2024.10.10
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斉藤知明氏(以下、斉藤):「心理学の知見からひもとく 組織の自律性を高める感謝の機能」と題して、ウェビナーをお送りします。
本日のプログラムはこちらです。まずは「仕事に対するモチベーション」「自律性を高める」について参加者全員で考えるパートから、「~心理学の知見からひもとく~自律性を高める『感謝』の機能とは」と題したプレゼンテーションをお聞きいただいて、ディスカッションに入っていきます。最後にQ&Aもあるので、途中で気になることがあれば、ぜひお寄せいただければと思います。
では、まずは自己紹介です。Unipos株式会社執行役員CPO、プロダクト責任者をしている斉藤です。在学時にスタートアップを起こしたり、今の会社の前身となるFringe81株式会社に入ってUniposを立ち上げました。
今は自身も執行役員として会社のマネジメントに携わっています。いち実践者として、またUniposを通して、いろんな組織のみなさまをご支援させていただいた経験から、本日はファシリテートを務めます。よろしくお願いします。
では、本日のゲストをお招きします。九州大学大学院人間環境学研修院、准教授の池田浩先生です。よろしくお願いします。
池田浩氏(以下、池田):みなさま、おはようございます。よろしくお願いします。ご紹介に預かりました、九州大学の池田と申します。社会心理学、あるいは産業・組織心理学といった心理学をベースにした研究を行っております。
主な研究としましては、組織においてどうやったらみなさんがイキイキと働けるのか、効果的なマネジメントとして、リーダーシップの問題やモチベーションに関する研究をやってまいりました。
日経新聞で『やさしい経済学』という連載がありますが、そこで「働き方の変化とモチベーション」と題する連載を掲載させていただきました。それを元に、『モチベーションに火をつける 働き方の心理学』という本を出版させていただきました。
池田:今日は、その中の1つの章である「感謝」の話をさせていただきたいなと思っております。感謝すること自体が、どういった心理的な機能を持っているのか。いくつかの企業で行った調査や、実際に企業で導入した時にどういった変化が見られたのかを元にしながら、みなさまにご紹介させていただきたいと思います。今日はどうぞよろしくお願いいたします。
斉藤:先生、よろしくお願いします。まさにUniposも「感謝」や「称賛」を扱っているサービスで、池田先生の著書も拝読しました。「一度ご登壇いただきたいな」と思ってお声掛けして、この場に至った次第です。すごく楽しみにしていました。よろしくお願いします。
ではさっそく、オープニングセッションに入っていきます。「みなさんと一緒にモチベーションについて考える」というパートなんですが、我々からみなさんに2つの問いかけを用意しています。
まずはQ.1。「自分自身の仕事に対してもらった反応や声掛け(同僚だったり、顧客のみなさん、パートナーさん)の中で、自分のモチベーションが下がったなと思うことはどんなことがありましたか?」。Zoomのチャットから選択して、ぜひみなさまの思いをお送りいただければと思いますが、いかがでしょうか。
(コメントを指して)「全否定」、すごいですね(笑)。「君じゃなくても誰でも一緒だね」、これはつらいですね。「そもそも反応が鈍い」、なるほど。
池田:そうですね。
斉藤:「いい反応じゃなかった」「ノーリアクション」「なぜこんなことをする」。
池田:日本の文化として、明確に感謝やねぎらいの言葉を掛けるというのが少し希薄な感じがしますよね。
斉藤:そうですよね。イメージ的に、(感謝の声掛けを)する人が多いとは思わないですね。「できて当たり前」「ノーリアクション」、これはなかなかつらいですよね。「これだけしかできてないの?」「わかるけどねぇ」、こんな反応をする人はわかってないですよね。「フィードバックが無反応。リアクションがない」、無反応が多いですね。続々といただいていますね、ありがとうございます。池田先生、気になることがあったらぜひ。
池田:ありがとうございます。仕事によっては「きちんとやって当たり前」ということもあるんですが、そういう仕事だからこそ、精神的な報酬が必要なのかなという感じがしますね。
斉藤:「『それでさぁ』と次の話に流される」。こういう反応をするということは、興味がないですよね。「君なら知っていると思ったんだけど」「逆にトーン低く『ありがとう』だけ言われた時」、(相手の気持が)すすけて見えちゃったということですかね。「自分の主張をゴリ押してきました」「だから○○部はダメなんだ」。
