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「ジョブ理論」による破壊的(ディスラプティブ)新規事業の創り方【Q&A】(全1記事)

「iPhone」「Apple II」「Macintosh」のイノベーションの違いとは Apple製品でわかる、「破壊的」と「持続的」の2種類の変革

一般社団法人ウェブ解析士協会が、さまざまな話題をタイムリーに伝える「Flashセミナー」。マーケティングを中心に、ビジネスパーソンや経営者に今必要なスキルを紹介する同セミナーに、『日本のイノベーションのジレンマ』の著者で、関西学院大学教授の玉田俊平太氏が登壇。本記事では、玉田氏の講演後に行われたQ&Aの模様をお届けします。イノベーティブな企業のトップの役割や新規事業のリーダー選びの課題などが語られました。

イノベーティブな企業のトップの役割

積高之氏(以下、積):まずはノベハラさんから、ご質問いただけますでしょうか。

質問者1:玉田先生、ありがとうございました。私から3つ質問させてください。1つは「アイデアの破壊と自社の能力・要求による実現性評価」についてです。この表の縦軸には、実現させる「能力」と「欲求」という2つのテーマが含まれていますよね。

これがけっこうミソなのかなと思いました。

「能力」は、ある程度研修や習熟によってできるとしても、この「欲求」というものがすごく気になっています。これは、人間の根源に非常にリンクするので、組織開発とも関連してくるのかなと。これに対する先生の考察を教えていただきたいと思います。

玉田:そうですね。「欲求」、つまり破壊的な事業を起こさないといけないという欲求が高まるということは、会社が窮地に陥っている場合が多いんですね。ここが悩ましいところですが、窮地に陥ってから何かやろうとすると時間が足りないんです。

やっぱりトップの役割とは、「健全な危機感を組織内に醸成すること」、かつ「チャレンジした人を報いること」です。そういう制度設計なりインセンティブ設計ができること。これが、今後イノベーティブな企業を率いていく上では重要な要素になっていくと思います。

質問者1:ありがとうございます。次の質問ですが、玉田先生が2021年に「これはすごい破壊的イノベーションだな」と心を鷲掴みにされた企業や事例がありましたら教えてください。

玉田:そうですね。やっぱり「Oculus Quest 2」ですね。あの値段でこの性能というのは、相当破壊力がありますよね。ちょっと前までは、VRゲーム機プラスYouTube鑑賞装置くらいでしたけど、メタバースが現実のものになってくると、第二のスマホというかスマホを破壊するデバイスになりかねない。そういった潜在的な可能性を感じますね。

質問者1:ありがとうございました。最後にもう1つだけ、玉田先生はメタバースをどのように捉えているのでしょうか?

玉田:それは、まだどっぷり浸かっていないので、これから評価します。今しばらくお待ちください。

質問者1:ありがとうございました。

:Oculus Questを購入なさって、年末年始にお使いください(笑)。

玉田:冬休みの宿題ですね。

「Apple II」「Macintosh」のイノベーション

:お使いになった上で何か知見をいただくと、ものすごくためになります。Oculus QuestやHorizon Workroomsなど、新しいガジェットをみんなで試すクラブ活動をやっていまして。ウェブ解析士のみなさんや、そうでない方も入っていただけるので、よろしければご連絡ください。

こういう新しいコミュニケーションツールを研究する会みたいな、「とにかく新しいものでつながってみよう」みたいな部活動もありますので、よろしければご参加ください。

次はマツウラさんからApple製品についてのご質問ですね。

質問者2:貴重なご講演ありがとうございました。Appleのことをイメージしながらお聞きしていました。Appleは「イノベーティブな製品をよく出す」という印象があったのですが、今回ご説明いただいた内容を踏まえると、金額が高額なので破壊的イノベーションには該当しないという理解もありまして。どうなんでしょうか?

玉田:ありがとうございます。Appleにもいくつかあると思いますが、まず最初に発売されたパーソナルコンピューターのApple IIについて。Iはただの板なので。

IIはこれまでの大型コンピューターやミニコンピューターと比べると性能的には遥かに低いんですね。その代わり、個人が購入すれば24時間365日遊べるし、プログラミングができるというデバイスです。これは、コンピューターへのアクセス制約を取り払ったという意味での、新市場型の破壊的イノベーションだったと思います。

では、Macintoshはどうだったのか。これまでのコンピューターは、Apple IIにせよ、キーボードとコマンドで操作していたわけですね。それに対して、Macintoshはマウスとグラフィカルユーザーインターフェイスで、スキルがない人にもコンピューターというものを開放したんです。

