2024.10.10
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第1章・第2章 魚返氏講演(全1記事)
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2022年の4月より、育児・介護休業法の法改正による新ルールが段階的に施行(適用)されます。この法改正により一層注目されるのが「男性の育休」です。今回は電通グループ発のソリューションを紹介するメディア「Do!Solutions」が主催で開催された、電通パパラボによる「男性の育休が、会社をもっと強くする。」のウェビナーの模様をお届けします。本記事では、2017年に育休を取得したコピーライターの魚返氏より、育休に関する「誤解」について語られました。
魚返洋平氏(以下、魚返):みなさんこんにちは。本日はご参加いただきましてどうもありがとうございます。電通のコピーライターの魚返洋平と申します。よろしくお願いします。
今日のウェビナーでは「男性の育休が、会社をもっと強くする。『パタニティ・トランスフォーメーション』という提案」というお話をさせていただきたいと思います。
まず、この題名についてなんですけれども、「パタニティ・トランスフォーメーション」という言葉は世間一般にある用語ではなくて、我々(電通パパラボ)がこしらえた造語のようなものですね。
デジタル・トランスフォーメーション(DX)とか、ビジネス・トランスフォーメーション(BX)とか、昨今なにかとトランスフォーメーションを「X」で表現する流れがあるので、それにあやかってというか、半ばパロディのような感じなんですけど、我々の場合は「パタニティ・トランスフォーメーション(PX)」という言葉を作ってみました。
この「パタニティ」は直訳すると「父親の性質」と書いて「父性」とされたりもしますが、基本的には「父であること」「父という存在」という意味です。
例えば男性の育休を英語では「paternity leave」と言ったりするんですね。一方、悪い言葉で言うと、父親であることにまつわる嫌がらせのことを「パタハラ」なんて言いますね。あれは「パタニティ・ハラスメント」の略なんですけど、そう使われたりします。
いずれにしても、父親であることがパタニティで、今回はパタニティ・ハラスメントのような使い方とはいわば真逆の、パタニティを前向きな変化のためにみんなで見ていこうよということが趣旨です。
本日は、途中途中でスピーカーをバトンタッチしていきます。2人目のスピーカーの熊木は、ソリューション・ディレクターです。そして3人目は服部。ソリューション・プランナーです。
3人が3人ともふだんは別々の部署で仕事をしていて、ご覧の通り職種自体も違います。違うんですけど、3人とも共通して実際に育児休業を取得した経験があります。同時に、3人とも「パパラボ」という名前の社内のチームに所属しています。
部署とは違って、それぞれがそれぞれの部署にいながらも、その部署を時々横断するかたちで「パパラボ」というチームで活動していることがあり、今日のウェビナーはそのパパラボ発としてお話ししていきます。
そのパパラボとは何か簡単にご説明すると、パパ、つまり父親視点を糸口にしたりヒントにしながら、いろんな企業のいろんな課題と向き合っていくソリューションチームです。
例えば父親や家族の実態の調査もやりますし、その調査で得た知見をもとにいろんなコミュニケーションのご提案をしたり、商品開発とかサービス開発のためのお手伝いをさせていただいたり、もちろん講演活動もやります。時には、自分たち自身のオリジナルコンテンツとして漫画も制作したりと、いろいろと幅広くやっています。
今回は2017年から活動しているこの「電通パパラボ」が、パタニティ・トランスフォーメーションをご提案します。
電通という会社の男性の育休取得状況はどんなものかということで、一番新しいデータを持ってまいりました。これは2020年度の数字なんですけど、男性の取得率は77パーセントに達しました。
この年に「子どもが生まれた」という出生届を出した新しい父親の数が195名。その195名中150名が取得したので、77パーセントという数字になっています。
このグラフを見ていただけるとわかるんですけど、例えば僕自身が育児休業を取得したのは2017年なんですね。当時は21パーセントでした。それがこうぐぐぐっと上がって、当時の3倍以上、今ついに77パーセントにまで達して、これからもこの数字は上がっていくんじゃないかなと思います。
育児休業は、1日でも取得すれば「取得した」とカウントされるので、短く取った人もいれば長く取った人もいてさまざまです。うちの会社の例で言うと、全員の平均は21.7日になっていて、1週間しか取らなかった人もいるし、1年取った人もいるんですね。この平均期間の数も、取得率に伴って今後は伸びていくといいなと思っています。
