2024.10.10
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——さっそくですが、本日は『迷えるリーダーがいますぐ持つべき1枚の未来地図』の著者で、CRMダイレクト株式会社代表取締役の横田伊佐男さまに、お話をうかがえればと思います。それでは横田さま、自己紹介をお願いいたします。
横田伊佐男氏(以下、横田):マーケティングコーチの横田と申します。今日は、「正解なき時代のビジネスにおける最良の意思決定」というテーマで、40分ほどご紹介をしていきます。
簡単ですが、私はマーケティングコーチとして、マーケティング戦略を主に行っています。今ご紹介いただいた『1枚の未来地図』で、リーダーシップ論・マーケティング論を記していまして、それについてお話ししていきます。どうぞよろしくお願いします。
——実は、私自身もリーダーになって間もないので、こちらの『迷えるリーダーがいますぐ持つべき1枚の未来地図』を拝見して。
横田:あ、いっぱい付箋が貼ってありますね。
——はい。リーダー論に関するいろいろな本はあるんですけれども、この本はリーダーと現場の役割分担がストーリー形式で描かれているので、両方の視点で俯瞰できました。マネジメントに関わっている方もそうでない方も、所属する組織の意思決定がしっくりこないと感じていたら、どこで何にひっかかっているのかがわかるのではないかと思います。
横田:ありがとうございます。
——今日は、「迷わないリーダーのための意思決定のプロセス」「意思決定の失敗はなぜ起きるのか」「こんな時どうする? 迷った時の判断基準」「後悔しない意思決定に欠かせないこと」の4つのテーマで、お話をおうかがいできればと思います。
——まず最初に「迷わないリーダーのための意思決定のプロセス」について。やはり今は、思いも寄らないようなことが次々に起こる、変化の激しい時代だと思います。そこで舵取りをするリーダーの意思決定次第では、周りを幸せにも不幸にしてしまう。いろんな人を巻き込んでしまうという意味で、すごく責任が重いなと。
「こんなことを自分で決められるのか」と思うようなこともあるんですが、「そもそもリーダーは何を決めなければいけないのか」をあまり考えたことがなく、課題が出てきた時に、その解決のために必要なことを考えて対応していました。
とりあえず「決めなきゃいけない」という状況に直面したら対応する感じだと、軸がないので毎回大変な思いをする気がします。著書にも「リーダーは本当は何を決めなければいけないのか」というお話がありましたので、改めてそこをうかがえればありがたいです。
横田:わかりました。今回ご参加いただいている視聴者の方には、リーダーになってまだ日が浅い方々もいらっしゃると思いますが、リーダーって、すべてのことを決める必要はないんです。この本の中に記している、『1枚の地図』というものをご覧いただけるでしょうか。
これは、真ん中から上が「リーダーが決める戦略」、真ん中から下が「メンバースタッフが実現する戦術」となっています。経営戦略・マーケティング戦略に寄ってはいるんですけれども、リーダーは「何をするか」の方向性を決め、メンバースタッフには「どうやってやるのか」という「How」、手段を決めてもらうという役割分担があるということです。つまり、リーダーがすべてを決めていく必要はないということが1つです。
横田:では、リーダーがどの範囲まで決めていくかというと、キーワードとしては「選択肢を捨てる」ということが非常に重要かなと思っています。多くのリーダーの方は、メンバークラスからだんだんと実績を積んで、リーダーになられたと思います。メンバーの頃は主に、いろんなアイデアを足していったり、現場で工夫をするという、足し算を主にしていたのではないでしょうか。
でも、リーダーになると今度は引き算になります。「しないことを決める」というのが、非常に重要になってきます。やることを決めるんですけれども、「これはやらない」ということ、「こっちは行かない」ということを決める。
足し算はメンバーにもできるし、リーダーもやらなければいけないんですが、「これはやらなくていい」「こっちは行かなくていい」ということは、メンバーたちでは決められないことなんです。ですので、引き算をしてやらなくていいことを決めるというのが1つ、リーダーの役割になるかなと思います。
横田:ゴールを目指して進んでいく中では、必ずいろんな分岐点があります。そこで、いくつかの方向性という選択肢を掲げる。英語でoptionと申し上げますけれども、「こちら側へ行かずに、こちら側は採択する」という捨てる勇気が必要になってきます。でも、捨てるって難しくありませんか?
