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ホワイト企業大賞表彰企業と武井浩三委員との対談 ②谷川クリーニング様(全1記事)

流血沙汰の「家庭」と怒声響く「会社」の人間関係が一挙に改善 ホワイト企業大賞のクリーニング店が“洗い流した”もの

今年で8回目を迎えた「​​ホワイト企業大賞表彰式」。​​表彰式当日には、昨年のホワイト企業大賞の受賞企業と企画委員の武井浩三氏の対談が行われました。本記事では、前年のホワイト企業大賞の受賞企業である「谷川クリーニング」の谷川夫妻の登壇パートを取り上げます。谷川社長が心理学を学んで気づいた家庭や会社内の人間関係悪化の原因や、関係改善のために取り組んだことなどを語っています。

大賞受賞企業がやったのは、ルールや仕組みをなくすこと

谷川祐一氏(以下、祐一):有限会社谷川クリーニングの谷川と申します。よろしくお願いします。まず会社の簡単な説明からさせていただきます。創業が1969年10月で、今年で53年目になります。所在地が茨城県神栖市というところで、父の谷川末男が創業者で、私は二代目の代表になります。現在の社員数は52名で、そのうち9割が女性で、男性は5人。女性の多い、女性主体の会社です。

営業店が茨城県と千葉県に16店舗あります。商圏はだいたいこのあたりですね。

この辺りは工業地帯のためほとんどの方が工場関係者で、Yシャツではなく作業服で通勤される方が多く暮らす、人口90,000人ほどの地域になります。

今回登壇するにあたり、「経営で意識していることは何か」というテーマをいただき、数日間2人で考えていたんですが、あまり思い当たるものがなかったんですね。僕たちは経営だから特別こうしようとか、何か意図を持って会社の中身を変えたり、ルールを作るということをあまりしていません。むしろ、ルールや仕組みをなくすようにしています。

どちらかと言うと、僕たちが大事にしているのは考え方や意味です。会社をやっていますと、いろんな出来事が起きます。その度に「なんでこんなことが起きたんだ」「これは僕らに何を教えようとしているんだ」とか、起こったことの意味をすごく考えます。

会社の状況が悪いことで悪化した、創業者の父との関係

祐一:もともと僕は東京で会社員をしていて、30歳の時に父の要請で茨城に帰りました。そして谷川クリーニングに入社して立て直しをすることになったんです。その頃は会社の中が大変なことになっていました。工場では朝から怒声が響き、泣いているパートさんがいたり、殴られる人がいたり。本当にひどい状態でした。

それを立て直すといっても、どうしたらいいのかわからない。自分で考えながらいろんなことをやっていくんですけど、なかなかうまくいかない。経営書を読んだり、先輩経営者の会社を訪ねてその会社でやっていることをベンチマークにしたりとか。ビジョンや理念を考えて、それを伝えることもやりました。管理がしやすいようルールや仕組みを導入したり、いろんなことをやったんですが、うまくいかない。

会社以上に大変だったのは、家庭です。当時は父と母と僕の3人で同じ家に住んでいました。会社の状況が悪く、うまくいかないことで、家庭内がどんどんギスギスしてくるんですね。お前がこんなだからこういう状態になったんだ、みたいなことを父子で言い合いになる。

言い合いだけならいいんですけど、だんだんつかみ合い殴り合いになって、最後はいろんな物が飛んだり、壊れたり。流血沙汰になったことも少なくありません。ひどい時は、父親になたで切りつけられて血だらけになったこともありました。そんな状況を、麻美さんはずっと横で見ていて、僕が折れそうになると前向きな言葉をくれたり、対話の相手になってそこで気付くことがあったり。

心理学を学び、家庭と会社で人間関係が悪化した“原因”に気づく

祐一:そういう中でだんだん会社をどうこうするというよりも、自分と向き合わないといけないと考えるようになったんですね。僕にとって父親は、自分のやることなすこと認めてくれない敵のような存在でした。父親は表現も荒々しかったので、何か言われる度にムカついて苦しかった。行くところまで行ってしまう人なので、つかみ合い殴り合いみたいなことを繰り返すうちに、「なんでこんなことになるんだろう」と考えるようになって。

僕も父もこの会社をなんとか復活させたい、良くしたいと思っているのにうまくいかない。家庭環境もいいほうがいいに決まっているし、お互いに仲良くしたいと思っているはずなのに、なんでこうなるのか? 何かがおかしいと考えるようになったんです。

