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経営課題としてのエンゲージメント(全3記事)

仕事に「使命感」はあるけど「楽しさ」はない人が多い日本 社員のエンゲージメント向上が「経営の課題」になるワケ

年間1万セッション以上の1on1を提供する「YeLL」では、その知見をもとに組織作りに関するセミナーを開催しています。今回は「経営課題としてのエンゲージメント」をテーマに、取締役の篠田真貴子氏が講演を行いました。本記事では、従業員エンゲージメントを経営視点で扱うべき理由について、「働きがい」の観点から語られました。

従業員エンゲージメントは、組織の「体質」を表す

篠田真貴子氏:では次に、じゃあ実際にその組織にいて経営に当たっている私たちは、これ(従業員エンゲージメント)をまずどう理解して、どう扱っていったらいいんだろうかということを、一緒に考えていきたいと思います。

大きく言うと従業員エンゲージメントは、組織というシステムの「体質」を表すと思っています。まずファクトとして、日本の従業員エンゲージメントが状況としてどうなってるかというデータをご紹介していきます。

その上で、私は「そもそも従業員エンゲージメントはどこからくるんだっけ?」というのを、組織をシステムとして捉えるという観点から理解しようとしているので、その観点をご紹介しようと思います。事例とともに、ここはお伝えしていきます。

私がその観点の肝かなと思っているところは、会社の持っている組織の価値観の中に「人とは感情を持っているものである」という……言ってみれば当たり前ですけど(笑)。ちゃんとその「人の感情」を前提にした、事業観とか人間観とか組織観。

これが中核にあるということが、1番目の「企業価値向上につながる人的資本経営」に(おいて)外してはいけないポイントではないか。こういう話をさせていただこうかなと思います。

「従業員エンゲージメント」と「従業員満足度」の違い

まず人材版伊藤レポートの中で、従業員エンゲージメントはこのように定義をされています。「会社が目指す方向性や姿を物差し」として、それらについて社員が自分自身の理解度とか共感度とか行動意欲を評価するもの、と書いてあります。

この文章の中では「従業員エンゲージメント」と「従業員満足度」を対比させています。従業員満足度のほうは、会社の方向性とかは関係なく、個として社員一人ひとりが「私は今ハッピーか、満足か」。極端なことを言えば「会社の方針とかどうでもいいけど、今すごい楽しくやってます」と言うと、満足度は上がるんです。

でもそうではなくて、やはりここまで申し上げた経営の文脈の指標が必要なので。その観点で従業員エンゲージメントは、会社が目指す方向性に対して社員の理解とか共感とか意欲などの思考や感情がどうなっているかが測られます。

なので、従業員エンゲージメントは数字で出てきますけど、あれは一方では組織というシステムの状態を表すものであるし、その状態を従業員の主観とか感情という観点から捉えている、と私は理解をしています。

従業員エンゲージメントの測り方

従業員エンゲージメントの調べ方には、さまざまな手法があります。ごく数問の質問を頻繁に答えていくことで測ろうとするWevoxのようなサービスもあれば、もう何十、何百、100を超える細かい質問項目を全社員に調査してる企業さんもいらっしゃいます。

その中で、世界中で世論調査をするギャラップという会社が、アメリカでは毎年、世界でも何年かに一度、同じ物差しでエンゲージメントの状態を測っているんですね。12問なので、それをご紹介することで「従業員エンゲージメントはこういうことを測っているのね」ということをみなさまと共有したいと思います。

まず初めの2問が仕事の基本部分ですが、「職場で自分が何を期待されているのか知っていて」、「それをうまく行うためのツールが与えられている」。

2つ目の塊が、職場の人たちが自分の仕事ぶりをどう評価してくれているのかに関する質問で、「得意なことをする機会がある」「『いい仕事をしたね』と褒められたりする」、あるいは「一人の人間として自分を気にかけてくれている」「成長を促してくれる」。こういう感じがありますか、と聞いている。

3つ目の塊、これは職場への帰属や同僚への信頼感。「自分の意見が尊重されている」あるいは「(会社の使命が)自分の仕事は重要だと感じさせてくれる」。使命があるから自分が大事だと思える。こんなことを確認します。

最後、4つ目の領域が、職場の全員が成長するにはどうしたらいいかについて。「職場の誰かが自分の進歩について話してくれた」「この1年の中で学びや成長する機会があった」。こういった職場の状況や環境を、一人ひとりが主観的にどう思っているか調べるという感じです。

社員のエンゲージメントが高いと、マネジメントが楽になる

これが高いと何が良いかというと、マネジメントが楽になるんですよ。これ(スライドのグラフ)、日本企業で「エンゲージメントが上がりました」と答えた企業の組織責任者の方々に、「それで何が良かったのか」を調べたものですね。こちらのグラフ、字が小さいのでトップ5の項目を右に書き出しました。

1番から「組織の活性化」「社員のモチベーション」、3番目に「業績の向上」がきます。結局、組織活性化や社員のモチベーションが上がるのは、実際想像すると経営陣の考えた方向・方針に対して、社員が非常に前向きに答えるので。例えば問題社員の対応とか、なかなか動かないチームの尻を叩くとかいうことに、マネジメントの力を使わなくてよくなる。