池田:ああ、なるほど。「頼んだっけ?」。
斉藤:「こんなの頼んだんだっけ?」「で?」はきついですね。
池田:進んで自発的にやることが期待されているでしょうから、「誰の許可を取ったんだ」という言葉があると、とたんに自発性が奪われてしまうと思いますね。
斉藤:「次もやろう」と思えなくなっちゃいますよね。
池田:そうですよね。
斉藤:ありがとうございます。(クエスチョンでは)あえて、モチベーションが下がった、やる気が失われた瞬間についてうかがいました。では今度は、想像というよりも自分の経験を振り返ってみた中で、自分のモチベーションが上がった周囲の反応・声掛けはどんなものがあったでしょうか。
感謝もあると思いますし、「このタイミングで僕はモチベーションが上がったんだな」「今の仕事のやる気が出たんだな」「私は今やっていることにすごく前のめりになったんだ」ということがありましたら、ぜひ思い起こして書いていただければと思います。みなさん、いかがでしょうか。
池田:「ありがとう」という言葉は、大きな精神的な報酬ですよね。
斉藤:「日本の未来、国の資産」。なるほど、すごいですね。「自分がやっていることに共感されて『ありがとう』という言葉(を掛けられた)」。「給料が上がった瞬間」は、わかりやすいですね。会社から認められているということが、明確に表現されている瞬間ですもんね。「○○さんがいなかったらできなかったよ」、これはもう自己肯定感が上がりますね。
池田:そうですね、その人自身が認められたということですね。(自分のモチベーションが下がった声掛けは? という質問に対して)「誰に頼んでも一緒」というコメントがありましたが、「あなただから頼んでよかった」という言葉は、それに応えたいという気持ちが湧いてくるかと思いますので、非常に効果的ですよね。
斉藤:効果的なんですね。「笑顔で『助かったよ。お陰で切り抜けられたよ』」「君に頼んでよかった」。これいいですね、「もう1人君がいてくれたらな」。「自分の予想を超える反応・感謝」。こんなに喜んでくれるんだというぐらい、反応があったということですかね。これは確かに、Uniposのお客さんに聞いていても出てくる声ですね。
池田:思いがけなかったことに感謝されると、もっとそれに応えたいという気持ちが生まれてきますので。
斉藤:へえ! 自分の仕事で思いがけなかった効能が生まれた、という気持ちになるんですかね。
池田:逆に、感謝カードを導入した時によくある話は、意図的に感謝されるためにカードを書いて反応がないと、不満を抱いたりすることがありますね。裏返しなのかな、という感じがします。
斉藤:「これは感謝されてしかるべきじゃないか?」と、逆に(意欲を)喪失しちゃう。
池田:感謝というのは自発的に道徳的な行為をすることですが、企業によっては(感謝カードに)ポイントがあって、そのポイントをもらうために感謝されるようなことをやっている、ということが起きると、かえって悪い方向に行っちゃう可能性はありますよね。
斉藤:これも素敵ですね。「自分1人で100パーセントを目指さなくても、○○さんで60パーセントなら僕らで40パーセントとカバーするから」。一緒に前を向いている感覚を得た時はやる気になりますね。
池田:チームで働いている時、そういう言葉をかけていただけるとうれしいですね。
斉藤:ありがとうございます。(コメントを)たくさんいただいて、自分のモチベーションが上がった瞬間、実体験に基づいて書いていただいた方が多かったかなと思います。
モチベーションが下がった答え・反応・声掛け、また上がった反応・声掛けなど、いろんな声がありましたが、今回は心理学の知見から、自律性の高い組織をつくるために「感謝」がどんな機能(を持っているのか)、ないし功罪があるのかについて読み解いて、お話いただきたいと思っております。
引き続き、ご意見・ご感想もチャットにお願いします。最後にQ&Aのコーナーがございますので、質問をお寄せいただければと思います。では池田先生、「~心理学の知見からひもとく~ 組織の自律性を高める『感謝』の機能」について、プレゼンテーションをお願いします。
池田:よろしくお願いします。それでは、画面を共有させていただきます。
斉藤:お願いします。
池田:それではみなさま、20分間ですが私の説明をさせていただきます。今日は「心理学の知見からひもとく『感謝』の機能」という話をします。