——「捨てたものが正解だったかもしれない。その時点で間違ってしまったら……」と考えてしまうので、やっぱり捨てることは怖いと感じます。可能性を閉ざしてしまうのではと思うと、なかなか捨てられないですね。
横田:そうですよね。まず選択肢を掲げ、残りを捨てていいのかどうか。ここがリーダーシップの、意思決定の一番難しいところじゃないかなと思います。今、世界で一番注目されているリーダーは、みなさんもテレビでご覧にならない日がないと思いますけれども、ウクライナのゼレンスキー大統領だと思います。
彼は今3つの選択肢を掲げ、そのうちのどれかを捨てて、どれかを取ろうとしています。一番得たい選択肢は和平、平和ですね。2番目が戦うということ。3番目が降伏。ただ、3番目の降伏というものはなく、「和平を目指しながら、和平に至るまでは断固して戦う」という選択肢を明確にしています。
ともすれば今、非常に苦しい中、国民も迷いがちだと思うんですけれども、ゼレンスキー大統領は「絶対に降伏はしない」「和平を目指すけれども、それまでは戦う」ということを毎日発信しています。「ここを捨てて、ここを取る」という、簡潔明瞭な選択肢とその言葉によって、大変な中でも迷いやすい人々を導いているんじゃないかなと思います。
——まず、最善から最悪までの選択肢を洗い出してみる。実現が難しいかもしれない道も含めて、何を目指していきたいのかを明確に示すということですね。今のロシアによるウクライナ侵攻は、本当に良い例としても悪い例としても、リーダーの意思決定の在り方について考えさせられます。
——今回のような世界的に大きな意思決定とはスケールがぜんぜん違うのですが、リーダーが選択肢の中から、何かを選ぶ際の決め方についてうかがわせてください。
経験豊富なリーダーの方だと、「直感で決める」という話を聞くことがあります。やってみないと正解も不正解もわからない時は、直感に頼るしかないというか、それで決めるしかない場合もあるかもしれないですが、一方で失敗のもとになる時もあると思います。その違いはどこにあるのでしょうか。
横田:まず、何かを決める時の直感についてですが、私は個人的には大いに頼るべきじゃないかなと思います。ただ、直感に頼る時に1つ助言を申し上げると、「場数で直感を磨きなさい」と申し上げています。
AIのパターン認識と同じように、人間も判断する時にパターンを認識して、「このパターン、なんかうまくいかなそう」ということが、なんとなく直感でわかる。「こういう雰囲気の街に行ってしまうと、なんかヤバそうだ」ということも、何らかのパターンから思い起こしていると思うんです。
そういったパターンは場数から学んでいくので、意思決定のパターン認識を取るために、場数を踏んでいくことが非常に重要かなと思います。例えば、我々が利用する最も不安定な乗り物って、飛行機だと思うんですけれども。
基本的には、我々は必ず2人の操縦士に命を預けています。機長と副操縦士ですね。最後の判断をする機長がどうやって選ばれるかというと、もちろん技術もありますけれども、飛行時間が基準になっています。経験時間が長いと、それだけパターン認識ができて、自分の善悪というか、いいかどうかの判断がしやすくなります。そういったところからも、場数を踏むことが必要だと思います。
横田:ただ、リーダーになりたての場合は、なかなか場数を踏む経験もありません。そんな中、どうやって直感を磨いていけばいいかというと、やはりその道を通った人に相談をすることです。こういうパターンの場合はどちらを選ぶか、その理由を聞いていく。そうすることによって、だいぶ近道で直感力を磨けるんじゃないかなと思います。それが、いわゆるパターン認識力を上げていく方法ですね。
——やはり先人に学ぶことが大切ということですね。昨今はVUCAやニューノーマル、ノーノーマルといった言葉も聞かれるようになり、前例がないような局面もある気がします。そうすると、身近には先人がいなかったり、どこまで参考になるのかということもある気がします。前例がない中で決めなければいけない時、先駆者の方々はどうしているのでしょうか。
横田:前例があることは周りの方々に相談できますが、今度は広い意味で勉強しなければいけないということになると思います。難しい意思決定については、過去の偉人たちも、前例がないことを切り拓いてきたところがあると思うんです。
端的には読書をしましょうということですが、例えば過去の歴史書などの中から、こういう岐路に立った時は、こんな理由で乗り越えられた、ということが学べます。読書を通してパターン認識を学ぶ。先人の叡知に範を求めていくことは、1つの手段じゃないかなとも思います。
——確かに、「今ここだけ」を切り取って見ていると前例がないように思えますが、歴史は繰り返すというとおり、過去にもさまざまな手がかりがあるということですね。
——続いて意思決定をする上での失敗についてです。もし誤った意思決定をしてしまった場合は、どうすれば早く気づけるのでしょうか? また、気づいてからの軌道修正も難しいです。一度は正しいと思って決めてしまうと、状況が悪くなってもなかなか変えられず、取り返しのつかないことになってしまった事例も見聞きします。
