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澤田智洋×澤円「人生を好転させる「ホメ出し」とは? 〜明日からできる実践のヒント」(対談)(全5記事)

“経営の神様”は、心理的安全性を意識していた? ダメ出しではなく、“ホメ出し”で応えるメリット

わたしの言葉から世界はよくなる コピーライター式ホメ出しの技術』の刊行記念トークイベントに著者のコピーライター・澤田智洋氏が登壇。 コピーライティングの手法で人をほめる「ホメ出し」研究を10年以上続ける澤田氏が、日本マイクロソフトの業務執行役員を務めた澤円氏と共に、「ダメ出し」と「ホメ出し」の違いや、「ホメ」を大切にした“経営の神様”松下幸之助氏のエピソードなどを語りました。

ホメ出しって何?

澤田智洋氏(以下、澤田):よろしくお願いします。まず今日はコロナ感染が増えているうえに嵐の中、お越しいただいて本当にありがとうございます。オンラインでも、100人以上の予約を受け付けていただいているということで、オンライン参加のみなさまもありがとうございます。

今日のお題目は「ホメ出し」とか「祝い」になっていますけれども、たぶんほぼ脱線するんじゃないかと思っています。事前に澤さんと1時間オンラインミーティングさせていただいて、今も控室で20分くらいお話させていただきました。やっぱり澤さんはめちゃくちゃおもしろくて、引き出しが多様なので、それをうまく引き出せる90分になるといいな、と個人的には思っています。

澤円氏(以下、澤):もういっぱいしゃべってしまったから、満足して帰ろうかなと思ったんですけど、そういうわけにはいかない。

澤田:控室での会話でだいぶ学びがありました。今の20分で17個ぐらいあった(笑)。

:カウントしてたんだ。

澤田:カウントしていないですけど、だいたい1分に1回学びがあるぐらい、濃い時間を過ごさせていただきました。

:お互いさまでしたけれども。

澤田:今日の流れとしては、冒頭数分で、「ホメ出しって何なの?」という話をしたあとで、フリートークに入ります。必要があれば最後に20〜30分で質疑応答みたいなかたちの緩やかな流れを考えていて、それ以外のことは何も考えていません。生きるのは基本的にはライブですからね。ライブでお願いします。

というわけで、サクッと「ホメ出しって何?」という話をします。「ホメ出し」とは「褒める」ということです。なんでこの本を書いたかというと、「褒めることによって、あなたの人生に良いことがあります」というよりは、「あなたが褒めることによって社会が良くなります」。

「あなたの言葉にはすごく大きな影響力がある」という話が前提になっていて、「その影響力のあるあなた自身の存在と言葉を、もっと社会に活かしませんか」ということが大前提です。

なんでこんな本を書いたかというと、今がもう悲惨な「大ダメ出し時代」だからですね。

Twitterが「大ダメだし時代」を助長する

澤田:澤さん、けっこうTwitterとかSNSで石、飛んできますか?

:僕、意外なことにないんですよ。

澤田:え! 本当ですか。

:見た目炎上しそうでしょ。

澤田:(笑)。

:目を逸らしています(笑)。

澤田:いい意味で浮いているから、叩きやすそうじゃないですか。

:僕の周りはまあまあ燃えているか、燻っているかの人たちが多いんです。

澤田:そうですよね。

:僕は、ないんですよ。意外だと思いますけど。僕は炎上のメカニズムを一応理解して、それを避ける選択をしているんです。

澤田:なるほどなるほど。

:わりと不燃性なんですよね。

澤田:避けるテクニック、すごいですね。そのテクニックを聞いて、生活していたら、僕はこの本を書いていないかもしれない。

:(笑)。なるほどね。

澤田:それは追々うかがいたいと思います。やっぱりTwitterが大ダメだし時代を作っているなと感じます。理由は3つくらいあると思っています。Twitterは1対nのコミュニケーションだから、なにか人じゃない記号と会話しているような、「何言ってもいいでしょ」みたいな気持ちになる。

あと、それこそ即効性とか即興性がけっこう求められる。タイムリーな話題とか、あまり吟味しないで言葉を世に投じるから、コミュニケーションが速すぎることによって、それが刃となる。

(スライドに)「褒めの記号化」と書いているのは、相手の思想やコメントがいいなと思っても、いいねボタン1個で済ませてしまうじゃないですか。ダメ出しは具体的に言葉で来るのに、褒めは「いいね」という記号で来るから、叩かれている印象が強まってしまうことがあるのかなと思います。だからこそ、ダメ出しではなくて「ホメ出し」がしたいなとずっと思っていました。

