2024.10.10
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「人とパーパス」を本気で大切にするリーダーシップ(ユベール・ジョリー&平井一夫&矢野陽一朗)──『THE HEART OF BUSINESS(ハート・オブ・ビジネス)』出版記念オンラインセミナー(全5記事)
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矢野陽一朗氏(以下、矢野):それでは、お話の中に何度も出てきましたパーパスについて触れていきたいと思います。まず、ベスト・バイのパーパスは「Our purpose is to enrich lives through technology.(テクノロジーを通して人々の生活を豊かにする)」です。すばらしいですね。
そして、ソニーのパーパスは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」です。それぞれすばらしいパーパスがあって、従業員のみなさんをモチベートしています。
まずユベールさんにお聞きしたいのは、「ノーブル・パーパス」の重要性について本の中で詳しく書かれていますが、簡単にご説明いただけますでしょうか?
ユベール・ジョリー氏(以下、ユベール):WhatとHowについては先ほどお話ししましたが、最も重要なのはWhyです。それについて書かれたすばらしい本もあります。非常に個人的なレベルからスタートします。「どうして仕事をするんだろう」という個人的な問いですね。仕事は罰なんだろうか。いわゆるユダヤ・キリスト教の系譜では、誰かが天国で罪を犯して働くことが罰になった。
あるいは、働くことは友だちと会ったり、遊んだりするためのものなんだろうか。仕事自体はあまりおもしろくないことなんだろうか。それとも人間としてやりがいを感じたり、社会のために貢献できる何かなんだろうか。いろいろな選択肢がありますが、ほとんどの企業や働き手は、仕事は喜びではなくて痛みであると思っています。
でも、一人ひとりのWhyと仕事をつなげることができれば、すばらしいことになると思います。企業を「個人が協力する1つの組織体」と考えた場合、最終的なWhyは、カズさん(平井氏)もおっしゃっていると思いますが、「会社・企業は社会の善のために動く組織体である」ということです。それがパーパスです。
世界が何を必要としているのか。今、人間にとって必要なものは何かということです。会社にとって得意なこと、情熱があること、そこから利益を得られるかが重なる部分がノーブル・パーパスです。
ノーブル・パーパスを北極星にすると、社員にとっても非常にモチベーションになりますし、対応できる市場も大きく拡大します。例えば、ベスト・バイにおいては我々のパーパスが「最高の小売店になる」といった場合、市場はある程度限られてきます。もしかしたら、店舗やオンラインで商品を提供するだけかもしれません。
でも、「人々の人生を豊かにするためのテクノロジー」であれば、市場が広がるわけです。アメリカではインフォームド・アドバイザーというプログラムがあります。例えば、アメリカは家が大きいので、ファミリールームやキッチンに電化製品を入れる場合、デザイナーのような人を家に招いて提案してもらいます。
そうすると、我々はCTOになってご自宅に伺います。そこからそのご家庭との関係もできて、だんだんと長い関係になっていきます。ですから、人のニーズにフォーカスするということです。
ヘルスの分野もあります。例えば、高齢の方々がテクノロジーを利用して、1人で自立して生活できるサポートをします。これは「小売業だ」と思っていたら絶対に対応できなかった市場です。
策定したパーパスをどうやって生き生きとさせるのかが一番のチャンスです。ノーブル・パーパスを戦略の要にして、会社の一人ひとりがこのストーリーに自分を組み込むことができればいいわけです。少なくともWhyにフォーカスしたら、非常に機会が広がるというお話です。
矢野:平井さんも「感動」という言葉を掲げて、社内で多くの対話をされたと書いていますが、これはどういう意図でしょうか?
