2024.10.10
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リーダー育成で考える 「人的資本」の測定・活用策(全1記事)
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司会者:ここからは「リーダー育成で考える 『人的資本』の測定・活用策」というテーマで日本能率協会マネジメントセンター、カスタマーリレーション部部長の斎木輝之が担当します。
斎木輝之氏(以下、斎木):よろしくお願いいたします。私からは「リーダー育成で考える 『人的資本』の測定・活用策」について、お話します。先ほど岩本(隆)先生と香川(憲昭)さんからアカデミックでロジカルな説明がありましたが、今日のご参加者は過半数が人事・人材開発系の方ということですので、私からはみなさまが携わっている実務面を含めたご説明ができればと思います。
特にみなさまが仕事のブラッシュアップをどのようにしていけばいいかという観点でお話できればと思います。トピックは大きく3つです。最初は「人的資本経営でめざすもの」、2つ目は「人材アセスメントで何を測るのか?」、そして3つ目が「どのように測定や活用につなげていくのか」です。2つ目と3つ目がメインになります。
岩本先生のご説明で、人的資本開示で企業価値を高めるためには、リーダーシップ・育成・スキル・経験などの事項が非常に重要だということでした。弊社はその部分のサービス提供をしている会社ですので、少し具体的なお話もできるかなと思っております。
(こちらのスライドは)今日のテーマです。
みなさまの関心事はおそらく右側の、非財務情報の中でどのように人的資本を「測定」「開示」していけば良いかだと思います。しかし、人的資本の活用という観点では、左側の「定義/価値づけ」「蓄積や拡大」をしっかりと行うことが重要です。
人的資本をどう定義し、価値を何で見て、どのような人的資本を蓄積していくか。このあたりの要件や人材定義をしっかりとしながら、どのように人の投資や人材開発をしていくか。これはみなさまのふだんの仕事そのものかなと思いますが、これをどう「測定」や「開示」につなげていくかを考えることが重要です。
人の投資が何に影響するのかは論文でも立証されています。スライドのタイトルにありますが、人的資本は「行動成果」を通して「企業業績」を高めるものです。
「それはそうだろう」と思われるかもしれませんが、なかなかこれを学術的に証明したものは少ないです。
例えば教育研修がダイレクトに業績に直結するというよりも、それによって行動がしっかり変わっていく。その行動変化の繰り返しが、企業の業績に影響を与えるということです。ですので、人的資本が企業業績に効果を与えるのは間違いありませんが、まずは行動の成果をしっかりと高めていくことにコミットするのが重要です。
右側は、教育効果測定の考え方として知られている「カークパトリック・モデル」です。人的資本の活用では、全4段階の3番目にある「行動」にどれだけフォーカスして、育成プログラムを作っていくかが重要です。
実態としては、わかりやすいため研修の満足度などをアンケートで測りますが、研修を終えた受講者が仕事に戻った時にどの程度活躍できたかや、研修内容を活用できたかが重要ですので、プログラムも「仕事での活用」を見据えて全体的な教育設計をすることがこれからはより求められます。
その意味では、職場での「行動」につながるために、研修の学習形態だけでなく、「環境」「プロセス」をどう最適に組み合わせるかといったトータルの育成プログラムの設計がマストになるとお考えいただければと思います。
育成プログラムの設計を考える際、ISO30414の11個のフレームなどがありますが、私は人材版伊藤レポートにも書かれている、2つの視点が重要だと考えます。「多面診断(360度診断)を入れた方がいいか」とか「何を開示すればいいか」も最終的には非常に重要となりますが、まずは視点1の「経営戦略と人材戦略の連動」と視点2の「As is-To beギャップの定量把握」を押さえたいといえます。
つまり「ありたい姿」と「現状」がどうなのかの把握ですね。このギャップを埋めて行く中で、能力開発などの各種施策の検討・実施があると思いますので、まずは視点1と2がしっかりできているかを整理することが重要だと思います。
あらためて「人的資本経営とは」について解説しますと、経済産業省は「中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」と定義しており、今回我々が出版した書籍(『経営戦略としての人的資本の開示』)では、データとHRテクノロジーを活用して、数値に基づいて人事や組織領域の意思決定を行っていくことをベースとしています。
では、具体的に何を測ればいいのか。我々も長年アセスメントの事業を展開していますが、(スライドの)このような図でご説明しています。
人的資本開示という面で見れば、一番上の「業績」や「行動」の部分が注目されますが、それを支えているのが「スキル」「意欲/価値観」「知識」となります。
また、「どのように『行動』しているか」を見る場合は、「人事考課」「アセスメント」「多面評価」などで把握したり、他にも「何が『できる』のか」については「保有能力」や、その方の「特性」なども測っていきます。どこかに偏って測らず、全体的に見ていくことが重要になります。また、今回の「開示」の観点では、行動の土台となる「潜在的な能力」をどう見ていくかも大切です。
我々も長くアセスメントの事業を展開する中で、若手社員から役員層まで役割別の多面診断も用意しております。また「コンセプチュアル」「ヒューマン」など目的に応じた診断もありますので、1つの物を使っていくというよりも、目的に応じてきちんと使い分けて、自社の人材がどのような状態なのかを見ていくことが非常に重要だと思います。