横田:確かに難しいところだと思うんですが、時には軌道修正をしなければならない場面は、必ず出てきます。そんな時に1つ助言申し上げたいのは、「道標を数値化せよ」ということです。つまり、今スタート地点があってゴールに行くまでの道のりを直線で引いた場合、当分した距離に道標を置いて数値化することです。
数値化というのは、例えばKPIというものですね。営業目標を達成するまでの期間が1年間だとすると、半年、もしくは4分割にした3ヶ月、もしくは月次で12ヶ月にしたところを数値化して、達成できるかどうかで作戦を継続する。達成しなければ見直しするかどうか。こうしたことを行っていくのが、非常に重要かなと思います。
例えばスポーツの例で言うと、フルマラソンは40キロメートル超ありますけれども、世界レベルの選手が走る時は、必ず10キロメートルごとの計測時間、ラップという中間タイマーを取っています。その中間時間を見れば、世界記録に近いかどうかはほぼ判断できるようになりますよね。
初めの10キロメートルですでに1分、2分遅れていたら、「ああ、世界記録はちょっと無理なペースですね」とか。20キロメートルの段階ではもう半分なので、ゴールの予想時間がだいたい想定できます。
ある程度、道標に数値化したものを置いて、そこに到達できるかどうかをもとに、軌道修正という意思決定をするのか、そのままがんばって作戦を変えずに継続していくのか。そういった仕組み作りをしておくことが、非常に重要だと思います。
——その仕組みはどの段階で作っておけばいいのでしょうか? 自分の意思決定をフラットに見られるうちでないと、うまくいかない気がします。
横田:そうですね。意思決定をしてゴールを見据えた段階で、道標を数値化していくことが必要です。後からだと、後出しジャンケンのようになって意思決定が曲がっていくので、軌道修正をしない場合には計測地点に道標を置いていく。
ただ、そこに到達しない場合はBプランですね。軌道修正では、AプランのままではなくBプランを発動することが重要になってきます。ただ、これを仕組み化していくのが、大変難しいところになっています。
例えば日本政府も、今は毎日のコロナ感染者数をきちんと把握できていますけれども、あれがどうやって把握できているかというと、各保健所で測ったものが集計されて、各自治体に送られます。
東京都の今日の感染者数は、昨日発生したものを朝9時に集めて、それを午後に発表するというかたちになっていますが、情報を集めて手に取って見るという仕組み作りが、ここでは大変重要になってくるかなと思います。
——ゴールまでの道標と、その進度を測るためのモノサシを考えておく必要があると言うことですね。
横田さまがこれまでいろんな企業をご覧になってきて、経営者向けの講演なども実施されている中で、失敗の主な要因やあるあるのパターンがあれば、教えていただけますでしょうか。
横田:やはり、果敢に決断できるリーダーとそうでない迷えるリーダーの大きな違いの1つは、情報収集力だと思います。基本的にリーダーは、前例のない未曾有の状況に直面していきますので、その時に暗い夜道を見通せるような情報収集を事前にできているかどうか。
これは先人に聞いてみたり、大局観を養うために、先ほどのような歴史書を振り返って、迷った時に将校がどういう判断をしたかということを常にインプットしていることが重要になります。未来のことは誰にもわからないけれども、行く道はこうなっていくであろうという情報収集をしているかしていないかが、大きな差だとも思います。
——今は情報量が多く、環境変化も激しい中ではありますが、いかに正しい情報を取捨選択してやっていけるかというところですね。
横田:そうですね。成功していくとか、うまくいった先を見つめて、そこから質のいい情報を摂取していくことが大変重要になると思います。
——そこはリーダー自身がやるべきなのか、それとも優秀な参謀のような方がいればいいのかでいうと、どちらでもという感じでしょうか?
横田:両方やる必要はあると思いますが、一番手っ取り早いのは参謀を用意することです。これは本当にあったお話ですが、ある雪山で遭難していた2つのチームがありました。
どちらも同じゴールを見据えていたんですけれども、スタート地点は別々でした。片方は成功したんですけれども、片方は大失敗して、リーダーを含めたメンバー210人のうち199人が亡くなられたという事件があったんです。
これはかなり昔の八甲田雪中行軍遭難事件なんですけれども、この失敗にはいろいろな要因がありました。片方は地元の道案内人を雇って、雪山で遭難した時に「こっちだ」ということがわかるよう、うまくプロの手を使った。
片方は、そのプロの手を「そんなものはいらない」ということで突っぱねていって、結局迷ってしまった。自分ではにっちもさっちもいかない時には、知恵袋・参謀のような方の手を借りるのが一番賢明な手段だと思います。
——リーダーにも得意不得意があると思うので、強みではない部分は二人三脚で行けると、最悪の事態は免れることができるということですね。
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