先ほど、みなさまからいろんなお言葉をいただきましたが、私たちは何かをしてもらったことに対して、「ありがとう」といった感謝の気持ちを感じる。あるいは、意識化して言葉を相手に伝えること自体が、働く現場においてどんな効果を持つのかについて、お話をしたいなと思っております。
感謝に関する問題は、以前から非常に注目を集めてきました。感謝カード、あるいはサンクスカードを紙に書いて渡す施策はもう10年以上前から導入されてきています。
感謝カードを受け取ったり、あるいは書いたり・渡したりすることで、非常にホッとするような気持ちやハッピーな感覚になるということは、みなさんも感じたことがあると思います。ただ、それを実際に施策として企業に導入した時に、なかなかうまくいかないという企業も多くございます。
多くの企業のみなさまからよくいただく問題としては、「なぜ感謝に関する施策を導入したとしてもうまくいかないんだろうか?」「そもそも、そんなことをやって意味あるの? 効果あるの?」という話。
あるいは、「仕事が忙しいのに、わざわざ書くこと自体が時間の無駄じゃないか」「忙しいのに」「自分は日頃から感謝しているから、わざわざ伝えなくてもいいんじゃないか」とか、そんな声が聞こえてくるところもあります。
池田:(感謝に関する施策は)すぐに業績につながるようなことではないんですが、なぜ感謝をすること自体が、組織の中で働くみなさんの自律性を高めて、ひいては組織力に貢献するのか、寄与するのか。そういったことを、今日は心理学の知見とエビデンスからご説明したいと思っております。
また今日は2つほど、企業で導入・実施した調査や、企業で導入した施策などの知見もご紹介しますが、そういったことを踏まえながら、実際に感謝に関する施策を導入する上で、どういったことに注意してやっていけばいいのかを考えてお話します。
まず、なぜ私が感謝の研究をしようと思ったのか。心理学の知見から、どうやったら働くみなさんがイキイキと働けるのか、そういったマネジメントに関する話を研究しております。
私たちがイキイキと働く上で、組織がどんな対策を講じているのかといった時に、基本的には「人的資源管理の領域か」と思うんですが、合理的な考え方に基づいた施策があると思うんですね。これは人事評価制度しかり、職務設計などもあるかと思います。
ただ、合理的な考え方に基づいた施策がなかなかうまくいかないのはなぜかと言いますと、これは心理学の研究の大きな領域なんですが、私たち自身が感情で生きている人間である。いつも冷静に合理的に行動しているわけじゃなく、やはり感情に左右されるところがあるということが、組織をマネジメントしていく上でなかなか難しい問題かなと思っております。
そういった中で、社会心理学の中でも悩ましい問題として、ネガティブな感情が職場の中に蔓延していることがあるかと思います。十数年ほど前でしょうか、話題になった「不機嫌な職場」という言葉。本も出版されましたが、職場の中になんだか嫌なムードが流れていることがあるかと思います。
池田:実際に私たち心理学の研究の中では「ポジティブ感情」「ネガティブ感情」というものを扱っています。基本的に、うれしい気持ちやハッピーな気持ちはその瞬間のインパクトは非常に強いんですが、持続性は短いと言われています。
一方で、イライラしたり怒ったりするネガティブな気持ちは、非常にインパクトが強いですし、持続性が長い。おもしろい現象として、職場の中の不平不満、あるいは明らかに手を抜くような人がいた場合。そういった“腐ったリンゴ”がいらっしゃると、職場全体が悪くなるという、腐ったリンゴ効果というものがあるわけです。
職場の中に嫌なムードを醸し出すような方がいた場合、あるいは否定的なことをやる方がいらっしゃった場合に、職場としてどうするのか。対応の仕方が2つあると思います。
多くの場合、ネガティブ感情を示す人たちにどう対処するのかというと、受動的な対応があるかと思います。私は、(「腐ったリンゴ効果」に対して)受動的に対応をするのではなく、先取りして日頃からいいムードをどう作っていくのかということで、感謝の感情を研究・注目したという背景があります。
感謝自体は特に説明するまでもないんですが、なにか道徳的なことを他者から行ってもらった時に、「ありがとう」といった気持ちを感じることを「感謝」と定義されています。
一般的には、感謝をされると(感謝された側の)気持ちにどう効果があるのか、ということに注目しがちなんですが、心理学ではむしろ「感謝する側」に注目した研究が非常に多くございます。
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