実際トップの方から経営職のみなさん、管理職のみなさんが顧客に向かう時間が増えるし、あるいは未来のことを考える時間が増えるので、業績が上がる。こういうつながりなのかなと想像します。

日本は仕事に対し、使命感はあるけれども楽しくはない人が多い

ところがギャラップが行った世界調査だと、エンゲージメントの高い社員の比率が、日本は世界平均の4分の1しかないんですよ。こちらのグラフは世界の状況を示していて、最新の調査だと20(パーセント)あるんですね。アメリカの平均、36(パーセント)。世界のトップ企業は73パーセントがエンゲージメントが高い社員ですが、日本の平均はわずか5パーセントです。

これ「外国の調査だからね」という感情が若干湧くんですけど、パーソルさんが調査しても似たような結果が出ました。「はたらくの体験」、「あなたは日々の仕事に喜びや楽しみを感じていますか」という質問に対しての日本の回答率は、世界で言うと95位。真ん中より下です。

解説として、仕事への熱意、やりがいなどワークエンゲージメントが高いことと、質問1にあった「その人が主観的に感じる“はたらく”の喜び・楽しみの度合いには相関があるんです」、とパーソルさんも分析されています。日本の調査でもやっぱり、日本は(順位が)低いんです。

ちなみにこれ、2番目(の項目)は5位になっています。「自分の仕事は人々の生活をより良くすることにつながっている」という、使命感ですよね。使命感は高い、でも楽しくない。

「働きやすさ」は改善されても「働きがい」が低い現状

この「楽しくない」のが何が困るかというと、1個の観点として「働きやすさ」ではなくて「働きがい」のほうに表れてくるんです。これはOpenWorkという、各企業に関する口コミのサイトを分析して、2010年を101とした時に、働きやすさと働きがいがどうなっているかを数値化したものです。

ここ10年で働きやすさ、赤い線はじりじりと上がっていってるんですが、働きがいのほうがガコーンと下がっているんですよね。働きがいと相関があるのはやっぱり社員の士気とか、成長環境とか、仕事の評価の適正感であると。

この中でも「人材の長期育成」のところがかなりスコアが低いです。これについて伊藤レポートをまとめた伊藤先生は「無形資産のど真ん中のテーマである人材への投資が日本は遅れてきた」ということが、この数字から示唆されるのではないかとおっしゃっています。これもエンゲージメントに関わるのではないでしょうか。

結果として、これは2017年版の世界調査の状況です。エンゲージされている、熱意あふれる社員が少ないだけでなく、「Actively disengaged」……つまり積極的に、と言うんですかね。世界に比べて、(積極的に)周囲に不安を撒き散らしてしまっている無気力な社員の比率が高いのが、日本の特徴です。

「会社で働く大人は、なんで楽しそうではないのか」

これを見た時に、特に経営視点で考えた時に大切なのは、やっぱり未来です。将来世代もステークホルダーですから。こちらの方はユーグレナで二代目のCFO(チーフ・フューチャー・オフィサー)になっていらっしゃる、川崎(レナ)さんという方です。16歳の方です。

この方がユーグレナのCHROの方に「会社で働く大人は、なんで楽しそうではないのか。このままでは私たち、将来会社で働きたいと思えません」とおっしゃいました。私もお話しさせていただいたことがあるんですけど、彼女に「マキコさんの将来の夢って何ですか?」と聞かれたんです。

その質問の意図は、「大人たちはもうしょぼくれていて『若い世代に期待しているよ』とよく言われるんですけれども、そうじゃないんです。先輩方の輝いている姿を見ることで、初めて自分たち『もっとやらなきゃ』と思えるんですよ」と言ってくれたんです。これを聞くと、今現役で働いている私たちがエンゲージメントの高い状態であるということは、日本の未来にも直結している話だなと思います。

エンゲージメント向上は、経営層が扱わないと解けない課題

ここまでお話ししてきて、あらためて確認したいんですけれども。やっぱり従業員エンゲージメントって、組織という仕組みの中での相互作用の結果なんですよね。

だから例えばエンゲージメントを上げたいといった時に、管理職のリーダーシップスキルをどうこうしようとか、社員の自律性を上げようとか。あるいは教育とか評価の仕組みとか、なにか1個手を打ったからって、先ほどの12問の質問が改善するというものではなさそうだというのは、ちょっと感じていただけるでしょうか。

ましてやエンゲージメント調査を詳細にやって部署間で比べて、「篠田さんの部署はほかの部署と比べて、褒められている頻度が低いという答えになっています」と。「だから褒めてあげてください」というような、コインの裏返しをするような打ち手は、やっぱり解決策にならないんですよね。

なぜかというと、組織はかなりさまざまな要素が複雑に絡み合ったシステムだからです。だからこそエンゲージメント向上というのは、もちろん管理職とか一社員として取り組むべきことはあるんですけど、本質的には経営層が扱わないと解けない課題だと私は考えています。

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