2024.10.01
自社の社内情報を未来の“ゴミ”にしないための備え 「情報量が多すぎる」時代がもたらす課題とは?
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ーー浅野さまの著書『引き継いだ会社を成長に導く 後継社長の組織づくり5大ポイント』の中で、「後継者が陥る罠」のお話もされていました。どのような罠か、詳しく教えていただけますか?
浅野泰生氏(以下、浅野):「後継者が陥る罠」といつも言っているのは、引き継いだ時に組織ばかりを変えようとしても駄目なんだということです。私もそうでしたが、やる気のある後継社長ほど「何か変えなきゃいけない」と思うわけですよね。
会社を引き継いだ時、先代から続く「会社の理念」と、受け継いだ「既存事業」と、その事業を実行する「組織」があるわけです。
ーーなるほど、理念と事業と組織。
浅野:その3つが基盤にある中で、変えられるのは「組織」しかないと考えがちです。そうした時に、人事制度をいじったり、後継社長としての自分の考えが伝わりやすい新卒の子たちを入れようとしたり、「クレドカード(行動指針)を作ってみんなで唱和しよう」とか、いろんなことをやるんです。
私も、組織を変えようとしてもなかなか変わらないし、反発も受けるという経験をしました。
浅野:これは一般論にも通ずるところなのですが、事業と組織は表裏一体なんですよね。以前JR西日本の方とお話しした時に、おもしろい話をお聞きしました。JRの鉄道事業は国鉄から始まって、今はJR各社が多角的な事業をされていますよね。
新しい事業も次々と生み出されている中で、鉄道事業部にいらっしゃる方が「うちのメンバーからなかなか新しい発想が出てこない」と言われたんです。でも「それは当然だな」と、ある時思ったわけですよ。
なぜなら、鉄道の事業で必要なのは、時間の狂いなくA駅に電車を走らせ、そこでお客さんを乗降させて、B駅まで時間通りに運ぶことじゃないですか。
ーー「正確さ」ですよね。
浅野:そこにクリエイティブな発想が要るか? という話なんです。逆に正確さをおろそかにして他のことを考えると、過去にあったような大きな事故につながってしまうこともあると思うんですよね。
銀行員も同じで、1円単位の正確さを求められる仕事をやられている。要は(仕事に正確さを求められる)職員さんは、同時に新しい発想を生み出しにくいのではないか。これはどっちがいいとか悪いとかじゃないと思うんですよ。
何が言いたいかと言うと、私が後を継いだのはシステム開発の会社だったので、そこでは私がやりたかった「気合と根性」は、あまり通用しないんですよね(笑)。
ーー(笑)。
浅野:理屈で攻める人と感情で攻める人は、簡単に言ってしまえば相いれない。そこで組織ばかりを変えようとして、事業はそのままにしたから、私は失敗したのかなと。
自分が望むようなクリエイティブな事業には、営業系やコンサル系の発想力豊かな人が必要です。でも、堅い事業には堅い人が必要なんですね。正確性や論理性を求められる事業の会社に、発想力という違うものを私が求めてしまった部分があったので、組織作りに失敗したのかなというのが1つ。
浅野:それに関連して、最終的に先代社長とうまくいかなくなったんですね。新しいことをやり続けたり風土を変えようとすることが、直接的ではないにしろ、積もり積もって先代との方向性とは違ってきてしまいました。自分の失敗の1つとして「先代とのコミュニケーションが悪かった」ことがあったと思います。
今はコンサルティングの現場で、自分の失敗経験を後継者の方に伝えていますが、そこでは3つのことを言っています。
まず1つめが「絶対NGの握り」です。先代から聞いておかなきゃいけないのは「後継者にやってほしいこと」ではなく、「絶対これだけはやってくれるなということ」だと言っています。
先代から後継者に向けて「これをやってほしい」「あれをやってほしい」ということを聞くよりも、「これは絶対やってくれるな。ここだけには手をつけるな。あとは何をやってもいい」というコミュニケーションを取っておいたほうがいいですよね。
継いでしまった人は、「これだけは駄目だ」というところだけを先代社長に確認させてもらって、「それ以外は私の自由にさせていただいてよろしいでしょうか」というやりとりをする必要があります。
ーー確かに、希望や要望をたくさん聞いてしまうと、自由度がなくなってしまうのかなと思いますね。
浅野:おっしゃる通りです。でも、期待に応えたい方ほど「何をしたらいいですか」という話になっちゃうんですよね。ゴルフの「フェアウェイ」と「OBゾーン」のように、マネジメントにおいても絶対「OBゾーン」を先に決めておくのが大事です。
上司と部下の関係でも、上司が部下に「あれをやれ」「これをしなさい」とその都度言っているうちは、部下の主体性はなかなか育たないと思うんですね。言われたことだけやっていればいいとなるので。
でも、「これだけはやめろ。これ以外は自分の自由に発想すればいいからがんばってみろ」と言うほうが、部下も主体性を持って自分で考えられるようになると思います。
ーーなるほど。ポイントの2つめは何でしょうか?
