2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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福山栄子氏(以下、福山):篠田さん、よろしくお願いいたします。
篠田真貴子氏(以下、篠田):福山さん、ご紹介ありがとうございます。みなさん、あらためましてこんにちは。エールの篠田真貴子です。お顔が見えているみなさんが、今反応して一緒に「こんにちは」をしてくださってすごくうれしいです。こんな感じで進めたいと思います。今スライドを出しますね。
今ご紹介があったように、「『内発的動機』を高める組織とは」というテーマで、まず私から20分ほどお話をいたします。すみませんが、初めにちょっとお断りをする必要があります。
今日私は、この「『内発的動機』を高める組織とは」というテーマでお話しする内容を準備をしているわけなんですけど。準備しながら、「私は内発的動機付けによってこのセミナーに登壇しているのか?」という疑問がなかなか拭えなかったわけです。
「そういう私が、こうやってみなさんにお話しするというのはいったいどういうことなのか」みたいな疑問が、若干ぐるぐるするわけなんですけれども。この時間の中で「これってどういうことなの?」ということをみなさんと一緒に考えながら、自分自身の課題も一緒に解決していこうかなと考えています。
篠田:それで、みなさんへもちょっと質問をしたいと思います。今はWebセミナーなので、リアルだったら普通に直接お聞きしたいんですが、「あなたは内発的動機付けによって、今、このセミナーに参加しておられますか?」。こう聞かれると、けっこう「ん?」となったりしませんかね。
先ほど福山さんも触れていたように、今回セミナーにお申し込みいただくにあたって、アンケートにみなさんの組織の課題をいろいろ書いていただきました。拝見していましたら、もう「ザ・内発的動機付け」というお答えもあって、「組織課題は特に思い付かないが、関心のあるテーマなので申し込みました」。
これこそ、「別に周りがどうこうとかではなくて、自分が関心があるんですよ」ということです。それを表明してくださった方もいらっしゃいます。なのでちょっとこのあたりを枕に、「そもそも内発的動機とは何?」というところから入っていこうと思います。内発的もなく、「そもそも『動機』というのは何でしたっけ?」というところからいきましょうか。
篠田:お年寄りが、人に対して「最近の若い人はモチベーションが低いよね」みたいなことを言ったりするんですけど。なんで私たちが人の動機とか自分の動機に関心を持つかと言うと、自分ないし周りの人が、実際に動いて何か結果を出すということを期待しているからなんですよね。
これは動機、すなわちモチベーションの研究で、心理学で確立している領域なので、定義などもしっかりあるんです。要は何かきっかけがあって私たち自身、外に見える動きもあるし内面的な動きもあるので、とにかく何か動きをして何か結果が出ますと。
本でいう心理学の定義だと、「モチベーション」というのは、特定の行為が始まって、続いて、方向づけして、集結するというプロセスを言うんだそうです。つまり気持ちの問題ではなくて、実際の動き全部をそう言うということです。
その中で、「そもそもなんで始まるんだっけ?」「なんで止まってしまったり続いたりするんだっけ?」。そして3つ目に「どうやってそれの方向づけがなされるのか」という問いが、この定義から生まれているんです。
私たちがふだんモチベーションが高い低いと問題にするのは、まさにこの問いを自分が出しているわけです。やっぱりモチベーション研究ではこの問いがけっこう重要な領域で、研究も盛んなわけです。
やっぱり教育。子どもが勉強しないとか。医療。患者さんが薬を飲んでくれないとか。経営。社員が言うことを聞かない。広告。お客さんが物を買ってくれない。犯罪。何度も犯罪を犯す人がいるとか、犯罪後にどうやって更生したらいいのか。このような、周りの期待とその対象の動きがずれがちな領域で、モチベーションの研究というのは盛んです。