続いて、人的資本開示の中からアセスメントで測るものや、それをリーダー育成の中でどのように展開していけばいいか、もしくは展開していけるかを事例を交えてご紹介します。2枚ほど簡単に概念的なものをご紹介します。これはアメリカのCCL(Center for Creative Leadership)というリーダーシップを専門とする団体が作った図です。
リーダーの成長を促すのはやはり「経験」です。よく頭文字を取って「ACSモデル」と言われますが、「アセスメント(Assessment)」「チャレンジ(Challenge)」「サポート(Support)」で、自分を俯瞰的、客観的に見て、未経験の課題や強いプレッシャーを伴う課題に挑戦する。その挑戦の過程でさまざまな人からもらう動機づけや助言も重要なので、こういう経験を多面的にどれだけ獲得できるかが、リーダーの成長に大きく影響します。
(こちらのスライドの)左側のように「これまで」はカリスマに近い、経営層の強力なリーダーシップである程度道筋を付けていたところがありました。しかし、VUCAの時代になりますと一人ひとりがリーダーシップを発揮することや、右上の「社会課題解決と事業性の両立をしっかり測っていく」ことが重要になります。まさにESG投資そのものかと思います。
つまり全員がリーダーシップを発揮できるような組織作り、仕組み作りが重要になり、そのような新しい領域のリーダーシップ開発を「開示」できるようになると、非常に投資家へのアピールポイントになると思います。
続いて、ポイントだけになりますが、診断を活用したマネジメント層のレベルアップや、次世代リーダー育成、そして自社にあった人材要件の作成の事例をご紹介します。
まず1点目は多面診断。
こちらの会社さまの例ですと、課長以上に年に1回多面診断が実施されるのがポイントになります。さらに「次世代幹部育成プログラム」への参加者選抜としても活用しています。合計2回の選抜試験のうち、前半は多面診断の結果で上司と同僚・部下評価の上位者を選抜して、その上で戦略的思考を測るアセスメントを受けて候補者を決めるというものです。
メインは下段の「管理職層のレベルアップ」での活用となります。きちんとフィードバック研修を受けることが前提ですが、定点的な観測をして、結果がちょっと思わしくない方や、上司、部下の評価にギャップが大きい方などは、任意で人事が個別にコーチングや面談をしてサポートしていきます。
多面診断をハラスメント防止対策で定点的に使っていただく会社もありますが、こちらの会社さまはどちらかというと育成で使っていただいています。また、経年で実施いただくことで、行動の経年変化や、個別アドバイス、あるいはフリーコメントなどをお出しすることもできます。
なお、多面診断は数値で示されますが、そのデータは周囲がどう受け止めているかを確認する主観評価データになります。要は、上司と部下で期待するものが若干違い、期待値によって結果が分かれるところがありますので、解釈にあたってはフィードバックの機会などを通じて、その結果の背景などを確認していくことが重要かと思います。
次は、「次世代リーダー育成プログラム」です。
こちらは、比較的長期的な育成スパンで設計する会社さまが多く、最近は(スライドのように)求める要素を全般的に事前事後で測りながらタレントマネジメントシステムに入れていくことが増えている印象があります。
こちらのスライドは管理職層のプログラム全体像です。
職場マネジメント力の向上で使われている1つの例ですが、真ん中の2つが一般的な「知識習得」と「実践活動」で、前後で同じアセスメントを実施することで、その変化度を見ていきます。実際はアセスメント内容に類似したインプット学習が行われますが、後半であらためてアセスメントを受け、その変化度を見ることで、当人の成長実感や、次の課題を見つけやすくなります。
最近はリーダーシップを徹底的に学ばせるようなプログラム展開をする例もありますが、その中でも、前後にアセスメントを実施し、成長度合いなどを確認するやり方もあります。
先ほど申し上げたカークパトリック・モデルで言えば、一つひとつの研修内容を手厚くすることも重要ですが、全体設計におけるゴールを意識し、きちんと求められるレベルを上げていく活動に取り組むことが重要かなと思います。
最後に、「人材要件の作成」を踏まえての育成・活用例です。初めにグローバル基準で使われている人材アセスメントを既存の役員や部長層の方に受けていただいて、思考スタイルや行動特性を導き出します。そしてその結果を踏まえながら、インタビューを通じて期待役割を整理し、その企業に求められるジョブの人材要件を作り上げます。
これを経て自社として期待するパフォーマンスモデルを作り、その他多面的なアセスメントなども活用して、具体的な育成プログラムを展開します。また、このパフォーマンスモデル診断は経営幹部育成での活用に留まらず、採用や配置、育成などでも活用できるところがメリットといえます。
このようなアセスメントを複数組み合わせて使っていくと、非常におもしろいことが見えてきます。この図のように「職場マネジメントの課題解決スキル」「環境変化への対応力」「ストレス耐性」の3つのアセスメントを複合的に重ねることで自社人材がどのゾーンに存在しているのか、また、どのような育成施策をおこなえばよいのかを把握することができます。
このように、一つひとつのアセスメントを複合的に組み合わせることで、新しい価値が生まれるのかなと思います。人材開発を進めるにあたり、いろいろなデータを活用しながら自社がどういった方向に向かいたいかを、今後も一緒に考えていければと考えております。少し駆け足ではございましたが、私の説明は以上になります。ありがとうございました。
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