浅野:「月1でコミュニケーションを取りなさい」という話をしています。私が社長をしていた5年間のうち、後半の3年間は先代が完全に会社から引退していました。
その時に3ヶ月に一度は直接会って、ご飯を食べてコミュニケーションを取っていたんですが、後から思うと「ちょっと少なかったな」と思うんですね。「与えたものが得たもの」と教えていただいた師匠から、「なんで毎月報告に行かんの?」と怒られましたから。
ーー(笑)。
浅野:コンサルタントとしては、「先代がもう引退されているのであれば、月1回は必ず報告に行きなさい。会社によく来ているのであれば、週に1回決まった時間に、報告事項がなくてもコーヒーを飲みながら雑談しなさい」という話をしています。
とにかく顔を合わせる。何事も、自分の考えたことを社員に話すよりも先に、先代社長に話す。後継者の戦略・戦術のやる内容について口出しする先代社長はあまりいないんです。それよりも、先代社長である自分が後回しにされることをものすごく嫌がるんですよね。
それまで最前線で社内外のみんなに「社長、社長」と言われていた対象が、事業承継によって後継社長に変わるわけですよね。「自分は楽になった」と言いながらも、やはりもともとの性分が身にしみていて、頼りにされないと寂しいんです。
例えば、(後継社長が)自分の構想を、会長も社員も一緒の場で初めて発表してしまうと、「俺は聞いていない」という話になるんですよ。
大切なのは内容ではなく、伝える順番なんですよね。「先代社長のことを一番尊重している」というのは心で思う話ではなく、一番最初に先代社長に話すことなんです。これがすごく大事なんだと、私の反省も含めてコンサルの現場ではお伝えします。
ーー月1ミーティングには、そういう意図があるんですね。
ーーただ社員の立場からすると、社内に先代社長である会長がいらっしゃる場合には、会長とよくしゃべっている社長の姿を見ると「会長の言いなりになってるんじゃないかな」「あれこれ指示されているんじゃないのかな」と感じることもあるのかなと。
浅野:そうですね。ただ、場面にもよりますが、意外に「よくしゃべっている人」のほうが少ないんですよね(笑)。
これも恥ずかしい話ですけど、私の前に2年半だけ社長を勤められた創業メンバーの方は、役員会で自分が発言した後に必ず当時会長だった先代の顔色をうかがっていましたね。そうなると、社長より立場が下の人間はすごく不安ですよね。
ーーそうですよね。
浅野:まずは自信を持って、社長がこの会社の代表で、最後の砦だという自信を持ってやってほしいかなと思います。いろんな捉え方はあると思うんですけど、先代である会長が座っていて、社長が直立でおうかがいを立てているような場面は、私は健全じゃないと思っています。報告は場所を変え、社員に見えない場所でやられたらどうかなと思いますね。
ただ、会長と社長の仲がいいのは、いいことだと思うんですよ。そこは社員のみなさんにとって、安心材料になると思います。
ーーふだんから会長とコミュニケーションを取っていれば、社員の前でも新社長が堂々としていて、それを見ている会長の目もあたたかい。その状況を見れば、社員の方にも新社長に対する信頼の気持ちが芽生えてくるのではないかと、イメージしながら聞いていました。
浅野:そうですね。自分で思っている以上に、会長も後継社長も周りに見られている。それを意識して振る舞うことも大事かなと思いますね。
浅野:月1コミュニケーションと合わせて、(後継社長の方には)よく「急いで急がず」と言っています。
ーーどういう意味でしょうか。
浅野:松下幸之助さんが「任して任せず」とおっしゃっていましたけど、やはり後継社長として意欲のある方ほど、早急に物事を処理しようとするんですよ。私もそうでした。
