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#3 経営センスの磨き方|これから生き残れる会社・経営者の共通点(全1記事)

経営センスを磨くなら「新聞・雑誌は10年寝かせて読め」 過去から本質を見極める『逆・タイムマシン経営論』のススメ

「セミナーに参加したかったけど、時間が合わなくて行けなかった……」。株式会社イノベーションの調査によると、ビジネスパーソンの2.5人に1人はそんな経験をしているそうです。同社が運営する動画サービス「bizplay」は、オンライン配信を通して、いつでもどこでもセミナーに参加できる環境を提供しています。今回は「これから生き残れる会社・経営者の共通点」をテーマに行われた、一橋ビジネススクール教授・楠木建氏と株式会社morich森本千賀子氏の対談の模様をお届けします。楠木氏が考える「スキル」と「センス」の違いや、本質を見極めるための方法としての『逆・タイムマシン経営論』が語られました。 ■動画コンテンツはこちら(※動画の閲覧には会員登録が必要です)

バイネームで仕事ができる状態になる鍵は「センス」

森本千賀子氏(以下、森本):最近(2019年に)出された山口周さんとの共著『「仕事ができる」とはどういうことか?』で、スキルとかセンスの話がありますけれども、「経営センス」についてはどう思われますか?

楠木建氏(以下、楠木):スキルでないものをセンス、センスでないものをスキルという、そういう定義なんですけどね。もちろんスキルは大切なんですよね。スキルがないと話にならないです。

ただ、ちょっと違った言い方をすると、スキルがある人はいっぱいいるわけですよね。ですから、「僕はあれができる、これができる」と言っているうちはまだまだです。スキルができるのはいいこととして、その先ですね。

本当に頼りにされるとか、この人じゃなきゃとダメとか、バイネームで仕事ができる状態になるには「センス」としか言いようがないものが鍵になるんじゃないでしょうかということなんですね。

森本:逆に言うと、そのセンスはどう磨いていくのか。

楠木:そこが評判の悪いところでありまして。

森本:ここが本当に難しい(笑)。

楠木:僕の本はだいたい全部そうなんですけど、世の中なかなか厳しいなと思うのは、いただくご感想の8割が「金返せ」という。

(会場笑)

森本:書籍代ですか?

楠木:間断なく苦情をいただいております。

森本:(笑)。

楠木:ほとんどが匿名のSNSだったりなんかね。「金返せ」と。僕はちょっと気になるので、いただいたものを…...。

森本:ちゃんとチェックされるんですね。

楠木:ちゃんとフォルダを作って、怒りのタイプ別に仕分けをしてるんですね。

森本:ああ、そうなんですか! 

楠木:ものすごく溜まっています。

「センス」は「スキルではない」というだけ

森本:投稿されたネガティブなアプローチですね。

楠木:だから勉強になるんですよね。すごく溜まっていて、これを今「ビッグデータ」と呼んでいるんですよね。

(会場笑)

楠木:「ビッグデータ」をAIじゃなくて僕の頭の中で解析すると、けっこうみんな同じところで頭にきているなと。それは「どうしてくれるんだ」と。「『センスが大切だ。戦略はストーリーだ』、でも優れた戦略の作り方が書いていないじゃないか。金返せ」「センスのつけ方が書いてねえじゃねえか。金返せ」。

森本:磨き方ですね。

楠木:これがすごく多いんです。わりと誠実な性格なもんですから、必ずお返事を差し上げています。

森本:ああ、本当ですか? どういうお返事をされるんですか。

楠木:「諦めが肝心です」。

森本:(笑)。より怒っちゃいそうですけどね。

楠木:そうとしか言いようがないんですよね。先天的なものではない。

森本:でも「先天的ではない」と書いてあって、ちょっと安心したんです。

楠木:そうですよね。(センスは)スキルじゃない、というだけ。

センスがない人はずっとないし、がんばるとますますひどくなる

楠木:スキルとセンスの定義に戻ると、いろんな切り口があるんですけど、スキルは「見せる」「示せる」「測れる」とあるんですよ。

TOEIC850点はけっこう英語ができるのかなと思うんですね。でも「私は商売センスが抜群で」は、うさんくさいですよね。

森本:(笑)。そうですね。エビデンスが取れないですね。

楠木:センスは示せない。スキルであれば、TOEIC350点は「もうちょっと英語勉強しようかな」というフィードバックがあるんですね。ところがセンスは、ない人はずっとないんですよ。洋服のセンスがない人って、ずっとないですよね。なぜかというと、自分にセンスがないことがわからないからです。

