがやっぱり理念と結びついた行動をしていて、それが褒められている会社は、本物ですから。入ったあとに裏切られない。言葉では「お客さんのため」と言っているのに、入社した途端に「お客のことなんかどうでもいいんだ。売上取ってこい!」みたいにならない。
井上:(笑)。
松岡:極端に言うと、そういうことにはならないわけです。
井上:そうですよね。そりゃそうだ。なるほど。
松岡:それをさらに「密かにポロッと聞け」と言うんですよ。
井上:いいですよね。学生の皆さんにとってはわかりやすい確認の仕方だと思いますし、自分の会社ごととしてもできそうな気がしますよね。
松岡:だけど、今日聞いていただいている方にやっていただきたいのは、自社の若手の社員が、理念と結びついた行動をしていると思ってくれているかどうかを、確認したほうがいいんですよ。
井上:そうですね。
松岡:そこがズレているケースがすごく多いです。つまり、魂がなくなっている。ただその目的の行動だけをしているケースがすごく多いので、そこはもう1回、魂を入れたほうがいいです。
井上:そうですね。これはちょっと確認いただけるといいと思いますね。たぶん、今日のみなさんは理念とかは、少なくともすごくしっかりしている方が多いとは思うんですけど。意外とそうやって問われてみると、そもそものここで言う「理念」自体が、「一応こう言われているけどなぁ」みたいなケースが……。
松岡:抽象度が高いところで終わっていることがすごくあるよね。
井上:この時にマネジメントの方々はどうしたらいいんですかね。その会社を辞めて、去ったほうがいいですか?
松岡:理念を?
井上:要するに自分の会社の理念を、マネジメントの方々ももちろん言葉は知っているんだけれども、松岡さんの問いで、若手の方に結びついた行動が、うちのメンバーたちができているかどうか聞いてみましょうよ、と問いをいただきました。
もしかしたら、今日聞いていただいている方の中にもいらっしゃるかもしれませんが、そう問われた時に、そもそも自社の理念が、「あるけど、少なくとも俺からすると、そもそも全体の経営行動とか事業行動として、そんなにそれを徹底されているとは思えないんだよな」と言って、それが事実な場合があると思うんですよね。
松岡:いい問いですね。
井上:この時にそのマネジャーの方は、どうしていくといいんですかね。
松岡:結論を言うと、そのマネジャーの方は会社を辞めたほうがいいです。
井上:(笑)。やはり、辞めたほうが良いですか。
松岡:この本の中でもはっきり書いてあるんですけど、人が本気になって働く時というのは、社外規範と社内規範に共感・共鳴している時だけです。つまり、自分がやっていることが世の中のためにならないのではないかとか、世の中のためになっていると思えない時に、本気でのめり込めますか、ということね。
井上:そうですよね。
松岡:すごくいい問いです。本当の当事者意識とは、内発的モチベーションによって動く時です。「これをやったらお金をやるよ」とか「課長にするよ」とか、外発的動機付けを一切使うなとは言いませんけど、それだけで動いている会社は、そこまでの会社ですよ。
井上:僕ら経営者JPはエグゼクティブサーチを主に提供しています。今日参加くださっている幹部の方々の中でどこかのタイミングで転職活動フェーズでお付き合いいただいたことのある方で、僕も含めて僕らのメンバーにお会いいただいた方が今日いらしたら、「ああ、そんなこと聞かれたな」と思うと思うんです。
僕らはいつも「どうしていきたいですか?」とか「何されたいですか?」とかなりしつこくお聞きするんですよね。というのが、よく僕も本やコラムでそういう話を実際に書いていて、松岡さんもおっしゃってくださっていることだと思いますが、若手の方も若手の方で、いろいろ大変なことがありますが、やっぱり幹部の方、経営陣の方も大変じゃないですか。
いろんなことが社内外で起きるわけで、それを乗り越えてでも成し遂げようと思うからやると思うんですよね。
松岡:そうです。そのとおりです。
井上:それが松岡さんがおっしゃってくださっている、社外規範と社内規範だと思うんですよ。それがないと、しんどいこととか面倒くさいことが起きたら、「経営者JPに頼んで、次の会社を紹介してもらうか」というのはいいんですけど、それだとまた次に行っても同じことを繰り返すことが、すごくあるんですよね。
ちょっと青臭いんですけど、そういう方に、あまり踏ん張ってマネジメントしていただけるとは思えなくて。松岡さんが今おっしゃってくださっているところは、一丁目一番地みたいな感じがすごくあるんですよね。
松岡:すごく大事。さっき敢えて過激に「辞めたほうがいい」と言ったんですけど、もっと正確な言い方をすると、ちゃんと話し合うべきですね。つまり経営陣もさっき書いたとおり、言葉だけで、きちんとどういう意味なのか、何を指すのかを真剣に話し合っていない。その価値を伝えきれていないケースも、山ほどあるんですよね。
井上:ありますよね。
松岡:だからそれぞれの人の中で、自社がやっている事業。大きい会社だったら、うちの事業部がやっているビジネスは、「社会の価値、社会のためになっているよな。これはいいことだよな」と思えたら、それはメンバーに伝わるんです。さっき井上さんが言われたとおり、苦しい時に乗り越えられる。
松岡:さっき紹介していただきましたけど、私がファーストリテイリングにコンサルとして入った時は、まだフリースブームの前でした。聞かれている人の年齢の若い方は、フリースブーム自体がわからないかもしれないけど、ユニクロが世の中で有名になる前です。
その時から、体ごと移って人事の執行役員とかをやって、企業文化を変えたんです。その時に一緒にやっていた澤田とか玉塚とかは、この理念に共感した。つまりユニクロが出てくるまでは、高くていい服と安くてよくない服しかなかった。1回洗うと首まわりが伸びるとかね。
でも、ユニクロで実現しようとしたのは、安くていい服があってもいいじゃないか、と。それを実現する。そのビジネスモデルを作るのが、我々の仕事なんだという、その熱い燃えるような思いがあったから、いろんな逆風があっても乗り越えられた。そういう苦難を乗り越える原動力は、社外規範と社内規範の共感・共鳴だと思うんですよね。
井上:確かに。松岡さんが人事役員をやってらっしゃった時は、僕がちょうどベンチャーで独立した時で。実はその時、主に大手企業の新卒採用のお手伝いをするビジネスでしたが、ファーストリテイリングさんの新卒採用を丸ごと、4年間お手伝いさせていただきました。
松岡:お手伝いいただいてありがとうございました。
井上:すごくおもしろい経験をさせていただいたんですけど、フリースで急成長されたあと、グローバルの道を見つけ出すまでの何年かでいったん下がったりとか。
松岡:本当に苦労していますからね。
井上:いろいろ中の方のご苦労もあったと思うんですが、つらいところを乗り越えていく力が、今、松岡さんがおっしゃったようなことなんだろうなと思いますね。ありがとうございます。
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