自己紹介を終えたところで、本日の構成をざっと説明します。まず第1章では、「なぜ今、男性の育休なのか」。2022年という時代の男性の育休を取り巻く状況を簡単にまとめてご説明できればと思います。第2章では企業や組織の従業員にとって、なぜ育児休業は意味があるのかということを説明します。
第3章では、一方「会社にとって育休がなぜいいのか」。これが今回のいわば一番の目玉です。最後に第4章で、じゃあ電通には何ができるのか、どんなことをお手伝いできるのかという話をしていきたいと思います。よろしくお願いします。
それではまずCHAPTER1、「2022年、男性の育休はブレイク必至。」と題してお話しします。育児休業という制度自体は育児・介護休業法で定められていて、1992年からあります。
つまり、もう30年ぐらい制度で保障されてきたはずなんですけど、30年越しでようやく最近になって、男性も育休を取るのがメジャーになりつつある。メジャーになりつつ、さらに2022年にもっと一般に広まるんじゃないか、ブレイクするんじゃないかというのが我々の見立てです。
例えば、これは厚生労働省が発表している数字ですけれども、日本全体の取得率として一番新しいのが2020年度のデータで、その1年前の2019年には7.48パーセントでした。これが2020年には12.65パーセントになった。とうとうここで、ぽんと飛躍的に数字が上がって10パーセントを超えた。これはすごく意味のある大きな社会自体の変化だと思っています。
一方でこのグラフを見ていただけるとわかるんですけど、上にあるピンク色の折れ線。これは女性の育休取得率ですね。100パーセントとはいかないまでも、80パーセントとか90パーセントとかのあたりをずっと行っています。
これに比べれば男性の取得率なんて正直まだまだ、ぜんぜん足元にも及んでないんですが。でも7.48パーセントから12.65パーセントに上がったというのは小さいようで、大きな意味のある一歩なんだと前向きに捉えています。
ここにお集まりくださっている方々にとっては当たり前のことかもしれないので言うまでもないかもしれないですけど、一応確認しておくと、今ここで我々が「育児休業」と呼んでいるのは、被雇用者に認められた国が保障する制度です。
つまり、会社や団体、組織で働いている人たちには全員平等に保障されている制度なんですね。逆に言えば、会社特有の福利厚生ではまったくないんです。
だから、「うちの会社には育休はないんだよね」とか「うちの会社に育休制度ってあったっけ?」みたいな考え方自体がそもそもの誤りで、どんな会社のどんな従業員にも等しく国が法律で保障する制度が育児休業です。
この法律の内容が去年見直されて、今年2022年からリニューアルされます。左の表がそのビフォーアフターをまとめたものです。ここで細かく説明はしませんが、すごく簡単に言うと、今までの育児休業に加えて、「産後パパ育休」、別名「男性版産休」とも呼ばれるんですけど、新しい取得期間が追加されています。
例えば産後パパ育休も合わせると、最大で4回まで分割して取ることができるようになります。今の育休は取得1カ月前に申請が必要なんですが、この産後パパ育休はもっと直前、2週間前でもよくなります。
一言で言うと、従業員の育児休業を取るハードルを下げる法改正なんですね。ハードルを下げることによって、本来みんなに認められている権利をできるだけたくさんの人が行使できるようにするというのが、この法改正に込められた意図です。
従業員にとっては育児休業を取得することは「権利」です。じゃあ翻って、企業にとってはどうかと言うと、従業員が育児休業を取る権利をちゃんと企業として守らなきゃ駄目ですよ、あるいはなんなら後押ししなきゃ駄目ですよという「義務」なんですね。
だから「育休義務化」という言葉をよく誤解して、「育休を取得する義務」だと間違えて捉えられることもあるんですけど、そうじゃないんですね。育休を取得するという権利を、会社側が守らなきゃいけない義務なんですね。この義務というのも、この法改正によって強化されます。
右側を見ていただけるとわかるんですが、例えば研修をやったり相談窓口を設置したり、とにかく今まで以上に社員に向けて「こういう制度があってみなさんが取れるんですよ」という正しい制度知識を、きちんと知らしめていかなきゃいけないよと。さらにある程度の大きな会社になると、その取得率を1年に一回公表しなきゃいけないということも来年には義務化されていきます。
こんな流れの中で、「やれって言われたから、じゃあやらなきゃいけないな」って思う向きもあるかもしれません。でも義務だからやるというだけだと、基本的には後ろ向きだなと思っていて、それで広めようとするのは難しいと思うんですね。本当にその価値を認めて、「本当に良いものだから、みなさん利用してください」って薦めることが、お互いにとって前向きでいいなと思っています。