つまり、スキルがなくて無消費だった人たちにもコンピューターが提供されたと。そういう意味で、これも新市場型の破壊的イノベーションだったと思います。

歴代iPhoneに見るイノベーションの違い

玉田:スマートフォンといっても実はiPhone1は、アプリも動かないし、iPod付き電話兼テキストメッセージ兼ブラウザぐらいだったんですよね。日本のフル装備のガラケーと比べると、おもちゃみたいな商品だった。防水もないし、赤外線も使えない、キーボードもないと。そういう意味では、最初のiPhone1とかは、やっぱり破壊的な商品だったと思います。

ただ、それがだんだんiPhone3GS、4、4s、5、5s、6、6s、7となっていくにしたがって、明らかに持続的イノベーションのトラジェクトリー(軌道)に乗ってしまった。体感的にはiPhone8あたりで、多くの人の需要曲線を満たしてしまった可能性があるんですよね。

実際、今でも多くのキャリアでiPhone8が売られているというのは、そういうことだと思うんです。それ以降、10とか11とか13……。私も13を持っていますけど、シネマティックなんとかという機能、主人公が後ろを向くと、視線を検知して後ろにピントを合わせる動画の機能なんですが、使ったことないですね。

そういう意味で、ほとんどの人にとって、今のApple製品は利用できる性能上限を超えてしまっている。実際iPhoneの売れ行きが鈍っているという報道もあるし、Apple自身も多少気づいていて。

だから今、サブスクリプションサービスでがんばっていますよね。音楽や本、映画、フィットネス、ゲームを売っているんです。今やiPhoneなり、Apple製品は、「いかにコンテンツをみんなにばらまくか」という端末として位置付けられている気がします。

新規事業部門のリーダー選びの課題

:ではシモカワさんからのご質問、よろしくお願いします。

質問者3:先生お話ありがとうございました。新しい革袋の話についてお聞きしたいと思います。最近、会社の中に別組織を作るケースが増えてきましたが、別組織のリーダーに従来組織で高い評価を受けた人材が配置されることがあります。

その結果、既存の価値基準で組織がオペレーションされてしまうケースがあると思うんですね。「新しい革袋に古いマネジメント」というミスマッチを避けるための対策があれば教えていただきたいと思います。

玉田:実はそのことに関して『イノベーションへの解』の中で(クリステンセン氏が)言及しています。アメリカの企業でも、企業の歯車としての力の出し方が上手い人が、新規事業にアサインされてしまう傾向があると。でも、「それはやめるべき」と書いてあります。

なぜかと言うと、「大企業で歯車として力を出すこと」と、「新規事業で情報が不完全な中で、手探りでピボッティングをしながら進んでいくこと」はまったく違うからです。彼は「経験の学校」という言い方をしていますが、「そういったピボッティングなどをしながら暗中模索したことがある、『経験の学校出身者』を選ぶべきだ」と言っています。

彼は選択基準も、6つぐらい列挙していて、例えば「情報が不完全な状況で意思決定をしてきた」とか「リソースが不足している状況で判断をしてきた」とか、そういういくつかの条件を満たす人が新規事業をやるべきだと述べていますね。

質問者3:ありがとうございます。

玉田:『イノベーションへの解』と『イノベーションのジレンマ』を読めば、どこかに「経験の学校」について書いてあると思いますので、探してみてください。

質問者3:新しい革袋とセットじゃないとダメなんですね。

玉田:そう思いますね。古い価値基準を持ったまま新規事業部に来て、しかも親会社のほうばかり見ながらやっているふりをする人は超最悪なので、そういう人はやめるべきだと思います。

カーシェアによる破壊的イノベーションとは?

質問者3:あと1つ「こういう理解で合っていますか?」という質問、いいですか?

:どうぞ。

質問者3タイムズカーの例だと、結果として自動車メーカーは別の販路で車が売れていると考えることもできる。でも、95パーセント駐車場に置いておくために買ってくれていたユーザーがゴソッといなくなって、購買者が大幅に減ったと。この状況が破壊的だという理解で合っていますか?

