
2025.02.06
ポンコツ期、孤独期、成果独り占め期を経て… サイボウズのプロマネが振り返る、マネージャーの成長の「4フェーズ」
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井上和幸氏(以下、井上):開かれた世界を作った上でいい状態で会社が運営されるのが一番いいのかもしれないですね。でもそれだとほぼ「リーダーシップ3.0」なのかなという感じ。
小杉俊哉氏(以下、小杉):そうですね。コミュニティ意識を持ったり、価値観を共有したり、ビジョン・ミッションを共有したりするのが「3.0」の世界です。「出入り自由」というところが決定的な違いですよね。
本人の意志によってそこを選び、そこに「居る」ことも「辞める」ことも自由であると。だから管理者は、きちんとそこを働く場として魅力的にしたり、チャンスを与え続けないといけない。そうでないといい人が来てくれないし、いい人が辞めてしまう。
井上:そうですね。これ、グローバルとしては、近年どんな感じなんでしょうか?
小杉:例えば、私が留学していた1990年前後というのは、「ファイナンス」が入って、その後「戦略」が入ってきまして。まさに「2.0」、変革のリーダーの初期段階だったんですね。強いリーダーシップを発揮し、先頭で旗を振り、変革を行う。そして経営コンサルタントが介在して、競争優位性のため戦略至上主義。こういったものが真っ盛りになっていく段階だったんですね。
だからアメリカ企業もそういった指向が異常に強かった。そういう強いリーダーが株主にファイナンス面で報いようとする。株価を上げていかないと、逆にクビになっちゃうし、高い報酬ももらえない。それが非常に顕著になっていった時代です。
小杉:今世紀に入ってから、それが続いているかというとそうではなくて。一般的に、日本でみなさんが考えている以上にグローバルでも支援型に移行しているんです。必ずしも、サーバント・リーダーでなくてもいいんですね。ハーバードビジネス・スクールのリンダ・ヒル教授は「羊飼い型リーダー」と呼んでいます。
(同スクールの前教授の)ビル・ジョージさんも「True North(人生の基軸)」を掲げて、「自分をさらけ出し、弱みも見せて、一人ひとりと向き合うリーダーシップでなければならない」と説きました。先頭で旗を振っているようなリーダーでは、逆にチームを動かすことができないと。こうした認識が急速に高まってきて、そういう教育をしているんですね。
井上:首根っこひっ捕まえて動かすのでは、どの国であれ人は動かないだろうと(笑)。
小杉:そうですね。彼らは「トップダウンでは社員のやる気を削ぐ」とまで言っていますからね。人々が創意工夫したり、自分で何かを考えるという気持ちを奪ってしまうと。経営学者や、経営者たちも自ら、かつて大成功した変革のリーダーシップを「それではもうダメなんだ」と否定していますね。これが、非常に大きな変化だと思います。
井上:インターネットなどの発達により、情報の透明度が増したこともあると思います。昔だと、のぞき穴から見ていたようなものでもネット社会ではきちんと共有できる。こうした透明化の作用もすごくあるのかなと思いますね。
小杉:そうですね。ステークホルダーは、かつては株主だけだったのが、今は従業員、さまざまなパートナー企業、社会なども含まれるようになりました。また、株主はESG、SDGs、カーボンニュートラルなど、配慮しなければならないことに対して、全方位的に厳しい目を持っていますからね。Enronに代表されるような、かつての生き馬の目を抜くような剛腕スタイルがもてはやされることは、今や非常に少ないですよね。
井上:後半に入っていきますので、ここからは少しまとめ的なお題を立てています。
一般論にするのは難しいのかもしれませんが、「これからの経営者、幹部に求められること」というお話をしていきます。みなさんからのご質問もいただきたいと思います。今話していたことに通ずるかもしれませんね。