ただ、人には感情があるじゃないですか。理屈で合っていることでも、「浅野は正しいことを言ってるけど、アイツの言うことは聞きたくない」と思われたら終わりです。
私の場合はスピード感を求めて「あれしよう、これしよう」と矢継ぎ早に話を進めてしまいました。そこで社員が感情的について来られなかった部分が、多少なりともあったのかなという反省がありますね。
後継社長としての失敗から学んだことは、絶対NGの握りをすること、月1コミュニケーションをちゃんと取ること、そして「急いで急がず」。この3つが重要かなと思っています。
ーー2代目社長の悩みとして、私は「社員に対するフォロワーシップの醸成」が挙げられると考えていました。創業者はカリスマ性や強いビジョンがあって、そこに共感した社員の方がついてくると思うんです。でも2代目社長になれば、必ずしもそうではない。
3つ目の「急いで急がず」は、社員に対するフォロワーシップの醸成におけるポイントの1つなのかなと思ってうかがっていました。他にもコツはありますか?
浅野:誤解を恐れずに言えば、フォロワーシップは醸成できないと思っています。やはり新しいトップ、つまり後継社長が就任して、社員が後継社長を支える立場になった時に、「なかなか育てられるもんじゃないな」と思ったんですね。
(フォロワーシップは育てるものというより)もともと持ち合わせているものをどう開花させるかなのかなと。それは採用であり、管理職や幹部への登用なのかなと思うんですよね。
事業承継の変わり目の時は、「新しい社長を認めない」という方が何割かいるわけです。もちろん、その方々に対するアプローチはすごく重要です。ただ、(優先してやるべきは)自分と一緒に「共創」できる人材を集めることからかなと思います。
当然、先代社長への感謝は持っていていいんです。でも、先代社長に仕える幹部と、後継社長が新しくチームを構成する時の幹部は、違う人になってしかるべきだなと思います。そこに対して自分の考えを、いかに時間をかけて伝えていくかが、結果としてフォロワーシップの醸成につながると思ってます。
浅野:始めから聞く耳を持たない人や、後継社長のことを認めない人は、いくら時間を割いてもなかなか変わらないと思うんですよね。
一方で、後継社長が新卒社員を入れて、中途でよそから幹部を引っ張ってきて、もともといた社員の中で後継社長を支える人が増えてくると、それまで反目していたメンバーがなびくんですよ。同調性が強い国民性が反映されているのか、「この波に乗っからんとダメだ」と。
私はこれを「採用オセロ」と呼んでいるんです。採用によって自分の色と同じ人たちを増やすことで、ぜんぶ自分色に変えていく。反対する人を「黒」と言うと失礼かも知れませんが、「黒」から「白」に変えていくという考え方です。
社長としては、反対する方々にも歩み寄る姿勢を取らなきゃいけないんですが、社長のほうが影響力も権限も強いから、関係性はまったく対等にはならないんです。人と人との関係性は、片方がいくら働きかけたところで、それによって変わるものじゃないと思っています。
相互方向の歩み寄りが必要となった時に、それでも受け入れられない人たちは、会社から出ざるを得ない。これはやむを得ないことかなと私は思っていますね。
ーーなるほど。最初は精神的にキツいかも知れないですが、後継社長は「自分についてきてくれる人たちを増やせば、おのずと反発していた人も歩み寄ってくれる」と割り切って、長期的に考えるといいかもしれませんね。
ーーコンサルタントとしての浅野さんにおうかがいしたいのですが、日本では権限移譲が進まず、経営者の高齢化が進んでいるようにも思います。さまざまな企業をご覧になっている中で、その原因はどこにあるとお考えでしょうか。