玉田:そうですね。ひとことで言うとそうです。つまり、車からすると稼働率が上がるんですが、メーカーからすると試乗して購入してくださっていたお客さまがいなくなって、フル稼働のタイムズカーに、例えば20分の1台だけ売れる。しかもだいたいベーシックグレードとかで。こういう状況だと本当に困ってしまうと思うんですね。

質問者3:わかりました。

:このあいだハーツ(Hertz)がテスラの車を大量に買ったというので評判になりましたね。10万台ぐらい発注したんですよね。(※2021年12月に開催されたイベントです)

玉田:大丈夫かな。

:(笑)。

玉田:でもレンタカーならベースステーションで充電すればいいですからね。

:そうなんですよ。そこは一般に使うのとだいぶ違いますから、むしろ向いていますよね。

新規事業の部署を、既存事業部の中に置くことを勧めない

:ではマツウラさん、もう1つの質問どうぞ。

質問者2:ありがとうございます。大前提として、今日のお話はMBA的観点なのかなと、非常に興味深くお聞きしていました。私は創造技術で大学院に通っていて、そこではサービスや価値を作るという観点でやっています。今日のお話は、それを会社の中で行うということですが、破壊的イノベーションを担うのは、どのような組織が適しているのでしょうか?

玉田:製品開発や事業戦略において、企業が破壊的イノベーションをするには、どのような組織であるべきかというご質問ですね。まず全社的に「このような破壊的事業を起こし続けるのだ」というコミットメントが必要です。

「両利きの経営」という言葉を聞いたことがあると思います。企業は放っておくと、サクセストラップ、つまり成功の罠にかかってしまって、「今やっていることをよりうまくやること」に力を注ぐようになるんですね。

新しいことは不確かだし、情報も不完全で実現可能かどうかもわからない。要するにリスクが大きく見えてしまう。しかし井戸も掘っていると、いつか枯れてきます。でも、枯れてから「さあ、がんばって次の井戸を掘ろうか」と言ってもなかなか水脈は見つからないんです。

だから、「これまでの知識の深掘り」と「新しい知識の探索」の両方の手を使うんですね。これを「両利きの経営」といいます。

この時「知の探索」の組織に対しては、しっかりコミットをして、かつある程度距離を置くことが大事です。そういう意味で重要なのは、別組織に知の探索をさせるということ。NTTがチャレンジしようとしているのも、そういうことだろうと思っています。

製品開発に関しては、例えばアイデアを募集するコンテストぐらいまでは社内コンペ形式でやってもいいと思います。ただ、それにGOサインが出てからは、かつ既存の事業部でできないものであれば、別組織を作ったほうがいいと思います。それこそ、新規事業創出部の下に作るとか。

それとも本当にコーポレートベンチャーキャピタルから出資を受けて独立するか。このあたりの判断はお任せしますが、少なくとも既存の事業部の中で新規事業部「も」やるというのは、資源の取り合いになってうまくいかない場合が多いと思います。

ソニーの新規事業創出の姿勢

質問者2:ありがとうございます。大企業だと、号令は出るんだけど「結局誰がやるの?」みたいな話になりがちなのかなと。

玉田:ソニーが手がけている「Startup Acceleration Program」は、社員を含む5人以下のグループからアイデアを募るコンペです。「ただし、アイデアは既存事業部ではできないものに限る」という条件があり、審査も外部審査員も含めたものだそうです。

さらに最終的な判断はクラウドファンディングにかけて、出資が集まったらGOサインが出る。そして、提案者全員に人事異動をかけてぶっこ抜いて、独立した新規事業創出部の下にその商品を冠した課を設けて。「お前ら、提案したからには自分たちでやれ。その代わり独立採算ね」みたいな制度だと聞いています。(※2021年12月に開催されたイベントです)

:ありがとうございます。ではタカダさん、ご質問がありましたらどうぞ。

質問者3:はい。私は長らく大企業におりまして、いろんな新しい事業もやりかけています。その上で実感するのは、今の日本の大企業は破壊的イノベーションがやりにくい状況であるということです。

今私がやっているのは、非常におもしろいヘンテコなことで、これがビジネス化してきています。だから破壊的イノベーションとは、まさしくヘンテコなことを考える視点に立つことだと。理論的ではなく、ちょっと感覚的なことですが、そうすればおもしろい未来が見えてくるかなと感じた次第です。

別組織でやるということと、評価軸に関しては、「みんなが経営者である」という評価でやらないとうまくいかないのかなと実感していますね。

玉田:ありがとうございます。ビジネスの成功をお祈りしています。

質問者3:ありがとうございます。

:そろそろお時間ですね。今日は難しい話も出てきましたが、非常に大事なことなので、ぜひとも勉強されて頭の中に入れていただきたいと思います。玉田先生、あらためましてどうもありがとうございました。

玉田:ありがとうございました。

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