篠田:もう1個。結局人間を扱う話なので、切り口はさまざまですし、本当にこれは人間性そのものなんですよね。モチベーションというものをちょっと見ていくと、「それぞれの組織における人間理解とは、あるいは『人とはこういうものである』という前提はどうなっているんだろう」というところにも関心が向くわけです。
例えばモチベーションを把握するにも、たくさんの切り口が提案されているんですけれども、大きな理論として大きく3つあるそうです。このうちの1つが、動機付けが外発的なのか内発的なのかというところで論じるもの。それ以外にもどういう欲求に基づいているのかとか、何ができそうで何が意味があるというところから人の動機は発するんだよという観点からの切り口もあります。
それから、実はモチベーションには量と質がある、という問題もあります。量、つまりモチベーションが高い低いに加えて、質のほうは方向性ですよね。3つ目に、これらさまざまな理論の背景には、それぞれ人間というものをどう見るかというモデルが密接に絡んでいます。
人を物のように見るのか、機械のように見るのか、コンピュータのように見るのか。あるいは、本当にいわゆる人間らしいという主体的な意志を持ったものとして見るのか。(モチベーション理論のうち)ここまでは、やっぱり人が明らかに何か意志を持ったり、あるいは外の刺激によって動くんですよね。
篠田:このような理論なんですけど、まったく別の切り口もあるんです。ここ20年の新しい発見や理論というのは、例えば習慣などのように、別にわざわざ(する)と思ってなくても、人は動機を意識する前から動いていることに着目して、この「モチベーションってどこにあるんだろう」というところまでカバーするようになってきました。
というように、さまざまある切り口のうちの1個が、今日扱う内発的動機です。ここでまず一緒に把握したいのは、内発的動機があるかどうかだけですべてが語れるとか、そういうことではまったくない。あくまでも1つの切り口に過ぎない、ということですね。
じゃあなんで今、内発的動機が注目されているのかと言うと、1つには創造力を発揮することと密接につながっているからです。もう1つは、外発的動機付けというものに限界があるということが証明されてきたから。この2つかなと思います。
ここで画像でお見せしているのは、「やる気に関する驚きの科学」というTEDの動画です。今の論点をすごく端的に示しているので、ご興味があったらぜひご覧いただければと思います。
篠田:この動画で言っている内容を、簡単に文章でここにご紹介しました。ある種の発想の転換がないと解けないようなクイズを出します。2つのグループに分けて、「早く正解したらお金をあげるよ」というグループと、別にスピードは競っていなくて、「普通の人はどれくらいのスピードでこれを解けるのかというのを測りたいと思っているんです」という2つのグループに分けて。
それぞれどっちが早く解けたかというのを測ると、「早く正解したらお金をあげる」というほうが早く解けたかと思いきや、こちらのほうが時間がかかってしまったと。しかもこれは、いろんなかたちで繰り返し実験をしても、コンスタントにこういう結果が出るんですね。
ということは、お金をあげるという外発的動機は少なくとも万能ではない、効かない状況があるということがわかってきたわけです。にもかかわらず、みなさんの組織もそうかもしれませんが、これまでの組織のほとんどは報酬制度など外発的動機付けの仕組みしかないと。「まずいよね、これ」というのが、関心の発端になっています。
篠田:もうちょっと詳しく、この外発的動機付けと内発的動機付けの対比をしてみましょう。
まず外発的動機付け。この表の左ですけれども、定義としては何か報酬を得る、あるいは罰を避けるためのモチベーションの総称です。事例としては、「落第しないように勉強する」とか「ボーナスを得るために提案を出す」。こういうことですよね。
一方、内発的動機のほうはその行為自体が目的、もう自己目的的なモチベーションの総称で、例えば「興味のおもむくままにわくわくしながら勉強を続ける」とか「自分が思い描く事業のために案を出す」という状態です。
どっちかがいいとか、どっちかが駄目ということではないんですよ。人間のことですから。両方あります。ただ、それぞれに、適する状況と合わない状況がある。メリットとデメリットがあるということなんですよね。