小杉:そうですね。言わずもがなですが、「役職」や「ポジション」をエサに人を動かすのが、もはや非常に難しくなりました。特に40歳以下の世代は、必ずしも報酬で動かないですよね。もちろん人による違いはありますけどね。
井上:まあ、そうですよね。
小杉:だから「何のために働いているのか」とか、「これをやることによってどう世の中に貢献できるのか」という、パーパスを明確に掲げないといけない。「与えられた仕事をやれ。やっていれば悪いようにはしないから」といった「1.5」スタイルでは人は動きません。あるいは「2.0」のように「立ち止まるな。とにかく俺の通りやれ」スタイルでも、誰も動かない時代になっていると思います。
井上:そうですね。「why」がきちんと腑に落ちていないと、なかなかやる気にならないですよね。
小杉:そうですね。私はずっと学生と向き合ってきていますが、今の学生は「世の中にどうつながるか」「世の中にどう貢献するか」などを重視します。また、ボランティアでNPOをやっている学生も、比率として多いですね。これは我々の世代、あるいはそれより少し下の世代と違う点ですね。
井上:そうだと思いますね。
小杉:「バイオプラスチック問題」や「素材のリサイクルの問題」などの活動をしている学生も非常に多い。入った会社がそれに反することをやっていることが分かると、すぐ辞めちゃいますよね。
井上:私たちも、いろんな意味での取り引き先として彼らに接することがあります。あるいは取引関係がなくても、私たちはメディアをやっているので、取材させていただいたり、スタートアップの方々とも話すことが多いんですね。今の若い経営者の方たち、本当に尊敬しますね。みなさんがそれぞれに、すごくテーマを持っている。
小杉:そうですね。昔のITバブルの頃の経営者は、「上場して、ひと儲けして、フェラーリ買って」みたいな。みんながみんな、ではないですけど。
井上:10年ちょっと前とか、リーマンショックの前は、そういうベンチャー経営者や若手も多かったですけど、最近は一切聞かないですね。
小杉:「上場することが目的」なんて、最近聞いたことないですよね。
井上:そうなんです。2000年ヒトケタ代のタームでは、そういう起業家がいっぱいいましたが、ちょっと言い方はあれですが、そういう人がその後成長企業を築き上げたというのは、あまり見ないですよね。
小杉:下の世代はそういうのに付いていかないですから。それではまず成功できないですよね。
井上:もちろん、まだ「お金を」という人だっているでしょうけど、マジョリティではなくなったと言えますよね。
小杉:活力としてそういう若者が出てくることは、まったく問題ないし、むしろそういう人もいてほしいですよね。でもマジョリティでないのは間違いないですね。
井上:ご質問をいただきました。「会社としてのビジョン・目的が、具体的かつ明確ではないが故に、一見リーダーシップのタイプが「調整(型)」であり「支援(型)」に見えているということはないでしょうか?」とのことです。小杉さん、どうでしょうかね?
小杉:ああ、なるほど。明確じゃないから......。
井上:明確なビジョンを打ち出せていないから、一見意見を聞いているふうになっていると。
小杉:なるほど。支援型は定義として、「目的やミッション・ビジョンをいかに共有するか」ということが真っ先に来るんですね。だから、少なくとも支援型ではないですね。
井上:そうですね。
小杉:調整型に見えるのはあるかもしれないですね。かつて、日本企業の多くは、ビジョンを示していなかったですよね。いまでもそうなのですが、中期事業計画をビジョンなどと定義していたり。そのため、結果的に調整型に分類されるというのはあり得ますね。
井上:そもそも、ビジョン・ミッションがない場合は、支援型というのはあり得ないということですよね。
小杉:そうですね。それを必ずしも自分が打ち立てなくてもよくて、みんなを巻き込んで作っていく、追求していく。明確な場合には共有していく。それが大前提です。だから、ここで定義している「3.0」の支援型ということはないですね。
井上:そういうことですね。
井上:ちなみに小杉さんは今、注目されている経営者の方はいますか?