僕らもふだん広告を作る時に、自分自身がその企業のサービスとか商品とかの良さを本当に理解してコミュニケーションを作っていくことがすごく大事です。そうしないとけっきょく受け手には伝わらないし、いいと思ってないものはやっぱりバレるんですよね。
だから、少なくともここにいるみなさんが、より育休の価値を理解するためのお手伝いに少しでもなればいいなと思って本日はお話ししています。
簡単に言うと、日本の育休制度って実は世界でも最高水準の充実した制度なんですね。例えば父親が1年間も育休を取得できるのは、世界で見ても日本と韓国ぐらいなんですね。
日本はさらにそれだけじゃなく、国からの給付金も比較的たくさん出る国なんです。例えば最初の6ヶ月間であれば、賃金に対する67パーセントの給付金が支給されると。半年を過ぎると50パーセントに下がるんですけど、とにかく国からの給付金がもらえるんです。
この額を換算すると、右に書いてあるように約30週間もの間、満額の賃金がもらえるのと同じような金額が保障されているわけですね。これはあくまでも満額に置き換えると何カ月分に相当するか、という換算ですけど、見てわかるとおり、ヨーロッパ、北欧諸国とかと比べても圧倒的に高い数字です。こんなに給付金が保障されているっていう国も日本ぐらいだということが言えると思います。
一般的に福祉や制度が充実していると思われている北欧諸国を見てみると、例えばフィンランドは、このグラフの時点では父親には2.2ヶ月の育休しか認められていませんでした。それが最近、法改正で父親と母親それぞれが7ヶ月ずつ取れるようになったんですけど、それでも1年取れる日本の父親にはぜんぜん及ばないんですね。
ただし、フィンランドをはじめとした北欧の諸国は、利用している人が多いんです。例えばフィンランドで言うと、4人に1人の人がフルで育児休業の権利を行使しています。結局どんな法律制度であれ、みんながちゃんと活用している。日本は逆ですね。こんなに手厚い制度が整っているのに、いまいち活用されていないのが、非常にもったいないと思います。
さて、ここからCHAPTER2に入っていきますが、題しまして「育児休業は、最強のインセンティブだ。」。「インセンティブ」というのは、本来は人のやる気を上げるための報酬という意味ですけど、ここで言う「インセンティブ」は何かをやったらやったほどその見返りとしてご褒美をあげるということではなくて、ありとあらゆるすべての従業員の権利として、みんなに手渡せるギフトみたいなものですね。
働いている一人ひとりのモチベーションを上げてくれる、気持ちを上げてくれるという、とても素晴らしいプレゼントとしての育児休業ということで、話していきたいと思います。
そもそも、なぜ育休というものが存在するのか。その存在意義を簡単にまとめています。勘違いしている人が今でも多少いるかもしれませんが、「育児休暇」ではなく、「育児休業」がさっきから話している国の認める制度としての名前です。
本業である「なりわい」を休むんだけど、その代わりに持っている時間とかエネルギーをすべて育児という営みに費やすべき時間として、この制度は存在するわけですね。休暇のように、レジャーに行ったり遊んだり、いわゆる「余暇」ではないというのがまず大前提です。
0歳児と一緒にいてちゃんと向き合おうとすると、当然余暇なんてほとんどないわけです。それがどういうことか、僕自身が体験してみて、その体験記を『男コピーライター、育休をとる。』という本にまとめたんです。
その本が原作でドラマ化されたりもして、このことについて感じた実感が、ドラマでは映像としてすごくわかりやすく表現されているので、まずそれを見ていただければと思います。
まず「無知ゆえのイメージ」とあります。僕自身が育児休業を取る前に「0歳児と一緒に過ごして一日中休業を取って家にいるって、こういうことかな」と思っていた、その愚かなる誤解です。それを見てください。
(映像が流れる)
そうかと思いきや、現実はさにあらずというのがここから映像として表現されていきます。次を見てください。実際はこんな感じでした。あんな余裕なんてとんでもないと。ご覧ください。
(映像が流れる)
とても切れ目なんてない、ノンストップかつエンドレス。これが24時間365日です。トイレに行ったりご飯を食べたりする時間すらままならない。ここで登場するのは、会社の同僚です。イメージシーンなので、「もしもこれが会社だったら」っていうことですね。
(映像が流れる)
会社ならチームで分担できたり、後輩や同僚が代わってくれることも時にはあるでしょう。しかし、それができないのが0歳の育児であるというお話でした。
『男コピーライター、育休をとる。』という、今でもWOWOWオンデマンドで全話配信されているドラマなので、ご興味のある方は見てください。4月にはDVDも発売予定です。
という宣伝はさておき、今見ていただいた映像では非常にドタバタコメディとしてコミカルに描かれていたと思うんですけど、これがコミカルで済むのは、ツーオペ育児で、つまり2人でやれているから辛うじてできているんですね。