平井一夫氏(以下、平井):ソニーの場合は、エレクトロニクスをはじめ、エンターテイメントとしてゲームや映画、音楽ビジネスをやっています。それからBtoBで半導体、特にイメージセンサーや業務用の放送機器のビジネス、日本では金融ビジネスとして銀行、損害保険、生命保険など、いろんなビジネスをやっています。
その中で、どういうキーワードによって、いろんなビジネスをやっているソニーグループをまとめるかをかなり悩みました。設立趣意書を読んだり、いろんな人と議論して上がってきたのが、ソニーはどのビジネスでもお客さまに「これすごいよね」「こんなやり方があるんですね」と「感動していただくこと」がキーワードになるんじゃないかという結論です。
それを私がCEO時代に「感動を提供する会社なんですよ」と言い始めました。今のパーパスは吉田(憲一郎)CEOの現経営の体制の中で掲げられているパーパスですが、「感動」が引き継がれているという意味では、一貫性を持って「感動」がキーワードになっている会社かなと思います。
これからどうやってパーパスを社員に腹落ちさせるかというお話があると思いますが、ポイントとして1つだけ強調したいことがあります。
ベスト・バイのパーパスやミッションも、例えば「顧客満足度ナンバーワン」「全米の中で一番すばらしいお店を作っていくんだ」ということは言えるんですが、それだとリテーラーとしていかに成長するかという、自分たちのビジネスの範囲を狭めてしまいます。
それを超えるような「テクノロジーを通して人々の生活を豊かにする」というのは、たぶんかなり議論されて、ここに至ったと思います。こういう表現をすることによって、さっきユベールさんが言ったように、いかにベスト・バイのビジネスの領域が広がっていくかを具体的に証明しています。
パーパスはこのくらい大事だということを、経営のリーダーの方々や経営チームは認識しないといけません。ある意味では会社の方向性や成長を狭めてしまう可能性があるくらい、もしくは逆に広げることができるくらい大事だということを、あらためてここで強調したいなと思います。
矢野:ここでご質問したいのは、個人のパーパスと組織のパーパスです。どのような関係であるべきか、どうすれば一人ひとりが目的意識ややりがいを持って働くことができるかについて、ユベールさん、お聞かせください。
ユベール:やはり個々人のパーパスに興味を持つことだと思います。2つご紹介したいことがあります。まず1つが、エグゼクティブチームとの関係です。再生にフォーカスし、そして成長をどうやって加速するのか。
戦略を作っている時に、エグゼクティブチームのみなさんに「小さい時の写真を持ってきてください」と伝え、夜にディナーを食べながら、それぞれのライフストーリーを語りました。経歴書じゃありません。良かったこと、悪かったことも含めて、今までの人生について語ってもらい、人生のパーパスについても語っていただきました。
そこでわかったのは、エグゼクティブの全員は人間だということです。CFO、CHRO、CMOではなくて、美しい、いろんな経験をした複雑な人間なんだ。人間っぽい人間なんだということがわかりました。
2つ目は、例外はいくつかありましたが、チームのみなさんは同じようなパーパスを共有していました。「誰かのために良いことをしたい」が黄金のルールでした。なので、個々人の心の中には「世界のために良いことをしたい」という希望があるのです。
私たちはベスト・バイのリーダーシップチームです。このプラットフォームを使って、より組織や従業員、コミュニティ、ベンダー、それから株主も愛するような組織を作ったらどうかと言いました。それができたら、もう仕事ではなくて同僚になります。
どこのチームでも、それぞれのライフストーリーを共有することはできると思います。ちなみに、私たちは店舗レベルでもやりました。パーパスを抽象的にコミュニケーションするのではありません。例えば、ベスト・バイの店舗に行って「こんなにすばらしいニュースがあるぞ。新しいパーパスを作ったぞ」と言ったところで、みんなは「何を言っているのかわからない」と言うと思います。これはコーポレートスピーチだと。
でも、2017年に何時間か店舗を閉鎖して、ビデオもプレゼンもなしで、従業員全員を小さなグループに集めて2つのことをやってもらいました。1つが、それぞれのライフストーリーを話すこと。もう1つが、「自分の人生の中で刺激を受けた友人の話をしてほしい」と言いました。そういった友人はいると思うからです。
すると、若い女性が前のボーイフレンドと非常に暴力的な関係にあり、ホームレスになっていたと言いました。彼女にとってベスト・バイはホームだったのです。私は彼女を従業員ではなくて人間として見られるようになりました。そういったライフストーリーを聞くと、家族だと思えるのです。
ここで何をやろうとしているかというと、お互いを人間として扱うということです。そして、お客さまも人間だと思って扱い、お客さまも私たちもそれぞれの刺激を与えるような友人として扱うということです。ほかの人を大切にしようという気持ちはみんな持っているので、そこを理解できたら先に進めると思います。
トレーニングでそれがわかったとしても、悪い環境に戻ったらそれを実行することができません。なので、私たちは非常に人間らしい組織を作っていきました。人間のつながりや精神的な安全、自立性があって、成長や学習をしたいという気持ちがあるような職場環境を作りました。
ここでのリーダーの役割は、いわゆる「庭師」になることです。庭があっても放っておいたら育ちません。なので、土壌を整えて肥よくな地にし、種であるみなさんがすばらしい花を咲かせるように支援する。それがリーダーの役割だと考えます。
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