小杉:そうですね。この間、授業のゲストに来てもらったんですが、ワークマンの土屋(哲雄)さんですね。
井上:土屋専務。
小杉:彼はすごいですね。
井上:すごいですよね。
小杉:私、土屋さんが三井物産デジタルという社内ベンチャーをやられていた頃にお会いして以来、20数年ぶりに会ったんです。
井上:そうなんですね。
小杉:その頃はまさにザ・商社マンで、イケイケドンドンだったんですけど、今はすっかり3.0の支援型リーダーになられていました。
井上:そうですか。やっぱり、叔父であるベイシアグループのトップ(土屋嘉雄さん)のスタイルですね。土屋(哲雄)さんは、定年後に「(ワークマンに)来い」と誘われたんですよね。
小杉:ぎりぎり定年前だったそうです。「社長からいい会社だから何もしなくていいと言われ、2年間は何もしなかった」と言っていましたね。でもやっぱり商社って狩り型じゃないですか。狩人というのか。ワークマンはひたすら深掘りする、作業服、用具、と農耕的にやってきた会社ですよね。
「両利きの経営」で言うと「知の探索」型経営から「知の深化型」経営に移って。彼は2年間で「これは前のスタイルでやってはダメだ」と悟ったそうです。それで、非常に深く掘っていっている職人気質の人たちを活かすには、自分たちが仕切るのではなくて、彼らの意見を引き出すことが大切であると。そういうスタイルに転じたそうです。そこが見事だったと思いますね。
先ほどの話と通じますが、やっぱり名経営者と呼ばれる方は、型を変えられるんです。
井上:そうですね。
小杉:それであの大躍進があったんだと思いますね。今、ワークマンすごいですよね。このご時世にブルーオーシャン(未開拓の市場)があるんだなと。
井上:本当に打ち出す筋がシンプルでわかりやすくて、素晴らしいですよね。
小杉:また、すごいところが競合がいないということ。
井上:きちんとワークマンさんがあってのことですから、土屋さんのお考えをただ真似してもできませんよね。
小杉:もちろん、そうですね。
井上:当然、追随するところは出てくる可能性はありますが、単純に真似すればできるわけではない。そういうことをやっていらっしゃるのが、やっぱりすごいなと。
小杉:そうですね。あの値段であのクオリティは出せないということなんでしょうね。
井上:今、ご質問をいただきました。「『4.0』を目指したいのですが、ティール組織には少し違和感を感じます。『4.0』とティール組織は同じ定義でしょうか?」ということですね。
小杉:先ほど、井上さんはそうおっしゃっていましたが、私はそうは考えていないんですね。ティール組織というのは、「3.0」型の組織の1つのあり方だと、私は位置付けています。
「4.0」というのはまた位相が違う話で、階層や上下関係があったとしてもいいのです。一人ひとりが自律して、一人ひとりがリーダーシップを発揮するということ。こちらの状態を指しているんですね。その違いを理解していただければと思います。
井上:私は、実はティール反対派なんです。チーム単位だとしたらティールで成り立つと思うんですが、事業部や企業全体となると、すごく無理があると思うんですね。先頭なしで全員やれるんだろうかと。
小杉:そうですね。
井上:先ほどの「3.0」の話にも通じますが、指し示すリーダーが不在で組織が成り立つとは思わなくて。小杉さんはどう思われますか?
小杉:そうですね。指揮者のいない「オルフェウス室内管弦楽団」って、日本でも注目されましたよね。今は組織論としてはまったく注目されなくなりましたが、あれは、一人ひとりがプロフェッショナルで、誰がリーダーシップを取ってもおかしくない自覚と技量を持っている。そういう人たちの集団だから成り立つのであって、企業では難しい。ティール組織については、この話に似ているなと思いました。
井上:そういうことですね。
小杉:通常は組織が必要だし、命令系統も必要。そうじゃないと普通の企業は機能しません。全員がプロフェッショナル集団じゃない限りですね。そう思います。
井上:だからユニット単位で自律的に動けることは、すごくいいと思います。一方、それをちゃんとオーガナイズしていかないと、どの企業も全体として機能していくのが難しいのかなと思います。
小杉:そうですね。提唱者はフレデリック・ラルーという、マッキンゼーのコンサルタントですよね。私は、概念的な話なのかなと思いました。なんでそんなにもてはやされたのかよくわからなかった。
井上:うーん。少しブームは去った感じですかね。
小杉:そうですね。もうあまり言われないですよね。
井上:何か考えるきっかけになるという意味ではいいと思います。
小杉:そうですね。
井上:私たちが言うのも変かもしれませんが、人材領域、人系・組織系に限らず、バズワードが出てきた時にコンサルは一生懸命流行らせますよね。それでフォーマットして「導入しませんか」と売り込むという(笑)。
小杉:そうですね。
井上:それも如何なものかなと(笑)。バズワードに表面的に踊らされないようにしたほうがよい。
小杉:おっしゃるとおりです。
井上:では、ちょうどお時間となりました。ポイントポイントで密度の濃い話とかなり現実的な話をしていただいてありがとうございました。みなさんも明日からの参考にしていただければ幸いです。小杉さん、今日は本当にありがとうございました。
小杉:こちらこそ、ありがとうございました。
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