今のすべてを1人でやらなきゃいけない状況だったらどうかと考えてみると……ワンオペで0歳と一緒にいるというのが、いかに過酷なことかがわかりやすいかと思います。これを1人でやるとなると、配偶者、パートナーは非常に孤独を感じたり、苦しみを感じたり、痛みを感じたりすることになると思います。
例えばアンケートで、「子育て中にあなたは孤独や寂しさを感じることがありますか?」という質問をすると、0歳の子を持つ母親、女性の67.5パーセントは「孤独を感じる」と答えています。
ひどいケースになると、「産後うつ」を招きかねない。これは社会問題にもなっています。右の図を見ていただけるとわかるんですが、子どもが生まれてから2週間から1ヶ月にかけて、産後うつのリスクがピークになるとも言われています。
心も体もむしばまれていってしまう。その時に、横にパートナーである夫、我々男性がいるかいないかはとても大きな違いだと思っています。
2018年の世界的な統計によると、新しく母親になった女性のうち、約17パーセントもの人が産後うつになっているというデータもあるくらいです。これはすべての夫婦にとって、まったく人ごとではない話です。
ここにあるのは、弊社で実際に育休を取得した男性社員たちに「育休を取ってみてどうでした?」という感想を聞いたアンケートから、抜粋したものなんですけど。例えば「やってみて初めてわかった」「『社会的弱者』になった気分」「育休を通してジェンダーバイアスに気付けた」とか、いろんなことを答えています。
基本的には「当事者意識を持てた」ということだと思うんですね。当事者になってみないとその意識を持つことはできないんだけど、その当事者になる機会としての育休だったということだと思います。
これを見ると非常に「意識が高けえよ」と思うかもしれないんですけど、けっきょく当事者意識を持てば、これぐらい意識が高くならざるを得ないというのが実際のところだと思っています。
一方でパートナー、妻ですね。女性の愛情曲線というデータがあります。結婚直後までは元恋人・今夫という相手に対しての愛情が高いんですけど、出産直後のところを見てください。子どもが生まれた瞬間に、子どもに対する愛情がマックスになって、その分夫に対する愛情はみんな下がっちゃうんですね。
下がっちゃうんだけど、この下がった愛情を取り戻す、ここで言う「回復グループ」という流れをたどるのか、もしくはそこからさらにどん底をめがけて下降していく「低迷グループ」という流れをたどるのか。この命運を分かつポイントが、出産から乳幼児の時期にかけてなんですね。
だから育児休業を取ることは、育児休業の期間だけの問題ではなくて、その後の夫婦や家族の何十年先の未来にまで関係してくるきっかけになるんです。
見方を変えると悪いことばかりじゃなくて、つまりちゃんと育休制度を活用して育児をやれば、夫婦と家族の双方に幸せな未来をもたらすチャンスだと言えると思います。そこには確実に喜びや幸せがある。実際に取得した人の多くが口をそろえて言うことです。
言い換えるならば、新しく立ち上がった家族に、子どもというメンバーが1人増えたことによって、家族のかたち自体がリニューアルされる。その新しく始まった家族の「新しい共通言語」を手に入れていかなきゃいけない。それは夫婦一緒に通じる言葉だったり、一緒の記憶だったり。それを作っていくのが、この最初の1年なのかなと思っています。
いろんな家族のかたちがあると思うんですけど、けっきょく家族を家族たらしめるものって、血のつながりでもなければ何か定められた制度でもなくて、実際には「どれだけ一緒に同じ景色を見たか」だと思うんですね。
それは言ってしまえば、同じ記憶を同じ言葉で共にしたことだと思っています。だから、育児休業は末永く、夫婦だったり家族だったりの幸せを手に入れる1つのきっかけになるだろうと考えています。
すみません、これまた手前みそなんですけど、僕自身が著書でこう書いています。「育休こそは最強の出産祝いである、と。彼とその家族を、それは一生あたためる。」。
「こう上司が思ってくれるといいな」という文脈で書いていますが、一番最初にインセンティブって言ったのはそういうわけです。会社、組織が従業員に与え得る「最強のギフト」であると思ってみてはどうでしょうか。
逆に言うと、従業員やその家族の幸せをちゃんと守ったり考えたりできる会社であるかどうかは、企業としては非常に大事なことだと思っています。
ここまで、育休制度を取得した人間として、従業員個人の実感とか育休の意味を簡単にご説明してきましたが、いわば今日の肝はここからです。
「従業員にはプラスだけど、組織にとってはマイナスなんじゃないか?」というご意見も、まだいろんなところで出ていると思うんです。でも「いや、そうじゃないんだよ」というのが今回の話のポイントです。
ここから先、第3章は、スピーカーを熊木にバトンタッチしたいと思います。
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