「ダメ出し」と「ホメ出し」の違い

澤田:きっかけはコピーライターとして働いていたことです。コピーを考える時に、いくつかのステップを踏みます。例えばここに水があります。

この水のコピーを書く時に、「この水は本当に素晴らしいやつに違いない」という、肯定的な目線を持つのがファーストステップ。じゃあどういう魅力があるんだろうと、あの手この手で観察するのがセカンドステップ。魅力を抽出するのがサードステップ。それをどう表現するかが、ファイナルステップです。

これって、そのままコミュニケーションに使えるじゃないか、とずっと思っていました。対面する相手を肯定的な目で見て、観察して、いいところを発見して、褒め言葉として表現する。なのでコピーライターとして働いたことと、Twitterがもたらす大ダメ出し時代の掛け算で、こういうホメ出しの本を書きました。

「ダメ出し」は評価、ジャッジすることですよね。ダメ出しをする主体となる人の中に100点満点がある。それに対して「ここができていない」とジャッジするのがダメ出しです。

「ホメ出し」は、実はクリエイションだと思っています。ここがいいのではないかと発見して、それをお伝えするクリエイティブですよね。新しいそれ(発見)自体が価値を生んでいるので。だから実は、「ダメ出し」と「ホメ出し」は真逆の行為です。

もう1個だけ言うと、ダメ出しとは、ダメ出しをする人にとっては、自分の価値基準を守ることですね。子どもはこうあるべきだ、それに対してそうできていない。だから叱る。この自分の価値は絶対である、みたいな。

だけど、「ホメ出し」は、実は相手の思わぬ魅力を抽出できているので、相手に対するバイアスが取り払われたり、イメージが変わっているんですよね。あるいはそれによって人間全体のイメージや社会のイメージも変わっているかもしれない。だから「ホメ出し」は、自分の価値基準を積極的に揺らがせることですよね。どっちがいいでしょうか?

別にダメ出しが好きだとおっしゃればそれでもいいんですけれども。「ホメ出し」をして、いい意味で価値基準がユラユラしているほうが、人生にとっても健全ではないかなと思っています。なので、「ホメ出しをすると世界が一変するし、あなたが褒めると世界はよくなる」ということで、本題に入りたいと思います。

人は「ジャッジ」をしたがる

:さっきの「ホメ出し」のところで、「ジャッジしない」という話があったじゃないですか。あれ、めちゃくちゃ重要で、ジャッジは、みんながしたがるんですよね。

澤田:したがる。

:ジャッジしている自分は、すごく賢いと思いがち。

澤田:そうです!

:あともう1つ。ジャッジするためには、職位が必要だったりするじゃないですか。

澤田:まさにそうです。

:会社だったらマネージャーとかがあって、一定数それをやりたい人がいると思うんですよ。ジャッジをやっている自分は、もしかしたら人より上にいるんじゃないかと思うんだけど、ジャッジメントのほうがずっと簡単なんで。

澤田:めちゃくちゃ簡単です。

:例え話で言っていたんですけど、ランドルト環という、視力検査の輪っかがありますね。視力検査の輪っかの、どこが欠けているかとみんなが見る。それは誰でもできる。だからこそ検査として成立するんですけど、その視力検査の輪っかの、幅の美しさとか。

澤田:(笑)。色味の美しさとか。

:そうそうそう。色味の深さとか、それを語る人はまずいないんですよね。

澤田:おもしろいですよね(笑)。

:それを語り始めたら、視力検査をやっている係の人は、「いえいえいえ、そういうんじゃないんで」と困ると思うんです。実際に欠けているところを指摘するのは、本当に簡単な話です。

澤田:そうなんですよね。

:そこからどうやって脱却するかは、けっこう大事かなと思うんです。

澤田:すごく大事だと思います。特に、誰かを評価せざるをえない立場にある人こそ、「ホメ出し」すべきだなと思っています。今朝、あるラジオ番組に出演していたんですけれども「ホメ出し」の話をしていたら、番組の女性ナビゲートの方が、「私はそばかすがある。ずっとコンプレックスだったんだけれども、メイクさんに『かわいいそばかすですね』と言われた」とおっしゃっていたんです。

最近「そばかすメイク」みたいなのが流行っている流れもあるんですけれども。メイクさんは、美の権威ですよね。美の権威で美の評価をする立場の人が、クリエーションをしている。新たな美の基準をそこに加えているわけじゃないですか。これ、すごくいいなと思ったんですよね。

:もちろん、「その人の権威があるから、だからこそ」と言うかもしれない。でも、これをある意味浸透させていって、「誰でもそれを言ってもいいんだよ」とカルチャー的になってくると、さらにハッピーになる人が増えるんでしょうね。

澤田:本当にそう思います。

“経営の神様”も「ホメ」から入った

:あと、例えば何かがあったら、とにかく1回ポジティブに受け取って返すと、けっこういろんな大きいことにつながっていく。例えば、松下幸之助さんなんかは、まさにそういうタイプだったらしいんですよね。