先ほども触れましたけれども、内発的動機のほうがわりと複雑な発想の転換が必要な課題を解くのに適しているのに対して、外発的動機のほうは、わりとシンプルでルールが明確な課題に集中して取り組むといった時には、こっちのほうが早くいい結果が出ます。
実は外発的動機付けは、単にフィットする・しないがあるというだけではなく、特にお金のようなかたちのある報酬で、中でも本人がそれをもらえるんだと期待してしまった時には、内発的動機を消すというデメリットがあります。
「じゃあ内発的動機は万能か」と言うとそんなことはなくて。さっき動機には量と質、強さと方向性があると言いましたけど、やっぱり外発的動機付けと比べて、方向づけしにくいという特徴があります。
篠田:ここまで考えていくんですけど、ここでですね、今日覚えていただきたいものを1個言えというならこれ、というのを次にお示ししますね。外発的動機、内発的動機というのは、どちらか選べとかどちらかしかできないということではぜんぜんなくて、間はグラデーションなんです。
これは心理学の分野で、まずこれぐらいの(段階の)グラデーションはあるよねという整理がすでになされているんですね。いわゆる本当の外発的動機と一番右の本当の内発的動機の間に3段階くらいある。
「理由」というところを見ていただくとわかりますかね。いわゆる外発的動機というのは、賞罰とかあるいは従属の状況なので、「結果を得るため」「ボーナスをもらうため」、あるいは「鞭で打たれないために」する。
次に一歩内発寄りになると「すべきだから」という。やらないと罪悪感が生まれたり、やると自尊心が満たされる。つまり基準は自分の外にあるんだけど、自分自らそれを満たそうとする状態。
左から3番目は「価値がある」。つまり「私にとって重要だからやるんです」と。次、さらに内発的動機に近づくと「私らしいからやる」。本当の内発的というのは、もうそんなことを考えてないんですよ。ただただ夢中でやっている。これぐらいグラデーションがあります。
このグラデーションの左から右で何が大きく違うかと言うと、自己決定しているかどうか。右に行くほど強くなるということなんですよね。
篠田:そうすると、私が冒頭になんか、「いや、私、この準備ってどれだけ内発的なんだろうね?」と自問自答したんですが、ここまで整理していくと、要は同じ1個の仕事でも、混ざっているんですよ。
例えば今日、2月15日のこの時間から、1時半からやりますというのは、私からすると完全に外からですよ。私はこの決定には何の関与もしていないし、言われたままに「わかりました」と行う。企画運営をしているチームがいますので、もうおっしゃる通り従属しております。
次。テーマについても、もちろん関心はありますよ。だけど、「今日この場で『内発的動機』というテーマで私はしゃべるべきか」ということに関してはけっこう外発的です。チームがいろいろ考えた結果、「今回はこれでいきましょう、篠田さん」と言われて「わかりました」という感じでしたね。
(内発的になっていくのは)ここからだんだんですね。例えば今日見ていただいたこの資料は、けっこう「資料はこう作りたい」という私なりのスタンダードがあって、その通りにやっているわけです。
さらに右。実は(スライドの)下にちまちまと資料や文献名を書いているんですけど、やっぱり「ちゃんと参考文献を示したい」みたいになってくると、(グラデーションのなかで言う)『私らしい』の世界で。一番右は、準備している間にいろんな本とか文献を読んでいたんです。おもしろくなってしまって、週末ずっと、たくさん調べていたんですよ。
それで、1日かけて読んだ論文のどれだけがこのプレゼンに反映されているかと言うと、まあ1割ぐらいですね。だから、ちょっと(準備としては)方向的には行き過ぎてしまったんだけど、非常に楽しかったです。これが、私たちの動機の正体です。
だから初めにお尋ねした、「みなさん、ここに内発的動機で参加されていますか?」というのも、もしかしたら刻々変わっているかもしれないですね。それぐらい解像度が高いものです。
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