浅野:組織といえども「個」の集合体じゃないですか。私が後継者の方に常に言っていることは、「自分のコアコンセプトを明確にしてください」ということです。
「コアコンセプト」は、自分の考え方や判断基準のうち、仕事に関することの中核となるものと定義しています。つまり「こだわり・価値観」とか「社会に与えたいインパクト」です。
私はよく後継者の方に、「みなさんの会社はどこにありますか?」と質問します。そしたら、みなさん「新宿にあります」とか言うんですよ。私は「そこにあるのは建物ですよ」という、意地悪な返しをするんですね。会社は人の集合体であり、もともと「Company」には、「パンを分け合う仲間」という語源があります。
社長も含めた社員の集合体が会社で、そこでの意思決定は、(最終的には)社長の意思決定じゃないですか。多数決じゃないはずなんですね。その意思決定の根底にあるのは、やはり社長自身のこだわり・価値観とか、社会に与えたいインパクト。つまり「この会社を通して社会にどういう価値を提供していきたいか」ということです。
それが経営理念とか目標設定とか戦略立案の重要なファクターになっているはずなんです。そこをまず(後継者の方に)理解してもらうことがすごく重要かなと思います。
先代と後継者、後継者と幹部、当然のことながら(「コアコンセプト」は)全員違うんです。人が違えば全員違います。ただ、その違いを認識することがすごく重要かなと思いますね。
違いを認識した上で、お互いを尊重し合う。ただし会社組織の中では、社長の意思決定が(最終的には)絶対だという申し合わせをしっかりしておかなきゃいけない。
浅野:権限移譲が進まない理由の1つは、この違いが認識できていないことが1つあるのかなと思います。違いを認識した上で、社長が「これだけは絶対に守ってくれよ」という握りができていないと、なかなか権限移譲できない。
こと中小企業に関しては、仕事上の付き合い以上に、人間としての付き合いができるかどうかという、深い関係性が醸成されていないと、なかなか権限移譲が進まないんじゃないかなと思います。
私は、幹部に求める3つの条件を文書化しています。「コミット、シンクロ、シンパシー」です。私の最終意思決定を何よりも優先して行動する人や、仕事の付き合い以上に人間的な付き合いができる人。
最初に「こういう人に集ってほしい」ということを、私から指名するだけではなく、(この3条件を提示して)「誰かここに手を挙げてくれるか?」という関わり方をしましたね。今の会社には役員が2人いるんですけど、私が求める要件をわかった上で取締役という役職を担ってくれています。双方向の握りが必要かなと思っていますね。
ーー双方向からの歩み寄りのために「軸」を提示する。これが大切なんですね。ありがとうございます。
ーー最後の質問です。ずばり「成功する2代目社長と失敗する2代目社長の違い」を教えてください。
浅野:この質問、難しいなと思ったんですけど(笑)。「独りよがりにならず、自分らしさを発揮できるか否か」かなと思ってます。自分らしさは絶対発揮してほしい。ただ、自分らしさが独りよがりになってしまうと失敗してしまいます。
先代とのコミュニケーションであったり、人を巻き込んだかたちでの新規事業の開発であったり、または経営チームの組成の中で、自分らしさを発揮しつつも、自分勝手や独りよがりにならない人が、成功するんじゃないかなと思います。実感を込めて(笑)。
ーー最初に「与えたものが得たもの」という言葉がありましたが、まさにそれが独りよがりにならないための最大のポイントですね。非常にリアルなお話をうかがえました。ありがとうございました。
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