森本:認識されていないと。

楠木:これがセンスのスキルとの違いなんですよ。あと、スキルであればやればいいだけなんです。やれば必ず、TOEICの点は前よりも上がるんですよ。

森本:修行ですよね。

楠木:そうです。努力の投入です。センスがやっかいなのは、ない奴ががんばると、ますますひどくなります。

森本:確かに(笑)。服のセンスがないから、いくら高いお金で服を買ってもということですね。

楠木:10万円を握りしめてユナイテッドアローズに行くと、だいたいひどいことになっていきます。

センスを磨くには「新聞・雑誌は10年寝かせて読め」

楠木:これが違うんですね。スキル的なアプローチでは獲得できないと言っているだけで、磨いていく方法は、定型的な教科書や研修がないだけで、たぶんセンスがある人はみんなそれぞれに自分なりのやり方で、自己的にセンスを磨いてきていると思うんですよ。

それに対する1つの答えが、この『逆・タイムマシン経営論』なんですね。これ、ひと言で言うと、「新聞・雑誌は10年寝かせて読め」ということなんですよね。もうビジネス誌の最新号を読んでも、おもしろくもなんともないと僕は思うんですけど。

『逆・タイムマシン経営論 近過去の歴史に学ぶ経営知』(著:楠木建・杉浦泰/日経BP )

森本:「またか」というのはありますよね。

楠木:「DX」ね。「ジョブ型雇用」もそうなんですけど、今に始まった話じゃなくて、ずっと昔からその時々の重要問題を論じてきて、それが幸いにしてアーカイブとして蓄積しているわけですよね。これがおもしろい。

森本:楠木さんもご自身で貯めてらっしゃったんですか?

楠木:昔の新聞や雑誌読むのが大好きなんです。

森本:へえ! そうなんですか。

楠木:一番勉強になります。それはね、「知識を得ましょう」「スキルを得ましょう」だったら、最新号がいいんですよ。ところが「本質を見極める」「大局観を持つ」、こういうセンスになってくると、古新聞・古雑誌がいいですね。なぜかと言うと、今だとコロナだ、ウィズコロナだ、ポストコロナだという、同時代のノイズが入っているんですよ。

ステレオタイプ的な物の見方。みんなこう(視野が狭く)なっちゃっているので。昔のことだと、その辺が時間の経過できれいさっぱりデトックスされているので、本質むき出しなんですよ。嫌でも本質が見えてくるというのが10年寝かせた記事のいいところなんですよね。

森本:正否もわかりますよね。

“毎年「第四次革命」が起きる”ことから見えてくる、変わらない本質

楠木:ちょっと前に申し上げたように本質って変わらないものなので、変わらない本質を見極めるためには、昔の話を「逆・タイムマシン」に乗って見てみるのが勉強になるんですよね。ものすごい低コストなんですよ。古新聞はその辺に落ちていますから。

森本:残しておけという話ですね。

楠木:しかも今どんどんデジタルアーカイブになっているので、昔に比べるとアクセスが100倍楽になっているんですよ。本当にいいなと思っている。

森本:私もたまに10年くらい前の記事を読むと、すごく説得力があるなと思って。

楠木:おもしろいね。あらためて学ぶんですよね。例えば僕がこの本を書く時に、『日経ビジネス』という雑誌が創刊51年だったと思うんですけど、それを全部読んだんですよ。

森本:そうなんですか!