これは又聞きですけど、松下幸之助さんは、どんなトンチンカンなアイデアが来たとしても「あんさん、それ、おもろいな」とひと言目に言ったという逸話があるんですよね。

澤田:なるほど。

:「なんでそんなくだらないことを持ってくるんだ。こっちは忙しいんだ」とは言わずに、「あんさん、それおもろいな。どうやってやるんや」と聞いて、そこでググっとなると「じゃあ、もうちょっと考えてから持っておいで」という、その次のステップになる。

澤田:なるほど。

:「この人は受け入れてくれる」とわかると、みんな「アイデアを出そう」という気になりますよね。「この人は1発目で否定してくる」となったとたんに、持っていく気は失せますよね。

澤田:コミュニケーションは世界観と世界観が合わさっていくことだから、その時に権威があるほうの世界観に、弱き立場の世界観を吸収してしまうと、弱き立場の人の良さは発揮されない。「あなたの世界観もいいね」という前提で入ると、アクセルを踏みやすいですよね。

:「ああ、そういう考え方があるんだ。新しいわー」とか「それ知らんかったわ」とお互いが言い合えるようになると、いわゆる今話題の、心理的安全性が担保された状態のコミュニケーションが、可能になると思うんですけどね。

人々のジャッジを促進したスマホの「切り取り」

澤田:今の松下幸之助さんの、逸話と言っていいかわからないですけど。その中でいいなと思ったのが、言葉をうまく活用しているじゃないですか。「おもろいな」というキーフレーズ。言葉は道具じゃないですか。私たち人間は道具を持つことによって、世界の捉え方が変わる。

例えば、何気なく散歩をしていても、EOS Kissみたいなカメラを持っているかどうかで、世界の捉え方、見方が変わるじゃないですか。言葉も道具だから、「それ、おもろいな」という道具を持って世界と接すると、たぶんおもろい情報が集まってきますよね。

:そうか。これ、使い古された話かもしれないけど、やっぱりスマートフォンは世界を変えたなと言えるのは、「切り取る」ことを、みんなができるようになったことが大きいかもしれないですね。写真でパッと切り取ったり、その瞬間の考えを切り取る。その切り取り方にジャッジメントが入りやすくなったのはあるかもしれないですね。

スナップショットなので、評価しやすいですよね。プロセスのあるものは、評価するのが、ちょっと大変だけど、切り取られたものはけっこうジャッジがしやすい。さっきのTwitterの話にもつながりますけど、そういうところもあるかもしれない。

澤田:それもありますよね。あと、人間の行為でも数値化されやすいものって、やっぱりジャッジの対象になってしまう。逆に褒める要素は意外と数値化できない。曖昧模糊とした魅力だったりするから。

:そうですね。

澤田:そこを抽出するのは大変なんだけど、やったほうがいいなと思いますね。

「褒める時は、まず惚れましょう」

:たぶん褒める時に、「いい・悪い」というよりも、「好き」という感情に近いと褒めやすいんじゃないかなと思うんですよね。好きでもないものを褒めるのは技がいるというか。本の中にも書かれていた「トンチンカンな褒め方は逆に毒だ」という話。そっちに行ってしまうのではないかなと思うんですよね。

好きなものは、言葉がなかなか出てこなくて苦労することはあるかもしれないけど、でも好きだから、何か表現したい、とクリエイティビティが発揮されますよね。なのでそれを後押ししてあげるような、トレーニングや教育があってもいいかもしれないですね。教育というと固くなってしまうけど。

澤田:それで僕は、「褒める時は、まず惚れましょう」と言っています。

:ああ、惚れるやつですね。

澤田:どういうことかというと、「恋愛初期段階を思い出してください。相手の粗も含めて魅力に見えませんか」と。つまり、相手が粗だと思っているものも、自分の中の絶対評価の中で魅力に感じているだけであって。

「好き」という前提で見ると、そういったものも新たな評価を得て、新たな創造性を増していって魅力になる。だから、誰もが経験したことのある、恋愛初期段階を日常の「褒める」に応用すると、うまくいくんですよね。

:ああ、そうですよね。仕事の時に必ず、「まずはファンになると手っ取り早くていいですよ」と言っています。例えば、Appleで働いていた友人に聞いたら、「経理だろうと人事だろうと、iPhoneについて30分しゃべってくださいと言うと、みんなしゃべれると思いますよ」と言っていたんですよ。

どういうことかというと、自分たちの製品のファンになって、すごく好きになっているから、褒めちぎれるんですよね。ものすごい興味関心が製品に対して向かっていて、それにを語ることができる人が社員にウジャウジャいるから、あの会社はすごく強かったのではないかと思います。

製品がただ単に優れているというだけだと、やっぱりあそこまでいかなかったと思うんですよね。みんなが自分の製品のファンで、めちゃめちゃ褒めることができるから、あれだけのパワーが生まれたのではないかと思うんですよね。

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