いろんな方にアドバイスをもらう中で、フロイト系の心理学者のエリック・バーン(Eric Berne)という方が体系づけたTA(Transactional Analysis)という交流分析があって。自分の関係性を図表で表すことで、客観的に自己分析ができるというものがあるんですね。

それを学んでいくうちに、人間関係のスタンスが4種類あることがわかりました。1つ目が「私はOK、あなたもOK」。2つ目が「私はOK、あなたはNot OK」。3つ目が「私はNot OK、でもあなたはOK」、4つ目が「私はNot OK、あなたもNot OK」というものです。

自分は父親に対してどういうモノの見方をしているんだと思った時に、自分はOKだけどあなたはNot OKと考えていると思ったんですね。そうすると不信感を持って相手を見ることになるわけです。父親を不信に思っていると、そのスタンスを他の人に対しても投射するということが起きる。

つまり自分は父親以外の人に対しても不信感を持って接しているかもしれないと思ったんです。そこから、まず父親に対しての見方、父親との関係を改善しないといけないと考えました。

“原因”を取り除いたことで、家庭と会社の人間関係が一挙に改善

祐一:自分の過去の体験と向き合い、追体験するワークなどをやるうちに、父親は自分のことを嫌がっているわけではないし、子どもの頃はすごくいいお父さんだったということに気づいたんですね。楽しい思い出もいっぱいあって、自分は愛されていたんだなと。それに気づくと、自然と父親への憎しみみたいなものがなくなり、幸せになってほしい、仲良くしたい、長生きしてほしい、と考えるようになりました。

毎日父親に挨拶することを始めて、最初はまったく反応がなかったんですけど、2ヶ月ぐらい続けていたら挨拶が返ってくるようになって。その後、自然と家族間での挨拶が増えていきました。

そうすると今度は自然と会社も変わっていったんです。もともとうちの会社は、挨拶すると「うるせぇ、早く手ぇ動かせ!」みたいな言葉が返ってくる会社だったんですね。それが、自然とパートさんや社員さんも挨拶をするように変わっていきました。それで、自分が見方を変えると、周りも変わるということを実感しました。

不信感を持って人を見ていたけど、人はいいところがいっぱいあって、こんなにも愛に満ちた、いい関係が作れるし、問題もスムーズに解決する。そういうことがわかってくると、自分の見方が悪かったんだなということもわかって。

それから人に対する見方だけではなく、自分の仕事や会社に対するモノの見方もどうなんだろうと考えるようになりました。仕事は嫌なものなのでパートさんや社員さんにそう感じさせないための工夫を考えていたのが、そもそも仕事って楽しいものなんじゃないかと考えるようになったんです。仕事のいいところを考え始めると、仕事を楽しいものとしか考えられなくなって(笑)。

それからは、どうやって仕事の楽しさを伝えるかだけを考え、取り組むようになりました。なので、社内にルール的なものがないわけではないんですけど、僕たちはあまり重視していません。

古い固定観念や信念を捨てることの重要性

祐一:良くない出来事があった時に、「またこういうことが起きるかもしれないからルールで縛ろう」という発想だと、うまくいかない気がするんです。人は自然といい関係を求めるものだし、いい関係になれたら自然とお互いのことを大事にする。そうすればお互いに嫌なことをあまり見ないようになる。

それなら、そんなにルールを作る必要はないんじゃないかと考えて、どんどんルールをなくしていった、というのがうちの会社の変遷です。よく麻美さんが、僕の考えや価値観がそのまま会社に投影されると言うんですけど。言ってましたよね? 

谷川麻美氏(以下、麻美):うん。

祐一:実際にそういうことが起きたので、結局自分が一番成長しなきゃいけないし、もっと自分のことをわかるようにならないといけないと考えています。

最初は自分のことしか考えられなかったのが、固定観念や信念のようなものが変わることで、モノの見方や考え方が変わる。そうすると自分事が、家族のこと、会社のこと、地域のこととだんだん広がっていき、いろんなものが見えるようになったり、考えられるようになっていくのだと思います。

古い固定観念や信念から抜け出し、モノの見方や考え方が変わることが成長だと思いますし、成長することで自分や周りの人たちを幸せにしていけるのかなと思っています。

麻美:うん。

祐一:俺ばっかしゃべっちゃいましたね(笑)。

麻美:大丈夫です。はい。

祐一:以上になります。ありがとうございました。

麻美:ありがとうございました。

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