楠木:すごいことに気付いたんですね。『日経ビジネス』では毎年産業革命が起きているんですよ。

森本:なるほど(笑)。見出しに必ず出ていますよね。

楠木:産業革命が始まったと。おもしろいのは、毎回「第四次産業革命」なんですよ。

森本:そうなんですね(笑)。2.0とか3.0とかもですね。

楠木:そうなんです。この前4.0をやったので、第四次産業革命をやったので、じゃあ次は第五次じゃないかと思うんですよ。

森本:本来の順番ならそうですよね。

楠木:(毎年の)夏の盆踊りじゃないので、めったに起きないから「革命」と言うと思うんですけど、何故か(毎年)産業革命が見出しになる。今からそういう記事を見ると、「ああ、人間の認識ってこういうバイアスがあるんだよな」と。これが本質なんですよね。そうだとしたらといろいろ考えるわけで、もう本当におもしろくておもしろくてしょうがないですよ。

森本:(笑)。

「未来」は予見できないが、「過去」は確定した事実

森本:私、タイムマシン経営で有名なソフトバンクの孫正義さんと一度お話したことがあって、まさにタイムマシンで未来に(やってきたかのようにビジネスを展開する)ということなんですけど。

楠木:そうです。

森本:ただ、たまたまソフトバンクの方とお話しした時に「今、孫さんからお題をもらっている」と。「何ですか?」と聞いたら、「300年続く組織の共通点を探してこい」と言われたそうです。まさに孫さんが考えるタイムマシン経営というのは「未来」なんですけど、(その本質を見極めるのは)まさに逆・タイムマシン経営のことなんだなと今、納得しました。 

楠木:やっぱりあれは1つの考え方で、未来は既に実現している。シリコンバレーに行けば最先端の技術があるので、それを日本に持ってくれば、時間的なアービトラージ(裁定取引)が取れる。確かにそのとおりなんですよ。ところが、孫さんでも未来は予見できませんね。一言で言えばWeWork(の損失)ということです。

森本:そうですね。

楠木:ただ、過去は確定した事実なんですよ。

森本:ファクトですね。

楠木:これは重いですよね。だから『FACTFULNESS』という、みなさんもお読みになった本がありますでしょ。ファクトをきちんと押さえましょう。これは本当にそのとおりなんですけど、僕が言っている『逆・タイムマシン経営論』は、パストフルネスなんですよ。

過去は豊かにある。せっかく豊かに蓄積している過去は、低コストでアクセスも簡単だから、変に未来予想をして大騒ぎするよりか、よっぽど頼りになるんじゃないかなと。それが『逆・タイムマシン経営論』です。

大局観を獲得するための『逆・タイムマシン経営論』のススメ

楠木:「本質を見極めろ」「大局観を持て」はそのとおりですね。みなさん、どうやったら大局観が獲得できますか? けっこう簡単じゃないんです。その問いに対する僕なりの答えが『逆・タイムマシン経営論』なんですね。

森本:じゃあ、これを読めばセンスが養えると。

楠木:まあ、センスを磨いていく1つのアプローチじゃないかと思っているんですね。ただ、諦めが肝心ですよ。

森本:(笑)。そうですね。

楠木:で、「金返せ」と……。

森本:(笑)。

楠木:こういうことなんですね。

いろいろと手前勝手な話をしましたが、今日お話した僕の『逆・タイムマシン経営論』でも書いたことを、自分が持っていることを話したんですけれども。

やっぱり僕くらいの初老になってきますと、ある程度生きているので、わりと身体の中に歴史が蓄積されちゃっているんですね。僕を含めたおっさんは、かつて一人残らず若者だったんです。ただ、おっさんになったことのある若者は一人もいないんです。

ここに非対称性があって、今日はいろんな年齢層の方に見ていただいていると思うんですけれども、身体の中に自然と歴史が入っていない若者は不利です。どうしても不利な面があるので、ぜひ若い人ほど歴史の知識を使っていただきたいなと思います。ぜひ僕の本を読んでください。今日はありがとうございました。

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